2016年02月23日

抗生物質と上海の子供の肥満の関係

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 上海地区の子供の肥満の問題は、上海ではかなり前から問題になっています。最近、上海で7〜16歳の子供たち9,000人を対象にした調査では、体重が正常だった人が72.1%、やせ気味だった人が6.9%であったのに対して、肥満もしくは体重超過気味だった人の割合は21%にもなっていました。肥満の原因はいろいろ考えられますが、これまでの研究では、遺伝的要素は30%にすぎず、環境的な要素が大きいという結論になっていました。さらに最近の研究では、環境的要因に抗生物質が関わっていることが分かってきました。(関連記事は2014年にも

中国のもう一つの抗生物質濫用問題
で書いています。)

 復旦大学公共衛生安全教育部重点実験室と復旦大学公共衛生学院の共同研究が、『Environment International』に投稿され、上海で大きな話題を呼んでいます。

 その結論は、

 「子供の尿を調べると、家畜向けの抗生物質は動物用の抗生物質暴露が、子供の肥満や体重増加に明かな相関性があり、食品による抗生物質の暴露と子供の肥満リスクの間には正の相関関係があり、こうした抗生物質の源は汚染水と食物から体内に入っているとみられている」

 ということででした。

  この研究では、2010年から2014年にかけて上海・浙江省・江蘇省の子供たち1,500人分の尿を集めたほか、さらに2013年には上海地区の8歳から11歳の586名に対して尿中に含まれる抗生物質を分析しました。このなかで、79.6%の尿中に21種類の抗生物質が発見されました。そのうち、マクロライド系が5種類、βーラクタム系が2種類、テトラサイクリン系が3種類、キノロン系が4種、サルフア系類が4種類、クロロマイセチン系類が3種類とのこと。

  さらに、尿中に含まれていた抗生物質の濃度を高・中・低に分類し、年齢・性別・収入・喫煙状況などの要素を加味して分析したところ、高濃度の子供が肥満になるリスクは、低濃度の子供と比較してリスクが1.99〜3倍になるとしています。おそらく、抗生物質が脂肪の生成と関連しているのではないかということです。

  実際、家畜と抗生物質は、切っても切っても切り離せない問題だと思います。特に鶏の飼育は、アヒルに比べて難易度が高く、病気がきっかけで全滅してしまうことも珍しくない。これは農民達ならよく知っている事実です。だけど、そうした食材への需要は高いわけで、本来は十分に気をつけて育てないといけなく、手間暇とコストがかかるわけです。湖南省で有機農法を頑張っている農民達も、水が農薬や抗生物質に汚染されないように細心の注意を払っていました。それぐらい敏感な問題なんです。

  ちなみに2013年のデータでは全世界の抗生物質の半分にあたる16.2万トンが中国で消費され、このうち52%が動物用で、48%が人間用。人間用は高濃度であっても使用期間は短期間ですが、問題は自然環境に低濃度で存在する抗生物質。長期にわたって暴露されると、何らかの影響が懸念されます。

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posted by 藤田 康介 at 10:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の健康事情

2016年02月19日

iPhoneに旧暦と二四節気、「立春」が過ぎて「雨水」に、そしていよいよ元宵節へ

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  2月4日の立春が過ぎてしまい、2月8日の春節も終わり、あっというまに2月19日の雨水にまで来てしまいました。旧暦でいうと1月12日になります。そして、1月15日になるとついに元宵節で、春節イベントも大詰めを迎え、上海の街に出稼ぎ労働者が戻ってきます。2週間以上の春節休みが本当に終わってしまうわけです。地方では、数が減ったとはいえ、都会へ出て行く家族とのお別れがあったり、学校も本格的な授業に入ることになります。

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 元宵の宵は「夜」の意味で、春節を越えた1年のうちで最初に満月になる日になります。豫園にいくと、様々な形をした「立山」に明かりがともされ、多くの市民が繰り出します。またお団子を食べるのも元宵節の楽しみの一つ。ちなみに、道教では旧暦の1月15日を上元節、7月15日を中元節、10月15日を下元節と言います。やはり1月15日というのは大切なんですよね。例年は爆竹花火大会になりますが、今年は上海市内の規制がキツイでのおそらくムリでしょう。

 旧暦や二四節気がいいなと思うのは、中医学の臨床における患者さんの体の季節的変化と季節の変化が直感的に一致すると言うこと。そして、日常生活で暦でうまく区切りが出てくるので、生活にメリハリがつきます。

