2019年01月01日

帰脾湯の生薬量について

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(上海竜華寺にて)

 2019年が始まりました。
 今年はもう少し更新できるように頑張りたいと思います。

 宋代『済生方』起源の帰脾湯は、現在人に多いストレスでの思い悩みによる動悸や不眠、食欲不振などの時に使われる名処方なのですが、これ中国の中医薬と日本のエキスとでは生薬量や比率が大きく違います。例えば #中医学 での帰脾湯の黄耆は30gぐらい使うと習うのですが、某社のエキスでは3gほど。

さらに不思議なのは、帰脾湯では黄耆に対して当帰や遠志の量。 #中医学 では黄耆の十分の一で3g程度なのですが、某社では黄耆の三分の二にあたる2gも入っています。日本のエキス剤を使うとき、生薬量のバランスが中国と違うので正直使いにくい。かといって日本のエキス剤では微調整ができない。

黄耆は、使用量に大きな幅がある生薬の一つで、大きく補気したいいときは30gぐらい使うし、他の生薬の働きを高めつつ穏やかに補気したいときは15gほど。清熱解毒系の生薬と併用させたり、托毒させたりするときは12g以下にするなど色々使い分けます。有名な『医林改錯』の補陽還五湯では120gも使う。

でも、日常的に使うことの多い帰脾湯はかなり優秀な処方です。うまく各生薬量の加減ができれば、気分的な重さや動悸が1〜2週間で著効することもあります。中国の #中医学 では煎じ薬から徐々に単味エキスに移行し、生薬の細かな量の加減ができるのですが、ぜひ日本でも普及して欲しいシステムですね。
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2017年11月21日

生薬単味処方エキス剤の工場、甘粛省定西市隴西を訪れて

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 日本の漢方ではエキス剤がすっかりお馴染みですが、中国の中医学でもエキス剤が益々普及してきています。当方のクリニックでも生薬単味エキス剤を採用しています。

 ただ、日本と違うのは単味エキス剤が中心であるという点です。例えば、日本では葛根湯といえばすでにセットになって中成薬として販売されていますが、中国のエキス剤の場合は、葛根湯の成分を一つ一つの単味エキス剤を組み合わせて処方します。実は、この処方資格は西洋医師と中医師ではライセンスの関係で分かれていて、西洋医師は一部中成薬を処方できますが単味エキスはできないことになっています。

 中国で中成薬を処方されると、粉薬でも甘くてヘキヘキした経験のある方もおられるでしょう。それは、たっぷりと賦形剤が使われているからです。生薬そのものの味ではありません。一方で、単味エキス剤では生薬そのものの味が生きています。

 中国の単味エキス剤の特徴は、単味を混ぜて処方を組み立ているという以外にも、デンプンやグルコースなどの賦形剤を殆ど使わずに600種類ものエキスを製造していて、患者さんの服用量を減らせる、また一部の貴重な三七、川貝母、全蝎、蜈蚣、沈香などの生薬に関しては、煮詰めることなく直接5〜15umまで細かく粉砕し吸収しやすくしている点などがあります。

 エキス剤を使う最大の利点は、品質管理がしっかりと出来ること。煎じ薬ではなかなか難しい農薬や重金属の検査はもちろんのこと、特に伝統的な煎じ薬の場合、薬局や患者さんが煎じる手間が大変ですし、私も以前の病院では四苦八苦していましたが、プロの薬局でも濃度を均一にするのにも結構大変な作業です。
 また煎じる際には生薬の性質により、「先煎」「後下」など細かな約束事があるのですが、やり方を間違えると功能にも影響を与えることになります。単味エキス剤では、エキス剤を製造する過程で、そうした約束事を中国政府が定める『薬典』に準じた公式の方法で工場で均一に加工できるというメリットがあります。

 というわけで、私も当院で使っている単味エキス剤を製造している工場の一つ、甘粛省定西市隴西の工場を訪問してきました。

 甘粛省定西市隴西は、上海から飛行機で牛肉拉麺で有名なシルクロードの街、蘭州まで飛び、そこからレンタカーを運転すること約3時間。黄土高原の荒涼としたところにあるオアシスのような小さな街にあります。隴西は大きな生薬市場もあり、街全体が中医薬産業で経済が成り立っています。甘粛省全体が生薬生産で有名で、当帰に関しては中国全体の生産量の90%、党参も60%、黄耆も50%の生産量を誇ります。日本へも多くの生薬が輸出されています。
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 政府当局も生薬栽培には力を入れていて、生薬栽培のための農業試験場も見学させていただきました。

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 工場は製薬会社が集まる開発区にあり、敷地もとにかく広い。需要が旺盛なため、2018年OPENに向けて、工場の拡張工事が進められていました。今回は国薬集団の易総経理の案内で、工場の一つ一つのプロセスを紹介していただきました。

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 私が訪れたときは、ちょうど甘草の収穫時期で、大きなトラックで生産地から甘草が工場に続々と運ばれていました。収穫時期に合わせて加工されます。それら薬材は重金属や残留農薬の検査を受け、修治をうける薬草はそのプロセスを踏みます。

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 その後、濃縮作業に移りますが、ここでは低温真空濃縮法が採用されていました。ステンレスのタンクの気圧を下げ、お湯の沸点を40〜60℃程度にコントロールしていました。これにより通常の水の沸点である100℃前後にするよりも有効成分の損失を減らせるという仕組みでした。

 濃縮された生薬は「浸膏」となり、固形物に生まれ変わります。今度は噴霧乾燥法により、粉末にされます。これが、中国方式のエキス剤の特徴でもあり、600種類もの生薬が、賦形剤なしでもしっかりと細かな粉末に作られます。この方法だと、従来方法のように有効成分の損失を減らすことができ、品質の安定に貢献しているということでした。

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 粉となった生薬は、ロット単位で管理されて、袋詰めされ、出荷されることになります。そして、当院の薬局にも並び、患者さんに処方されるわけです。

 今の世の中、当然と言えば当然ですが、工場内には人は少なく、コンピューター制御室からの管理が行われていました。とにかく規模がデカイので改めてびっくりです。

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 最近では、こうやって生産された生薬のガラも、発酵させて有機肥料として使われるようになりました。単味エキス剤の場合、ガラの原料がはっきりとしていますので、肥料としても使いやすいということでした。循環型の生薬栽培農家もこれから益々増えてくることかと思います。

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2017年10月12日

中医薬や漢方薬の苦み

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(単味エキス剤の生薬棚)
 中医薬や漢方薬といえば、「苦い」というイメージを持っている方も多いのではないのでしょうか?
 薬草を煮だし、それを1日2回、1回150CC程度の煮だし汁を服用するというのが伝統的な服用方法です。近年では、薬局が代わりに煎じてくれるようになりましたが、それでも味や量は変わりません。液体なので旅行や出張するときは非常に不便です。一方で、日本で漢方薬を服用されたことのある方は、ツムラなどのエキス剤を使っていたかも知れません。量的にも比較的少ないし、持ち運びも便利というメリットがありますが、処方箋は予め決められていて、一つ一つの生薬の微調節が全く不可能なのが大きな欠点です。

