
この時期、日本の山々でもよくみかけるアケビ。これは中医学の世界でも意外によく使う生薬でもあります。
中医学では「八月扎」と呼び、実をスライスして乾燥させたモノを使います。この季節、中国の山々でも立派なアケビの実がなっていて、熟してくると実の真ん中に線が入ってきて割れてきますよね。

この秋、湖南省へ行ったときもしっかりと見つけてきました。八月扎の主な性質は苦・平で、疏肝理気・散結の効能があるといわれています。理気作用のある香附・枳殻・川楝子などとよく処方されます。ストレスが原因の胃の不快感などにもよく使われますが、近年は乳癌や消化器系の癌にも良いとされ、腫瘍を治療する処方にもよく登場します。また、以前は昆布や象貝と一緒に処方して瘰癧(リンパ節結核)に治療にも使われました。
さて、八月扎は別名「木通子」とも呼ばれますが、これの蔓も薬草として使われ、それが「木通」になります。
ただ、木通は過去にいろいろと問題になった薬草でもあります。
本来、木通は五葉木通 Akebia quinta(Thumb.) Decent、 三葉木通 Akebia trifoliata( Thunb) Kouds、 白木通 Akebia trifoliata (Thunb.) Kooide.var.australis(Diels) Rehd. の蔓を使うことになっています。唐代の『新修本草』にも、その記載から五葉木通が木通として使われていたようです。ところが、『本草図経』では三葉木通と思われる薬草を通草と呼んでおり、このあたりから木通を通草と呼んだり、通草を木通と呼んだりと地域や時代によって混乱していました。
現代では「中華本草」などを通じて整理されています。通草は現在でも薬草として使われていて、通脱木 Tetrapanax papyriferus(Hook.) K.Koch の茎がそれにあたります。効能は利水滲湿・通乳で使われ、産後の母乳不足などに重宝する薬草です。
実は木通はその後、さらに混乱がありました。今から20年前、私が大学で中薬学を勉強したとき、中医学の教科書には木通とは関木通を指し、Aristolochnia manshuriensis Komの記載が主流でした。一説によると、文革などの歴史的背景と関係があったらしい。ここでは詳しくは書けませんが。

はっきりとしているのは、関木通と木通はまったく違う植物であったのにも関わらず、木通と言えば関木通として広く流通してしまったということです。しかも使われるグラム数が多かった。実はこれが大きな問題で、本来の木通では副作用が出なかったのに、関木通を使うことによって急性・慢性腎不全を引き起こしてしまいました。有名なアリストキア酸による健康被害です。現在は問題は解決していますが、薬草やハーブを使うことによる副作用のケースとしてよく取りあげられます。そもそも、ちゃんとした木通を使っていたら問題なかったのですが。
このように、伝統医学の世界では、薬草は薬草名とその起源となる薬草が一致しないことが時々あります。現在は「薬典」によって規範化されていますが、中国では地域によっては習慣的に使っていることもないわけではありません。さらに日本語と中国語で生薬名が似ているために、その起源の違いでの問題もあります。
いずれにしろ、私が中国で従来の煎じ薬から単味エキス剤をつかうようになったのも、単味エキス剤の製造工程では薬草の品種管理が厳しいため、品種によるリスクを十分に下げることができるからです。
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