その王清任が作った有名な処方に「補陽還五湯」というのがあります。中風(いわゆる脳梗塞)の後遺症に使うのですが、この方剤の組み方には非常に大きな特徴があります。気を補う黄耆(オウギ)という生薬を120gも使い、当尾(当帰の先の部分)が6g、赤芍(セキシャク)が6g 地龍(ミミズです)が3g、桃仁(トウニン)が3g、紅花が3gとなっています。黄耆(オウギ)の使用量が、他の5つの使用量総和の5倍という構造です。
気や血を補う代表処方に当帰補血湯という処方もあるのですが、こちらは黄耆(オウギ):当帰が5:1で、黄耆を使う量が30g程度なので、補陽還五湯における黄耆の量の多さは際立っています。
ここには、「気」をしっかりと補うことで、血の流れを促進させるという王清任の思想があると思います。単に血の流れを促進させるだけでは、意味がないわけで、血の滞りを通すには、まずは血の問題を解決するべきであるということです。
この処方の適用範囲としては、半身不随や手足のしびれ、言語障害、口角からよだれが流れる、半身不随、頻尿や失禁の治療に使います。
前置きが長くなりました。
実は、上海市でこの補陽還五湯を使った処方で、初回の脳卒中の予防に対して、西洋医学で広く使われているアスピリンよりも効果が高いというデータが発表されていました。その結果、補陽還五湯が脳梗塞の発生率を50%さげることができるとし、The Cochrane Libraryの電子版に紹介された模様。
上海市では、1999年〜2001年にかけて市内南匯区の70万人の住民を対処に実験を行ったところ補陽還五湯が脳梗塞に効果があることが分かり、さらに2003年〜2006年にかけて上海脳血管病防治研究所と復旦大学と共同でRCTを行い、その効果を再確認したようです。
補陽還五湯は、EBM(Evidence-Based Medicine)によって、脳梗塞の予防が可能であると証明された初めての処方とも言われています。
名処方だけに、今後もいろいろな研究成果が期待されると思います。
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