 そこで、中国では単味エキス剤というのが発展してきました。中国の医療保険にも徐々に適用されています。うちのクリニックでも数年前から採用していますが、数百種類もの生薬の有効成分を個々に抽出し、単味の粉末のエキス剤として調剤するもので、ほぼあらゆる処方をカバーでき、個々に微調節も可能という便利なものです。

 当然、服用時に煎じる必要なく、お湯に溶かすと煎じ薬が再現され、服用するときは1回1袋の粉末で良いので、一つ一つのエキス剤を混ぜる必要もありません。何よりも大切なのは、農薬や重金属などの検査をパスしており、コンピューターで調剤するために、煎じ薬では難しい生薬の品質の安定化にも貢献しています。

 単味エキス剤を使うようになってから、煎じ薬より服用しやすくなったという声をよく聞きます。子どもでも慣れていたら十分に服用できますので、ちょっとしたカゼや胃腸炎なんかでは十分に即効性もあるので、服用できたら便利です。また数ヶ月の保存も大丈夫です。

 さて、薬が苦いので、砂糖や蜂蜜をいれて服用しています、という声を時々お子さんを持つお母さんから聞きます。実は、伝統医学の考え方からするとあまりお薦めの方法ではありません。甘くしてしまうと、たとえば熱を冷ます作用のある生薬の働きを抑制しますし、生薬の有効成分でもある有機酸や糖類、タンパク質やタンニンを凝固させてしまったりして、功能に影響を与えてしまいます。また、お腹を強くするための働きがある生薬には一定の苦みがあるのですが、この苦みが消化腺を刺激し、功能を発揮するとも言われています。もし苦すぎて服用が難しい場合は、体に合っていないことも考えられるのでぜひ医師にご相談ください。中医学の処方は全体のハーモニーが大切ですので、処方を工夫することで飲みやすくできます。

 また、エキス剤にしろ煎じ薬にしろ飲むお湯の温度は大切です。人の舌は体温ぐらいが一番味覚に敏感ですので、高めなら38℃ぐらいか、低めなら35℃ぐらいかにすることで、苦みを感じにくくなります。ただし、決して冷たいままで服用しないでください。

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2017年09月07日

浙江省一の薬草生産地、磐安(パンアン)

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 上海のとなりの省、浙江省。

 山や川が豊富で、美しい農村の景色を楽しめるエリアです。私も、上海の雑踏に疲れたら、高速道を飛ばして浙江省の村々を訪れます。人々の暮らしを観察するのも良いですし、美味しい物を食べのもよし。そして、何よりも伝統的な中医学の姿がまだ残っているところも多いです。

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 今回は上海の自宅からクルマを運転すること約4時間半、約330キロのところにある浙江省磐安にまで行ってきました。

 結構な山奥で、それでも今は高速道路が開通しているので、行きやすくなりました。昔の国道も走りましたが、高速道路並にしっかりと整備されていました。

 磐安が有名なのは、何と言っても「中国薬材の郷」と呼ばれるぐらい中国有数の薬草の産地だから。一説によると、1,200種類ぐらい薬草が産出するとか。

 浙江省では、浙江八味と呼ばれる浙江省で収穫される良質な生薬があります。それは白朮・白芍・浙貝母・杭白菊・延胡索・玄参・筧麦冬・温鬱金の八種類を指します。

 そのなかでも時に磐安は有名で、磐安で収穫される五種類の良質な生薬を磐五味と呼び、白朮・元胡・浙貝母・玄参・白芍を指します。特に、白朮・元胡・浙貝母・玄参・天麻に関しては、全国一の生産量を誇ります。

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(浙貝母ですね。)
 例えば貝母ですが、四川省で収穫される川貝母・浙江省の浙貝母・河北省の土貝母の3種類がよく使われます。値段が一番高いのが川貝母。体積が大きいのが浙貝母・褐色しているのが土貝母。私は、上海に近いこともあり、浙貝母を使っています。味からすると、苦みは明らかに浙貝母>川貝母なので、潤す力の強い川貝母と開瀉力の強い浙貝母って覚えました。いずれも痰や咳の治療では欠かせません。
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 磐安では、街全体が生薬の生産や交易に力を入れていて、大きな生薬交易市場もありました。街全体も生薬をテーマにして整備されている感じでした。まだ工事しているとこもチラホラ。

 磐安では中国ではお馴染みの製薬工場も次々と進出しています。

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 生薬はどこで栽培しても良いわけではなく、その栽培に適した土壌・気候が決まっていて、上手くマッチした生薬のことを中国語で「地道的薬材」と呼びます。どこでどれだけ良い生薬を仕入れることができるかが、中医薬局を経営する中医薬剤師の腕の見せどころでもありますよね。

 中国の生薬栽培は全国に広がっています。
 
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2016年10月14日

食材・生薬両用で便利、馬歯莧(スベリヒユ)

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 よく上海の公園を散歩していると、高齢者達がゴソゴソと雑草を集めているのを見かけますが、食べられる雑草でかつ薬効があるものとして人気の有るもののひとつに馬歯莧(スベリヒユ)があります。実際、私も上海で食べますし、うちのクリニックの単味生薬エキス剤にも馬歯莧の顆粒があります。実際、『本草綱目』にも紹介されています。

 庶民向けの食堂なら、メニューに載っている場合もありました。大抵は、炒め物として使い、あっさりとして、とくに苦みもなく、ただ酸味がありますが、野菜として普通に食べられる感じの味です。
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 中医学の臨床では、私はとくに下痢や皮膚疾患に馬歯莧をよくつかいます。内服でもいいし、外用でも使えます。性質はやはり寒・酸。

 内服では、主に清熱解毒・涼血で、湿熱系の下痢、女性の血の混じったおりものにも使います。下痢につかえるという話は結構上海市民でも知られていますね。細菌性赤痢の場合、生で使うことが多く、その場合は最大60グラムまで使うこともあります。私が一般的に処方するとき、干燥した場合だと15グラム程度、外用で使う場合だと30グラム程度です。湿疹やアトピー性皮膚炎など皮膚の痒みや腫れの場合は、葉っぱを潰して塗りつける方法もあります。

