2012年10月04日

インフルエンザと足浴

 10月7日(日)に東京で開催される温泉療法医会 関東上甲信越地区研修会でお話しします。テーマは「中国における足浴、温泉療法事情について」ということで、中医学と薬浴・足浴について70分もお時間をいただきました。

 PPTを作るのにあたって、いろいろと昔に調べていた資料を整理していると、新型インフルエンザが騒がれたときに、広東省中医院が発表した「広東省中医院甲型H1N1流感中医治療方案」が出て来て、ここでインフルエンザの治療で、足浴がつかわれていたことがわかります。実際、生薬の内服薬と足浴の併用で、タミフルなどを使わずに治療した症例がいろいろと発表されたのを憶えています。

 その時に使われたのは、生薬の粉をつかったもの。

 体温が38℃以上で発汗がない場合:生薬を使った足湯を行う。40〜45℃の生薬湯に1回30分足を浸ける。1日2回〜3回。
 処方:麻黄粉15g、桂枝粉15g、防風粉15g。

 発汗作用を促す処方が組まれていました。

私が処方する場合、うちのクリニックでは煎じ薬を作るほうが便利で、使いやすい(掃除がラク)なのでそうしていますが、粉を使うとさしずめ入浴剤的な感覚になるのでしょうね。実は、生薬を粉々に粉砕するのは、なかなか難しいのです。



【連絡】・東京出張のため、10月7日(日)は休診します。10月6日(土)は午前診察で、10月4日(木)・5日(金)は通常診察になります 

posted by 藤田 康介 at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝統医学と温泉

2012年09月13日

三朝温泉でラドン熱気浴を体験する

 日本の「ホルミシス効果」のある温泉と言えば、2012年の温泉気候物理医学会が開催された、玉川温泉が非常に有名です。全国各地から(海外からも)癌治療に来られる患者さんが非常に多いですが、さすがに秋田県までいくのは大変ですし、玉川温泉の強酸性の温泉は刺激がきつすぎると感じる人も少なくありません。そこで、今回私が行ってきた三朝温泉のラドン熱気浴は、お湯の温度は多少高く感じるかもしれませんが、入浴法と組み合わせると非常に気持ちいいホルミシス効果を体験できるかと思います。なによりも、日本海側とはいえ、関西エリアにあるのが嬉しい。

 三朝温泉はラジウムが分解されて生じるラドンを含む温泉で、弱い放射線を発しています。低線量の放射線をからだに浴びると、新陳代謝が活発になり、免疫力や自然治癒力が高まるというのが定説です。これがホルミシス効果といわれています。三朝温泉では被曝線量にすると、1.8マイクロシーベルト程度とされています。三朝温泉では、いずれも放射能を含みますが、ナトリウム・塩化物泉、ナトリウム・炭酸水素泉、単純泉の3種類の泉質があります。主な効能は、慢性リウマチ・神経痛・痛風・高血圧症・気管支喘息・腰痛・動脈硬化・糖尿病・消化器系疾患・肝臓疾患・冷え症・肩こり・疲労回復などがあげられています。飲泉が大々的に認められているのも三朝温泉の特徴の一つではないでしょうか。

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(のたまわりの湯)

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(のたまりの湯の浴槽)

 さて、ラドン熱気浴ですが、ここは予約制です。あらかじめ(電話)0858-43-0017に予約します。料金は30分で1000円。公共浴場の「たまわりの湯」に集合し、ここで浴衣を受け取ります。歩いて3分ほどで別施設(岡山大学病院三朝医療センター分室)まで行き、そこで簡単な説明をうけて、バスローブに着替えて、地下にあるラドン熱気浴の部屋に入ります。

 部屋には、赤煉瓦で囲まれた源泉があり、ぼこぼことお湯が沸いています。その熱気がすごく、夏場だと45℃ぐらいになるそうです。私が行った時は40℃前後、湿度は90%ほどあるので、スチームの効果がすごい。汗がどんどんと出て来ます。部屋には横になれる椅子が3脚ほどおいてあり、そこに横になります。しっかりと汗をかいたあと、再び「たまわりの湯」に戻り、温泉に浸かって終了です。かなりの汗をかくので、水分補給用の飲み物を忘れないようにということです。

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 ホルミシス効果については、いろいろな学者がいろいろな説を発表しています。この点に関しては、私の論評はしませんが、でも850年も歴史がある湯治場のある温泉に関して、その効能の善し悪しは、歴史が物語っていると思います。漢方や中医学が体にいいのか、悪いのかというのと同じで、どんな温泉でも適正に使うことが良いのではないかと思います。



