2017年03月09日

老中医の健康法

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(江蘇省常熟にて)

 中国での中国伝統医学(中医学)は西洋医学の大学とは別に、中医薬大学があり学生達はそこで勉強し、附属病院で所定の研修を経て医師国家試験に合格し、その後も様々な試験を受けながら一人前になっていきます。その過程でとても大切なのが大学で教わる知識だけなく、師匠となるベテラン中医師、いわゆる「老中医」との出会いです。私も学部時代、院生時代、そして卒業後も色々な老中医に師事しましたが、大学院時代に師事した陳以平教授が今年80歳になられ、今年は私たち弟子が集まって記念論文集を作ることになりました。先生は今もお元気で、腎臓内科の臨床第一線で活躍されています。

 こうした先生方に師事すると、医学に関する知識だけでなく、先生の生き方、さらに将来現役で活躍されているヒントを学ぶことができます。とくに、健康法に関してはとても参考になることが多いです。以前、広東省広州中医薬大学を訪れ、中医学の世界では人間国宝級の認定を受けている、国医大師のケ鉄涛先生にお会いしました。この先生もまだまだ現役で、2016年に100歳を迎えられました。先生に長寿の秘訣を伺ったとき、先生が挙げられた長寿の秘訣の筆頭は運動でも食べ物でもなく「心」であると答えられました。情報が溢れている現代社会、とくに健康情報に関しては本当に色々なものがありますが、先生の仰る「心」とは、中医学でいう「養心」のことで、「徳」を重視し、損することを厭わない余裕のある「心」が大切だと仰いました。そして、その次ぎに大切なのが「規則正しい生活と運動」、最後に挙げられたのが「飲食」でした。

 老中医の健康法をいろいろ整理してみると、やはり「未病を治す」という思想に基づいた「養生」の考え方が非常に大切だと分かります。病気になる前に、如何に予防するか?という観点です。たとえば「心」が乱れそうになったとき、よく使われるのが「書道」です。無心で字を書くことで、心の落ち着きを取り戻すのですが、老中医に書道家が多いことにも納得できます。処方箋を毛筆で書く老中医もおられます。また、太極拳や八段錦も日々よく行われています。こういった健康法は、なにも特別に行うものではなく、中国の日常生活の中でごく普通にあるもので、無理なくできることが特徴ですね。特に二十四式太極拳や八段錦は大学の体育でもやりますし、覚えやすいので皆さんもぜひ中国滞在中にマスターしていただきたいです。

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2015年06月19日

2015年6月20日は端午の節句、年中行事と旧暦の季節感

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 奈良→東京→富山→大阪の出張を終えて、6月18日から上海で本格稼働しています。
 
 2015年は6月20日が旧暦の5月5日、いわゆる端午の節句になります。中国では様々な年中行事が行われるのですが、ことに中医学に関しては端午の節句は非常に重要です。過去にもいろいろな記事を書いておりますので、こちらをご覧ください。

 さて、この時期、気候が暑くなってきて、ジメジメとしてくる季節ですので、伝染病などが流行しやすい時期です。折しも、韓国ではMARS騒ぎですが、それ以外にも水ぼうそうや手足口病といった病気も流行し、上海でも幼稚園が学級閉鎖になったりしています。そういった関係から、昔の人はこの時期に邪気から体を守って、病気から体を予防して、健康に過ごせるように端午の節句にその願いを込めました。新暦の5月5日ではまだ初春ですから、本来の意味からはずれてしまいますよね。

 中国では屈原を弔って竜舟レースや粽を食べたりするのは有名ですが、その他にも薬浴に入ったりする習慣もあります。基本的に、清熱解毒や祛暑化湿、行気活血、殺虫止痒などの効能のある薬草をつかってお風呂に入るわけですが、上海エリアには色々な処方が伝わっています。上海出身の妻も、家に伝わる処方などを実際に自宅で実践したりしていますが、この時期は汗疹や湿疹、アトピー性皮膚炎などが悪化しやすい時期でもあり、昨日の診察でも中医学の外用法をよく処方しました。ステロイド系を使わない伝統的な方法でもなかなかの効果を発揮してくれます。さすが古人の智恵ですね。

 そほほか、厄除けに菖蒲・艾などを市場から買ってきて部屋に掲げたり、子供用には中医学の薬局が香袋を作ったりしますが、これらは家族の健康を願ったものが多いですね。こうした生薬は芳香性があり、殺菌力もあったりするのですが、古人はこの芳香性から厄除けをイメージしたわけです。

 中国全国的には、端午の節句に薬酒を作るのが有名です。ヒ素化合物でもある雄黄を使ったお酒はヒ素の硫化鉱物なので有害で今では使いませんが、当時は雄黄を使ったお酒もこの時期飲まれていたようです。これもやはり解毒作用が考えられていました。

 やはり年中行事を迎えるにあたって、旧暦は大事にしたいですね。新暦で迎える旧暦の年中行事は、季節感的にも矛盾しますからね。次にやってくる7月7日の七夕もそうです。これは盛夏の年中行事でもあり、だいたい梅雨が明けるか明けないかの時期に七夕が来るはずないのです。農耕文化が根強い中国では頑なに旧暦を守っています。

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2015年04月24日

ブログ 南京の中医学に触れてみて(5)〜現代中医針灸学の礎

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 南京中医薬大学の旧キャンパスを歩いてみると、その当時、今使われている教科書のもととなる中医学のテキストを編纂したところなど、歴史的に意義のある様々な建物が現存しています。
 私の愛読書の一つでもある『中薬大辞典』の初版も、実はこの南京中医薬大学の一室で編纂され、その部屋は今でも残っています。

 現代中医学の鍼灸学に関しては、南京中医薬大学の果たした役割は非常に大きいのはよく知られています。とくに、1954年に江蘇省中医進修学校から南京中医薬大学の初代学長となった承淡安先生を中心とした澄江学派の貢献は今でも教科書の編集に強い影響力を持っています。

