2016年04月27日

中国が世界初めて手足口病EV71型不活性化ワクチンを実用化

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 日本ではあまり重症になる症例はありませんが、中国では死者が出るほどの猛威を振るう手足口病。特効薬もなく、中国ではそうした背景から2008年に丙類法定伝染病に指定されました。統計によると、2008年5月〜2015年9月までで中国で報告された手足口病による死者は約3,300人とのこと。上海市ではこれから4〜7月に流行しますが、娘の小学校でも時々感染者がでることがありました。一旦発生すると、クラス全体が隔離となるのでなにかと厄介です。

 ところで、手足口病はウイルスの種類も色々あり、特にEV71 型の手足口病で中枢神経や呼吸器系の合併症を引き起こし、重篤になりやすいことが知られています。そこで、このウイルスに関してワクチンの開発が進められていました。

 開発を行ったのは中国医学科学院医学生物学研究所で、2016年3月には既に北京でEV71型不活性型ワクチン接種が行われました。続いて昆明でも行われ、世界ではじめての手足口病のワクチンとして注目されています。接種対象は6ヶ月〜5歳の子供で、1ヶ月あけての2回接種とのこと。ワウクチン接種者の手足口病予防率は97%以上で、重篤者も一人も出なかったという結果でした。中国では2類ワクチンの扱いですので、有償で希望者のみになっていますが、一定の予防効果は期待できると思います。上海市でも導入の検討を始めているということでした。

 あまり知られていませんが、実はこれまでの中国はワクチンの研究開発ではかなりの実績持ってきています。一時期流行したあの「新型インフルエンザ」のワクチンも各国に先駆けて開発し実用化しました。

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2016年04月02日

ますます進む上海人口の高齢化

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 上海市が発表したデータによると、2015年の上海市民(上海戸籍)の平均余命は男性が80.47歳、女性が85.09歳、男女合わせて82.75歳でした。女性はついに85歳の大台に乗りましたね。生活レベルや医療レベルがあがるにつれて、平均余命が長くなる傾向は今後も続くとみられています。上海戸籍における65歳以上人口の割合は19.6%だったようです。
 ちなみに日本は2015年9月の推計で65歳人口の割合は26.7%でさらに高い数字になっています。(総務省

 現在、上海市の戸籍人口は1442.97万人でこのうち60歳以上が30.2%の435.95万人、65歳以上が19.6%の283.38万人。ただ、上海市に住んでいる人口は2400万人といわれており、外来人口も加えると2020年には60歳以上の人口は570万人以上になると見込まれています。さらに、一人っ子政策の影響もあり、近い将来に一人っ子の両親が高齢化を迎え、その割合が高齢者人口の8割を占めるようになるとのこと。高齢者の核家族化が増え、若い世代の負担が重くなるのは明白ですね。また、現在でも1000万人以上いるといわれている上海戸籍をもっていない人たちが、今後多かれ少なかれ上海で老後を過ごす可能性もあり、こちらの対策も急務ですね。

 ちなみに、上海市で100歳以上の高齢者の数は1751人で、このうち420人が男性。ここでも女性は長生きです。また、80歳以上の人口は78.05万人で、上海戸籍の5.4%を占めています。ちなみに日本では80歳以上の人口は7.9%だそうです。

 上海の地下鉄に乗っていても、出勤時間帯は若者が多いものの、休日になると高齢者の割合がぐっと増えます。公園や住宅地で運動する人たちもまた然りです。健康にどうやって老後を過ごすか、またデイケアサービスのネットワークをどう拡充させていくのか。課題はいっぱいです。

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2016年03月18日

上海で黄熱病の報告、アフリカ・アンゴラからの渡航者

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 上海市の衛生当局によると、3月18日に上海で江蘇省出身の男性・46歳が黄熱病と診断されたとのこと。この男性は、3月5日にアンゴラの首都ルアンダで発熱し、3月6日に飛行機に搭乗してドバイでトランジット、3月7日夜9時に上海到着、上海入国時には発熱はなかったものの、病院で診察をうけて、上海疾病予防コントロールセンターでの検体標本の検査と、中国疾病予防コントロールセンターでの再検査で3月17日に黄熱病と確認されたようです。現在、肝機能障害がみられるものの、容体は安定しており、治療が行われています。