【連絡】・日本温泉学会参加のため、9月6日(木)〜13日(木)まで休診します。 ・甘霖・我が愛しの上海へ
posted by 藤田 康介 at 06:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝統医学と温泉

2012年06月10日

高濃度人工炭酸泉足浴における酸化ストレス及び免疫系への生体効果について

第77回温泉気候物理医学会の学術総会が秋田県田沢湖であり、私も東西中医学研究所の高橋薫先生や東京医療学院大学の武田淳史先生、東西中医学研究所の高橋日出雄先生らの共同研究の一人として、論文を発表させていただきました。テーマは、「高濃度人工炭酸泉足浴における酸化ストレス及び免疫系への生体効果について」というものですが、要は、炭酸泉の足浴が、体にどのような影響を与えるのかを調べました。

 ご存じの通り、日本では各地で天然の炭酸泉が出ています。九州の大分県竹田市にある長湯温泉は炭酸泉で全国的に有名で、私もそこにあるラムネ温泉に入ってきました。ブクブクの泡が皮膚に吸い付いてくる感じは最高でした。現在では、様々な方法で1000ppm程度の人工炭酸泉が作られるようになり、今回もアクト社の装置を使いました。

 その結果、初期段階の免疫機構として重要な働きを示すsIgA(唾液分泌型IgA)が紅潮反応をし、正常な範囲での推移をしたグループで上昇し、出浴後の腋窩体温が淡水足浴と比較して高く維持され、外気温に影響を受けやすい下腿頸骨前面の皮膚温が、淡水浴と比較して体温が高く維持されました。よって、炭酸泉による体温維持効果が確認されました。

 この前の実験で、生薬麻黄を使った足浴では、10歳以下のインフルエンザ罹患小児に対して、唾液分泌型IgAが上昇し、発熱や罹患期間が短縮することを発表しましたが、足浴が何らかに免疫システムに影響を与えるようです。特に、激しい運動をすると、唾液分泌型IgAが減少し、スポーツ選手などが風邪にかかりやすいといった報告があるので、やはり足浴を活用することは意義があるかと思います。

 足浴文化は、中国では今でも根強く残っていますが、生薬などを組み合わせながら、臨床で活用していきたいと思います。
posted by 藤田 康介 at 19:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝統医学と温泉

2012年06月01日

中国は源泉掛け流しより薬浴がお好き

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  つい先日、2日間の休日を利用して、蘇州市の呉中越渓旺山景区にある、天頤温泉に行ってきました。屋外の温泉では、蘇州市で最も大きな温泉と言うことです。上海からだとクルマで2時間弱で行けます。蘇州の中心部からは30分程度です。呉中大道から入ってくると便利です。

 さて、ここは掘削型の天然温泉で、泉質は硫酸カルシウムだそうですが、温度が低いので加温していました。中国の温泉と言えば、水着をきての入浴となるのですが、ここも同じで、更衣室(ロッカールーム)で水着に着替え、さらにシャワーで体を洗ってから浴場に行きます。この動線は、中国ではどこも同じです。そのため、浴場には体を洗うところもないし、もちろん頭を洗うことはできません。すべて、シャワーコーナーで済ませます。

 お風呂からあがったら、再度シャワーで体を洗い、施設備え付けのリラックス用の衣類を借りて、休憩室でゴロゴロするのが一般的な過ごし方で、食事コーナーもあったりします。

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 ところで、中国の温泉というのは、どこに行っても源泉掛け流しよりも、色々なものを混ぜたがるのが特徴。よく使われるのがやはり生薬で、上の写真のように霊芝や薄荷、陳皮や当帰、甘草など様々な生薬の袋がお湯の中に投げ入れられています。そして、中医薬の薬効を掲げることで、養生をできた気分になるのです。

 中医学を日頃から実践しているものからすると、確かに生薬を内服すれば相応の効能があると思いますが、外用ではそうも行かないだろうとは思うのですが、そこは気分的なものも大きいように思います。中国人の間では、温泉はリラックスするというよりも、なんかいろいろな効能を求める方に走っているように思います。温泉=中医学の養生的な発想です。

 じゃあ、源泉だけの場所はあるのだろうか?と捜してみたら、この日は運悪く清掃中。入ることが出来ませんでした。そして、何よりも残念なのは朝風呂がないこと。日本の温泉地だったら当たり前なのですが、中国では朝風呂は空腹時に入ることになるので、体によくないという発想につながるのだそうです。