 もともと、中医学の鍼灸は、民間での医療として人気がありました。ただ、それを学術的に大学教育にまで高めるのには、さまざまなハードルがあったのも事実です。そのため、承淡安先生は東京に赴き、日本の鍼灸教育なども参考にされています。特に、西洋医学の神経系統や解剖学と鍼灸を組み合わせた日本の教育方法には強く感銘をうけたようです。さらに、日本が誇る灸法も、中国に戻る日をその見学のためにわざわざ遅らせるほど魅力があったようです。ここから分かるように、日本の鍼灸が中国に与えた影響は戦前から少なくなくなかったようですね。

 さて、現代中医学の鍼灸学の教科書のなかで、最も評価が高い本の一つが第5版の鍼灸学といわれていますが、この本の主編は邱茂先生で澄江学派の流れをくんでいます。

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 現在の南京中医薬大学では、世界中に弟子をもつ澄江学派の継承に工作室を立ち上げています。

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 この工作室の責任者でもある張建斌副院長によると、全国に散らばっている資料をもう一度整理して、研究していくのだそうです。大学院生を中心としたスタッフも揃っています。部屋には承淡安先生の銅像があったのが印象的でした。故郷である江蘇省江陰にももう一体同じ銅像がおかれています。

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 南京中医薬大学の鍼灸系は、第2臨床医学院のビルのなかに入っています。ここには指導教官と一緒に、患者(主に学生)を治療する模擬鍼灸・推拿診察室があり、学生達が実際に臨床を経験できるようにしているのだそうです。診察室という形で運営するのは珍しいと思いました。中医薬大学の学生だけでなく、近所のキャンパスからも大学生が施術体験を受けにくるのだそうです。

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 ここの党書記である徐斌先生には、現在、中国で研究されている穴性についてのお話を伺いました。そのなかで、伝統文献から集められてきた、経穴の様々な効能について、現代科学の立場から再整理する試みが行われているということでした。その結果、西洋医学からも理解できやすい、新しい鍼灸理論の確立もあり得るのではないかと思いました。もちろん、まだまだ時間はかかりますが。ただ、穴性に関しては、伝統的な中医学以外にもさまざまなアプローチ方法があるのも事実です。ちなみに、南京中医薬大学の鍼灸学部ではダイエット治療、鬱病の治療、便秘の治療などの研究が重点的に行われているとのことです。立派な実験室もありました。

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 鍼灸学に関しては、新世紀国家教材である『鍼灸治療学』の主編である王啓才教授ともあって討論しました。そのなかで、鍼灸から発展してきた考え方の一つとして、経絡弁証の重要性を主張されていました。臓腑弁証に偏りがちな現代中医学のなかで、経絡弁証こそがその源流をいくというもの。非常に参考になります。

 鍼灸の教育について考えたとき、意外と多いのが、内科などもともとは生薬を使うのが専門で、その後、鍼灸の世界に入ってこられたという専門家の存在です。例えば、鍼灸治療学の第5版主編の楊長春先生もそうで、同様に澄江学派にも属しますが、元々は内科の医師だったとか。そういった流れから、鍼灸の理論を、中医学とうまく融合させたいという狙いは、現代中医学の中でも強くなってきたのだと思います。そうすることにより、初学者が鍼灸学を分かりやすく勉強でき、臨床の応用がしやすいというわけです。それまでの鍼灸学はあまりにも直感的で、理解するのが大変だったからというのと関係があると思います。

 このように、絶えず試行錯誤してきているのが、中国の鍼灸学なわけで、大学教育における今日の鍼灸の発展に大きく貢献してきたと思います。

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2015年04月23日

ブログ 南京の中医学に触れてみて(4)〜経方医学の黄煌教授

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 最近の中国の中医学で、とくに若い先生方を中心に人気を得てきているのが経方医学です。そのなかでも、精力的に出版物を出版され、日本留学経験をお持ちなのが南京中医薬大学の黄煌教授です。日本でもお馴染みの先生ですね。

 経方医学というと、その定義はいろいろありますが、基本的に「傷寒雑病論」の処方を中心に扱うのですが、方証相対(相応)などのやり方で方剤を組み立てていきます。ただ、黄煌先生のやり方には、厳密な理論に基づいた加減もあります。さらに、薬証の考え方により、陰陽五行や臓腑弁証にとらわれることなく、患者の症状から直接的に証の根拠を捉え、それにふさわしい薬(方)を導き出していきます。その背景には体質の考え方も強く出て来ます。

 ただ、実際には方証相対の考え方そのものに対する、現代中医学からの誤解もあります。つまり、方証の証は「症」にかたまったものではなく、むしろもう少し範囲の広いものであるという点。そして臨機応変に対応出来る柔軟性を実はもっているのだという点です。そのためには、方のそれぞれの生薬についての知識をもう一度確認することが必要です。

 なぜ経方処方の人気が高まってきたか。それは、現代中医学が抱える、あまりにも抽象化しすぎた理論に対するある種の挑戦でもあると思います。さらに、経方はそもそもは中医学の原点とも呼ばれる「傷寒論」「金匱要略」が起源ですし、これらの本を中医学に携わるものなら誰でも否定することはできないという力強いバックボーンがあります。

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 なによりも、臨床で経方を使うことで、治療効果を高めることができて、医案を書くときにも比較的理路整然とした論理体系があるというのも特徴だと思います。

 中医学そのものは、各家学説と呼ばれるように、さまざまな専門家の理論を集結させたものです。そうしたものを自由に応用できるかどうかの柔軟性が、今後求められていくと思います。

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2015年04月22日

南京の中医学に触れてみて(3)〜江蘇省中医院腎臓内科の孫偉教授

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 江蘇省中医院は、南京市の上海路にあるとても大きな病院で、単独の中医医院としては中国一の規模を持ちます。ここに、腎臓内科の首席主任である孫偉教授を訪れました。孫教授は、中医腎臓病の専門家で、江蘇省の腎臓病の大家である鄒燕勤教授の流れをくみます。私も、上海中医薬大学で腎臓病の研究をしていたときに、研究面でもいろいろお世話になりました。その後は、学会活動などを通じて交流が続いています。

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 江蘇省中医院の腎臓内科はとても大きく、病棟の中では最も多いベッド数を持っているとか。慢性腎不全となると、透析がどうしても必要となりますが、中国の場合、経済的負担も大きいため、少しでもその導入時期を後ろに伸ばす必要があります。確かに、日本並みに透析をするようになったら、中国の公的保険では負担しきれないのが現状です。