 野菜として炒めるときは、ニンニクと一緒につかうのもポイント。実は、この組み合わせは膿血のある下痢なんかでも使われたようです。

 身近な雑草ですが、昔から人々の健康のために色々と使われているのです。

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2015年10月19日

中医薬で使うアケビと木通のふしぎな関係

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 この時期、日本の山々でもよくみかけるアケビ。これは中医学の世界でも意外によく使う生薬でもあります。
 中医学では「八月扎」と呼び、実をスライスして乾燥させたモノを使います。この季節、中国の山々でも立派なアケビの実がなっていて、熟してくると実の真ん中に線が入ってきて割れてきますよね。

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 この秋、湖南省へ行ったときもしっかりと見つけてきました。八月扎の主な性質は苦・平で、疏肝理気・散結の効能があるといわれています。理気作用のある香附・枳殻・川楝子などとよく処方されます。ストレスが原因の胃の不快感などにもよく使われますが、近年は乳癌や消化器系の癌にも良いとされ、腫瘍を治療する処方にもよく登場します。また、以前は昆布や象貝と一緒に処方して瘰癧(リンパ節結核)に治療にも使われました。

 さて、八月扎は別名「木通子」とも呼ばれますが、これの蔓も薬草として使われ、それが「木通」になります。
 ただ、木通は過去にいろいろと問題になった薬草でもあります。

 本来、木通は五葉木通 Akebia quinta(Thumb.) Decent、 三葉木通 Akebia trifoliata( Thunb) Kouds、 白木通 Akebia trifoliata (Thunb.) Kooide.var.australis(Diels) Rehd. の蔓を使うことになっています。唐代の『新修本草』にも、その記載から五葉木通が木通として使われていたようです。ところが、『本草図経』では三葉木通と思われる薬草を通草と呼んでおり、このあたりから木通を通草と呼んだり、通草を木通と呼んだりと地域や時代によって混乱していました。

 現代では「中華本草」などを通じて整理されています。通草は現在でも薬草として使われていて、通脱木 Tetrapanax papyriferus(Hook.) K.Koch の茎がそれにあたります。効能は利水滲湿・通乳で使われ、産後の母乳不足などに重宝する薬草です。

 実は木通はその後、さらに混乱がありました。今から20年前、私が大学で中薬学を勉強したとき、中医学の教科書には木通とは関木通を指し、Aristolochnia manshuriensis Komの記載が主流でした。一説によると、文革などの歴史的背景と関係があったらしい。ここでは詳しくは書けませんが。
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 はっきりとしているのは、関木通と木通はまったく違う植物であったのにも関わらず、木通と言えば関木通として広く流通してしまったということです。しかも使われるグラム数が多かった。実はこれが大きな問題で、本来の木通では副作用が出なかったのに、関木通を使うことによって急性・慢性腎不全を引き起こしてしまいました。有名なアリストキア酸による健康被害です。現在は問題は解決していますが、薬草やハーブを使うことによる副作用のケースとしてよく取りあげられます。そもそも、ちゃんとした木通を使っていたら問題なかったのですが。

 このように、伝統医学の世界では、薬草は薬草名とその起源となる薬草が一致しないことが時々あります。現在は「薬典」によって規範化されていますが、中国では地域によっては習慣的に使っていることもないわけではありません。さらに日本語と中国語で生薬名が似ているために、その起源の違いでの問題もあります。
 いずれにしろ、私が中国で従来の煎じ薬から単味エキス剤をつかうようになったのも、単味エキス剤の製造工程では薬草の品種管理が厳しいため、品種によるリスクを十分に下げることができるからです。

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2015年10月05日

中医薬でいう青蒿もいろいろあるわけで

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 今回、ノーベル生理医学賞を受賞した屠呦呦先生の研究で、一躍脚光を浴びている青蒿。そこから抽出されるアーテミシニン(青蒿素)が研究の発端になっているのですが、そのまえにこの青蒿とはどんな薬草なのか?

 中医学の世界では、結構日常的に使われる薬草です。分類的には清虚熱に属し、主な効能は虚熱をとり、涼血と解暑、載瘧などが中国の教科書に書かれています。

 有名な処方では、温病学で使われる青高鼈甲湯やマラリアの症状とも考えられている瘧疾で使われる蒿芩清胆湯などがあります。古典の文献で瘧疾の治療で青蒿が使われたという記録は晋代の『肘後備急方』にあり、大量の新鮮な青蒿の汁を使っていたようです。これは、伝統的な煎じ方では、加熱するのでアーテミシニンが破壊されてしまうという現代の研究にも一致していることが分かります。しかし、昔の人はどうやって気がついたのでしょうか?

 問題は、青蒿の中には多くの種類の植物が含まれているというところです。代表的なのには青緑色している青蒿(Artemisia apiacea Hance)と黄色している黄花蒿(Artemisia annua Linn)、牡蒿(artemisia japonica Thunb. オトコヨモギ)があります。さらに黄花蒿は別名で臭蒿と呼ばれたりしており、地域によって様々な名称があるのです。このうち、マラリアに効果があるのは黄花蒿であり、青蒿(Artemisia apiacea Hance)にはアーテミシニンは含有されていないということ。それでも青蒿のグループに整理されていますので、青蒿には変わりなく、この薬草名と学名の関係は、中医学が抱える大きな問題の一つでもあります。屠呦呦先生はそういった青黛の品種の研究もされていました。

 日本語でも生薬名は漢字を使うため、同名でも日本と中国で果たし同じ薬草を使っているのか?ということを確認する必要があります。オトコヨモギもその典型ではないでしょうか。

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2015年06月26日

癌治療で使われる中医薬注射剤「カンライト」がいよいよ米国FDAのフエーズ3試験に

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  6月28日の新華社の報道によると、中国で研究開発されてきた中医薬注射剤「カンライト(康莱特・kanglaite・KLT)」が、すでに、米国では膵臓癌に対してフエーズ2の臨床試験は終え、いよいよフエーズ3にの臨床試験に入るとのこと。

 私の知っている限り、中医薬を使った注射剤では初めてではないでしょうか。しかも癌治療の分野でというのが驚きでした。

 私が上海の大学病院にいたころから、カンライトは使われていました。牛乳のような真っ白な点滴注射剤でした。当時は手術が困難でかつ化学療法に体がついていかない末期の患者さんに使われていたのですが、副作用が少ないという点では重宝されていました。1995年に当時の中国衛生部から新薬証書を取得し、中国国内では使われてきました。そして1999年からFDAに対して新薬登録申請を行っていたとのことです。

 このカンライトの有効成分は、中医薬ではお馴染みのハトムギの実(薏苡仁)から抽出されたものです。27日に行われた中国工程院の李大鵬院士の記者会見によると、中末期の膵臓癌、肺癌、肝臓癌に一定の効果があり、化学療法と併用すると副作用を抑え、生存期を延長させることができるということです。