 とはいえ、ここは人が非常に少なく、夜に入ったときは貸し切り状態でした。これが一番のサービスだと思います。
posted by 藤田 康介 at 00:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝統医学と温泉

2009年12月05日

足湯に足蒸し、温泉大国の日本ならもっとできるような気がする

 2008年夏に別府で行われた日本温泉学会の時、私も発表しに上海から飛びましたが、そこで、別府温泉鉄輪(かんなわ)温泉にある足蒸しを体験しました。
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 これはなかなかいい!体がしっかりとぬくもるし、温泉が豊富な日本ならではの試みだと思います。そこまで出来なくても、足湯程度なら日本の温泉地にも多いですよね。中国では、温泉地の開発がまだまだですが、生薬を使った足浴は盛んです。上海におられる皆さんの中でも、体験された方が多いはず。

 そんな中、先日、お酢健康法などでおなじみの健康医学社から、足湯の中医学的な活用について教えてもらえないかというインタビューがあり、私が活用している範囲でお話ししました。

 生薬の煎じ薬などを活用した足湯による治療法は、私もかなり前から使っています。最近では、下肢静脈瘤の患者さんに使ってみていますが、それ以外にも婦人科やそれこそアトピーなどの皮膚疾患などにも使うことができます。

 せっかくだから、私のブログの読者にも読んでいただけたらとネットを検索していたら、私のインタビューで話した記事がサイトにありました。原文は月刊「健康医学」11月号にあります。(聞き手は成田知栄子様です。)

====以下、私のインタビュー記事の引用です。====

■中国の皆さんは、よく足湯をするという話をききましたが、なぜ、足湯が生活に習慣づいているのでしょうか?
▼藤田医師
中国語では足湯のことを「足浴(ズーユー)」もしくは「洗脚(シージャオ)」とも言います。スーパーなどに行くと、特に冬場に、足湯の道具が売られるほど市民に広く知られています。こうした製品は父母や祖父母など年長者にプレゼントするアイテムとしても人気があります。日常的にお風呂に入る文化がある日本人からすると、なぜ中国人がそこまで足湯にこだわるのか?すこし理解が難しいかもしれません。
 そもそも、上海エリアでは、一般家庭でお風呂に入る習慣というのはあまりありませんでした。マンションなどに湯船として機能できるバスタブを設置している世帯も多くありません。中国北方エリアと違って、もともと暖房設備の整備が不十分であったので、冬に家庭でお風呂に浸かるといったことは一般的ではないというのが現状です。理由はいろいろあります。例えば、冬場にお風呂から上がったときなど逆に体を冷やすリスクを高めますし、シャワーにしても又然りです。しかし、足湯は足を温めても、上半身の衣類を脱ぐことがなく、寒さには対処しやすいというわけです。各家庭には足湯をするための桶やバケツは必ずありますし、庶民的な旅館・招待所(中国の簡易宿泊所のこと)でもよく見かけますね。実際に経験すると分かるのですが、たとえ冬場にお風呂に入れなくても、足さえしっかりと洗い、温めると、リラックスすることができるのです。
 そのほか、高齢者がいる家庭では、今でも子供たちが高齢者の足湯を手伝ったりします。こうした年配者の脚を洗ってあげることが、一種の美徳になっています。足湯が中国人の庶民文化の一つであることは間違いありません。
 もう一つ、興味深い例をご紹介しましょう。上海の隣に位置する江蘇省にある如皋という街は、中国でも長寿で有名なのですが、ここのお年寄りは不思議とお風呂よりも足湯を好むのです。これは、中医学的にも説明できるのですが、お年寄りの多くは、年齢が増すにつれて自然現象的に気・血が不足してきます。冬場にお風呂に入りすぎると、そうした気・血をあべこべに発散してしまい、よくないと考えます。お風呂で汗を極端にダラダラとかくのも中医学的には問題なのです。私の患者さんでも、お風呂に入ると疲れるとおっしゃる方がおられますが、そういうときこそ足湯を効果的に使うように指導しています。

■中医学の分野では、足は、健康にどう関わりがある部位なのですか?
▼藤田医師
 最近、日本でも足裏マッサージをしてくれるところが増えました。中国ではかなり前から隆盛しています。医療というより、健康維持的な目的で、一般市民からもこうした足のケアは重宝されています。そもそも足の裏には、体全体に関係する経穴がありますし、反射区もあります。よって、お湯に足を浸すことで、こうした部位を刺激し、全身の血の巡りをよくするほかにも、新陳代謝を促進することができます。有名なところでは、足の裏の反射区の痛みの部位からどの五臓六腑に問題があるのかを推測することなどはよく見かけますが、注意しないといけないのは、あくまでも体のほかの症状を鑑みて総合的に判断しないといけないということです。痛みがあるから絶対的にそこに問題があるというわけではないのです。