 慢性腎不全を中医学で治療する方法は、各地それぞれの特徴がありますが、共通していえることは腎機能そのものの正常化を目指すのではなくて、クレアチニン値をすこしでも下げて、quality of lifeを高めることに重点が置かれています。

 さて、その基本的思考法は「腎虚湿(熱)瘀」となります。つまり、腎虚を基礎とした湿熱と瘀血を中心に考えた病因病気は、現代医学における腎疾患とのとらえ方に近いところもあり、参考にできるところも多いです。その中でも、黄耆の使い方に注意されています。それは、先生が書かれる多くの処方箋の1つめの生薬が黄耆で始まっているところからも理解できます。

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 ところで、孫偉先生は今回訪問した中医学の専門家の中で、唯一の病院系統の専門家で、その多忙さはすさまじいい。朝7時には病院に出勤して仕事を片付けておられるとか。また、週末も各地に飛んで勉強会の講師なども務められます。大学時代は日本語を専攻されていて、さらに東海大学に留学経験をお持ちですが、残念ながら日本語を使う交流があまりないとか。やはり、こうした日本語の背景をもっておられる先生方とも、中医学の学術的に交流するチャンスを作っておかないといけないですね。折角、中国の大学の外国語教育に日本語があるのに、勿体ない限りです。

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2015年04月21日

ブログ 南京の中医学に触れてみて(2)〜温病学の楊進教授

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 中医学で、熱病や伝染病を扱う温病学。簡単に表現すると、傷寒論では外感風寒系の疾患の治療が多いのですが、さらに発展させて外感風温系の疾患治療を考察したいのが温病学です。つまり、傷寒論の理論的基礎の上に形成された理論といっても間違いないと思います。ただ、現代医学では中医学が直接的に伝染病を扱うチャンスが減ってきていますので、むしろ湿熱系の雑病で温病を使うことが増えています。

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(孟澍江教授の書)

 今回は、南京中医薬大学の温病学研究室で、第5版の教科書の主任をされた孟澍江教授の流れをくむ楊進教授にお話を伺いました。

 温病学といえば、ちょっと難しいというイメージを持っている方も多いのですが、じつは決してそうではなく、現代中医学では中医基礎理論にもその理論は導入されていて、かなり広範囲に運用されています。診断学でも衛気営血弁証や三焦弁証特は勉強します。特に、舌診での影響力は大きく、舌苔厚膩のような状態であれば、多かれ少なかれ温病の処方を使うことになります。

 また、SARSで大変だった2003年、鳥インフルエンザや新型インフルエンザの問題でも温病の考え方は活用されましたし、最近ではエイズの治療でも検討されています。ある意味これからもとても興味深い分野かもしれません。

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 よく傷寒論と対立的に扱われる温病学ですが、本来は決してそうではなく、傷寒論と補完されるべき理論であると考えた方がいいと思います。むしろ、中医学の初学者にとっては、温病論を勉強することはその後の治療方法の選択肢を増やすという意味でとても重要であると思います。

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2015年04月20日

南京の中医学に触れてみて(1)〜国医大師周仲瑛教授

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  中医学と一口にいっても、そう簡単にまとめてしまうことはできません。特に、気候風土にあわせて地域性がとても強く、また教育方法も様々です。ただ、中国の場合は唯一、国のさだめた教科書があるわけで、これが現代中医学の普及に大きな影響力をもたらしました。そして、その第1版の教科書が編纂されたのが、まさにこの南京であったわけです。

 今回の南京訪問では、多くの専門家に直接交流することができました。「百聞は一見に如かず」とはまさにそのことで、4月19日〜4月23日までそうした専門家にあいに、南京を訪れました。

 南京中医薬大学は市内中心部の漢中門と、郊外の仙林キャンパスと大きくわけで2つの校区があります、この間は地下鉄で40分ぐらいの距離で結ばれますが、郊外のキャンパスはとにかく大きい印象です。一方で、漢中門では、投資会社の協賛で、南京中医薬大学の名医達が診察する外来が整備されていました。

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 今回、中国の中医学のなかでも、最高位にランクされる「国医大師」で、南京中医薬大学の代表的な医師の一人である周仲瑛先生にもお会いできました。90歳近いご高齢にかかわらず、2時間以上も時間を割いてくださいました。そのパワーにも驚かされましたが、なによりも中医学を継承しようという力の入れようにも驚きました。

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 南京中医薬大学内には周仲瑛先生専用のオフィスがあり、そこに弟子達が集まってきて学術の継承を行う作業が行われていました。とくに、臨床を継承しようとする取り組みはユニークで、そのための専用の診察室や視聴覚室もあります。先生の診察状況をリアルタイムで隣部屋で観察し、一挙一動をカメラを通じて知ることができます。ここまでの施設をもっているのは中国全国的にもかなり珍しいですね。

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 流行性出血熱の中医学的治療で一躍有名になった周仲瑛先生ですが、現在はこれまでの研究に基づいて「病機弁証」というのを提唱されています。簡単にいうと、現代中医学では弁証論治が重要視されていて、それはそれで知識の整理には役立っているのですが、ただ中医学での病態をみるときに、時間軸にあわせた変化を捉えることが苦手でした。それを理論的にまとめたのが「病機弁証」で、当時大きな反響がありました。

 しかし、この世代の中医師というのは、医師としての仕事だけでなく、文化人としても大きな貢献をされています。先生もまだまだお元気なご様子で、周学平先生を中心とする継承グループの今後の発展に期待したいところです。

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2014年12月30日

浙江省富陽でみた中医学

  12月29日。富陽訪問2日目。(1日目はこちらから)

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 富陽賓館の朝食ビュッフェには、蕎麦入り餃子のほかにも、お馴染みのキクラゲと棗のスープがありました。滋養強壮目的の白キクラゲは、中国のホテルでの朝食ビュッフエではよく出て来ます。

