2018年03月30日

上海料理の春食材〜草頭(ニセウマゴヤシ)、ダイエットに使えるかも?!

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(上海奉賢区にて)
 地元奈良ではまさにいまが桜満開、上海では桜が散り始め、菜の花が満開です。
 さて、上海料理のなかで、春を感じる食材は色々ありますが、最近食べた食材のなかで、春を代表する定番ものをいくつかご紹介します。薬膳などを研究されている方は是非参考にどうぞ。

 今回は草頭です。

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(上海奉賢区で撮影、三つ葉の野草です)

 春の畑の畦などでよく見かける草頭は、金花草とも呼びます。中医学ではむしろこちらの名前の方が有名かも。実は日本にもよくにたものがあるし、私も田んぼの畦などで見たことがあるのですが、どうやら牛や馬の餌になることが多いようです。日本での呼び名は草頭の学名のMedicago hispida Gaertnから判断するにニセウマゴヤシと呼ばれるものが正解になります。

 上海でも結構畑の畦などに生えています。先日、上海奉賢区の郊外をドライブしたときも、簡単に見つけることができました。地元の人たちが、畑にでては、ついでにこうした野草を収穫して家で食べて居るのも納得できます。

 金花草は、陶弘景(456-536)の『名医別録』にも 「苜蓿」として登場する上品の薬草でもあり、「味苦、平、無毒、主安中、利人、可久食」とあり、性質も穏やかで、胃潰瘍など胃腸の調子を整えるもとして取りあげられています。最近の動物実験では、ダイエットにも良いとされ、肥満ラットモデルの減量やコレステロールや中性脂肪が有意義に減ったという実験データも出ています。メタボ対策にも使えそうな野菜ですね。

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(なかなかワイルドな感じになります)

 上海では、白酒を効かせながら、草頭を炒めますし、お肉と一緒に炒めても美味しいですし、貝や魚にもあいます。大きく成長してしまった草頭は筋が硬くて食べにくいのですが、3月のこの時期の草頭はちょうどいい柔らかさで食べやすいです。ぜひ一度どうぞ!

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2018年03月24日

2017年冬の上海でのインフルエンザ、2018年度の中医治療ガイドライン(抜粋)

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 日本で猛威を振るったインフルエンザでしたが、2017年冬〜2018年春にかけての上海でも大流行しました。上海市疾病予防コントロールセンターなどからの情報を整理すると、2017年12月頃をピークにB型山形系統が流行し、ピーク時は患者全体の80%を占め、その後A型H1N1が流行、2月に入ってB型、A型が同じぐらいの割合になったということでした。3月になって、今は比較的落ち着いています。

 上海市でB型インフルエンザが流行したの3年以上前、A型H1N1型が流行したのが2年前のことで、とくにB型に関しては一般市民の抗体が下がっていたのが流行の原因とも考えられます。ちなみに、2016年〜2017年に上海で流行したインフルエンザはA型H3N2型でした。

 ということで、今年はA型もB型にも2回しっかりと感染したという患者さんが少なくありませんでした。とくにA型H1N1型は症状が結構強く、感染力が強いので、辛かったという声をよく聞きました。

 この冬は中国全土でもインフルエンザが流行し、過去3年のなかでも患者数は最も多かったと報道されていました。インフルエンザの予防といえば、日本でもワクチンが知られていますが、なかなか中国国内でのインフルエンザワクチン接種事情はよく分かっていません。ただ、毎年3000万人分のワクチンは出荷されているそうですので、人口から計算するとインフルエンザワクチン摂取率は2%ほどと言われています。都市部と農村部では事情も異なりますし、なかなか複雑。

 そのなかでも、興味深いと思ったのはマスコミにも報道された次の研究。

 2016年に江蘇省濱海県の幼稚園や託児所におけるインフルエンザワクチンの接種率は12.87%と出ていましたが、内訳をみると特に私立幼稚園のほうが公立幼稚園より接種率が高く、農村戸籍のほうが都市戸籍よりも高く、収入が高くなればなるほど接種率が逆に下がるのだそうです。この傾向について、農村戸籍の親のほうが、学歴が相対的に高いと思われる都市戸籍よりも医師のアドバイスをよく聞き、都市戸籍の親はインフルエンザワクチンに対しての知識を持っているものの、知っている知識そのものに誤解点が多いからではないか、と考えられています。上海で生活していても、中国人社会のなかで、とくに富裕層になればなるほど健康に関する「都市伝説」が非常に多いのもまた事実で、自分から正しい知識をどう獲得するかというのは永遠のテーマでしょう。