 黄熱病はかつて野口英世が研究した伝染病ですよね。最後、黄熱病で亡くなってしまいましたが、熱帯アフリカや中南米の風土病で、蚊によって媒介されます。中国では法定検疫伝染病に指定されています。人から人には感染しませんし、黄熱病を媒介する蚊も上海にはいませんので、あまり馴染みのない伝染病です。潜伏期間は3〜6日程度、発熱・黄疸・出血などの症状を伴い、生ワクチンはありますが、特効薬は今のところありません。感染後5〜20%で症状が出ますが、まれに重篤化してなくなることもあります。

 この報告を読んで、最近、アフリカへ仕事へ出掛ける中国人も多いことを感じました

 うちの近所でも、南アフリカで雑貨屋を経営しているとか、そんな話をよく耳にします。中国人のビジネススタイルはとてもグローバルですが、近年特にその傾向が強いように感じます。それにともない、様々な伝染病のリスクが高まりますが、これはなにも中国に限った問題ではありません。

 人間の経済活動は、地球を小さくしました。

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2016年03月14日

上海の地元小学生つれて薬草園へ

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 上海のローカル公立小学校にも社会見学のような校外学習の授業があるのですが、うちの子供の学校では学級委員をしている保護者たちと担任の先生で討論して決めます。(上海では学級委員になりたい保護者が多すぎて抽選になるのです。)

 というわけで、今回はリクエストの多かった薬草園の見学に、学級委員である妻と私、さらに担任の先生とカメラ担当の保護者と一緒に行くことになりました。もちろん、妻も私も現役の中医学の医師ですし、せっかくですので子供たちへのガイドも担当することになりました。

 こうやって子供たちと一緒に薬草園に行けるとは願ってもいないことです。

 今回お世話になっている薬草園は、日頃日常診察業務でお世話になっている上海の某生薬卸売業者の社長が保有していて、さらに一般公開前の施設を、特別にお願いして貸しきりで使わせて頂きました。感謝!

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 私設の私設ながら、敷地も十分に広くて、一般的な薬草園の他にも、温室や中医学のちょっとした博物館や標本室もあり、小学1年生の子供たちでも十分に楽しめました。

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 特に、博物館内に再現されている薬棚には興味津々でした。ここでは妻にバトンタッチしてもらって解説。

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 私もいくつか子供が興味を持ちそうな薬草を選び、触って貰えるようにして準備しました。まだまだ漢字が読めないので、ピンイン付きです。(笑)

 ミミズやサソリ、蛇、ムカデ、地鱉虫、セミの脱け殻のようにお馴染みの動物系のものや、竜骨のような化石も持っていきました。日常何気ないものが薬になることを少しでも知って貰えたのではないかと思います。ノーベル賞のきっかけとなった青蒿も持っていきましたよ。

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 広い敷地には、ロバや鹿などの動物もおり(いずれも生薬として使います)、広い原っぱには黄色い蒲公英も花咲かせていました。

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 校外学習の最後は、薬草園の原っぱで蒲公英を集めました。これも生薬で日常的に使います。

 いくら中国人といえども、小学1年生では中医学の認識というのはゼロに等しいところ。なにか少しでも子供たちの印象に残って貰えたら、私たち夫婦も嬉しいです。

 中国では、小学校の教育課程に中医学の知識を導入する試みが行われつつあります。浙江省杭州市でも導入がきまったという話も聞きました。これも自分たちの文化を知るという観点からもとても大切なことだと思います。

 私たちでもできる小さなことから、これからもいろいろチャレンジしてみたいと思っています。

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2016年03月10日

春の気温差があるときには活用したい「春捂」の考え方

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 3月7日〜9日まで、日本特有の春先の「雑用」を色々片付けるために奈良今井に戻っていました。そして3月10日に上海に戻ってくるとなんと寒いこと!3日前に上海を出発したときはそうでもなかったのに、一気に季節が逆戻りした感じですね。

 旧暦では「春三月」の真っ只中にいる今現在、中医学でもこの春先の季節は体調の変化に特に注意しないといけない時期で、体の体温調節を如何に自然に順応させるかが大切な問題です。

 中国語には「春の天気は子供の顔、1日に3回表情がかわる」という言葉もあります。朝晩の温度差も大きいですし、さらに風が強いときも多いです。大陸の気候なら尚更です。このとき、どうやって衣服の調節をしたらよいかというのが大きな問題になります。その対策が「春捂(しゅんご)」という習慣です。

 もちろん、国土の広い中国なので北方エリアと南方エリアとでは習慣が明らかに違いますが、今回は日本の関西エリアとも気候が似ている華東エリアでのお話です。

 まず「捂」という字ですが、中国語では「Wu」と発音します。押さえる、被せる、封じ込めるといった意味があります。つまり中医学でいう陽気をこの春先にしっかりと守るために、衣類などを体に被せて封じ込めるというわけです。