 これから行われるフエーズ3試験では、中国・米国・欧州で3〜4年かけて、750名の治験者を対象に研究が行われるということ。研究予算は5000万米ドルだとか。

 ちなみに、ロシアでは2001年から臨床試験が行われ、2003年に薬品登録に成功し、2005年から発売されているそうです。

 一方で、日本漢方も中医学に対抗して世界市場を目指しているようですが、まだ目立った成果が出ていません。今後の動きが期待するとしましょう。

 こうして少しでも治療手段が増えることは望ましいことだと思います。

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2015年03月15日

ついに新しいエキス剤(顆粒剤)分包装置が稼働

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 お気づきの方も多いかもしれませんが、半年ぐらいかけて私達が準備を進めてきた上海市にある東和クリニックの浦西古北院で新しい中医薬局がいよいよ稼働をはじめています。

 新しい中医薬局では、今までにない衛生的な処方環境を実現しました。これで、処方後の調剤スピードも向上し、より早く患者さんの手元にお薬をお届けすることができるようになりました。お急ぎの場合は、当日にお薬をお持ち帰りいただくことも可能になっています。とくに感冒や急性の下痢など緊急時には重宝します。

 これまで、中国の中医薬といえば、煎じ薬が主流でしたが、煎じ薬はどうしても質にばらつきが出てしまい、また刻み生薬そののもを扱うために、在庫の管理が大変でした。現在、中国では薬局で刻み生薬を煎じるやりかたが普及しましたが、それでも液体を持ち運ぶという問題はありました。特に、飛行機で移動するときは大変です。そこで、中国では日本とは違った単味エキス剤が登場し、それを調合することで自由な処方を作ることができるようになりました。

 ただ、従来の中国での単味エキス剤には、生薬一つ一つが初めから分包されていて、それを組み合わせて患者さん自身が服用時に混ぜるというのが多かったのですが、新しい装置の登場で、服用時に1回だけ袋をあけたらすぐに服用できるようになりました。これも大きな進歩です。また、小さな袋で分けられていたときは、規格外の細かなグラム数の調節ができませんでしたが、今ではグラム数の調節も自由自在になっています。

 また、エキス剤の調剤では、如何に湿気ないようにするかというのが大きな問題で、服用時に中身が固まってしまったら効能そのものにも影響がでてきます。人力で分包するときには大きな問題になっていました。しかし、今回の装置を導入することで、湿気対策も万全になっています。なにより、調剤作業そのものが分包を含めて機械化されたのが大きく、乾燥装置も導入されました。

 ところで、日本にもツムラなどがエキス剤を出していますが、中国のエキス剤の最大の特徴は、なんといっても生薬の香りが残されているという点です。お湯に溶いたときに、極めて煎じ薬に近い香りを感じることができます。

 また、煎じ薬とちがって、農薬や重金属の検査も容易になり、今では中国の単味エキス剤も海外に輸出される時代になりました。
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調剤方法ですが、まず処方箋をパソコンに入力します。私もいろいろ試行錯誤しましたが、結局、湯液のときのグラム数よりかなり少なめでも期待通りの効果が出せることが分かりました。

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 入力された処方にあわせて薬棚のライトが点灯し、そのカートリッジをぬきます。もちろん、生薬棚にも乾燥装置がついて、エキス剤が湿らないようになっています。

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 また、それぞれのカートリッジはバーコードで在庫管理されていて、バーコードを読ませます。バーコードと薬名が一致していなければいけません。分包作業がはじまります。

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 そして、袋に入ったエキス剤が出て来ます。
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 服用方法は簡単で、粉を直接コップにいれて、お湯を入れればOKです。
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 うまく溶けてくれると思います。もちろん、お茶として服用することも可能です。

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 この仕組みにより、より正確なグラム数で、機械的に調剤できるようになりました。今まで衛生的に問題があった中医薬局も、清潔に管理できるようになりました。さらに装置を改良して、もっといいエキス剤を患者さんに提供できるよう研究したいと思います。

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2015年02月21日

雲南大理州でよく見かける虫草地参

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 雲南省大理州洱源の郷土料理をいろいろ体験するなかで、このあたりのレストランや食堂に入ると必ず目にするのが地参と呼ばれる植物の根っこ。

 白くて丸いクリクリがくっついたような不思議な形をしていますが、こちらでは虫草地参とも呼びます。略して「虫草」。一瞬冬虫夏草と名前が似ているように思いますが、まったく別のものです。

 栄養価が高く、中医学でも『中華本草』に掲載されています。食感はシャキシャキした感じで、クセもなく炒め物やスープに入れても美味しかったです。大理州あたりの人たちはよく食べているようですね。

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 調べてみると、中医学的な性質は活血作用があるようで、利尿・通経・養血・補陽などの効能が出て来ました。産後の虚弱体質、月経痛、浮腫、虚弱体質の改善、肥満症などにも使える一方で、ミネラルが豊富なのでインポテツなどにも使われているみたいですね。いくつかの悪性腫瘍の処方にもはいっているので、瘀血をともなっておれば活用出来ます。雲南だけでなく、浙江省あたりでも栽培できているので、薬材としてだけでなく、食材として今後普及するかも知れません。実は、浙江省でも地元では虫草と呼ばれていました。

4月までの日本と中国各地への出張スケジュールが出て来ました。↓をご覧ください。
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2015年02月20日

雲南省洱源で見つけた中医学でお馴染みの宣木瓜(ボケ)

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 雲南省の温泉地、洱源は、温泉地としては有名ですが、温泉とセットで体験してみたいのはやはり美食。といっても豪華絢爛な料理ではなくて、素朴で現地にしかない味を探し出したいと思うわけです。

 雲南料理をみたとき、宣木瓜はよく登場していて、スパイスにも欠かせない食材でした。中医学の世界でも、宣木瓜はよく使います。主な効能は舒筋活絡・化湿和胃、性質は酸温で、関節痛や筋肉の痙攣、消化不良などに使います。こむら返りの芍薬甘草湯は有名ですが、私は効果を高めるために木瓜を加えることもあります。

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 雲南省は海がないので当然、山のもの、淡水物ものが多い。そして、牛乳や牛肉を使ったものも沢山見かけました。そこで有名なのは牛扇。

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 これは牛乳もしくは羊乳から作りますが、実は牛乳のタンパク質を固めるのに宣木瓜を使うということを知りました。宣木瓜と牛乳をまぜて煮詰め、皮状としたものです。そのままで食べてもいいですが、現地では油揚げにしていました。私個人的にはアボガドを巻いて食べたら美味しかった!味はなんとなくチーズのような雰囲気もあります。

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 調味料としても宣木瓜もかなりいけました。

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 洱源の農家楽(民宿)で出て来た料理では、近くの湖でとれた新鮮な鯉に豆腐と花椒をまぜて、さらに乾燥させた宣木瓜を入れています。味は「甘酸っぱいけど酸味が強い」といった感じに仕上がり、お腹にも優しい感じがします。しかし、鯉がとても美味しかったです。

