上海エリアの夏の薬膳といえば、私は山羊を外すことができないと思います。とくに、上海南部の奉賢区や金山区までいくと、「伏羊のスープを飲めば、薬は必要ない」と言うぐらい、山羊肉信仰が強いのも事実です。
「三伏」はちょうど暦の上で小暑から立秋ぐらいの時期を指します。ここでいう「伏」というのは、伏邪のことを言います。つまり、身体の病気を引き起こす六淫(風、寒、暑、湿、燥、火)のうち、夏の暑さと関係のある暑邪が体内に潜伏し、もしこの暑邪を排除しなければ、秋になると肺を傷つけ(火克金)、咳や発熱など上気道に関係する疾患に罹りやすいと中医学では考えるのです。こうした暑邪の排出には、冷たい物を飲んだり、エアコンに頼ってもだめで、しっかりと汗をかきなさいというわけです。
従って、山羊肉を食べる地元の人たちは、空調の入った部屋で涼しげに鍋をつつくのではなく、わざわざ暑い部屋を選んで、汗をダラダラ流して食べるものだといっていました。(さすがに私は真似できませんでしたが。。。。)
地元の人たちは、まだ太陽も昇りきっていない早朝3時〜4時頃に汗流しながら山羊肉を食べ、身体をさっぱりとさせてから野良仕事に出かけるのだそうです。
いずれにしろ、滋養強壮作用の強い山羊肉を食べることで、「熱で以て熱を制する」と考え、汗によって解毒し、ジメジメした湿気を吹き飛ばし、涼しさを身体にもたらそうということです。
中医学的な発想で考えると、山羊肉の性質は温性でいて陰を補う働きもあり、腎・脾を整え、気血を養う働きがあるとされています。そのため、冷え性や冷え系の咳、慢性気管支炎、喘息に対して養生食としてよく使われます。西洋医学的にも、鉄分やカルシウムも豊富に含むため、貧血や骨粗鬆症にもよいとされています。血液循環の改善や、免疫力の向上には欠かせない食材の一つなのです。また、夏ばてなどで体力が弱まったときにも、山羊肉を食べることで弱った脾の働きを高めて、気を補うことができるわけです。
幸い、高層ビルで熱帯夜で喘ぐ上海中心部と違って、崇明島や上海南部は緑豊かで、山羊の好きな草が豊富にあります。そうした草も実は薬草として使われるものも多く、山羊自身が日頃から薬草を食べて育っているので、身体に良いと考えられているのも納得できます。
もちろん、山羊肉は身体を食べる食材ですから、冬にも食べます。ただ、鍋のようにして汗タラタラにする食べ方ではなく、ゼラチン質でかためた肉のかたまりをスライスにしていただきます。これも絶品です!
私も、この時期になったらいつも行く山羊肉のお店が上海市南部の金山にあります。浦東新区からだとクルマで50キロぐらいの道のりです。お店の情報は、2012年に行った記事にあります。
8月5日に行ってきましたが、この日も沢山の地元のお客さんで賑わっていました。私も山羊肉に関しては上海松江や、上海奉賢でも食べましたが、私的には金山のこのお店がお気に入りです。
こうした料理も、上海の名物料理の一つです。そういえば、沖縄にいったときも山羊汁を食べることができて、感動しました。暑い時期の共通した食材なのかも知れませんね。
ただ、沖縄料理の山羊よりも、上海料理の山羊のほうが臭みをとるテクニックがうまいような気がしました。また、山羊肉もあばらあたりの肉が比較的臭みがなくて美味しいとか。このあたり、お店によって様々な伝統技術が伝わっているようで、使う肉の部位にもこだわりがあります。沖縄では臭みをとるために艾を使っていましたが、上海では使いません。香菜ですら使わないで、醤油だけで頂きます。さすがに、生食を食べない食文化ですので、山羊肉の刺身は絶対食しませんが。
金山からの帰りは、浦東金橋にある極楽湯で「補陽」の締めくくり。外からと中からで確りと汗をかけたら、伏邪も少しは減らせたのではないでしょうか。
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