 中医学では「寒従脚下起(寒さは足下からやってくる)」という言葉もあります。足は体の中でも血液循環が悪いわけで、男性女性にかかわらず足の冷えを訴える患者さんが多いです。当然、中国でも伝統的に足下を温めることは一般的に認知されていて、そのため春先の衣類は「下厚上薄」というのが大原則になります。
 また、頭の保温も大切です。頭は体の陽気が集まる場所であるけど、陽気が発散しやすい場所でもあり、とくに風にあたったりすることを極端に嫌います。帽子などを被って風を防ぐことが大切とされています。

 さらに背中は「陽の中の陽」とも言われていて、背中からも寒さが侵入しやすい。背中がぞくぞくするというのは非常に良くない感覚なのです。そして、お腹の保温も忘れずに。腹部の冷えは胃腸だけでなく、婦人科疾患とも密接に関係があります。

 体を鍛えるために「寒さを我慢する」ことがいいとする考え方もありますが、あまりムリをしないように。とくに子供や高齢者は体が熱しやすくて冷めやすい。体を温めるエネルギーでもある陽気をしっかりと守ってあげることが必要なわけです。

 とはいえ、春も終わりに近づいてくると、気温が安定してくるので春捂する必要もなく、今度は適度に衣服を脱いで今度は陰気を守りましょうね、ということになります。それでも、足下は冷やさないでください。「寒従脚下起」ですからね。

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2016年02月23日

抗生物質と上海の子供の肥満の関係

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 上海地区の子供の肥満の問題は、上海ではかなり前から問題になっています。最近、上海で7〜16歳の子供たち9,000人を対象にした調査では、体重が正常だった人が72.1%、やせ気味だった人が6.9%であったのに対して、肥満もしくは体重超過気味だった人の割合は21%にもなっていました。肥満の原因はいろいろ考えられますが、これまでの研究では、遺伝的要素は30%にすぎず、環境的な要素が大きいという結論になっていました。さらに最近の研究では、環境的要因に抗生物質が関わっていることが分かってきました。(関連記事は2014年にも

中国のもう一つの抗生物質濫用問題
で書いています。)

 復旦大学公共衛生安全教育部重点実験室と復旦大学公共衛生学院の共同研究が、『Environment International』に投稿され、上海で大きな話題を呼んでいます。

 その結論は、

 「子供の尿を調べると、家畜向けの抗生物質は動物用の抗生物質暴露が、子供の肥満や体重増加に明かな相関性があり、食品による抗生物質の暴露と子供の肥満リスクの間には正の相関関係があり、こうした抗生物質の源は汚染水と食物から体内に入っているとみられている」

 ということででした。

  この研究では、2010年から2014年にかけて上海・浙江省・江蘇省の子供たち1,500人分の尿を集めたほか、さらに2013年には上海地区の8歳から11歳の586名に対して尿中に含まれる抗生物質を分析しました。このなかで、79.6%の尿中に21種類の抗生物質が発見されました。そのうち、マクロライド系が5種類、βーラクタム系が2種類、テトラサイクリン系が3種類、キノロン系が4種、サルフア系類が4種類、クロロマイセチン系類が3種類とのこと。

  さらに、尿中に含まれていた抗生物質の濃度を高・中・低に分類し、年齢・性別・収入・喫煙状況などの要素を加味して分析したところ、高濃度の子供が肥満になるリスクは、低濃度の子供と比較してリスクが1.99〜3倍になるとしています。おそらく、抗生物質が脂肪の生成と関連しているのではないかということです。

  実際、家畜と抗生物質は、切っても切っても切り離せない問題だと思います。特に鶏の飼育は、アヒルに比べて難易度が高く、病気がきっかけで全滅してしまうことも珍しくない。これは農民達ならよく知っている事実です。だけど、そうした食材への需要は高いわけで、本来は十分に気をつけて育てないといけなく、手間暇とコストがかかるわけです。湖南省で有機農法を頑張っている農民達も、水が農薬や抗生物質に汚染されないように細心の注意を払っていました。それぐらい敏感な問題なんです。

  ちなみに2013年のデータでは全世界の抗生物質の半分にあたる16.2万トンが中国で消費され、このうち52%が動物用で、48%が人間用。人間用は高濃度であっても使用期間は短期間ですが、問題は自然環境に低濃度で存在する抗生物質。長期にわたって暴露されると、何らかの影響が懸念されます。

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