2008年夏に別府で行われた日本温泉学会の時、私も発表しに上海から飛びましたが、そこで、別府温泉鉄輪(かんなわ)温泉にある足蒸しを体験しました。
これはなかなかいい!体がしっかりとぬくもるし、温泉が豊富な日本ならではの試みだと思います。そこまで出来なくても、足湯程度なら日本の温泉地にも多いですよね。中国では、温泉地の開発がまだまだですが、生薬を使った足浴は盛んです。上海におられる皆さんの中でも、体験された方が多いはず。
そんな中、先日、お酢健康法などでおなじみの
健康医学社から、足湯の中医学的な活用について教えてもらえないかというインタビューがあり、私が活用している範囲でお話ししました。
生薬の煎じ薬などを活用した足湯による治療法は、私もかなり前から使っています。最近では、下肢静脈瘤の患者さんに使ってみていますが、それ以外にも婦人科やそれこそアトピーなどの皮膚疾患などにも使うことができます。
せっかくだから、私のブログの読者にも読んでいただけたらとネットを検索していたら、私のインタビューで話した記事がサイトにありました。
原文は月刊「健康医学」11月号にあります。(聞き手は成田知栄子様です。)
====以下、私のインタビュー記事の引用です。====
■中国の皆さんは、よく足湯をするという話をききましたが、なぜ、足湯が生活に習慣づいているのでしょうか?
▼藤田医師
中国語では足湯のことを「足浴(ズーユー)」もしくは「洗脚(シージャオ)」とも言います。スーパーなどに行くと、特に冬場に、足湯の道具が売られるほど市民に広く知られています。こうした製品は父母や祖父母など年長者にプレゼントするアイテムとしても人気があります。日常的にお風呂に入る文化がある日本人からすると、なぜ中国人がそこまで足湯にこだわるのか?すこし理解が難しいかもしれません。
そもそも、上海エリアでは、一般家庭でお風呂に入る習慣というのはあまりありませんでした。マンションなどに湯船として機能できるバスタブを設置している世帯も多くありません。中国北方エリアと違って、もともと暖房設備の整備が不十分であったので、冬に家庭でお風呂に浸かるといったことは一般的ではないというのが現状です。理由はいろいろあります。例えば、冬場にお風呂から上がったときなど逆に体を冷やすリスクを高めますし、シャワーにしても又然りです。しかし、足湯は足を温めても、上半身の衣類を脱ぐことがなく、寒さには対処しやすいというわけです。各家庭には足湯をするための桶やバケツは必ずありますし、庶民的な旅館・招待所(中国の簡易宿泊所のこと)でもよく見かけますね。実際に経験すると分かるのですが、たとえ冬場にお風呂に入れなくても、足さえしっかりと洗い、温めると、リラックスすることができるのです。
そのほか、高齢者がいる家庭では、今でも子供たちが高齢者の足湯を手伝ったりします。こうした年配者の脚を洗ってあげることが、一種の美徳になっています。足湯が中国人の庶民文化の一つであることは間違いありません。
もう一つ、興味深い例をご紹介しましょう。上海の隣に位置する江蘇省にある如皋という街は、中国でも長寿で有名なのですが、ここのお年寄りは不思議とお風呂よりも足湯を好むのです。これは、中医学的にも説明できるのですが、お年寄りの多くは、年齢が増すにつれて自然現象的に気・血が不足してきます。冬場にお風呂に入りすぎると、そうした気・血をあべこべに発散してしまい、よくないと考えます。お風呂で汗を極端にダラダラとかくのも中医学的には問題なのです。私の患者さんでも、お風呂に入ると疲れるとおっしゃる方がおられますが、そういうときこそ足湯を効果的に使うように指導しています。
■中医学の分野では、足は、健康にどう関わりがある部位なのですか?