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4月までの日本と中国各地への出張スケジュールが出て来ました。↓をご覧ください。
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2015年01月08日

日本漢方の桂皮と中医学の桂皮・桂枝・肉桂

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 まったくもって生薬の名前というのはややこしい。そもそも日本と中国とで同じ漢字を使っているから、混乱が生じてしまうのでしょうね。

 たとえば、日本漢方でも中医学でもよく使う桂枝。
 
『傷寒論』の桂枝湯にも使われますが、発汗解表・温経通陽の効能で、性味は辛・甘・温となっています。非常に使用頻度の高い生薬でもあります。

 日本の場合は、桂枝湯で使われる桂枝は、桂皮と呼ばれています。難波恒夫先生の『生薬学概論』をみても浙江省を含む、中国南部に生息しているCinnamomum cassia BLUMEの木の皮と言うことですので、中国ではおそらく肉桂と呼ばれているものに相当すると考えられます。山田光胤先生の『くらしの生薬』にも、日本ではニッケイと呼ばれる近縁種があり、その根皮はニッキと呼ばれ、採取して桂皮として使っていたらしいとあります。桂皮がニッキ(肉桂)となってしまったのもなんとなく検討がつきます。ただ、今では日本の肉桂は専ら調味料として使われていますよね。あめ玉とかにも入っていますし。

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 では中国での桂皮がなにかというと、これは上海市内のスーパーにも調味料として売られていて、天竺桂(Cinnamomum japonicum Sieb)もしくは陰香(Cinnamomum burmannii(Nees)Bl.)の木の皮で、俗称を「土肉桂」と呼んでいます。我が家でも中華風の煮込み卵を作るときは桂皮を使っても、肉桂はつかいません。桂皮と肉桂は区別されていますし、味も違います。

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(左が桂皮、右が桂枝)

 じゃあ、現代中国の場合の桂枝はクスノキ科の肉桂(Cinnamonmum cassia Presl.)の若い枝となっています。こちらの大学の教科書にもそう書かれていますし、薬局にある煎じ薬の生薬を取り出してきても、やっぱり「枝」です。しかも細い木の枝ですが、これがもし生薬「肉桂」となると、薬棚からは当然木の皮が出て来ます。以上の違いがあっても、もともとは同じ植物なので中国では桂枝(肉桂)と書かれることが多いです。

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 ただ、桂枝に関しては、中国でも時代によってその形態が違うことが分かります。『中華本草』には、唐宋以前の桂枝は細い木の枝の皮であったものの、宋代の『本草別説』によると、柳枝といって枝そのものを使っていたことがあるようです。清代になって、この柳枝が今のような桂枝の使い方になったという説になっています。ただここで言えるのは、あくまでも桂枝は細い木の枝が使われていて、木の幹の部分の皮をつかう肉桂とは区別されていたということです。

 一方で、中国における肉桂と桂皮の香りの違いは結構はっきりとしていて、桂皮は肉桂と比較してももう少しキツイというか濃い香りがし、肉桂は比較的すっとした香りがしました。当然、肉桂と桂枝の香りは似ていますし、肉桂や桂枝を口に含んでみると、ほのかに甘みを感じます。

 このように桂枝と肉桂は同じ植物であるのですが、中医学上ではその効能が微妙に違っています。いずれも体を温める働きがあり、陽を高めてくれますが、桂枝は辛温で上に行くことを好み、四肢の冷えを改善してくれます。一方で、肉桂は辛熱で下半身を温めるときに使います。作用する場所がちょっと違いますね。

 いやいや、こんなことを考えていると、私の書斎にはサンプルとして買って来た桂枝、肉桂、桂皮の香りがプンプンしてきました。生薬の世界は複雑怪奇ですがとても魅力的ですね。

 ちなみに、我が家の台所には、調味料として桂皮を常備していますが、肉桂は薬として使っても中華料理の調味料として登場することは少なそう。

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2015年01月04日

中国で新たに15種類の生薬が「薬食両用」に指定され、101種類に

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(蘭州拉麺のお店から譲ってもらったスープの中に入るスパイス)

 中医学の特徴として、「薬食同源」ということばからも分かるように、副作用が少なくて、長期服用が可能な生薬が日常的に食材として利用されています。2002年に中国衛生部が中医薬のなかで食材として使える生薬のリスト86種類を発表していますが、最近最新版が発表され、さらに15種類増えて101種類になりました。食材としても使えるので、薬膳や健康食品などにも使われることが多いと思われます。今回はその概要を見てみたいと思います。

1.2002年に薬食同源に認められた生薬86種類

丁香(チョウコウ、クローブ)・刀豆(ナタマメ、成熟した種)・茴香(ウイキョウ、調味料として)・八角茴香(八角ととして調味料で使う)・小薊・山薬・山査・馬歯莧・烏梅・木瓜(ボケ)・火麻仁・代々花(枳実の花・つまりダイダイの花)・玉竹・甘草・白芷・白果(ギンナン)・白扁豆・白扁豆花・竜眼肉(桂圓)・決明子(日本ではハブ茶になっていますが)・百合・肉豆寇(にくずく、調味料ナツメグの原料)・肉桂(シナモン)・余甘子(ユカン、インドのアーユルヴェーダでも使う)・仏手・苦杏仁/甜杏仁・沙棘(サジー・砂漠地帯の緑化に活躍、活血化瘀)・芡実(池にみるオニバスの実)・花椒(四川料理に欠かせない)・赤小豆・麦芽(もちろん大麦が原料)・昆布・大棗・黒棗・羅漢果・郁李仁(イクリニン)、金銀花、青果(オリーブの実)、魚腥草(ドクダミ)・生姜・乾姜・枳具子(キグシ、二日酔いに使いますね)・枸杞子・山梔子・砂仁・胖大海・茯苓・香櫞・香薷(地上部分を使いますが、紫の花がきれいですね)・桃仁(桃の種)・桑葉・桑椹子(桑の実)・橘紅・陳皮・桔梗・益智仁(実を調味料として使うことも)・蓮葉・莱服子(大根の種)・高良姜(調味料、安中散に入っていますね)・淡竹葉・淡豆鼓(中国の納豆、ニオイはそっくり)・菊花・黄芥子(カラシ)・黄精・紫蘇・紫蘇子(紫蘇のタネ)・葛根(クズ)・黒胡椒・蒲公英(タンポポ)・槐米(エンジュ、白い花がきれいで、日本でも公園で見かけます)・酸棗仁(枝にトゲが多いので注意)・榧子(カヤの実、お菓子としても重宝ですが、虫下しに)・芦根・白茅根(チガヤ、野原でよく見かける白いフサフサ、こっちでは解熱利尿の民間薬です)・薄荷(葉っぱだけでなく、地上部全体を使います)・薏苡仁(ハトムギ)・人参(食用する場合は1日3g以下、妊婦・授乳期・14歳以下の子供は控える)・蜂蜜・阿膠(ロバの皮のゼラチン質)・牡蠣(貝殻)・藿香・薤白(がいはく・ラッキョウ)・烏梢蛇(カラスヘビで無毒)・蘄蛇(百歩蛇で”ひゃっぽだ”、中国では五歩蛇、蛇類は人工養殖されたもののみ使用可)・覆盆子(キイチゴ、華東エリアにも多いです)・鶏内金(鶏の砂嚢、砂ずり)