 さて、どんな小さな街でも、中医学はあるし、老舗の中医薬局や名医の話は伝わっているものです。こういうのはぜひ見ておきたいところです。

 富陽までやってきたので、まずは中医薬局探し。

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 ここには、1748年(乾隆一三年)創業の「王振和」という老舗薬局があり、早速見学に行きました。この薬局が有名になったのも、生薬の卸業や、伝統的な炮製方法を継承して、さらにさまざまな名処方があったからだとか。王氏舒筋膏、王氏保腎丸、全鹿丸、紫雪丹などがそうで今にも伝わっています。こういう処方をどれだけ持っているかでも、治療効果に差が出てきますからね。

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 立派な薬局はいまも目抜き通りにあり、大勢の患者さんで賑わっていました。大きな生薬棚は健在で、数人の薬剤師が中で動き回っていました。この日も2人の医師が診察に入っていました。中国では、中医薬局に医師が雇われて診察をすることはよくあります。とくに、ブランド名のある老舗薬局では、色々な名医がやってきます。

 そのほか、富陽では中医学の骨傷科の名医を輩出しています。その中の一人に張紹冨医師がおられました。若干10歳より父親から中医骨傷科(整形外科)を学び、1984年に富陽中医骨傷科医院を創立し、とくに杉の木の皮でつくった小挟板による骨折部位の固定方法を開発したことで有名になりました。晩年、体を壊して入院したのにもかかわらず、病床から患者さんを見続けたという逸話が残っているようです。

 中国各地には様々な中医学の特色が残っています。これからも時間がある限り足を伸ばして見ていきたいと思います。

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2014年10月27日

中国の農村に伝わる中医学「土方」の重要性

 中医学には「土方」という言葉があります。
 これは、「傷寒雑病論」など古典的理論から掲載された「経方」などの処方と違って、地方・農村に伝わる処方で、一般にある一つの特定の疾患に対して効果が出る処方のことを指します。

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(上海黄浦江の源流がある浙江省安吉の竜王山)
 農村では、日常生活のなかでいざというときに使うことも多く、中医学の発展とも強く結びつきがあります。中には、中身的に「それはないだろう・・・」、という処方もないことはないのですが、大抵は中医学の基礎知識があれば理解出来るものばかりです。そして、我々中医学に携わる医師が、日頃の診察でも十分に活用できる処方も沢山ありますが、なんせ記録されていないので、現地にいかないと分からないことばかりなのです。

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(子供たちは土いじりが大好きです)
 そこで私は上海での休診日を利用して、月に1回はクルマを4時間ほど走らせて浙江省安吉まで来ています。自然豊かな天目山近くのこのエリアは、豊かな自然があり、薬草の宝庫でもあります。まさに、ここでそうした「土方」の数々が沢山伝わっているのです。地元で、中医学にくわしい農民にいろいろ話を聞くのは楽しいもので、とくに重要なのは、学術的にも先祖代々から伝わっている処方を我々が記録して残しておく必要もあります。
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(野菜は完全自給自足。そもそも農薬の心配はないのです)

 例えば、地元で伝わっている風寒系の感冒の治療。粳米30gに老姜片(生姜)少々でお粥をつくり、葱白2本と陳酢(3〜5年仕込みの黒酢)で仕上げます。ここではお酢を使うのがポイントで、活血作用があるのを利用しています。

 そのほか、健康維持に考案された処方では、杜仲と桑叶と山査子を組み合わせますが、いずれも農村にいったら手に入りやすい薬草ばかり。杜仲は骨に入り、桑叶は肺に入り、山査子は腎に入るので、日常的に服用することもできます。

 私にとって目から鱗だったのが婦人科で使われている処方。主に出産前の若い女性の生理不順に使う処方なのですが、生理1日目・2日目・3日目だけ異なった処方を順番に服用するという考え方。

 1日目は経血が来るように催促し、2日目は経血が下りるように活血し、3日目は経血が収まるようにする。こういうやり方は中医学の教科書にはまず出て来ません。でも、月経という生理的な現象を考えた場合、とても理屈にあっていますね。

 さらに、地元で採取される薬草の使い方もいろいろ教わりました。この中から、我々現代の疾患に対応出来るなにかが見つかる可能性も十分にありますから。

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2014年10月01日

紹興の巷の中医学

  国慶節直前に行った紹興旅行の続きです。

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 紹興のように歴史のある街だと、もちろん名医も輩出していますが、街歩きでちょくちょく中医学の診療所を見かけます。代々伝わっている中医学の家系も多く、思わずのぞいてみたくなりますね。

 西洋医学が本格的に普及する前は町医者としての役割はありましたし、もちろん今現在でも地元の人たちは気軽にそうした診療所に出かけます。よろず相談みたいな場所でもあったと思います。

 そのうちの一軒にふらっと訪れてみました。ちょうど妻が肩こりだったので、ものは試しとどんな治療法をするのか体験してみることにしました。
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 ちょうど膝の痛みで来られていた常連さんがおられたので、膏薬の使い方を見せてもらいました。興味深かったのは、膏薬の貼り方。布に、直接生薬膏薬を塗りつけて、テープなども使わずにそのまま患部にぺたりと貼り付けました。固定しなくても落ちてこないのだそうです。

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 膏薬にはいろいろな種類があり、状態によって使い分けますが、これもまた中医学の特色の一つで、伝統ある骨傷科(整形外科)では、多種多様な膏薬が自作されています。中医学は基本的に生薬などを服用する内治法と外用薬や鍼灸を活用する外治法を療法活用するのが本来の姿で、地方に行くとこういう治療法は色々残っているのですが、伝統にうるさくなると「秘伝」になってしまうのも残念な話です。

 紹興市内の倉橋直街を散策していると、これも老舗ブランドとして「中華老号」の称号を受けている中医薬局「震元堂」を見つけました。

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 立派な木造の家屋です。

 老街と呼ばれる、古い市街地にはこういう老舗薬局が残されていることがおおいです。有名なのでは、国の文化財にもなっている
胡慶余堂中医薬局
がありますが、そこまで大きくなくても、小さな中医薬局は田舎でもよく見かけます。

 伝統的な生薬棚が置くに鎮座していて、吹き抜けの待合室を中心に、両側には診察室があるというのがよくある形式で、紹興のような古い街並みに溶け込むような感じがしました。

