
春本番となると、気温が暖かくなってきて、身体全体の血管が拡張し、相対的に脳にいく血液量が減ってくると眠気の原因になるという説もあります。そのためには、まずは日中に運動などで身体を動かし、呼吸代謝を改善して脳への刺激を高め、血液量を増やしてあげる必要があります。
春の睡眠の特著として、『黄帝内経』の言葉を借りると、「夜臥早起、広歩於庭、被毛緩行、以使志生」というのがいいとされています。つまり、ちょっと遅めに寝て、早めに起きる、起きたら屋外を散歩して、衣類の調節に気をつけながら、悠然とするのが良いみたいです。衣類の調節はとても大切で、いきなり薄着になるのはよくないとされています。
この原則から行くと、部屋に遮光カーテンをつけて真っ暗にして寝ることはあまり望ましくありません。朝早めに起きるためには、どうしても自然な太陽の光が必要だからです。我が家は、日差しが強いときはカーテンをすることがありますが、それ以外はなるべく開けておくようにしています。1日を陰陽で考えたとき、昼間は陽で、夜は陰となりますが、その陽のなかでも朝は陽の中の陽、夕方は陽の中の陰、夜も夜更け前は陰の中の陰、さらに陰の中の陽を細かく分類できます。こうした陰陽の動きと身体の陰陽をうまく合致させることが不眠を克服するポイントにもなります。
されに、飲食が睡眠に与える影響は大きいと中医学では考えます。この時期、春の陽気を高めるような葱・棗などの温性の食材を使うのはいいのですが、冬場に欲しくなるようなピリ辛の刺激が強いものは避け、むしろ陽気を穏やかに整えることを重視するのがいいといわれています。また、肝が強くなりすぎると、脾を圧迫し、脾の気を消耗すると不眠の原因になります。そのため、春特有の緑野菜も食べたいところですね。
不眠には色々な原因が考えられます。中医学では、体質・精神・疾患・環境・薬物による5つの要素を考えますが、その中でも肝が強くなりやすいタイプ、則ち責任感が強くて、真面目な性格の人たちに多い傾向にあります。現代社会で、精神的なストレスを感じる人たちもこの肝気鬱結や肝陽上亢などの類に入ってきます。私のところへ診察を受けに来られた段階ですでに睡眠薬の服用を始めてられる方もおられますが、実は中医薬でもなかなかの成果を出せることがも多いので一度は試してみる価値はあると思います。むしろ、薬からの離脱のしやすさを考えると、中医薬や漢方薬のほうが有利なこともあります。そのほか、耳針や鍼灸を組み合わせますが、基本的には如何にして自身の生活リズムを立て直すかがポイントです。
もちろん、不眠の背景には、さまざまな基礎疾患が関わっている場合もあります。そうした原因を排除しつつ、安易に薬に走らないで問題を解決する方法を少しでも考えてみたいものですね。また、中医学でも市販の中成薬で睡眠剤をまぜたものもありますので、取り扱いには注意が必要です。これに関しては、エキス剤を使うことで対処できます。また、単味生薬で「安神」と呼ばれる、睡眠を改善する働きのあるものが色々ありますので活用していくことになります。

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