2.新たに追加された生薬15種類

山銀花(金銀花との区別が話題になりました)・芫荽(コリアンダー、香菜)・玫瑰花(バラ科のハマナス)・松花粉(松の花粉・料理で使います)・粉葛(こちらでも葛湯に使います)・布渣葉( ミクロコス・パニクラタ、東南アジアに生息し、涼茶用)・夏枯草(涼薬用として1日9g以下)・当帰(香辛料として1日3g以下)・山奈(火鍋の調味料、調味料として1日6g以下)・西紅花(調味料として1日1g以下、蔵紅花)・草果(日本では小荳蒄と呼ばれ、スパイス”カルダモン”として重宝。1日3g以下調味料として)・姜黄(日本ではウコン、ターメリック。1日3g以下調味料として)・荜拔(ヒハツ、スパイスとして使われる。1日1g以下調味料として)

 こうみてくると、お馴染みの素材ばかりですね。また、同じ漢字で表記していても、日中間での意味の違いが発生しており、混乱を招く原因にもなりつつあります。また、今回はスパイに使われる生薬が追加されています。中国では、火鍋や蘭州拉麺のスープに伝統的によく使われますから、当然の成り行きだと思います。当帰もついにリストに入りました。

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2014年11月04日

安徽省で見つけた薬草「前胡(のだけ)」

  地域によって栽培に適した薬草があるわけですが、先日出かけた安徽省寧国あたりの山では、前胡(ぜんこ)が栽培されていました。
 そもそも野生の前胡がここの山々で多く見られていて、栽培するにも当然ふさわしいということですよね。日本語では「のだけ」と呼びます。

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 今年の秋口の咳は、咽が痛かったり、咳が止まらなかったりといった症状の方が多かったのですが、そんなときも前胡は大活躍しました。

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 地元の農家でも、感冒のときに前胡を使うと言っていました。

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 この日、山にはいると傘のような形で、白い小さな花がいたるところに咲いていました。ちょうど秋に花を咲かせます。前胡には白花前胡と紫花前胡があるのそうですが、ここで見かけたのは白花前胡でした。丈のあまり高くないのが良質だそうで、中医学や漢方の生薬としては、根っこの部分を乾燥させて使います。修治させると、鍋で炒めた炒前胡、蜂蜜で炒めた蜜前胡などもあります。

 主な性質は、苦・辛・微寒。
 主な効能は、疏散風熱・降気化痰。外感の風熱、肺熱痰鬱など黄色の粘っこい痰が多いときに使います。

 前胡とよく似た名前で、柴胡があります。
 まったく別の植物なのですが、一緒に使うことも多いです。処方箋でも柴前胡(各)とダブルで書くことも多いです。
 咳はそもそも気の上下の乱れでおこるわけですから、気を上向きにうごかす柴胡と、気を下向きに動かす前胡を同時に使うことで、気の動きを上下に整えるのにふさわしいということになります。現代薬理学でも、袪痰作用などが確認されていますが、前胡も半夏などと組み合わせて痰をとるという処方もあります。

 とはいえ、同じ感冒でも、寒さ系では使えないのでご注意を。

 しかし、このあたりを歩くと、自然がまだまだ豊富で、日常使えそうないろいろな薬草に出会いました。詳しくはおいおい。

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2014年08月02日

中医薬と上海水蜜桃

  夏になると上海の果物売り場には水蜜桃が並びはじめます。
正直、上海生活が19年目にもなるとこれがないと夏の気分にならないのです。

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我が家では、いつものタクシー運転手の農家から水蜜桃を届けてもらいました。上海郊外奉賢区の自宅に桃農園を持っていて、私も時間があったら直接畑にいって獲れたてを食べに行くのですが、今年は時間が合わず、仕方がなく職場まで届けてもらうことにしました。

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 さて、この上海の水蜜桃ですが、どうやら日本で今食べられている水蜜桃の起源の一つのようですね。「上海水蜜桃」は日本の生食用モモの起源品種の1つであるというような論文も見つけました。意外に歴史は浅く、明治時代に水蜜桃が日本へ入ってきて品種改良されたようですね。確かに、日本のスーパーで見かける桃は、値段もすごいですが、丁寧に作られていて美味しいですね。

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 ところで、桃は中医薬としてもとても重宝されます。夏に収穫される果物の多くが寒性であるのに対して、桃の性質は甘・酸味で、温性であるというのは大きな特徴だと思います。帰経は肝・肺・大腸になります。主な効能は生津潤腸、活血消積となっていて、便秘や咽の渇き、咳などにも使われます。さらに、桃には豊富な鉄分が含まれていて、血の巡りをよくする活血化瘀や養血の働きもあり、美容にいいと言われるのもそのためですね。

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 ただ、桃と言えば中医学や漢方をしている医者が真っ先に思いつくのが、生薬「桃仁」でしょう。桃を食べたときに出てくる大きな種の中を割ると出て来ます。新鮮な桃仁は真っ白で表面がツルツルしており、香ばしい香りがしてきます。桃仁を使った有名な処方に、桃紅四物湯があります。生理痛や産後の腹痛、さらに虫垂炎なども含まれる腸癰という疾患にも使われました。体内にたまった膿を出してしまうような感じですが、桃仁そのものの苦みと関係がある作用ですね。
 現代医学の研究でも、桃仁を使った複合処方では肝臓癌に対して一定の作用があるほか、免疫力低下を抑制し、活血化瘀作用が瘀血状態を改善するために、癌の転移や再発予防に対して一定の働きがあるあことが知られています。
 桃仁のような種系の生薬は、便秘解消にも作用します。特に、腸内の津液が不足したような乾燥型の便秘では桃仁は重宝します。

 実は、あまり知られていないのが、桃の葉っぱの薬効。
 地元の人はよく使っておられますが、葉っぱの汁が蕁麻疹による痒みに効果があり、皮膚疾患の痒みにもよかったりします。

 そのほか、熟す前に落ちた若い桃は「碧桃乾」と呼び、寝汗なを指す盗汗や、体調不良による発汗に治療に使います。

 繊維質が豊富で、タンパク質や各種ビタミンの多い桃の栄養価の高さは昔から定評があり、またの名を「寿桃」とも呼びます。
 ただ、温性の果物ですので食べ過ぎないように。