 さて、中国で中医学を管轄する国家中医薬管理局も、最新版の中医学によるインフルエンザ治療のガイドライン2018年版を発表しました。インフルエンザに関しては、2009年と2011年にも中医学治療のガイドラインを出していて、今回はそれらが基礎になっています。このうち、中医学の治療に関する概要は以下の通りです。

1.軽症:風熱犯衛気・・・疏風解表・清熱解毒   銀杏散+桑菊飲加減
     金銀花15 連翹15 桑葉10 菊花10 桔梗10 牛蒡子15 
     竹葉6 芦根30 薄荷3 生甘草3
     加減:舌厚膩ー藿香10・佩蘭10 咳が重いー杏仁10 炙枇把葉10
        腹瀉ー黄連6 木香3 咽頭痛ー錦灯篭9 嘔吐ー黄連6 蘇葉10

     熱毒襲肺・・・清熱解毒・宣肺止咳   麻杏石甘湯加減
     炙麻黄5 杏仁10 生石膏(先)35 知母10 浙貝母10 桔梗10
     黄芩15 柴胡15 生甘草10
     加減:便秘ー生大黄(後)6  継続する高熱ー青蒿15 丹皮10


2.重症:毒熱壅肺・・・解毒清熱・瀉肺活絡    宣白承気湯加減
     炙麻黄6 生石膏(先)45 杏仁9 知母10 魚腥草15 亭歴子10
     黄芩10 浙貝母10 生大黄(後)6 青蒿15 赤芍10 生甘草3
     加減:高熱が続くー羚羊角0.6、安宮牛黄丸1錠 
        腹脹便秘ー枳実9 元明粉6 喘促と出汗ー西洋参10 五味子6

     毒熱内陥、内閉外脱         参附湯加減
     生晒参15 炮附子10 黄連6 金銀花20 生大黄6 青蒿15 山茱萸15
     枳実10
    

3.回復期:気陰両虚、正気未復         沙参麦門冬湯加減
     沙参15 麦門冬15 五味子10 浙貝母10 杏仁10 青蒿10 炙枇把葉10
     焦三仙10 

(以上、流行性感冒診療方案 2018年版より抜粋)

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2018年03月16日

トリプルネガティブ(TNBC)乳癌患者に対する中医学の研究

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 上海復旦大学附属腫瘤病院が発表した2008年〜2016年までの8年間の中国での乳癌生存率報告によると、原発性乳癌の5年間生存率は97.9%、またステージU〜Vでの5年間生存率はそれぞれ75%、61%ということでした。また、発病年齢の平均は45歳で、欧米よりも10歳程度若いのが特徴となっていました。 

 さて、乳癌の中でも、ホルモン受容体のERとPgRが共に陰性で、HER−2受容体も陰性である、いわゆるトリプルネガティブ(TNBC)タイプの乳癌は、乳癌全体の2割ほどを占め、3年以内の再発リスクが高く、乳癌の中でも治療法がまだまだ十分とは言えません。世界各国で研究が進められていて、中国でも中医学を活用した研究が行われています。

 中国でも中医学を活用したTNBC治療に関する色々な論文が発表されています。2013年に発表された少し古い研究ですが、中国中医科学院広安門医院腫瘤科の廬医師らのグループでは、101例のTNBC治療患者(ステージU〜W)を、中薬+西洋医薬と西洋医薬だけのグループに分け、西洋医学だけのグループはアメリカのガイドライン(NCCNによるTACもしくはAC-weekly T)に従って治療、中医学のグループは気滞血瘀・脾虚痰湿・肝腎陰虚・気血虚弱に分け、それぞれ逍遥散+理沖湯、六君子湯+三仁湯、一貫煎、当帰補血湯+陽和湯に分けて6ヶ月以上服用してもらうという方針。また、3年以内の再発リスクが高いので、3年後のPFS(無憎悪生存期間)及び痺れや抗癌剤による記憶力の低下や認知功能の低下などの脳への影響も調べました。その結果、3年FPSはカプランマイヤー曲線による分析で、中薬+西洋医薬のグループのほうが、西洋医学のグループよりも優勢で(P<0.05)で、痺れや脳への影響も中医薬服薬1ヶ月後で改善しており(P<0.05)、中医薬+西洋医学グループに一定の優位性が示されたとしています。今後、さらに多くの症例でどういう結果が出てくるのか研究成果が待たれます。

