2012年06月25日

水蛭と腎疾患

 中医学の特色の一つに、私は活血化瘀があると思います。難治疾患に対して、治療効果が出ないとき、活血化瘀をうまく使うと、思わぬ効果がでることがあります。その中で、今回はFACEBOOKで御質問をいただいた水蛭について。少しでも臨床に役立てばと思い、ここに書かせて頂きます。

 中医学や漢方医学で使う水蛭は、一般に夏〜秋に捕獲され、乾燥させて使用します。活血剤のなかでも最も強い破血のグループに入ります。そのため、妊婦には使わないのが一般的です。

 水蛭そのものは非常に粉にしにくく、使いにくいので、製薬会社で粉にしてもらって、カプセルにした活血通脈膠嚢を使います。1日3回 0.5gの量です。この場合は、生薬とは別に頓服で服用することになります。IgA腎症以外にもネフローゼによる浮腫にも使います。中国では、膜性腎症の場合、ステロイドを使わないで生薬だけで治療することもありますが、高凝固状態での活血化瘀はかなり有効とされていて、仮に舌や脈で瘀血の証が見当たらなくても、血液分析・尿FDA・血液レオロジーなどの指標で投与することも多いです。一般的に、中国ではIgA腎症は気陰両虚で、滋陰清熱・祛瘀止血の治療原則で考えますが、水蛭以外にも、丹参・川芎・益母草・蒲黄・桃仁・紅花を使います。

 さて、腎臓疾患といえば、蛋白尿の問題と向き合う必要があります。これは歴代の医学者によって様々な研究がされていますが、私の師匠の陳以平教授は、蛋白尿と腎虚よりもむしろ。風開腎門・熱擾腎竅・湿滞腎関・瘀塞腎隘と考えることの方が多かったように思います。そのため、治療には通因通用の発想から、久漏宜疏・久漏宜通の治療原則を使います。これは、まさに腎生検において、糸球体に免疫複合物が蓄積し、メサンギウム細胞や基底膜が厚くなったりする病理変化は、中医学的には「瘀血証」とみなすことができますし、サイトカインや炎症性因子の形勢や補体活性化などは、中医学的には湿熱や熱毒と捉えることもできます。これらは皆、尿蛋白形成と関係があるので、この通因通用法は広い意味で根拠があるとも言えそうです。あと、先生の経験で、精神的ダメージと尿蛋白との関係もあるとおっしゃっていました。私も同感です。

 腎生検において、crescent formation(半月体形成)が認められた場合、場合によっては急性進行性腎炎症候群(RPGN)となり、予後がよくないケースも多いのですが、中医学と西洋医学との併用は、中国ではかなり一般的になっています。第一段階では、ステロイドの使用が多いため、中医薬では清熱系の生薬を使います。代表的には、紫花地丁・忍冬藤・白花蛇舌草などです。これに、活血化瘀系の赤芍・生地・丹参・製大黄を加えます。第二段階では、健脾補腎泄濁法をとり、黄耆・当帰・黄精・杜仲・枸杞・白朮・党参・葛根・川芎・丹参・六月雪・製大黄などを使います。ステロイドを多用した場合、舌苔が膩になっていることが多いので、藿香・木瓜・梹榔・佩蘭などを加えます。一般的に、中医薬を併用した場合のほうが、ステロイドの使用を軽減できるとしています。
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2012年06月18日

子供の偏頭痛

 子供の様々な疾患が抱える症状は、本当に多種多様です。私も、アトピー性皮膚炎の皮膚の痒みから、夜尿症まで毎日様々な疾患を診察していますが、どれとしてパターン化できるものがあるわけでもなく、中医学の基本に立ち返って、いろいろ作戦を練る毎日です。ただ、子供は生薬を飲むのが一般的に苦手。ごく一部で甘くしないと飲めない子供たちがいますが、大部分の子供たちは、最終的には煎じ薬でも自家製の丸薬でも処方できるようになっています。そのために、まず、子供自身に、この中医薬が効いているのだという実感をもってもらわなければなりません。同時に、医者も当然、各生薬の本来の味には精通しておかないといけないと思うんです。だから、私も、時間があれば、薬局から生薬を拝借してきて、味の確認をしています。そうすることで、生薬の品質も確認することができます。

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 というわけで、うちの台所はいつもこんな感じです。生薬をひとつひとつ煎じながら、味を確認していくのです。

 最近、時々診察しているのが、子供の偏頭痛です。それも、西洋の病院などにいって、いろいろな検査をしたのにも関わらず、原因がはっきり分からずに、痛みが襲ってくるというパターンです。先日も、国語の時間に教科書の文字を追うと痛み出してくるパターンの頭痛がありました。眼科の検査も受けていますが、こちらも異常なし。そこで、中医学での処方を考えました。

 最初はすこし時間を要しましたが、2ヶ月目ぐらいから痛みが治まりだし、教科書を読んでいても痛みがすぐに解消するようになりました。そして、最近では、殆ど痛まなくなっています。

 私も生薬の加減をいろいろ考えていたのですが、効果が出だしたと実感したのは、やはり虫類の生薬を使い始めてからです。その昔、上海中医薬大学附属竜華医院で、神経内科の故胡建華教授の外来に出たことがありましたが、教授が虫類の生薬を巧みに使っておられたのが非常に印象に残っていました。虫類は確かに生薬の味にはダメージを与えてしまうのですが(味がまずくなってしまう)、痛み止めに関してはその効能は確かだと私も実感しています。