東和クリニック・中医科での担当スケジュール・土曜日午後の浦西古北院診察を追加しました

 
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2014年06月06日

上海世紀公園では馬鞭草が見ごろ(中医薬に使われます)

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 紫色で、群生しているととてもきれいな花である馬鞭草(クマツヅラ)が上海世紀公園で咲いています。

 朝、公園内を走っているとホンワカとした紫色で、目が癒される気持ちになりますね。

 中医学の生薬として使われるのは、馬鞭草の根から上の部分です。泌尿器や婦人科系でよく使われます。
 主な効能は活血散瘀・清熱解毒・利水消腫となっています。瘀血系の生理痛・関節痛・子宮筋腫などでも使いますし、手足の浮腫や腹水の治療でも使います。また、解毒作用があるのが特徴で、咽の痛みや湿熱系の下痢、歯茎の痛みなどでも処方されます。外用・内服両方で使える生薬でもあります。

 ただし、活血作用があるので妊婦さんには使わないようにといわれています。最近では、黄色ブドウ球菌やジフテリア菌を抑える働きや、マラリア原虫に対しても効果があるようです。

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 外からみるだけでは、とっても優しそうな美しいお花ですが、内に秘めた力はとても大きいのです。

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2014年06月01日

魅惑の生薬、大和当帰

 前回、日本に一時帰国したとき、ちょうど5月21日に大和当帰を使った薬膳料理をいただく会が、奈良県五條市西吉野の山間にある王隠堂であり、私も参加してきました。

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 豊かな自然環境ののなかで栽培される生薬は、地域性がとても強いのが特徴です。我々、中国で生薬を処方するときも、茯苓なら雲南産の雲茯苓など生薬の前に地名をつける習慣があります。実は、私の故郷でもある奈良県は、歴史的にも生薬栽培で有名なエリアでもあり、そのなかでもこの奈良県五條市深谷町あたりで栽培されていたのが大和(大深)当帰と呼ばれていました。

 一般に、当帰といっても、私達が中国の中医学で使っている当帰は唐当帰といって、日本国内で生産されている北海当帰とは品種が違うものとされています。一方で、生産量は多くありませんが、奈良で栽培されている大和当帰は、北海当帰よりも品質が優れているということです。私もぜひ臨床で使ってみたいですね。

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 当帰の効能は様々で、中医学では補血・活血・止痛・潤腸がよく言われていて、生理不順や生理痛関係の疾患、便秘などに使われます。お酒を活用して修治することで、活血作用を強めることができます。韓国料理では、参鶏湯でも使われていますね。

 奈良県では、明治あたりから盛んに栽培されていて、盆地特有の昼と夜の寒暖の差や山間部の傾斜地でも栽培できるというメリットが好都合だったようです。ただ、薬として使うには手間がかかるため、出荷量が激減してしまったのが残念だったのですが、近年、奈良県が生薬栽培に力を入れているそうで、その結果生産農家も増えてきたそうです。

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 さて、そうした大和当帰の栽培にも関わっておられる王隠堂さんでは、まず奈良県での当帰栽培に関わっておられる奈良県農業研究開発センターで薬草科長も兼ねておられる浅尾浩史先生から大和当帰についてのお話を伺いました。さらに、実際に芽が出ていまに大きくなろうとしている栽培1年目の大和当帰や、2年間栽培された立派な大和当帰の根っこを見せていただきました。とても当帰のいい香りでした。

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 もちろん、中国ではまず使わない当帰の葉っぱを使ったお茶も。この葉っぱの香りも、根っこに負けていません。ティーパックもすでに出ているようでした。残念ながら当帰の根っこは医薬品になってしまうので、日本の法制度上、素人が自由に使えません。中国では普通にスーパーで売っているのですがね。

 大和当帰を色々つかった王隠堂さんのお料理も色々な工夫があって良かったです。中国の薬膳では、どうも中華料理の制限のなかに入ってしまって、「大和当帰入りスパゲティーの豆乳スープ」なんかはちょっと登場しづらい。当帰の天麩羅も美味しかったです。

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 良質の生薬を使うことは、効能にも直接的に影響してきます。日本でも漢方に携わる医療関係者がそういうこだわりの目を持つようになってこれば、きっと大和当帰の知名度ももっと上がるのではないかと密かに期待するのでした。

 奈良県人の一人として、これからも大和当帰を応援していきたいと思っています。

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2014年05月14日

上海の小児科名処方、温下清上湯

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 先日行われた上海市の医師免許更新試験の練習問題でふと思い出しました。

【問題】患儿,2岁。时值夏季,发热持续1个月余,朝盛暮衰,口渴多饮,尿多清长,无汗,面色苍 白,下肢欠温,大便溏薄,舌淡苔薄。治疗应首选
A.白虎汤
B.新加香薷饮
C.温下清上汤
D.竹叶石膏汤
E.王氏清暑益气汤


 この問題の答えは、紛れもなくCなのですが、この処方は実は近代の上海で登場した名処方で、今では中医小児科の教科書にも出て来ます。夏の発熱だからと言ってくれぐれも新加香薷飲を選んでしまわないように。


 温下清上湯は、中国南方でよく発生する子供発熱、所謂「疰夏」で使う代表処方で、頭や上半身が熱いのに、足が冷えている、口渇があり、水もよく飲むのだけど小便の色は濃くないという症状で使われます。病邪が体の上にいるのに、下半身は陽虚というもの。処方の成分は、黄連・附子・磁石・竜歯・菟絲子・覆盆子・桑螵蛸・天花粉・縮泉丸(烏薬・益智仁各等分)となっています。

 処方を考えたのは、上海出身の中医小児科の大家徐小圃先生。この処方が生まれたのは、1930年代に上海エリアを含む中国南方で流行した夏の発熱で、もの凄い数の患者が病院を訪れたのだそうです。この発熱の特徴として、頭が熱いのに手足が冷たいというのがあり、徐小圃先生が病機として上実下虚に着目、この温下清上湯のベースとなる連附竜磁湯を思いつかれました。通常はこの処方だけでなく、弱った胃腸の調子を整えるために棗・蚕で作ったお茶も飲ませたそうです。その劇的な効果から、処方は今でも伝わり、こうやってテストにまで出題されるようになっています。

 ちなみに、上海における徐小圃先生の小児科の流れは、今も脈々と受け継がれています。私が上海中医薬大学で医学生をしていたころ、内科学を教えてくださった徐蓉娟教授はまさにこの徐小圃先生がお父様になります。徐蓉娟教授との思い出はいろいろとあって、とにかく厳しい先生でした。講義中も学生を無作為に指名され、答えられなかったら爆弾が飛んでくるともありました。ただ、臨床はものすごく丁寧で、沢山のことを勉強させていただきました。