■中医学では足湯を治療にとり入れているとききましたが…。
▼藤田医師
 内科・外科・整形外科・皮膚科・婦人科・小児科など中医学の各科で足湯は活用されます。特に、生薬煎じ薬を使った足湯の場合、皮膚からの生薬成分の吸収が促進されますし、皮膚温度の上昇から毛細血管が拡張し、血液やリンパの循環が改善されます。
また、細菌や真菌などの感染症の場合でも、患部に直接作用して治療効果を高めます。こういった観点からも、偏頭痛やめまい、急性の鼻炎、高血圧などの内科的な疾患、水虫やあかぎれ・しもやけといった皮膚疾患、関節や足の痺れなどの治療にも使えます。疾患の治療の場合は、健康維持法の足湯とはまた違って、他の治療方法と併用しながら医師の指導の下で使うということが多いです。

■風邪やインフルエンザは、足湯で対処できますか?
▼藤田医師
 中華系では、台湾などの中医学でも足湯をつかって風邪の予防や治療を行うことはよくあります。この場合は、かなり熱めのお湯を使って、汗をかかせるのが目的ですが、風邪の引き初めでしたら、汗をかいて体の表面にある邪気を体の外に出さなければならないと中医学では考えます。内服生薬(漢方薬)と併用すると、その効果はさらに高まります。
 中国でも問題となっている新型インフルエンザですが、こちらでは、かなり前からタミフルに頼らずに中医学の生薬を使って治療しようとする試みが行われ、成果が出てきています。一般的な内服生薬のほかにも、うがい薬として生薬を使ってみたり、足湯をしてみたりすることも行われています。
 例えば、SARS治療で、中薬(漢方薬)治療での実績を高めた広東省中医院では、新型インフルエンザで38℃以上の熱があっても汗が出ない場合は、生薬を使った足湯を行っています。中医学の治療法の一環としての足湯の必要性は、今回の新型インフルエンザに対しても認識されています。

■足湯をする際に気をつけることを教えてください。
▼藤田医師
 まず、足湯のあと、足はすぐに拭くようにしてください。中医学では、病気の原因ともなる邪気が、こうした濡れたときなどに侵入しやすくなると考えますので、しっかりと拭くことが大切です。そのほか、食べたあとすぐの足湯もよくありません。下肢の血管が拡張して胃腸への血液が一時的に減少してしまう可能性があるからです。また、女性の場合は、生理中・妊娠中の時は足湯を控え、医師に相談をしてください。出血傾向にある方も注意が必要です。また、足湯を終えたあとは、すぐに活動せず、できることなら30分程度ベッドなどでリラックスすることも大切です。さらに治療目的で生薬を使って足湯を行う場合は、皮膚にアレルギー反応がないか、注意するようにしてください。また、足に外傷などがあるときも足湯の可否は医師の指導に従ってください。

■効果的な足湯法を教えてください。
▼藤田医師
 足湯に関しては、おそらく皆さん様々な方法で実行されているのではないでしょうか。私のやり方もぜひ参考にしてみてください。一般的に、深めの容器をつかって脛ぐらいまで40℃程度のお湯を入れます。底が平らでゆったりとした容器が理想です。私は煎じ生薬を活用しますので、患者さんの疾患によって処方を変えます。煎じ薬を使う場合は、予め生薬を煎じておいて煮汁を入れます。そして20〜30分ぐらい足を浸けます。温度が冷めてくるので、できたら途中で1回ぐらいお湯を交換できたら理想です。こうやって足を温めたあと、さらに足裏のツボなどをマッサージなどで刺激してあげるとさらに効果的です。

=====引用ここまで========

 最近、日本の温泉旅館さんからも、伝統医学と温泉地をなんとかコラボできなか?という相談を時々受けます。レジャーだけでなく、日本漢方の考えに基づいた、新しい温泉利用の仕方を探してもいいように思うのです。

 足湯の活用方法、温泉の問題も含めて私もいろいろ研究してみたいと思います。
posted by 藤田 康介 at 15:29| Comment(1) | TrackBack(0) | 伝統医学と温泉