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 そのほか、銭氏婦人科の看板も。浙江省の4大中医婦人科(嘉興の陳氏、寧波の宋氏、肖山の竹林寺、紹興の銭氏)の流れをくむ一派。ここに、銭氏婦人科の第22代が診療所を作ったのだそうです。

 こうしてみてみると、いかに中医学が人々の日常生活に近かったかよく分かると思います。

 ちなみに、震元堂のとなりはこれまた有名な紹興酒の老舗「古越竜山」のお店。

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 中医学では元来、紹興酒を薬として使いますし、きっといろいろ行き来があったんだろうなと想像しました。ここの紹興酒は、濃厚でかつちょっと甘みがあり、下戸の私でも飲みやすいものでした。

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2014年08月07日

中医学による癌治療で知っていただきたいこと

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(最高の青空の上海でした)

 今日も中国人で食道癌に肺に転移した患者さんが、初診でこられました。手術の条件に当てはまらず、化学療法も放射線治療も何回か行われたようですが、その副作用に悩み、今回初めて中医学での治療を試みたいという相談でした。中国人に限らず、日本人の患者さんでも同じような相談をよく受けます。もちろん、私は中医学でできることで最善を尽くしますが、どうしてもっと早く中医学(もしくは漢方医学でもいいです)での治療を思いつかなかったのか残念でなりません。この方のように、最後の砦が中医学では、その効果も限定的になってしまうからです。

 たとえば肝臓癌の場合、手術が可能であっても切除後の再発が高いことが多く、仮に術後すぐに中医薬の使用を開始した場合、転移リスクを少しでも減らすことができます。しかし、転移が進み末期状態になったときには中医学を使おうにもやはり手段が限られてしまうのです。

 さらに知っていただきたいのは、中医学を使った癌治療の特徴は、初期から末期まですべての段階での介入が可能で、その段階によって使われる生薬の種類も変わってくるという点です。たとえば、いつでも「十全大補湯」を使うというわけではないのです。それには体質を見極める必要があります。正気がまだ強い段階だったら、邪気を叩くことに力をいれますが、術後などで体力が弱っているときは、まずはその回復を目指した処方を作ります。免疫力を少しでも高め、五臓六腑の働きを回復させます。また、転移を少しでも防ぐためにも場合によっては攻撃的な生薬も使うこともあります。

 化学治療や放射線治療を行った場合、体力の衰えや体調の悪化が避けられないこともあります。そんなとき、症状ベースで処方できる中医学や漢方医学では、何らかの方法で副作用緩和のために介入します。痛みをとるときでも同じです。決して腫瘍マーカーの上下だけに一喜一憂する処方ではないのです。

 一方で、これは中国人の患者さんに多いのですが、癌の治療には高い生薬を使えば使うほど効果が高いと思い込んでいる人がいますが、決してそんな単純な話ではありません。一般的な生薬でも、良質なものが手に入れば、また弁証が正しければ、効果は十分に高まります。私自身も中国でエキス剤や生薬に拘っているのもそのためです。また、冬虫夏草など高価な生薬を使うときも、どの疾患(どの癌)にどの程度使ったら良いのか、一定の明確な基準もあります。なんでもかんでも滋養強壮すればよいというわけではないのです。

 これは癌患者さんの飲食に関しても言えると思います。どんなに良い食材をつかっても、体質に合わなければ、期待通りの効果がえられないことがてきますが、基本的に単一のものを盲目的に摂取し続けることは私も反対です。一度にすべての武器を使い果たすべきではないと思います。
 
 逆に、十分に西洋医学的に手術をしてよくなる見込みがあるのに、最初から中医学だけでの治療を求めてこられるのもどうかなと思います。最先端の技術をつかって治療ができるのなら、やはり十分に活用すべきだと思います。その上で中医学を使われたらいいのです。検査に関しての対等も同様だと思います。中医学は西洋医学との親和性が高い治療法でもあります。

 中医学による癌治療の根本思想は、癌との共存だと思います。「癌が消えた!」というのも大事ですが、QOLが落ちてしまったらどうしようもないのです。徹底期に癌を叩いてしまうのではなく、結果的に癌細胞が悪さをしないように監視する役割もあると思います。そういった根本思想をしってもらったうえで、中医薬をうまく活用していただきたいと思うのです。身体が千差万別であるのと同様、治療方法も決して同じではないからです。

 
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2014年06月11日

マスクと生薬と偏頭痛

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 中医薬(もしくは漢方薬)を使って偏頭痛の治療をするのはかなり効果的であるのは以前にもご紹介したとおりです。西洋医学の痛み止めを飲む前に、ぜひ中医学や漢方医学を試して頂きたいと思うわけです。良質な生薬であれば、一定の効果があることは間違いないと思っています。(「良質な」がポイントです。ここに私はこだわっています。)

 ところで、浙江省長興県といえば、上海から天目山や安吉などに行くときによく通る街ですが、ここの中医院が興味深いマスクを開発して中国で特許を取得しています。

 中医学では偏頭痛の原因を風邪によるものと、体内の五臓六腑の虚によるものと考えますが、この病院の研究グループでは活血化瘀の生薬をできるだけ細かい粉にしてそれを袋につめてマスクにして当てる方法を考え出しました。生薬として使うのは、頭痛の内服薬としてお馴染みの川芎・白芷・当帰・細辛・氷片など。この生薬の混合粉は使用直前までビニル袋に保管し、使うときに取り出してマスクの中に挟み出します。そうすると、生薬の有効成分が発散し、鼻粘膜から吸収され、偏頭痛治療するというもの。確かに、鼻粘膜から吸収した方が嗅神経回路をうまく活用して脳の痛みに作用できるかもしれません。使用する生薬の量も内服と比較して減らすことができる可能性も十分にあります。

 研究グループによると、偏頭痛の患者100例を対象にした研究では、内服とマスク法の比較で、マスクを使ったグループのほうが痛み止めの効果やQOLの改善に関して有効であったということです。

 中医学では、生理学的な側面も考えて、如何に直接的に患部に薬効を届けることができるか研究されています。私は、今後の中医学の発展に関して、とても興味深い取り組みだと思います。

