2018年03月16日

トリプルネガティブ(TNBC)乳癌患者に対する中医学の研究

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 上海復旦大学附属腫瘤病院が発表した2008年〜2016年までの8年間の中国での乳癌生存率報告によると、原発性乳癌の5年間生存率は97.9%、またステージU〜Vでの5年間生存率はそれぞれ75%、61%ということでした。また、発病年齢の平均は45歳で、欧米よりも10歳程度若いのが特徴となっていました。 

 さて、乳癌の中でも、ホルモン受容体のERとPgRが共に陰性で、HER−2受容体も陰性である、いわゆるトリプルネガティブ(TNBC)タイプの乳癌は、乳癌全体の2割ほどを占め、3年以内の再発リスクが高く、乳癌の中でも治療法がまだまだ十分とは言えません。世界各国で研究が進められていて、中国でも中医学を活用した研究が行われています。

 中国でも中医学を活用したTNBC治療に関する色々な論文が発表されています。2013年に発表された少し古い研究ですが、中国中医科学院広安門医院腫瘤科の廬医師らのグループでは、101例のTNBC治療患者(ステージU〜W)を、中薬+西洋医薬と西洋医薬だけのグループに分け、西洋医学だけのグループはアメリカのガイドライン(NCCNによるTACもしくはAC-weekly T)に従って治療、中医学のグループは気滞血瘀・脾虚痰湿・肝腎陰虚・気血虚弱に分け、それぞれ逍遥散+理沖湯、六君子湯+三仁湯、一貫煎、当帰補血湯+陽和湯に分けて6ヶ月以上服用してもらうという方針。また、3年以内の再発リスクが高いので、3年後のPFS(無憎悪生存期間)及び痺れや抗癌剤による記憶力の低下や認知功能の低下などの脳への影響も調べました。その結果、3年FPSはカプランマイヤー曲線による分析で、中薬+西洋医薬のグループのほうが、西洋医学のグループよりも優勢で(P<0.05)で、痺れや脳への影響も中医薬服薬1ヶ月後で改善しており(P<0.05)、中医薬+西洋医学グループに一定の優位性が示されたとしています。今後、さらに多くの症例でどういう結果が出てくるのか研究成果が待たれます。

  もちろん、抗癌治療における様々な副作用対策に関する中医学の文献は、中国でも比較的多く出ています。たとえば化学療法における嘔吐やムカつきに関しては益気健脾・芳香醒脾、骨髄抑制に関しては益腎養血、四肢の痺れに関しては活血通絡や醒脳開竅を使います。西洋医学と中医学の双方を合理的に使うことのメリットはとても大きいと思います。
 
  私自身、TNBCの患者さんたちと接して特に気がついたのは、やはり精神的ダメージの大きさです。日々、心配と不安と恐怖感を抱え、QOLさえも影響を受けてしまっているケースもありました。もともと中医学では月経前症候群や更年期障害における様々な精神的苦痛に対して色々な治療法がありますが、こうした癌患者さんにも一定の心理的な安定感をもたらすことは可能ですし、中国でも色々な取り組みが行われています。

 中医学では、伝統的に乳頭が肝経、乳房が胃経に属すると考え、特に肝経との関わりが強いと考えます。特に、「肝気が虚なら恐、実なら怒」と考え、肝気の疏泄調達は非常に大切です。心理的要素と病気の発展には深い関係があると考え、気血が人体生命活動の根本と考えるのなら、気血の流れの停滞は、特に乳癌発生の重要なメカニズムで、それが情志の失調と密接に関わりがあることになります。従って、中医薬を使って、恐・怒・思・悲などの情緒のコントロールを行うことは、中医学や漢方医学でも得意分野であり、様々な生薬が活用されます。特に、疏肝解鬱法は中医学治療の特徴の一つと言えるのではないでしょうか。

 まだまだ中国の中医学では色々な研究が進められています。

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posted by 藤田 康介 at 11:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察