▼藤田医師
最近、日本でも足裏マッサージをしてくれるところが増えました。中国ではかなり前から隆盛しています。医療というより、健康維持的な目的で、一般市民からもこうした足のケアは重宝されています。そもそも足の裏には、体全体に関係する経穴がありますし、反射区もあります。よって、お湯に足を浸すことで、こうした部位を刺激し、全身の血の巡りをよくするほかにも、新陳代謝を促進することができます。有名なところでは、足の裏の反射区の痛みの部位からどの五臓六腑に問題があるのかを推測することなどはよく見かけますが、注意しないといけないのは、あくまでも体のほかの症状を鑑みて総合的に判断しないといけないということです。痛みがあるから絶対的にそこに問題があるというわけではないのです。
■中医学では足湯を治療にとり入れているとききましたが…。
▼藤田医師
内科・外科・整形外科・皮膚科・婦人科・小児科など中医学の各科で足湯は活用されます。特に、生薬煎じ薬を使った足湯の場合、皮膚からの生薬成分の吸収が促進されますし、皮膚温度の上昇から毛細血管が拡張し、血液やリンパの循環が改善されます。
また、細菌や真菌などの感染症の場合でも、患部に直接作用して治療効果を高めます。こういった観点からも、偏頭痛やめまい、急性の鼻炎、高血圧などの内科的な疾患、水虫やあかぎれ・しもやけといった皮膚疾患、関節や足の痺れなどの治療にも使えます。疾患の治療の場合は、健康維持法の足湯とはまた違って、他の治療方法と併用しながら医師の指導の下で使うということが多いです。
■風邪やインフルエンザは、足湯で対処できますか?
▼藤田医師
中華系では、台湾などの中医学でも足湯をつかって風邪の予防や治療を行うことはよくあります。この場合は、かなり熱めのお湯を使って、汗をかかせるのが目的ですが、風邪の引き初めでしたら、汗をかいて体の表面にある邪気を体の外に出さなければならないと中医学では考えます。内服生薬(漢方薬)と併用すると、その効果はさらに高まります。
中国でも問題となっている新型インフルエンザですが、こちらでは、かなり前からタミフルに頼らずに中医学の生薬を使って治療しようとする試みが行われ、成果が出てきています。一般的な内服生薬のほかにも、うがい薬として生薬を使ってみたり、足湯をしてみたりすることも行われています。
例えば、SARS治療で、中薬(漢方薬)治療での実績を高めた広東省中医院では、新型インフルエンザで38℃以上の熱があっても汗が出ない場合は、生薬を使った足湯を行っています。中医学の治療法の一環としての足湯の必要性は、今回の新型インフルエンザに対しても認識されています。
■足湯をする際に気をつけることを教えてください。
▼藤田医師
まず、足湯のあと、足はすぐに拭くようにしてください。中医学では、病気の原因ともなる邪気が、こうした濡れたときなどに侵入しやすくなると考えますので、しっかりと拭くことが大切です。そのほか、食べたあとすぐの足湯もよくありません。下肢の血管が拡張して胃腸への血液が一時的に減少してしまう可能性があるからです。また、女性の場合は、生理中・妊娠中の時は足湯を控え、医師に相談をしてください。出血傾向にある方も注意が必要です。また、足湯を終えたあとは、すぐに活動せず、できることなら30分程度ベッドなどでリラックスすることも大切です。さらに治療目的で生薬を使って足湯を行う場合は、皮膚にアレルギー反応がないか、注意するようにしてください。また、足に外傷などがあるときも足湯の可否は医師の指導に従ってください。
■効果的な足湯法を教えてください。
▼藤田医師
足湯に関しては、おそらく皆さん様々な方法で実行されているのではないでしょうか。私のやり方もぜひ参考にしてみてください。一般的に、深めの容器をつかって脛ぐらいまで40℃程度のお湯を入れます。底が平らでゆったりとした容器が理想です。私は煎じ生薬を活用しますので、患者さんの疾患によって処方を変えます。煎じ薬を使う場合は、予め生薬を煎じておいて煮汁を入れます。そして20〜30分ぐらい足を浸けます。温度が冷めてくるので、できたら途中で1回ぐらいお湯を交換できたら理想です。こうやって足を温めたあと、さらに足裏のツボなどをマッサージなどで刺激してあげるとさらに効果的です。
=====引用ここまで========
最近、日本の温泉旅館さんからも、伝統医学と温泉地をなんとかコラボできなか?という相談を時々受けます。レジャーだけでなく、日本漢方の考えに基づいた、新しい温泉利用の仕方を探してもいいように思うのです。
足湯の活用方法、温泉の問題も含めて私もいろいろ研究してみたいと思います。