 特に子供の場合、その生理的特徴から、中医学では『幼科発揮』にある「肝常有余、心常有余」といわれるように、肝陽上亢がしやすいとされています。子供が高熱の時に熱性けいれんを起こしやすいのも、そのことと関係があるとされています。よって、こうした頭痛の場合、肝から考えていくと、上手く行くことがあると思います。また、今回の子供のように、眼の使用と関連がある場合は、なおさら肝をうまくコントロールすることが大切だと思い、私も密蒙花(清肝・明目)、菟絲子(補陽益陰・明目・止瀉)を虫類の生薬と組み合わせながら処方してみました。

 痛みに対しては、生薬は様々なアプローチができます。痛みと言えば、鍼灸を思い出す方も多いかもしれませんが、生薬と組み合わせることで効果を高めることができます。この患者さんの場合は、補助的治療として耳鍼を使ってみました。
 今後は、生薬を減量しながら、再発しないようにアプローチしていこうと思っています。
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2012年05月15日

AS(強直性脊椎炎)の中医学的治療の研究成果

 再び、中西医結合学会の2011年度科技奨に関しての話題です。
 時々、このブログでも1等賞に選ばれた研究成果を見てきていますが、今回は老中医の経験から、現代医学への研究アプローチを行ったという例です。

 中日友好病院の研究グループが、国家中医薬管理局などの支持を受けながら、十年間に渡って研究を行ってきた『補腎強督法を中心にしたAS(強直性脊椎炎)総合治療法の臨床と実験』です。グループでは、焦樹徳教授の経験に基づき、国の「十一五重点専科診療方案」として重点的に研究が行われてきたテーマでもあります。

 AS(強直性脊椎炎)は、脊椎や股関節、肩の関節などに痛みや腫れなどの炎症反応がおこり、進行すると脊椎が硬直してしまう原因がまだ明らかではない疾患です。

 焦樹徳教授は、ASの中医病名を大僂と命名しています。この言葉は、『黄帝内経・素問・生気通天論』に登場しており、「阳气者,精则养神,柔则养筋。开阖不得,寒气从生,乃生大偻。」とあります。ここからも推測されるように、ASの弁証に関しては、寒熱がポイントとなります。

 そこで、AS治療の理論として、補腎強督を提唱し、中薬治療をベースに、運動・健康教育・西洋医学との併用・外用と内服の活用により、治療案が検討され、現在では国家中医薬管理局の「十一五重点専科診療方案」として採用されています。また、研究によって開発された補腎舒脊顆粒(骨砕補・杜仲・狗脊など10種類の生薬で構成、効能は補腎舒脊・散寒除湿・活血止痛)は、日中友好病院で院内製剤として使われていて、中国国内では唯一のAS治療用の中成薬として活用されています。
 
 これまでの研究では、補腎強督法により早期ASの骨量喪失の改善や、骨代謝の双方向での調節、骨密度や瘀血状態の改善などが確認されたとしていうます。

 AS治療の一つの方法として、今後も研究が続けられていくものと思います。

 中医学の興味深いところは、単なる古典の処方を検証するだけでなく、日頃の臨床結果から、効果の良かった処方を再検証し、新しい理論・弁証を構成していく点です。そのためにも、経験豊かな老中医たちの処方を勉強することも大切なのです。
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2012年05月13日

中医学を活用した非小細胞肺癌の研究

 近年、大気汚染や喫煙の関係で、中国でも急増している肺癌の問題について、2011年度の中国中西医結合学会の科技奨を受賞した7つの研究成果のうちの一つに、中医学を活用した非小細胞肺癌の研究がありました。

 肺癌は、大きく分けて小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分けられます。小細胞肺癌は全体の20%を占め、悪性度が高く、進行も早いです。腫瘍マーカーは、ProGRPやNSEが使われます。一方で、非小細胞肺癌は、肺扁平上皮癌と肺腺癌、肺大細胞癌に分類され、肺扁平上皮癌ではSCCとCyfra、肺腺癌ではCEAやSLXなどが腫瘍マーカーとして使われています。肺腺癌は、非喫煙の若い女性に発生する肺癌として知られています。

 今回の研究では、中国中医科学院広安門医院など13箇所の主要な中国の医療機関が合同で研究を行い、931例の非小細胞肺癌の患者に対して術後の再発率や、生存期間、QOLについて、Mult-Center Clinical TrialやProspective study、Queuing theoryなどの手法を用いて分析しました。

 この中で、化学療法を行っているときは、健脾和胃・益気養血・滋補肝腎を使い、放射線治療をしているときは、養陰生津・活血解毒とし、放射線治療をしていない早期患者の術後は、益気活血・解毒、末期患者の術後は、益気活血・解毒散結を使い、治療段階において、中医学による治則を変化させました。

 その結果、非小細胞肺癌のうち、ステージT〜VAの術後の患者に対しては、体重や体力を改善し、QOLを高め、化学療法による骨髄抑制を抑え、消化器系の副作用も改善し、転移を減少させる傾向にあることが分かったようです。

 いずれにしろ、肺癌治療において、何らかの形で中医薬(漢方薬)を介入させることが有効であるので、単純に数種類の生薬を使うだけでなく、今後はその治則の変化をうまく弁証することが求められるのではないかと思います。
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2012年05月08日