東和クリニック・中医科での担当スケジュール

 
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2013年12月22日

成都の古墳で見つかった中医学の医学書と大量の竹簡

 ニュースでも話題になっている中国成都市金牛区天回鎮の老官山漢墓で発見された前漢(紀元前206〜8年ごろ)の古墳から920枚の竹簡が発見されたが、ここに多くの医学に関係ある書籍が見つかっており、大きな話題になっています。

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(写真は新華社の報道で掲載された今回見つかった竹簡です)


 中国の歴史上、見つかった数としては最大で、かつ医学との関係が非常にあるものばかりで、今後の研究成果に大きな期待が寄せられています。

 今回見つかったのは、古代中医学の扁鵲学派のものでこれまで見つかっていなかったものが多いようです。調査によると『五色脈診』は書名があったものの、あとは書名がないが、これらの内容は現在『脈死候』・『尺簡』・『病源』・『経脈書』・『諸病症候』・『脈数』・『敝昔医論』・『六十病方』ではないかとされています。広く内科・外科・婦人科などの内容に及ぶとのこと。また、報道によると。心・肺などの字が刻まれている髹漆製(漆塗り)の経絡人形も見つかっています。

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(写真は中国網の報道に掲載された今回見つかった髹漆経穴人形です)

 新華社の報道をみてみると、たとえば『六十病方』には、蜀椒を使った偏頭痛の処方や、牛の尿を服用させて黄疸を治療したことや、風湿の治療に使われたと思われる少量の附子を使った処方見つかっているようです。今後、様々な研究が期待されます。

 さらに中国の獣医学の歴史のなかでは今まで見つかっていなかった『医馬書』も見つかっています。

 今回の発掘は、成都地下鉄3号線建設にともなう緊急発掘で見つかったもので、成都金牛区天回鎮土門社区衛生センターの東側に位置します。

 中医学の最新の発見は、往々にして古いものの再発見でもあります。まだまだ中国の地下にはすごい中医学的な発見があるようですね。


 
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2013年04月01日

孟河医派の常州を訪ねて

 4月1日〜2日と江蘇省常州を訪れてきました。

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 妻の親戚が常州にいて、体調がよくないので診てくれないかという要望もあったので、クルマを運転して行ってきました。片道200キロ強の道のりです。さらに、常州といえば、今の上海の中医学を引っ張っているといっても過言ではない孟河医派が誕生した場所でもあります。

 上海からは常州まで高速道路でつながっていて、そこからさらに北上して到着する小さな街が孟河です。4月の初めだけに沿線の菜の花はとってもきれいでした。今では、様々な工場が増えていますが、それでも旧市街は残されています。

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 私自身も恩師から教わった中医学は、先の先をたどっていくと、一応孟河医派の流れをくむことになります。私の恩師の竜華医院腎臓内科の陳以平教授の師匠は、徐嵩年先生となり、その先は丁氏系列にまでつながります。手元に、徐嵩年先生の臨床経験をまとめた本がありますが、恩師がよく使う処方の片鱗が沢山出て来ます。

 そもそも、丁氏系列の中医学が上海の中医学教育に貢献した業績は大きく、孟河医派の4大系列(費氏・馬氏・丁氏・巣氏)のうち最も歴史が最近となる丁氏系列の丁甘仁先生は、1917年に上海で現代中医学としてはじめての上海中医専門学校を開設し、1926年〜1948年にかけては上海中医学院として継続され、ここで教わった人材は、中国各地で中医学の普及に尽力しました。

 近年、孟河医派の研究が進み、その保存への動きも高まりつつあります。常州市には、常州孟河医派伝承学会などもあり、臨床を実践する場所として孟河医派名医堂なども作られました。また、私が訪問した日には閉まっていましたが、常州市非物質文化遺産展示館にも資料が展示されています。

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 孟河医派の中医学的特徴は、なんといっても、内科・婦人科・小児科・外科・整形外科と各分野で系統が存在していて、とても実践的な中医学であるということです。これは、費氏系列の費伯雄の書いた『医醇賸義』などを読んでみてもよく分かります。この序文にも書かれていますが、「世間には秘方は存在せず、平凡な治法があるにすぎないが、その平凡な治法が極まることで、驚くべき効能を発揮する」とあるように、基本に立ち返った治療法の重要性を説いています。

 孟河医派の特徴として、内服も煎じ薬だけでなく、丸薬や散剤などを使いこなし、外用薬も外貼や外敷なども積極的に活用しています。古いものにとらわれず、臨床効果を重んじた理論には、現在の中医学でも十分に活用できます。また、多くの孟河医派の医師たちが、上海にやってきて医院を開き、沢山の患者を診察してその名声を高めました。

 上海を含む、江南エリアでの孟河医派の果たした役割は非常に大きいです。そうした経験をぜひ継承していきたいと思っています。中医学はそもそも地域色が非常に豊かな医学ですから。


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2012年12月20日

江蘇省鳳凰鎮永慶寺の鑑真和上伝説

 「日中友好」に貢献した偉人と言えば、中国人からも普通に名前があがってくるのが唐代の鑑真和上。私の地元、奈良にもあの唐招提寺がありますし、鑑真和上ゆかりの大明寺は今でもそのお寺があります。中国伝統医学(中医学)の医師をしている私にとっても、そして日本漢方(和漢)にとっても、中医学を日本に伝えた鑑真和上の功績には非常に大きいです。
 先日、ミニトリップの温泉旅行としていってきた江蘇省張家港エリアにある鳳凰鎮ですが、実はここに鑑真和上ゆかりの永慶寺というお寺があります。ここに伝わっている伝説というのが興味深いのです。


 鳳凰鎮という街には、鳳凰山という山があります。山というより丘ですが、付近に山がないので、高速道路からもよく目立ちます。いかにも風水の良さそうな場所ですが、鑑真和上が、5度目の日本行きに失敗し、再び江南地方に戻るときにここの永慶寺に立ち寄ったという伝説があります。

