2014年08月07日

中医学による癌治療で知っていただきたいこと

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(最高の青空の上海でした)

 今日も中国人で食道癌に肺に転移した患者さんが、初診でこられました。手術の条件に当てはまらず、化学療法も放射線治療も何回か行われたようですが、その副作用に悩み、今回初めて中医学での治療を試みたいという相談でした。中国人に限らず、日本人の患者さんでも同じような相談をよく受けます。もちろん、私は中医学でできることで最善を尽くしますが、どうしてもっと早く中医学(もしくは漢方医学でもいいです)での治療を思いつかなかったのか残念でなりません。この方のように、最後の砦が中医学では、その効果も限定的になってしまうからです。

 たとえば肝臓癌の場合、手術が可能であっても切除後の再発が高いことが多く、仮に術後すぐに中医薬の使用を開始した場合、転移リスクを少しでも減らすことができます。しかし、転移が進み末期状態になったときには中医学を使おうにもやはり手段が限られてしまうのです。

 さらに知っていただきたいのは、中医学を使った癌治療の特徴は、初期から末期まですべての段階での介入が可能で、その段階によって使われる生薬の種類も変わってくるという点です。たとえば、いつでも「十全大補湯」を使うというわけではないのです。それには体質を見極める必要があります。正気がまだ強い段階だったら、邪気を叩くことに力をいれますが、術後などで体力が弱っているときは、まずはその回復を目指した処方を作ります。免疫力を少しでも高め、五臓六腑の働きを回復させます。また、転移を少しでも防ぐためにも場合によっては攻撃的な生薬も使うこともあります。

 化学治療や放射線治療を行った場合、体力の衰えや体調の悪化が避けられないこともあります。そんなとき、症状ベースで処方できる中医学や漢方医学では、何らかの方法で副作用緩和のために介入します。痛みをとるときでも同じです。決して腫瘍マーカーの上下だけに一喜一憂する処方ではないのです。

 一方で、これは中国人の患者さんに多いのですが、癌の治療には高い生薬を使えば使うほど効果が高いと思い込んでいる人がいますが、決してそんな単純な話ではありません。一般的な生薬でも、良質なものが手に入れば、また弁証が正しければ、効果は十分に高まります。私自身も中国でエキス剤や生薬に拘っているのもそのためです。また、冬虫夏草など高価な生薬を使うときも、どの疾患(どの癌)にどの程度使ったら良いのか、一定の明確な基準もあります。なんでもかんでも滋養強壮すればよいというわけではないのです。

 これは癌患者さんの飲食に関しても言えると思います。どんなに良い食材をつかっても、体質に合わなければ、期待通りの効果がえられないことがてきますが、基本的に単一のものを盲目的に摂取し続けることは私も反対です。一度にすべての武器を使い果たすべきではないと思います。
 
 逆に、十分に西洋医学的に手術をしてよくなる見込みがあるのに、最初から中医学だけでの治療を求めてこられるのもどうかなと思います。最先端の技術をつかって治療ができるのなら、やはり十分に活用すべきだと思います。その上で中医学を使われたらいいのです。検査に関しての対等も同様だと思います。中医学は西洋医学との親和性が高い治療法でもあります。

 中医学による癌治療の根本思想は、癌との共存だと思います。「癌が消えた!」というのも大事ですが、QOLが落ちてしまったらどうしようもないのです。徹底期に癌を叩いてしまうのではなく、結果的に癌細胞が悪さをしないように監視する役割もあると思います。そういった根本思想をしってもらったうえで、中医薬をうまく活用していただきたいと思うのです。身体が千差万別であるのと同様、治療方法も決して同じではないからです。

 
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力
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