現代病には脾陰虚が多いのかも

 中医学の脾臓というと、後天之本といって、食べ物を吸収して気を作り出したりする非常に大切な臓腑です。そのため、脾陽虚や脾気虚はよく登場し、李東垣の補中益気丸などの処方は、日本でも広く使われています。ところが、中医学を教科書で勉強すると、脾陽と脾気はよく登場するのですが、脾陰というのはあまり登場してきません。このことに、疑問をもっている方も少なくないかと思います。
  
 だからといって、脾陰が存在しないわけではなく、「各家学説」を勉強すると、明代の医学者、繆希雍(江蘇省常州出身)で脾陰の考え方が登場しています。ここでは、「食欲がなく、消化不良気味で、腹部に膨満感があり、四肢に力が入らない、四肢が熱く感じる」といった症状が挙げられています。脾陰の働きは、脾の運化の働きと関係があり、五臓を潤し、筋肉や骨に栄養を巡らしますが、疲労やストレスなどが原因で脾陰が不足すると、熱が発生し、四肢煩熱になるということです。

 消化器系の陰虚として区別する必要があるのは、胃陰と脾陰の違いかと思います。これは、臓である脾と腑である胃の働きの違いから考察できると思います。脾陰は他の五臓や骨・筋肉を潤す必要があるので、どちらかといえばドロッとした感じのもので、胃陰は、伝達させる必要があるから、サラサラとしたイメージだと考えられます。そうすると、ストレスなど慢性疾患による下痢は脾陰と関係があるし、外感による嘔吐や胸焼け、お腹が空くのだけど食欲がないといった症状は胃陰と関係があるので、両者の性質が違うことが分かります。胃の陰虚の場合、大便が硬くなることも考えられます。

 さて、脾陰虚の治療のポイントとなるのは、繆希雍らが示している「甘涼滋潤・酸甘化陰」法です。黄耆や党参など温補系の生薬ではなく、沙参や麦門冬といった甘涼系の生薬ではなく、芍薬や山薬、薏苡仁、蓮子、白偏豆、芡実、石斛といったものを使います。明代の医学者、張錫純は生山薬をよく使ったそうですが、ここにも脾陰を補う発想があったことも考えられるかもしれません。

 一般に腹部膨満感や下痢などの症状があった場合、中医学では多かれ少なかれ脾気虚を考えて黄耆・人参・白朮といったものを使い、そして膨満感解消のために理気作用のある木香や砂仁を使いたくなります。ただ、脾陰虚の場合、こうした補気昇陽は脾陰を傷つけてしまうことになり、逆効果になってしまう場合があります。よって、脾陰虚と脾気虚の違いを分析しておく必要があります。
 一説では、脾陰虚の場合は、脈が細数で、舌は苔がすくないのですが、脾気虚の場合は、脈に力がなく、弦緩であり、舌も歯形がついているようなタイプではないかと考えられています。また、脾虚により下痢が続くと傷陰するため、脾陰虚となることも考えられます。

 結論として、様々な陰虚を治療するには、「後天之本」である脾の陰が非常に大切です。たとえば、糖尿病に代表される消渇や、泄瀉となる過敏性大腸炎、舌苔が赤くて少ないことが多い喘息、脾陰虚系の不眠などにも使えると思います。

 
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2012年04月22日

上海市科技奨の1等奨を獲得した、中医薬による肝硬変の治療

 2011年度の上海市科学技術奨の中で、上海中医薬大学附属曙光医院肝臓病研究所が長年研究を続けている肝炎後の肝硬変の中医学的治療の研究が1等奨を受賞しました。中医学系の研究で、1等奨を受賞したのは、かなりの快挙だと思います。

  上海中医薬大学の劉平教授らのグループが行った研究では、肝硬変の病因病機を「虚損生積」ととらえ、益気生精・補益虚損法による治療を考え出しました。今まで、中医内科の分野では、肝硬変が「本虚標実」であることは言われていましたが、この研究では、虚損と癥積との関係を古代の文献から分析し、慢性B型肝炎と肝硬変の証候タイプと、肝臓組織の病理学変化の相関点を分析し、肝線維化と肝硬変の中医学的な特徴をとらえていきました。

 私が興味深いと思ったのは、効能の違う方剤に対して、中医学の証の違いを組み合わせて治療すると、その働きも違ってくると言う点です。肝炎後の肝硬変では、気虚・血瘀がベースにあり、さらに肝腎陰虚・湿熱内蘊の証がよくでてくることを突き止め、肝臓病でよく使われる小柴胡湯と、伝統的な処方の中から、益気の黄耆湯・養陰の一貫煎・祛瘀の下瘀血湯・清熱利湿の茵陳蒿湯を比較し、その違いを炎症の抑制、ECM(細胞外マトリスク)への働き、肝シヌソイドへの作用を分析していました。

 さらに、ランダム化比較試験など現代医学の手法を使っての112例の肝硬変(ステージ4)患者を48周にわたって観察した結果、益気黄耆湯で肝機能を改善することもわかったようです。そこから、益気補虚作用のある生薬に、効能を高める組み合わせがあることも突き止めたようです。

 今回の研究成果のうち、肝硬変における「益気化瘀法」の治療方法は、すでに中医内科の治療ガイドラインに採用され、特許も6項目取得したとか。中国はB型肝炎の患者数やキャリア数が非常に多い国です。そのため、肝臓病にたいしても、かなり以前から中医学を科学的手段をつかっての検証がされてきています。今回の研究成果もその一環です。

 私も大学院に在籍していたころ、劉平教授の「科研思想と方法」という講座の講義を聴きました。日本留学の経験がある先生で、現代の科学的見地から中医学理論に切り込みをいれる様々な方法を提起されています。
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2012年04月20日