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 この5回目の失敗で、目が見えなくなった鑑真和上ですが、さらに道中潮風にあおられて寒性の関節痛をおこしてしまいました。永慶寺で読経しながら過ごしていたある日、鳳凰山を散策していると、偶然にも泉を発見。地元の人に聞くと、鳳凰が水遊びをしていたので鳳凰泉と呼ばれていたそうです。

 これは縁起がいいということで、鑑真和上はこの泉の水を使ってお風呂を沸かして入ってみると、なんと体がすっきりした感じがするというのです。さらに、半年間泉の水を使って風呂に入ると、関節痛はなくなり、見えなかった目にも薄明かりがさすようになったと言われています。

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(山の上からの景色)

 そして、6回目の日本行きでは、ここの泉の水を船に積み込み、無事日本に到着。さらに、弟子達がまとめた『鑑上人秘方』には、鳳凰泉が関節痛にいいという記載があるが、この鳳凰泉というのが、まさにここの泉だということです。

 実は、先日私が宿泊した温泉ホテルも、源泉から50℃のお湯が出て来ていますが、温泉ホテルから鳳凰山まではクルマで5分ほどの距離。きっと、鑑真和上が傷を癒した泉も、そうした成分があったのか、とにかく体が非常にポカポカしました。ちなみに、宿泊したホテルの温泉の成分はナトリウム炭酸水素泉でした。れっきとした温泉で、いまでも入浴できます。残念ながら、鑑真和上がみつけた鳳凰泉は今はありませんが、その山とお寺の面影は残っています。山の上にあるお寺からは、村全体が見渡せるようになっていて、立派な仏様がおられます。

 奈良にもゆかりの深い、鑑真和上の伝説が、こういったところで耳できることに、鳳凰鎮にはすごく縁を感じてしまいました。

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(一気に寒くなって氷が)

 しかし、6回目で日本渡航に成功した鑑真和上。命を犯してまでも日本に行こうとしたそのモチベーションは何だったのか。伝統医学を中国でほそぼそとやっている自分にとって、ぜひ知りたいテーマでもあります。


posted by 藤田 康介 at 07:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2012年12月07日

2013年度、中医関連の国研究予算は4億6千万円

 中国科技部が主催する、農業・林業・工業・医学・薬学などを含めた中国国家重点基礎研究発展計画のことを、一般的に973計画と呼びますが、2013年度の予算として29.93億元つくことが発表されました。日本円にすると400億円の規模ですが、この184の研究項目の中にちゃんと中医学の研究予算もついていました。その額は、3535万元で日本円にすると4億6千万円程度になります。

 具体的に、どのようなテーマで予算がついたか。

 中医学関係で、もっとも高額な研究費がついたのが、北京中医薬大学の「肝蔵血、主疏泄の臓象理論の研究」で、1267万元(約1億6千万円)になりました。また、中国中医科学院の鍼灸研究所による「針治療における機能性胃腸障害の双方向調節効果とそのしくみ」が、711万元の予算を獲得していました。

 一方で、973計画の中で、最も高額な研究費がついたのは、中国科学院物理研究所の「高温超伝導材料と物理研究」で、5508万元の予算がついています。日本円にすると、7億円を越える予算です。こうした最先端の研究の多くには、1000万元〜2000万元の研究予算がついているのだそうです。

 中医学に関しては、研究予算全体のウエイトは少ないです。でも、伝統的な中医学の研究に、しっかりと国から予算がつくのはやっぱり素晴らしいことです。もちろん、これ以外にも省や市クラスの研究テーマもあり、予算がつけられています。





甘霖・我が愛しの上海へ
posted by 藤田 康介 at 00:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2012年09月04日

上海市非物質文化遺産の中医学

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  連載原稿を書いていて、ふと調べ物をしていたら、なんとうちの中医クリニックすぐ近くに、上海市非物質文化遺産保護センターがあることに気がつき、ちょっくら行ってきました。

 中国では、中国の伝統医学でもある中医学を文化財として保存していて、国レベルや市・省レベルの非物質文化遺産として特別な保護を受けています。国レベルとなると、人間国宝的な扱いになるのではないかと思います。

 上海市の場合、これまでに157項目の非物質文化遺産が登録されていて、このうち13項目が中医学と関係するものです。そのリストは以下の通りです。

・ 石氏傷科療法(国非物質文化遺産)
・ 魏氏傷科療法
・ 施氏傷科療法
・ 陸氏傷科療法
・ 朱氏一指禅(国非物質文化遺産)
・ 陸氏鍼灸療法(国非物質文化遺産)
・ 余天成堂伝統中薬文化
・ 斂痔散製作技芸
・ 竿山何氏中医文化
・ 張氏風科療法
・ 顧氏外科療法
・ 六神丸製作技芸(国非物質文化遺産)
・楊氏鍼灸療法

 詳しい内容は、まもなく発売される2012年9月号の中医学の季刊誌『中医臨床』に執筆しましたので、ぜひご覧ください。

 しかし、中医学の流派自体が非物質文化遺産に登録される中国はすごい。やっぱり文化の一躍を担っているのですね。現代の日本の漢方で、人間国宝が登場するかというと、ちょっと難しいような気もします。



【連絡】・日本温泉学会参加のため、9月6日(木)〜13日(木)まで休診します。 ・リニューアル!甘霖・我が愛しの上海へ




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2012年09月02日

進む中医治療ガイドラインの標準化体系

 TCMNのシンポジウムでもご紹介しましたが、2012年7月14日、北京で中華中医薬学会がこれまでの中医内科・糖尿病・悪性腫瘍の中医治療のガイドラインに続いて、新たに中医外科・中医婦人科・中医小児科・中医眼科・中医耳鼻咽喉科・中医皮膚科・中医肛門科・中医骨傷科(整形外科)の治療ガイドラインを発表しています。2005年から中国の国家中医薬管理局が管轄し、進めてきた標準化作業のうち、基本的な分野に関してはその体系が見えてきたような感じですね。中華中医医薬学会の分科会が具体的な作業を行ってきました。

 上海市でも、上海市衛生局により「上海市中医病証治療常規」が定められていて、中医病名や処方の基準となっています。とくに、中医病名と西洋医学との疾患名との関係は、衛生監督部門によるカルテ検査の際の基準にもなっていて、我々臨床医とは深い関係にあります。形式的すぎるという声もありますが、医療としては必要な作業かと思います。

