正直、上海生活が19年目にもなるとこれがないと夏の気分にならないのです。
我が家では、いつものタクシー運転手の農家から水蜜桃を届けてもらいました。上海郊外奉賢区の自宅に桃農園を持っていて、私も時間があったら直接畑にいって獲れたてを食べに行くのですが、今年は時間が合わず、仕方がなく職場まで届けてもらうことにしました。
さて、この上海の水蜜桃ですが、どうやら日本で今食べられている水蜜桃の起源の一つのようですね。「上海水蜜桃」は日本の生食用モモの起源品種の1つであるというような論文も見つけました。意外に歴史は浅く、明治時代に水蜜桃が日本へ入ってきて品種改良されたようですね。確かに、日本のスーパーで見かける桃は、値段もすごいですが、丁寧に作られていて美味しいですね。
ところで、桃は中医薬としてもとても重宝されます。夏に収穫される果物の多くが寒性であるのに対して、桃の性質は甘・酸味で、温性であるというのは大きな特徴だと思います。帰経は肝・肺・大腸になります。主な効能は生津潤腸、活血消積となっていて、便秘や咽の渇き、咳などにも使われます。さらに、桃には豊富な鉄分が含まれていて、血の巡りをよくする活血化瘀や養血の働きもあり、美容にいいと言われるのもそのためですね。
ただ、桃と言えば中医学や漢方をしている医者が真っ先に思いつくのが、生薬「桃仁」でしょう。桃を食べたときに出てくる大きな種の中を割ると出て来ます。新鮮な桃仁は真っ白で表面がツルツルしており、香ばしい香りがしてきます。桃仁を使った有名な処方に、桃紅四物湯があります。生理痛や産後の腹痛、さらに虫垂炎なども含まれる腸癰という疾患にも使われました。体内にたまった膿を出してしまうような感じですが、桃仁そのものの苦みと関係がある作用ですね。
現代医学の研究でも、桃仁を使った複合処方では肝臓癌に対して一定の作用があるほか、免疫力低下を抑制し、活血化瘀作用が瘀血状態を改善するために、癌の転移や再発予防に対して一定の働きがあるあことが知られています。
桃仁のような種系の生薬は、便秘解消にも作用します。特に、腸内の津液が不足したような乾燥型の便秘では桃仁は重宝します。
実は、あまり知られていないのが、桃の葉っぱの薬効。
地元の人はよく使っておられますが、葉っぱの汁が蕁麻疹による痒みに効果があり、皮膚疾患の痒みにもよかったりします。
そのほか、熟す前に落ちた若い桃は「碧桃乾」と呼び、寝汗なを指す盗汗や、体調不良による発汗に治療に使います。
繊維質が豊富で、タンパク質や各種ビタミンの多い桃の栄養価の高さは昔から定評があり、またの名を「寿桃」とも呼びます。
ただ、温性の果物ですので食べ過ぎないように。
◆東和クリニック・中医科での担当スケジュール・土曜日午後の浦西古北院診察を追加しました◆
【生薬・漢方薬・方剤・中成薬の最新記事】