膵臓癌の治療、中医学でなにができるのか

 前回、東京医科歯科大学で開催された統合医療学会国際シンポジウムでも講演された復旦大学附属腫瘤医院の劉魯明教授らのグループが10年来研究している中医学と西洋医学を併用した治療方法が、2011年度の中国中西医結合学会の科学技術奨の1等を獲得しました。

 膵臓癌といえば、5年生存率が2〜5%程度と低く、3年以上生存したというケースも非常に少ないのが現実です。Apple社のスティーブ・ジョブズもこの膵臓癌で亡くなりました。そのため、中国では以前から西洋医学の治療法に、中医学を併用するやり方が使われています。

 今回の研究のポイントでは、従来の症状から分析する弁証論治的なアプローチから、まずは弁病を行ってから弁証をおこなうという、近年中国でよく行われている治療方法の検証とも言えます。膵臓癌の場合、AJCC分類を活用し、早期(T/U期)の場合は、手術を最優先し、術後に中医薬を導入し、中期(V期)で、手術では切断できない場合は、胆嚢空腸吻合術を行って黄疸対策を行いつつ、中医薬の導入し、末期(W期)では、中医薬をメインにして、場合によっては化学療法を組み合わせるというものです。

 膵臓癌に関しての中医学アプローチは、これまでは「脾虚気滞」で考えれていましたが、劉魯明教授らのグループは、「湿熱蘊結」がその核心となる病因病機であり、そこで清熱解毒・化湿散積法の処方を研究の対象にしました。すでに、「清胰化積方」という処方が開発され、膵臓癌を治療するときの基本処方として活用されてきました。生薬の構成は、白花蛇舌草・半枝蓮・蛇六谷・絞股蘭・白豆蔲となっています。臨床では、この処方の後ろに、患者の症状にあわせて加減していくことになります。これが、ある意味近年の中国でよく行われている弁証と弁病の結合の処方方法ですね。

 これまで、1500例を対象にした臨床研究では、1年後の生存率が25%、3年後が14.1%、5年後では8.4%となっていて、中位数は7.6ヶ月となりました。また清胰化積方をつかった治療グループ64例のうち、7例が生存5年を越えており、最長で106ヶ月生存できたという報告でした。末期膵臓癌の5年生存率が、少しでも高められたことに評価を受けたとのことです。

 いずれにしろ、今後の研究成果が期待されます。
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2012年02月14日

便秘と夜尿症の関係、麻子仁丸

 米国のノースカロライナ州にある Forest Universityの研究で、30名の5〜15歳の夜尿症のある子供について調べたところ、いずれも排便の習慣があるのに、X線検査をしたところ、直腸に残留している便の量が多いことが分かりました。そこで排便を促す薬で治療を行ったところ、このうち25例で3月以内に夜尿症の問題が解決したという結果が発表されていました。
 つまり、直腸の便が増えると、膀胱の容積が減り、その便を排除してあげると、膀胱の容積が増えて、夜尿症がなくなったと分析されていました。

 私も、子供の夜尿症をよく中医クリニックで診察しています。中医学や漢方での夜尿症の治療は、比較的うまく行くことが少なくありません。
 日頃の臨床の中で、一部の子供たちに便秘の問題があり、便通がいいときは夜尿症がなくなるという現象には気づいていました。私にとってのヒントは、『傷寒論』にある麻子丸(脾約丸)でした。『傷寒明理論』には、「经曰:脾主为胃行其津液者也,今胃强脾弱,约束津液不得四布,但输膀胱,致小便数而大便硬,故曰其脾为约。」とあり、方剤学の教科書にも「肠胃燥热,津液不足。大便干结,小便频数。」と、ちゃんと尿に関しての記載もあります。(ただ、日本の翻訳本をみると、「小便频数」の部分が脱落しているものもありました。)
 中医学の教科書的解釈では、胃の中に熱がたまり、津液が正常に分布できず、膀胱に流れ込むために、頻尿が起こるというものですが、西洋医学の研究とつながるところがあり、私も嬉しくなってしまいました。特に、子供はまだ脾の働きが弱く、胃熱が盛んになりやすいので問題が発生しやすいのです。アトピー性皮膚炎に関しても、胃熱との関係は密接です。

 きっと、今後も中医学や漢方医学で既知となっている現象が、いろいろと西洋医学の分野でも明らかになってきて、うまく融合できるのではないかと期待しています。
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2012年01月22日

中医学による不妊治療

 遅れましたが、謹賀新年です。

 クリニックの移転引っ越しもなんとか終わりました。

 2012年1月18日より、上海市中山西路1602号(×柳州路・徐虹北路)宏匯国際広場B座101室に移っております。地下鉄では、3号線・4号線・9号線の宜山路駅が最寄り駅になります。私は9号線を使って通勤していますが、3号出口から中山西路を北上すると、左手にビルが見えてきます。

 そして、ついに春節の大晦日を迎え、私のほうもしばしの休暇です。
 そこで、やっとこちらのブログも更新できるようになりました。

 春節前の最後の診察で、今年2012年では初めての不妊治療で中医学を行っていた患者さんの妊娠の知らせを患者さんご自身からご夫婦でお知らせいただきました。ご夫婦で3ヶ月ほど通っておられましたが、なんとか妊娠までこぎつけて私も内心ほっとしています。ただ、中医学で妊娠を希望されて来られる方は、一般的に西洋医学的な治療を一通り長期にわたって行われ、さらに年齢が高めの方が多いため、私としては妊娠してからの方が心配です。