 標準化のガイドラインが作られたことで、日頃の臨床の治療レベルを高めるだけでなく、実験などで中医学の研究を深めるのに大いに役立ちます。標準治療が作られて、初めて討論できる基盤ができ、その上から新しい治療手段が創出されてくると思います。
 
 今回は、同時に「中医古籍整理規範」の10項目も定められました。

 中国では、こうしたガイドラインを定めることで、養生・看護・治療・保健の3分野での中医学治療の体系を作ることを目指しています。






【連絡】・日本温泉学会参加のため、9月6日(木)〜13日(木)まで休診します。 
・リニューアル!甘霖・我が愛しの上海へ
posted by 藤田 康介 at 08:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2012年08月17日

上海での民間治療の発掘作業

 中医学歴史というのは、そもそもは一般庶民の健康をどうやって守ってくるか、というのが原点でした。それは、歴史上の医学者や専門家も沢山登場してきますが、そのヒントとなっているのは庶民の間で脈々と受け継がれてきた民間治療がベースにあるということも忘れてはなりません。それは、エビデンスの研究を必要とするものもあるでしょうが、でも効果があることを実感できるものが殆どです。さもなければ、現在まで残ってこないからです。

 上海市では、そうした民間治療法の発掘作業を行っています。今までは非合法なので摘発の対象になっていたような治療法も、発掘することでその有効性を確かめ、実際に臨床現場で活用使用というやり方は我々臨床家にとっても大変参考になると思います。今回、研究対象となった30あまりの治療法のうちの一部は下記の通りです。

王根発 針灸治療の代わりに膏薬を貼ることで便秘などを治療
姚忠元 掌の経穴で、気功循経診脈法による疾患の治療・診断
銭元祥 掌紋による疾患の診断
呉厚余 生薬「羅勒子」を使ったドライアイなどの眼科疾患の治療
柳国斌 「経絡功」による下肢静脈疾患の治療
趙春英 「六歩奶結疏通法」による乳腺炎の治療
施青春 外用「炎痛霊散」による外傷性感染の治療
王珠山 声顫法や竹筒法などで頚椎症や心房細動の治療
段晏明 「補化湯」による血小板容積異常や脳梗塞の治療

なにか宝探しをするようでワクワクしてきますね。


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2012年08月07日

日中の方剤に関する考え方の違い

 今年は、東洋医学学会にも顔を出させてもらって、日本の漢方や中医学をやっておられる先生方との交流も少しずつ増えてきました。中国で、中国のやり方で伝統医学を勉強し、中国のライセンスで、中国で医療活動をしている私にとっては、日本のやり方というのが興味深く、大変参考になりましたし、私も自分の臨床でさっそく活用させてもらっています。良い物は貪欲に採り入れたいと思っています。

 色々な考え方があるかもしれませんが、日本でよく使われている漢方医学というのは、例えば、「傷寒論」のようにある決まった伝統的な処方があって、それをいかに活用するかということでエビデンスなどを考察しながら決めていくやり方。そのため、その処方が作られた歴史的背景や、文献などの考察なども含め、かなり緻密に討論されているような印象です。もし歴史的におかしい問題がみつかると、それを是正していく根拠を見つけていくような感じ。中国で言うと、中医薬大学の文献系の先生方がやられていることに近いような印象です。

 一方で、中国はというと、病院で使われる処方というのは、伝統的な処方ももちろんありますが、それぞれの専門家が得意とする疾患があり、古典的な流儀にあまりとらわれることなく、かなり自由に処方の思考方法を発揮しているような感じをうけます。つまり、いろいろな新しい処方や考え方があって、今でも作られているのです。そのため、古典的な処方に加えて、様々な新しい処方が発見されています。このことに対して、新しい処方が中医学や漢方のルールに正しいか、正しくないかという議論は置いておき、まずは如何に効果を出せるかということに重点を置いている、ある意味、実績重視の中国的なやり方ではないかと思います。そして、単に新しい処方を発見するだけでなく、研究者や大学院生がその処方に関してのエビデンスを、西洋医学的な立場から見つけてくる。これが今の流れのように思います。

 そのため、ある処方の使い方について、日中間では決定的な違いがあるように思います。日本では、たとえば五苓散だったらこういうケースでもつかえるぞ、など一つの処方に対する応用方法やエビデンスがいろいろ討論されますが、中国では古典処方に基づいても、結果的には臨床経験の基づいて新しい処方が作られるわけなのです。ところが、その効果が明らかになっても、具体的な処方の中身はなかなか表に出てこない。中医学の世界では、伝統的に昔から門外不出の「秘方」などが多いのも、そうした発想の違いと関係があるように思います。私の師匠が、膜性腎症の治療において、生薬蝉花の特許をもっているように、中医学に絶えず新しいページが足されていくようなイメージがあります。その全貌は、なかなかよく分からない、ある意味閉鎖的なところが多々見受けられます。

 どっちがいいかというと、私はどっちもどっちだと思います。ただ、東洋医学として伝統医学を発展させるには、両方のやり方をミックスさせないと時代に取り残されてしまうように思います。即ち、過去の伝統に基づいた処方も大切にしながら、さらに新しい処方を作り出し、効果を高め、できたら新しい生薬も発見したい。中医学には、そんなダイナミズムがあるように私は思います。

 中国の場合、新しい処方を発見できる土壌はあると思います。伝統医学の法制度も、世界的にかなり有利です。すでにいろいろな病院が様々な研究をしています。最近、成都中医薬大学で、2000床規模の中医学を活用した糖尿病の臨床基地が国主導で設立されたのもそうした一環だと思います。その新しい処方を作るときに大切なのが、中医学的な理論と医者のひらめきで、それがある程度公認されてくると、西洋医学的なエビデンスを求めるように研究が進められていきます。中医学の本当の意味での発揮は、これから様々な経験が整理されて、どんどんと表に出てくるのではないかと期待しています。

 とにかく「効果を出すこと!」

 これに尽きます。

【連絡】 ・8月19日(日)は東京でのTCMN15周年夏大会での発表のため、休診します。
posted by 藤田 康介 at 11:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力