  もちろん、抗癌治療における様々な副作用対策に関する中医学の文献は、中国でも比較的多く出ています。たとえば化学療法における嘔吐やムカつきに関しては益気健脾・芳香醒脾、骨髄抑制に関しては益腎養血、四肢の痺れに関しては活血通絡や醒脳開竅を使います。西洋医学と中医学の双方を合理的に使うことのメリットはとても大きいと思います。
 
  私自身、TNBCの患者さんたちと接して特に気がついたのは、やはり精神的ダメージの大きさです。日々、心配と不安と恐怖感を抱え、QOLさえも影響を受けてしまっているケースもありました。もともと中医学では月経前症候群や更年期障害における様々な精神的苦痛に対して色々な治療法がありますが、こうした癌患者さんにも一定の心理的な安定感をもたらすことは可能ですし、中国でも色々な取り組みが行われています。

 中医学では、伝統的に乳頭が肝経、乳房が胃経に属すると考え、特に肝経との関わりが強いと考えます。特に、「肝気が虚なら恐、実なら怒」と考え、肝気の疏泄調達は非常に大切です。心理的要素と病気の発展には深い関係があると考え、気血が人体生命活動の根本と考えるのなら、気血の流れの停滞は、特に乳癌発生の重要なメカニズムで、それが情志の失調と密接に関わりがあることになります。従って、中医薬を使って、恐・怒・思・悲などの情緒のコントロールを行うことは、中医学や漢方医学でも得意分野であり、様々な生薬が活用されます。特に、疏肝解鬱法は中医学治療の特徴の一つと言えるのではないでしょうか。

 まだまだ中国の中医学では色々な研究が進められています。

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2018年03月09日

上海市科学技術奨励大会で中医学(中国伝統医学)関係がまさかの3項目で1等奨

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(上海にて)
 2018年3月23日に上海市科学技術奨励大会が開催され、2017年度に上海市で大きな功績のあった研究プロジェクトに関して、表彰が行われました。西洋医学や中医学に関係なく、科学技術全体に関する成果の表彰であり、いま上海でどういう最先端の研究が行われているかを垣間見ることができます。

 2017年度の受賞は272項目、このうち21項目は自然科学奨、31項目は科学技術発明奨、216項目が科学技術進歩奨となり、このうち上海中医薬大学が行った中医学に関係する研究テーマ3項目が1等奨を受賞しました。一度に1つの中医大学から3項目というのはかなり異例ですし、過去に例がなかったと思います。また、上海中医薬大学以外では、5項目で3等奨を受賞しています。ではどういう研究テーマだったか、いずれ詳しく紹介しますが、今回はまず簡単に見ておきます。

 まず、中医整形外科の専門家、王擁軍教授らのグループが研究した「腎精虧虚型慢性病の共通する治療・予防規則と応用の普及」で、腎精虧虚型慢性病の病因病機、臨床証型、病理変化など共通した変化規則を捉え、補腎填精法による治療から、その科学的なメカニズムを解析した研究となっています。

 また、中医鍼灸科の専門家、呉焕淦教授らの研究グループが研究した「灸法による免疫機制におる作用と臨床特色技術の応用」に関しては、艾灸による温補補腎・調和陰陽の治療観点から、艾灸温脾補腎・蠲痺通絡・調和陰陽の治療方法をベースに、関節リウマチ(RA)の治療など特色ある治療法を提案しました。特に、艾灸を活用した温脾補腎理論は新しい考え方として注目されています。

 上海中医薬大学の基礎医学院、中医診断学研究室の何建成教授らのグループが研究した「複雑性科学理論に基づいた鬱血心不全(CHF)の中医弁証系列研究と応用」では、まず病証結合を原則からCHFの中医症候の動態変化理論体系と中医症候の計量化診断基準を定めました。さらに、西洋医学の遺伝子・タンパク質・心筋のエネルギー代謝などの多方面から考察し、CHFの中医症候の科学的な内面を示し、「舌体液の変化」という従来無かった中医症候の新しい診断指標を示しました。さらに、CHF治療のための複方心複康口服液を開発し、益気養陰タイプの心不全に対して、広く臨床で使われるようになりました。

 このように、中国の中医学は、年々新しいテーマを捉え、様々な研究成果を出してきています。積み上げられた中医学の伝統的な経験を、現代の研究手段でさらに磨きをかけたものにする試みが、今まさに行われているのです。

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