 去年から、色々と不妊治療に関わるチャンスが多く、場合によっては西洋医学の先生ともコラボで取り組んでいます。そのなかで、いろいろ気がついたのですが、中医学の不妊治療は、女性が一人で取り組むよりも、夫と一緒に治療に来られている方が圧倒的に成功率が高いという点です。少なくとも、去年に関してはそうでした。

 不妊治療の場合、一般に女性の方が熱心なことが多く、男性はあまり治療に積極的ではないのですが、これが問題であったりするような感じもします。実際、男性の精子に関して、中医学(漢方薬)を使うことでその質が高まる研究はすでにいろいろ行われていて、女性と一緒に治療する意義はあるのですが、一般に女性の生理や基礎体温の問題と違って、症状があまりないため、薬を服用する意味を理解できないことが多いのもまた事実です。

 中医学を使うと、睡眠や冷えが改善されたり、思わぬ処に効果が出てきたりするものですが、男性もそういった観点からの改善が必要に思います。
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2011年11月18日

脳外科での針刺麻酔

上海でまた針刺麻酔を使って脳外科の手術をしたようです

 11月17日付けの上海紙『新民晩報』の報道で、上海中医薬大学付属曙光病院で、針刺麻酔を使った脳外科の手術が取り上げられていました。針刺麻酔は一度、中医学の世界で脚光を浴びましたが、その後一時静かになり、また最近、ニュースに登場するようになっています。

 今回の患者は、安徽省出身の16歳の少年で、頭部CTでは、左側視床神経膠腫と閉塞性水頭症と診断され、上海へ転院してきました。手術による切除が治療方針となりますが、位置が脳の中でもかなり深いため、後遺症が心配されるのと、麻酔の問題がありました。即ち、大脳の手術による損傷を最小限に抑えるために、今回の脳外科手術では、覚醒下手術をあえて行って、患者が医師の指示通りに体を動かす必要があるとのことですが、今回はこの麻酔に針刺麻酔を使おうというもの。曙光病院では、脳外科と針灸科、麻酔科が一緒になってチームを組み、針刺麻酔を行うことを決定、腫瘍摘出手術を行ったようです。

 針灸科の医師が左右5カ所に鍼を打ち、痛みがなくなったことを確認、開頭術が行われました。患者は針刺麻酔を受けた後も意識がしっかりとしたまま医師の指示に受け答えし、2時間10分に及ぶ手術を無事終了したということです。術後の病理診断では、膠芽腫(Glioblastoma)のグレードWでかなり悪性度が高かったようです。

 前回は心臓手術で針刺麻酔が使われていましたが、今後の進展が期待されますね。
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2011年08月27日

柴胡陥胸湯が効果的だった胃脘痛

 先日、7月初旬頃から胃脘部の不調を訴え、さらに中旬になると腹部膨満感が出てきて、食欲不振となった40代の女性がこられました。日頃、上海でお仕事をされています。

 とくに、米飯を食べると膨満感が著しくなり、麺類を主食とすると大丈夫だとか。鍼灸治療なども行っていて、一旦は症状がおさまり、他院では慢性胃炎と診断されていました。7月下旬になり、再び胃脘部に膨満感と痛みがあり、腹診を行うと、明らかに心下部が堅く痛みを少し伴い、脈は右は沈緊、左は弦細、舌質淡紅苔薄黄でした。便通は良好です。

 心下痞から、黄連と半夏さらに、胸隔を通すために天花粉を使うことを考えているうちに、一瞬小柴胡湯の加減を考えましたが、この患者さんの症状に近い柴胡陥胸湯があることを思い出しました。患者さんの主訴が、胸〜胃脘部にかけての膨満感だったので、柴胡陥胸湯の桔梗や枳実が有効だったのかもしれません。

 柴胡陥胸湯はほぼ加減なしで処方し、1週間で食後の胃脘部の不調は改善、食欲が戻り、そのあと2週間で全く症状がなくなりました。

 あまりにもすっきりと効果がでてきて、薬を停める段階までこれたので、記録に残しておきました。

 【連絡】日本出張のため9月2日午後2時から9月12日午前まで休診します。
 
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2011年08月25日

子供の高熱での白虎湯

 『傷寒論』に出てくる「白虎湯」ですが、子供の高熱の治療に処方してうまく行くことがあります。

 8月にうちに来られた1歳の子供の患者さんの例。

 3日ほど前から39-40℃の発熱があり、西洋医学の大学病院で診察を受ける。血液検査の結果、ウイルス感染症の感冒ではないかという診断で、解熱剤に抗生物質さらに中成薬などが処方されていました。解熱剤を使うと37-38℃程度までに数時間はさがるのですが、また39-40℃ぐらいの発熱にもどり、これが持続してしまうということでした。

 高熱で多少動きがだるそうでしたが、それ以外はとくに元気で、食欲が落ち込む程度。ミルクを飲ませると吐き出すとのこと。ただ、喉が渇き、便は硬め、汗をたくさんかくといういことでしたが、呼吸音は特に問題ありませんでした。問診中も咳・鼻水はなし。脈は数で力あり。

 大人の高熱だったら、針をつかって瀉血法も考えるのですが、1歳の子供なので今回は白虎湯のエキスを大人の量の三分の一処方し、1日三回、3日分処方しました。また、喉もよく渇くということなので、魚腥草の煎じる前の薬草も出し、お茶代わりに服用してもらうことに。