 中医学の特徴の一つに、処方の創造があります。患者さんの病態を観察し、それにふさわしい処方をいかに組み立てるかが大切で、その基礎として先人達の経験の積み重ねがあるわけです。上海で活動する私達にとって、上海に伝わるこうした伝統的なやり方は大切に継承したいと思いました。地域色の豊かさが中医学の魅力でもありますから。


おしらせ

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2014年03月29日

米国で新医薬品を目指す中医学

 中国の中医学と日本の漢方薬との決定的な違いは、中国では常に新しい処方を開発し、中国国内での豊富な経験を活かして、さらにそれらを新薬として「中成薬」という形で臨床で応用していることだと思います。日本では、古来からの処方をエキス剤として使っていますが、古典処方で効果のある症例を見つけ出し、そのメカニズムを探っているのと少し方向性が違います。

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 そして、中国が狙っているのはやはりアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)で、新医薬品(Investigational New Drug)としての認可をとることであり、そのために日々研究が進められています。近年は、中国の製薬会社が海外勢と手を組んでさらに研究を深めるというケースが多いです。

 中国では中医学に対して国が大きなバックアップをしているため、動き出したらとにかく早い。そこでいろいろ調べてみると、2014年3月現在、中国で開発された中医学の中成薬9種類がアメリカで新医薬品として申請されています。一般的に、臨床試験(治験)を経て新薬が認可されていくのですが、まずは動物実験による非臨床試験をクリアし、人間に対しても第1相臨床試験、第2相臨床試験、第3相臨床試験と経ます。その後、市場に出た後の市販後調査として第4相試験もありますが、実質的に第3相臨床試験までをクリアしなければ新薬承認されません。

 まず第3相臨床試験まで進んでいる中成薬は2品目。冠状動脈アテローム性硬化症や狭心症に治療で使う杏霊顆粒(上海杏霊科技薬業)と、狭心症につかう複方丹参滴丸(天士力製薬)です。杏霊顆粒は活血作用のある銀杏から抽出した有効成分で作られています。また、複方丹参滴丸は丹参・三七・氷片が主成分で、主な効能は活血化瘀・理気止痛となっています。

 さらに第2相臨床試験に進んでいる中成薬は多く現在7種類あります。我が母校、上海中医薬大学の劉平教授らのグループが研究を続けてきた扶正化瘀片(上海中医薬大学・上海現代中医薬技術発展有限公司)、桂枝茯苓膠嚢(江蘇康縁薬業)、血脂康膠嚢(北京北大維信生物科技有限公司)、威麦寧膠嚢(華頤薬業有限公司)、康莱特注射液(浙江康莱特薬業)、HMLP-004(和記黄埔有限公司)、康莱特軟膠嚢(米国康莱特薬業)がそうです。

 私が大学院にいるころから扶正化瘀片は色々と話題を集め、院生を対象とした研究発表会もよく聞きに行きました。中国に多いB型肝炎による肝硬変の治療薬として注目されていました。主な成分は丹参・発酵冬虫夏草菌粉・桃仁・松花粉・絞股蘭・五味子で、効能は活血化瘀・益精養肝となっています。

 桂枝茯苓膠嚢は、原発性(機能性)月経困難症に使われます。原典は有名な『金匱要略』の桂枝茯苓丸で桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬が主成分です。血脂康膠嚢は天然のリピトールとも呼ばれている紅曲がですが、米を原料として発酵させたものです。日本ではベジコウジと呼ばれていて、一部健康食品などでも使われているようです。中国国内では血脂を下げる中医学の薬としての認可を受けています。

 威麦寧膠嚢は肺癌の治療薬として開発されたもので、原材料は金蕎麦の根茎から有効成分を抽出したものです。生薬金蕎麦そのものは呼吸器系の治療でもよく使う生薬です。また、康莱特は、以前私も季刊『中医臨床』で紹介したことがありますが、薏苡仁から有効成分を抽出したもので、注射剤とカプセル剤が実際に中国の臨床で使われています。ここでは非小細胞肺癌や前立腺癌に適応されるとしています。HMLP-004はまだ中国では認可されていないのか中国名が分かりません。とりあえずクローン病や潰瘍性大腸炎に適応されると紹介されています。

 ただ、こうしてみてみると米国で申請されている新医薬品は、単味生薬からのもののほうが可能性が高そうですが、中医薬の処方はもっと複雑なので、さらなる研究方法の開発が急がれます。逆に、複合処方でしっかりとした方法論を確率できたら日本漢方も十分に勝てると思います。

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2014年03月07日

発酵させる生薬「神曲」

  前回は、納豆の仲間ということで「豆チ」を紹介しましたが、今回は同じ発酵させた生薬としてよく使われる神曲を取りあげてみました。またの名を神麴(しんぎく)、六神曲ともいいます。私は習慣的に六神曲と呼ぶことが多いです。

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 神曲は食べ過ぎによる下痢や食欲不振、腹部膨満感、消化不良などのときにはよく使います。

中国語で曲といえば、麹なども含む酒などを使うときの菌のことを指します。その作用をつかって生薬を作ってしまったのが神曲です。


 作り方は結構複雑で、小麦粉と米の麩に新鮮な青蒿・辣蓼・蒼耳子(いわゆるくっつき虫となるオナモミ)の汁に、杏仁・小豆・をまぜと板状にし、稲わらや麻袋をかけて表面から菌糸が出てくるまで発酵させたのち、乾燥させて使います。

 神曲の成分には酵母菌とビタミンB群が豊富に含まれていて、特にビタミンB群は胃の働きを整え、食慾を増進させるのである意味理にかなっているといえます。『本草経疏』には、脾陰が不足しているときや、胃の火が強いときは控えるようにという記載もありました。現代の『薬典』にも胃酸過多の状態では使わないようにという記載もありましたので、胃熱などが強いときは要注意です。昔の人の経験で分かっているのですね。

 現在では、より純粋な神曲を作るために、菌は酵母だけにし、発酵するスピードをあげるために麦麩を小麦の代わりに使っているようです。(『中華本草』)


 この写真の神曲は黒っぽいですが、これは修治したあとなのでそうなっています。

 薬理学的には、生の神曲をお湯に溶かして服用した方が酵素や微生物の働きが増すとされているのですが、なぜか実際の臨床ではむしろ炒めたり、煎じたりしてほうが効能が良いことが多いというので不思議です。私も処方するときは焦六曲として使います。

 食積(食べ過ぎ)によく使われる処方、保和丸には神曲のほかにも山楂子・半夏・茯苓・陳皮・連翹・莱服子として含まれています。子供から大人まで使える処方として重宝です。

 生薬の世界は昔の人の智恵の宝庫。楽しいですね。


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