

春は五行説では「木」に属します。草花が成長し、動物たちも動き指す季節は、まさに中医学の肝の性質を非常に似ていて、肝の養生をとても大切にします。また、冬を越えてきて、やっと緑の野菜の種類が増えてくる季節でもあります。幸い、上海には日本と同じような四季がありますので、参考にできることも多いです。
まず、五行説の関係から、肝に問題があればその症状を脾に伝えてしまうことになります。我々の飲食とも密接に関係があり、「後天之本」とも呼ばれる脾を守るには、唐代の医学者で『千金方』の著者でもある孫思邈(そんしばく)が「省酸増甘・以養脾気」と言うように、酸味のある食べ物を減らし、甘みのある野菜類がいいとされています。例えば、ほうれん草やニンジン、里芋、南瓜、ソラマメ、ササゲなどがそうです。
また、春先は陽気の調節が難しい季節でもあります。例えば、口が苦く感じたり、渇いたりしたときは、肝熱が過剰の可能性もあります。そういうときは、キュウリや緑豆など肝熱を下げて解毒作用がある食材を使えばいいです。体内の熱をとる働きの野菜は、セロリやアスパラガス、ナズナ、キノコ類などがそうです。野山に生えている蒲公英・車前草・タケノコ・スベリユリ(馬歯莧:生薬では解毒作用もあり、春の湿疹や蕁麻疹、アトピー性皮膚炎の治療などではよく使います)も食材として使われます。

我が家でもベランダに桑の木の鉢植えがありますが、冬を越して桑の葉っぱが出て来ました。桑は便利な植物で、この葉っぱは熱タイプの感冒や肺を潤したりしますが、肝に関しても肝陽上亢系の目眩にも使えます。なかなか重宝する、春にふさわしい生薬の一つです。
逆に陽気が過剰気味になってきたら、ニラ・大蒜・タマネギ・葱類をつかいます。これらは冬の間に蓄積された寒気を除去してくれますし、栄養価が高いものも多いです。

ストレス社会の上海では、近年ピリ辛系の料理が大繁盛していますが、この時期はなるべく避けるように。とくに肝の陽気を動かしてしまいますので、控えるようにすることが必要です。中国人・日本人に関係なく、患者さんをみていると、冬の延長でまだまだ食べ続けている人がいました。

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