 その後2日後ぐらいには完全に熱はさがり、咳と透明な鼻水が残りましたが、それもすぐに収まり、今は軽快しています。

 白虎湯は、石膏、粳米、知母、甘草と非常にシンプルな処方で、陽明気分熱証で使います。君薬となる石膏が最大限の力を発揮できるようにバランスが取られているところがすごいと思います。特に子供の発熱では、こうしたシンプルな処方のほうが飲みやすいですし、効果があると思います。

【連絡】日本出張のため9月2日午後2時から9月12日午前まで休診します。
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2011年07月18日

中医学での偏頭痛治療

 昨日のうちの中医クリニックでの日曜診察でも、偏頭痛で来られている患者さんが少なくないのですが、大抵の方は、様々な西洋医学の検査を受けられ、特に大きな異常が見つからず、どうも偏頭痛が発生するのだけど、仕方なく鎮痛剤が処方されて服用しているというパターンをよく見かけます。

 偏頭痛は中医学の分野の中でも、比較的生薬(漢方薬)の効果が高い疾患ではないかと思います。個人差はありますが、何十年とあった痛みが、1〜2週間程度の服用で大幅に減少するといったケースは、非常に多いように思います。よく、患者さんから「漢方は長く服用しないと効かない」と思われていたけど、意外に早く効果がでてきて不思議と言われますが、偏頭痛の治療ではとくにそうです。

 中医学的な弁証は、肝陽や痰湿、瘀血などから攻めるという極めてオーソドックスなパターンなのですが、鍼灸を使わなくても、痛みが治まってしまうこともあるので偏頭痛をお持ちの方は、ぜひ試していただきたいと思います。

 もちろん、痛みが酷い場合は、私も鍼灸を使いますが、多くの偏頭痛は生薬をうまく活用すると痛みは治まりやすいと思います。

 最近の私の経験では、動物系の生薬が偏頭痛にはかなりいいことも分かってきました。このあたり、もっと普遍性がないか、考察してみたいと思っています。
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2011年06月11日

消渇=糖尿病ではないと思う

 中医学の内科の教科書で「消渇」という章があり、一般に西洋医学の診断で糖尿病とつけば、ほぼ100パーセントの割合で、中医学の診断で消渇が使われます。ただ、消渇の定義は、喉の渇き、多食、多量の尿、体重の減少、尿の濁りなどなどの症状をあわせて判断することになります。よって、消渇だからといって、すべてが糖尿病にならないことが、中医学と西洋医学との関係で難しいところだと思います。

 先日、浙江省舟山から来られた40代半ばの中国の患者さん。

 1年ほど前から喉の渇き、尿が濁り、掌の火照りを訴え、中国各地の西洋医学の病院を転々とされておりました。尿検査・血糖値・甲状腺関係・腎機能など一通りの血液検査・エコーもされ、生理も順調で婦人科系も異常がなく、平行して地元の病院で中医薬も服用されていましたが効果がなく、今回は私のところに来られました。舌質は多少赤かったものの、白い苔がうっすらとありました。

 中医学的には「消渇」の診断はつけられると思います。おそらく、他の医師もその切り口で考えていたはずです。
 そこで、私は脾胃に火があり、これが胃や腎の陰を傷つけたと考え、処方を立ててみました。
 『備急千金要方』を記した孫思邈は、こうした代謝内分泌疾患に黄連丸(黄連・熟地)を使いましたし、一般的に地骨皮・石膏・黄耆・麦冬・知母・天花粉などの生薬が使われることが多いです。また、玉女煎や瀉黄散などの処方もよく使われます。

 ただ、彼女の飲食の話を来ていると、刺激の強い辛いもの好きで、結構無茶していることも発覚。とりあえず、2週間後に来ると言っておりましたが、さてどのように改善されるか今後診ていきたいと思っています。
posted by 藤田 康介 at 15:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2011年06月08日

中国で増える気管支喘息、中医学は何できる?

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(やっぱりもやってしまいます。) 

 ここ20年間で、中国で気管支喘息患者が急増しています。少なく見積もっても、中国では2000万人の患者がいるといわれており、このうち子供の発病率は中国で3〜5パーセント程度とみられています。

 理由は、大気汚染との関係が指摘されていますが、いずれにしろ3〜5歳で気管支喘息を発症しやすく、またこのうち年齢と共に治癒できるのは多くなく、大部分は治療を必要とします。ハウスダストなどのアレルゲンが原因であることも多いわけです。

 では、中医学や漢方ではどのように活用できるのか?

 もちろん、発作が起きたときに頓服で生薬を使うこともありそこそこ発作を軽くできますが、最大にその力を発揮できるのは、やはり発作が起きていないときのケアだと中医学では考えます。このあたり、私が以前大学院で研究してきた小児ネフローゼも同様で、発作回数を如何に減らすかということが中医や漢方での治療ポイントになります。

 中医学でも気管支喘息に関する研究がいろいろ行われていますが、西洋医学のGINAガイドライン(国際喘息指針)同様、中医学でも中国国家中医薬管理局が『中医病証診断療効標準』を定めています。これをもとに、江蘇省中医院が中医学を使って予防的治療を3ヶ月行った場合と、行わなかった場合を比較して、治療後1年間の発作回数を調べたところ、中医学治療を行ったグループの発作回数は1.906回で、中医学を使わなかったグループの4.192回と比較すると有意義的な違いがあったということです。ここで使われていた処方は、玉屏風散や四君子湯、参苓白朮散など極めて基本的な処方の組み合わせの固定処方(加減しない)でした。

