2017年11月21日
生薬単味処方エキス剤の工場、甘粛省定西市隴西を訪れて
日本の漢方ではエキス剤がすっかりお馴染みですが、中国の中医学でもエキス剤が益々普及してきています。当方のクリニックでも生薬単味エキス剤を採用しています。
ただ、日本と違うのは単味エキス剤が中心であるという点です。例えば、日本では葛根湯といえばすでにセットになって中成薬として販売されていますが、中国のエキス剤の場合は、葛根湯の成分を一つ一つの単味エキス剤を組み合わせて処方します。実は、この処方資格は西洋医師と中医師ではライセンスの関係で分かれていて、西洋医師は一部中成薬を処方できますが単味エキスはできないことになっています。
中国で中成薬を処方されると、粉薬でも甘くてヘキヘキした経験のある方もおられるでしょう。それは、たっぷりと賦形剤が使われているからです。生薬そのものの味ではありません。一方で、単味エキス剤では生薬そのものの味が生きています。
中国の単味エキス剤の特徴は、単味を混ぜて処方を組み立ているという以外にも、デンプンやグルコースなどの賦形剤を殆ど使わずに600種類ものエキスを製造していて、患者さんの服用量を減らせる、また一部の貴重な三七、川貝母、全蝎、蜈蚣、沈香などの生薬に関しては、煮詰めることなく直接5〜15umまで細かく粉砕し吸収しやすくしている点などがあります。
エキス剤を使う最大の利点は、品質管理がしっかりと出来ること。煎じ薬ではなかなか難しい農薬や重金属の検査はもちろんのこと、特に伝統的な煎じ薬の場合、薬局や患者さんが煎じる手間が大変ですし、私も以前の病院では四苦八苦していましたが、プロの薬局でも濃度を均一にするのにも結構大変な作業です。
また煎じる際には生薬の性質により、「先煎」「後下」など細かな約束事があるのですが、やり方を間違えると功能にも影響を与えることになります。単味エキス剤では、エキス剤を製造する過程で、そうした約束事を中国政府が定める『薬典』に準じた公式の方法で工場で均一に加工できるというメリットがあります。
というわけで、私も当院で使っている単味エキス剤を製造している工場の一つ、甘粛省定西市隴西の工場を訪問してきました。
甘粛省定西市隴西は、上海から飛行機で牛肉拉麺で有名なシルクロードの街、蘭州まで飛び、そこからレンタカーを運転すること約3時間。黄土高原の荒涼としたところにあるオアシスのような小さな街にあります。隴西は大きな生薬市場もあり、街全体が中医薬産業で経済が成り立っています。甘粛省全体が生薬生産で有名で、当帰に関しては中国全体の生産量の90%、党参も60%、黄耆も50%の生産量を誇ります。日本へも多くの生薬が輸出されています。
政府当局も生薬栽培には力を入れていて、生薬栽培のための農業試験場も見学させていただきました。
工場は製薬会社が集まる開発区にあり、敷地もとにかく広い。需要が旺盛なため、2018年OPENに向けて、工場の拡張工事が進められていました。今回は国薬集団の易総経理の案内で、工場の一つ一つのプロセスを紹介していただきました。
私が訪れたときは、ちょうど甘草の収穫時期で、大きなトラックで生産地から甘草が工場に続々と運ばれていました。収穫時期に合わせて加工されます。それら薬材は重金属や残留農薬の検査を受け、修治をうける薬草はそのプロセスを踏みます。
その後、濃縮作業に移りますが、ここでは低温真空濃縮法が採用されていました。ステンレスのタンクの気圧を下げ、お湯の沸点を40〜60℃程度にコントロールしていました。これにより通常の水の沸点である100℃前後にするよりも有効成分の損失を減らせるという仕組みでした。
濃縮された生薬は「浸膏」となり、固形物に生まれ変わります。今度は噴霧乾燥法により、粉末にされます。これが、中国方式のエキス剤の特徴でもあり、600種類もの生薬が、賦形剤なしでもしっかりと細かな粉末に作られます。この方法だと、従来方法のように有効成分の損失を減らすことができ、品質の安定に貢献しているということでした。
粉となった生薬は、ロット単位で管理されて、袋詰めされ、出荷されることになります。そして、当院の薬局にも並び、患者さんに処方されるわけです。
今の世の中、当然と言えば当然ですが、工場内には人は少なく、コンピューター制御室からの管理が行われていました。とにかく規模がデカイので改めてびっくりです。
最近では、こうやって生産された生薬のガラも、発酵させて有機肥料として使われるようになりました。単味エキス剤の場合、ガラの原料がはっきりとしていますので、肥料としても使いやすいということでした。循環型の生薬栽培農家もこれから益々増えてくることかと思います。
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