2014年03月07日

発酵させる生薬「神曲」

  前回は、納豆の仲間ということで「豆チ」を紹介しましたが、今回は同じ発酵させた生薬としてよく使われる神曲を取りあげてみました。またの名を神麴(しんぎく)、六神曲ともいいます。私は習慣的に六神曲と呼ぶことが多いです。

IMG_9690.jpg


 神曲は食べ過ぎによる下痢や食欲不振、腹部膨満感、消化不良などのときにはよく使います。

中国語で曲といえば、麹なども含む酒などを使うときの菌のことを指します。その作用をつかって生薬を作ってしまったのが神曲です。


 作り方は結構複雑で、小麦粉と米の麩に新鮮な青蒿・辣蓼・蒼耳子(いわゆるくっつき虫となるオナモミ)の汁に、杏仁・小豆・をまぜと板状にし、稲わらや麻袋をかけて表面から菌糸が出てくるまで発酵させたのち、乾燥させて使います。

 神曲の成分には酵母菌とビタミンB群が豊富に含まれていて、特にビタミンB群は胃の働きを整え、食慾を増進させるのである意味理にかなっているといえます。『本草経疏』には、脾陰が不足しているときや、胃の火が強いときは控えるようにという記載もありました。現代の『薬典』にも胃酸過多の状態では使わないようにという記載もありましたので、胃熱などが強いときは要注意です。昔の人の経験で分かっているのですね。

 現在では、より純粋な神曲を作るために、菌は酵母だけにし、発酵するスピードをあげるために麦麩を小麦の代わりに使っているようです。(『中華本草』)


 この写真の神曲は黒っぽいですが、これは修治したあとなのでそうなっています。

 薬理学的には、生の神曲をお湯に溶かして服用した方が酵素や微生物の働きが増すとされているのですが、なぜか実際の臨床ではむしろ炒めたり、煎じたりしてほうが効能が良いことが多いというので不思議です。私も処方するときは焦六曲として使います。

 食積(食べ過ぎ)によく使われる処方、保和丸には神曲のほかにも山楂子・半夏・茯苓・陳皮・連翹・莱服子として含まれています。子供から大人まで使える処方として重宝です。

 生薬の世界は昔の人の智恵の宝庫。楽しいですね。


posted by 藤田 康介 at 07:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬
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