2018年01月24日

特発性間質性肺炎(IIPS)のうち、特発性肺線維症(IPF)の中医薬治療臨床研究

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(厳寒のハルビンにて)
 特発性肺線維症(IPF)は、原因がはっきりと分かっていない進行性の疾患です。病理学的には間質性肺炎の組織学的な特徴を持ち、胸部CTは蜂巣肺に変化し、酸素が取り込みにくくなり、咳や痰以外にも呼吸困難・呼吸不全になることもあり、酸素吸入が必要になります。突発性間質性肺炎(IIPS)の一種で、特に全身の状態が思わしくなく、中国の内科学の教科書では、女性よりも男性に多く5年間生存率が20〜40%と言われています。西洋医学では、ステロイド剤や免疫抑制剤を使うことが一般的ですが、中国ではここに中医薬(漢方薬)を介入させることで、色々な研究が行われています。

 例えば、中国黒竜江省ハルビンにある黒竜江省中医院の副院長である江柏華教授らのグループが、間質性肺炎の中医研究に取り組んでいて、この病院の呼吸器科は、中国国家中医薬管理局の肺病重点学科に指定されています。江柏華教授は、国医大師張h教授の学術継承者の1人で、頑固な咳・間質性肺炎・肺気腫・気管支喘息などの治療を行い、特に痰鬱阻絡型の間質性肺炎には一定の成果を出しています。

 2014年に江柏華教授らのグループで発表された論文「丹貝益肺方による痰瘀阻絡、気陰両虚型の突発性肺繊維化50例の臨床観察」では、50例を不作為に25例の2グループに分け、一方には単味処方エキス剤による丹貝益肺方を服用させ、もう一方にはステロイドのみを服用させて2ヶ月間観察しました。そして呼吸困難・胸部不快感・咳・活動後の体力制限・肺拡散能力試験について調べたところ、何れの項目についても、丹貝益肺方グループの方が有意義に(P<0.05)症状を改善したということでした。ステロイドを使わなくても、中医薬だけで一定の効果が出せているようです。

 中医内科学では、IPFは「肺痿」もしくは「 肺痺」の範疇に入るとされています。病因病機の本は、気陰両虚にあり、標がが痰瘀阻絡となることで、痰濁・瘀血などの病理産物ができると考えます。丹貝益肺方の主な構成生薬は、丹参・平貝(中国東北地方では貝母として使われている)・川芎・桃仁・地龍・黄耆・党参・麦門冬・五味子・補骨脂・桔梗で、化痰活血・益気養陰となっています。

 ところで、今回このテーマを挙げた理由に、中医学による臨床研究の特徴として処方に対する捉え方が、日本の漢方と全く違うことがよく分かります。中国では、基本的に単味の生薬を自由に組み合わせて処方を組み立てていき、そこから有効な処方へ磨いていきます。もちろん、伝統的な処方もありますが、それ以上に、日進月歩の臨床成果を導入して、さらに新しい処方を作っていくわけです。そして、ほぼ固定された処方を再度検証して、このような臨床研究を作ります。もちろん、処方の組合せは中医学の理論に則っていて、それは中医師達の間でほぼ共通の認識として共有できるというのも特徴です。「自分は中医学でも・・・・派だから理解できない」ということはまずありません。そして、今度は処方の西洋医学的な検証が始まります。それが臨床研究であったりするわけですが、その結果、誰でも臨床で活用出来るような治療方法が確立されていくのです。

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posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察
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