 気管支喘息の発作を考えた場合、肺の中に溜まった痰が何らかのきっかけで動き出すと症状が発生すると考えます。また、子供は肺や消化器(脾)の働きがまだ完全でないため、痰が生成しやすいとし、それが外邪と呼ばれる外因(アレルゲンや食べ物、大気汚染など)をきっかけに動き出すと発作になるとします。従って、肺や脾の働きを如何にサポートしてあげるかが、痰をつくる量を減らし、発作の回数を減らすことになります。

 肺の気というのは非常に大切で、中医学では湊理(体表の穴、汗腺など)の開け閉めをコントロールしたり、衛気と呼ばれる気で外邪から身体を守ったりします。玉屏風散にはまさにその作用があり、一般に風邪の予防などによく使われるのです。

 季節柄、冬〜春に発作の多い気管支喘息。夏になると、本格的に中医学の冬病夏治の季節になります。冬の病気は、ぜひ夏のうちにしっかりと予防しておきたいところですね。
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2011年05月04日

鍼灸を使って癌患者の化学療法後の口・舌の乾きを改善する研究

 頭頸部に癌ができて、化学療法を行った場合、副作用として「口・舌の乾き」がよくみられ、この治療が難しいとされていたのですが、復旦大学付属腫瘤医院中西医結合科が針治療が効果的であることを突き止め、米国国立がん研究所(NCI)から276万米ドルの研究資金を獲得したというニュースが上海で紹介されました。

 これまでの研究で、90例を対象に行ったランダム化比較試験で、化学療法を行った6〜7週間のうち、毎週3回、1回20分の体3カ所の針治療と耳4カ所の耳針を行ったところ、針治療を行ったグループは、唾液量が増加し、その後も良好な唾液の分泌量が観察されたということです。

 そこで、今度は4年の時間をかけて300〜360名の頭頸部の癌患者を対象に、唾液量や粘度、PH値、タンパク質含有量などの針治療における変化を調べてみるとのことです。

 針灸治療は、器具も手に入れやすく、安全性が比較的高く、何よりも人体への副作用が非常に少ないという特徴があります。また、末期癌でよくみられる癌性の痛みや腸麻痺などの合併症に対しても有効であり、腫瘤病院では、膵臓癌の痛みや、経穴注射による末期膵臓癌の治療などで、鍼灸の理論を取り入れた研究を行っていくということです。

 私も、臨床で針灸を使いますが、時には思わぬ効果が出てくることもあり、生薬(中医薬・漢方薬9と是非併用させて活用していきたいと思っています。
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2011年04月02日

癌症の放射線治療と鍼灸

 中国では、癌治療といえば、中医薬(漢方薬)を介入させることが一般的で、西洋医学・中医学双方の総合病院に、腫瘤科が設置されているのが普通です。ただ、上海においては鍼灸を癌治療に使っているところはあまり多くないような印象です。経験的に、痛みを緩和させるのに鍼灸は効果的なのは確かです。

 そんな中、スウェーデンの研究では、鍼灸を使うことで、癌患者に対する放射線治療で発生する嘔吐や悪心などの副作用に対して、有用であるというのがありました。このうち215人は針灸治療も受けたところ、37%が悪心、7%が嘔吐したのに対して、そういった治療を受けなかった62人は悪心を感じた人が63%、嘔吐したのは15%おり、明らかに差が出たということです。

 私が興味をもったのは、その後の研究です。215人のうち109人はいわゆる我々が中医学などで行っている針治療を行ったのに対して、106人は、鈍器のようなもので刺激を与えただけで比較してみました。その結果、双方の効果は基本的に同じだったようです。

 いずれにしろ体表から刺激を与えることで、放射線治療の副作用が緩和されるのなら、結構なことです。ただ、この研究にはどのツボを使ったなどの紹介がなかったので、一概には言えませんが、もう少し伝統医学の理論に忠実に治療を行えば、また違う結果が出てきたのではないかと思います。胃潰瘍の針灸治療の研究では、やはりツボを刺激するのとしないのとでは差が出ていました。

 理想はやはり、生薬と鍼灸を融合させた活用でしょうね。
posted by 藤田 康介 at 11:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2011年03月26日

胃潰瘍と鍼灸療法

 胃潰瘍の治療で、鍼灸が有効であることは臨床で実践されてきましたが、果たしてそれがどのように作用しているのか、あまりはっきり分かっていませんでした。が、最近、湖南中医薬大学が、足陽明胃経のツボにお灸をすることで、胃の粘膜を修復するメカニズムを研究し、2010年度中国鍼灸学会で技術奨2等賞を受けました。

 足陽明胃経のツボに鍼灸をすることで、熱ショックタンパク質(HSP)を誘導し、アポトーシスを抑制して胃粘膜の細胞を増殖させ、保護するというもの。

 動物実験では、ラットの足三里(下腿前面、犢鼻と解溪を結ぶ線上、犢鼻の下方3寸に取る)や梁門(上腹部、臍中央の上方4寸、前正中線の外方2寸)に対して灸法を使って、ツボを刺激することで、熱ショックタンパク質の合成を促進させたわけですが、興味深いことにツボを刺激したときと、ツボ以外を刺激したときとでは、熱ショックタンパク質の合成に差が出たと言うことでした。

 さらに、お灸だけでなく鍼治療においても同様の効果が得られるようで、電気針を使って足陽明胃経に刺激を与えるとよいと言うことです。中国の臨床では、胃潰瘍の予防だけでなく、治療にも活用されています。

