先日行われた上海市の医師免許更新試験の練習問題でふと思い出しました。
【問題】患儿,2岁。时值夏季,发热持续1个月余,朝盛暮衰,口渴多饮,尿多清长,无汗,面色苍 白,下肢欠温,大便溏薄,舌淡苔薄。治疗应首选
A.白虎汤
B.新加香薷饮
C.温下清上汤
D.竹叶石膏汤
E.王氏清暑益气汤
この問題の答えは、紛れもなくCなのですが、この処方は実は近代の上海で登場した名処方で、今では中医小児科の教科書にも出て来ます。夏の発熱だからと言ってくれぐれも新加香薷飲を選んでしまわないように。
温下清上湯は、中国南方でよく発生する子供発熱、所謂「疰夏」で使う代表処方で、頭や上半身が熱いのに、足が冷えている、口渇があり、水もよく飲むのだけど小便の色は濃くないという症状で使われます。病邪が体の上にいるのに、下半身は陽虚というもの。処方の成分は、黄連・附子・磁石・竜歯・菟絲子・覆盆子・桑螵蛸・天花粉・縮泉丸(烏薬・益智仁各等分)となっています。
処方を考えたのは、上海出身の中医小児科の大家徐小圃先生。この処方が生まれたのは、1930年代に上海エリアを含む中国南方で流行した夏の発熱で、もの凄い数の患者が病院を訪れたのだそうです。この発熱の特徴として、頭が熱いのに手足が冷たいというのがあり、徐小圃先生が病機として上実下虚に着目、この温下清上湯のベースとなる連附竜磁湯を思いつかれました。通常はこの処方だけでなく、弱った胃腸の調子を整えるために棗・蚕で作ったお茶も飲ませたそうです。その劇的な効果から、処方は今でも伝わり、こうやってテストにまで出題されるようになっています。
ちなみに、上海における徐小圃先生の小児科の流れは、今も脈々と受け継がれています。私が上海中医薬大学で医学生をしていたころ、内科学を教えてくださった徐蓉娟教授はまさにこの徐小圃先生がお父様になります。徐蓉娟教授との思い出はいろいろとあって、とにかく厳しい先生でした。講義中も学生を無作為に指名され、答えられなかったら爆弾が飛んでくるともありました。ただ、臨床はものすごく丁寧で、沢山のことを勉強させていただきました。
中医学の特徴の一つに、処方の創造があります。患者さんの病態を観察し、それにふさわしい処方をいかに組み立てるかが大切で、その基礎として先人達の経験の積み重ねがあるわけです。上海で活動する私達にとって、上海に伝わるこうした伝統的なやり方は大切に継承したいと思いました。地域色の豊かさが中医学の魅力でもありますから。
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