 科学的な裏付けで鍼灸の効果が証明されたことは意義あるわけで、今後他分野での応用も期待されています。これに中医薬(漢方薬・生薬)を組み合わせると、さらなる効果が期待できるはずです。
posted by 藤田 康介 at 16:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2011年02月14日

非定型抗酸菌症の中医学(漢方)と西洋医学を併用した症例

 2年ほど前に気管支鏡検査でマイコバクテリウム・アビウム(M.avium)が検出され、非定型抗酸菌症と診断された患者さんが通っておられます。一時は上海の病院で結核ではないかと疑われましたが、日本に戻った検査の結果に非結核性であることが確認され、去年の春頃から中医学を導入した治療を行っています。

 非定型抗酸菌症は、呼吸器の感染症で、咳や痰の症状のほかにも、ひどくなると全身がだるくなるなどの症状がみられます。感染することはありませんので、隔離する必要はありませんが、この患者さんの場合、夜間を中心にひどい咳や緑色の痰に悩まされ、盗汗などの症状がありました。

 西洋医学的には、結核治療と同様の治療が行われ、REF・EB・CAMなどの薬を使いますが、中医学の生薬を併用するという手もあり、この患者さんの場合、生薬を導入した段階でかなり咳が収まり、その後の西洋医薬との併用でかなり良好な効果を得ることができました。

 心配された西洋医薬使用による副作用もほとんどなく、2010年の検査では一時期悪化傾向にあったCTでの陰影も、今回の検査で大きく改善され、喜んでいらっしゃいました。日本の大学病院の先生から、どういう漢方薬を使ったのか?と聞かれたとおっしゃっていましたが、西洋医学の先生にも少し中医学に関心をもっていただけて私も嬉しかったです。ただ、実はそれほど複雑な処方をしたわけではありません。

 中医学では、昔から肺結核(肺癆)の治療に中医薬が使われていて、効果の問題はありますが、経験処方はかなりあります。私が上海中医薬竜華医院の呼吸器科にいたとき、上海市名老中医の邵長栄教授に師事したことがあるのですが、この先生ぐらいの年代になると、実際臨床で肺結核の治療で中医薬(漢方薬)による治療を行った経験があり、いろいろ指導していただきました。今回の非定型抗酸菌症も、症状が似ていることからその中から肺結核の経験を参考にしてみました。

 基本的には気陰両虚の証から、養陰降火の生薬を処方しました。メインの生薬には、百部・丹参、黄芩などを使い、症状にあわせて沙参麦門湯や二陳湯を組み合わせました。肺と腎との関係から、一時期蛤蚧(ヤモリ)の粉も使いました。煎じ薬だからできる、生薬の自由な組み合わせです。

 中医学の弁証論治は、違う病気でも同じような処方を使うことがよくあります。基本的に、症状を分析して思考が似ておれば、処方の共通性はあるわけで、今回もそういったやり方がうまくいった例だと思います。
posted by 藤田 康介 at 15:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2011年02月09日

中医薬(漢方薬)による鬱病治療

 最近、他の病院でうつ病と診断を受けたり、各種疾患が原因でうつ状態を抱えてらっしゃる患者さんを立て続けに診察しました。中医学(漢方)で何ができるのだろうか?とお思いの方の多いのですが、意外と経験実績がある分野でもあり、しかも殆ど副作用がないので活用する価値はあるかと思います。中医内科学でも、鬱証という証が作られているぐらいです。

 一般的に女性の方が罹患しやすいなどと言われますが、決してそうではなく、男性も多いです。

 最近、北京中医薬大学第3附属医院の唐启盛院長らが研究した「抑鬱症の中医症候学規則の研究」で、中国の国家科学技術進歩奨2等奨を獲得した論文がありました。

 この中で、1221例の患者さんを対象に中医学におけるうつ病治療の分類があり、腎虚肝欝・肝欝脾虚・肝胆湿熱・心腎不交・心脾両虚・心胆気虚の6種類を中医診断基準に入れていました。

 治療効果も、西洋薬の抗うつ剤単独のグループと比較すると、中医薬を使ったグループは、鬱症状が改善の効果が出てくる時間が7日間かかったのに、西洋医学のグループでは21日かかり、6つのパターン全体で比較しても、5-8%治療効果を高めることができたと言うことです。

 とくに、中医薬を使った場合、不眠症や疲労感、食欲不振などの合併症にも対応でき、患者さんにも受け入れやすいというメリットもあります。

 私も、場合によっては鍼灸なども併用させ、中医の処方と組み合わせて治療を実践してきました。鬱症状といっても、10人おれば10人とも症状が違うので毎回いろいろな処方を考えますが、そこそこ成果が出ているように思います。

 補足ですが、最近、アメリカ国立衛生研究院の研究で、鬱症状を罹患した人の方が、罹患しなかった人よりも骨密度が低下するというデータが発表されていました。大腿骨の骨密度を計測した場合、罹患したグループの方は、13%骨密度が減少し、脊椎の骨密度も7%減少するのだそうです。
 これは、ステロイドホルモンの分泌と関係があるようで、鬱症状を訴える人の方がステロイドホルモンの分泌が増えるからで、日頃から太陽にしっかりとあたり、運動をし、骨によい食生活をする必要があるということです。確かに、そういった生活習慣を改善することができれば、鬱症状の改善にも役立つはずですね。
posted by 藤田 康介 at 07:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察