 もちろん、iPhoneやiPadのカレンダーでも、簡単に旧暦(中国歴)や二四節気を表示させることができます。

 旧暦表示は、設定→メール/連絡先/カレンダー→別の暦を表示→中国歴

 二四節気の表示は、設定→メール/連絡先/カレンダー→アカウントの追加→その他→照会するカレンダーを追加 と進み、サーバーの覧にこの

http://www.google.com/calendar/ical/2i7smciu430uh0mv3i0qmd8iuk%40group.calendar.google.com/public/basic.ics

 をコピーして貼り付けて下さい。日本の国立天文台の二四節気のデータが表示されます。

 ぜひ、旧暦のある生活を日常に取り入れてみたいです。

 さて、雨水の季節になると、雨が明らかに多くなります。上海でも昨日今日と雨がちです。気温が上昇し、雪がある地方では雪が溶け始め、三寒四温の状態になるわけです。雨が多くなるので「雨水」といいます。

 中医学では「肝」の季節です。春になると肝が旺盛になり、消化器とも関係が深い脾・胃の働きを弱めてしまいます。中医学では五行説の関係を使って「木克土」といいますが、お腹の調子を崩しやすくなります。また、雨水になって、雨が多くなると、外界の寒湿が体を襲い、脾胃に湿気が溜まるわけです。というわけで、体を冷やすような食材を控え、またストレスなど肝に負担がかかることを控え、消化のよい雑穀など五味で言うと「甘」と呼ばれる食材を使うわけです。

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 また、気温差が激しいので、高齢者の血圧の変化には要注意です。狭心症や心筋梗塞が起きやすくなります。そのため、中医学では伝統的に「春捂」ということを考えます。首や肩をしっかりと温め、寒邪が入ってこないようにするわけです。また、気温が上昇してきても、衣類をすぐに減らさず、下半身の保温を重視した「下厚上薄」も、血液循環が思わしくない下半身を温めるのに有効ですね。なにより、これから温かくなると精神的な疲れを訴える人が増えます。情緒的な不安定は、高血圧や喘息、心臓病などを持っている人からすると体へのダメージが大きいわけで、様々な養生法を活用していきたいところですね。

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2016年02月01日

上海市で女性の平均余命がついに85歳を越える一方で、楽観できない肥満問題

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 2015年の上海市民の平均余命が市当局から発表されました。

 男性:80.47歳
 女性:85.09歳
 男女平均:82.75歳

 調査をはじめて以来、女性がはじめて85歳を突破したようです。

 また、妊婦の死亡率は6.66/10万人、新生児死亡率は4.58‰(←%ではありません)
 こういう数字から見る限り、上海市民が如何に長生きかわかりますね。この年代は、若いときに非常に貧困や飢餓など非常に苦労しています。妻の父親も70歳を越えていますが、自転車が趣味で、泊まりがけで数百キロを平気で走ってきます。

 一方で、若年層の肥満問題が深刻化しています。2013年の統計で18歳以上で体重が基準値を超えているもしくは肥満である人も割合は42.3%。これは今の上海人の生活をみていたら十分に理解出来ます。これだけ道路が渋滞するわけだから、歩く人が減っているのも確か。最近では、自転車も電動自転車に切り替わっていて、めっきり数を減らしました。一方で、2007年と比較して体重が基準値を超えている人の割合は3.5%の増加、肥満率も1.7%の増加になっています。

 これに関して、やはり市民の栄養に関する認識の不足が大きいと思います。上海人と外食したり、お宅にお邪魔してご馳走になったとき、その食べ物の内容で検討がつくと思います。

 まず、上海料理は全体的に甘味。しかも主食の取り方が半端ではない。量もそうですが、たとえば砂糖+モチ米+こしあんでつくる上海名物の八宝飯とか、さらには最近では西洋風のスポンジケーキ類まで今や主食と認識されています。その背景には、お腹にいっぱいになることが健康であるというような間違った考え方が多い。ご飯信仰も一際強いため、私も中国人の患者さんに説明するのに一苦労です。

 一方で、野菜・果物類の摂取に関しての誤解も多い。最近の健康ブームで、果物・野菜ジュースがブームでもあるのですが、大量に飲んで野菜を摂取した気分になっている人が多い。実際、これらの飲み物は糖分が半端なく多く、肥満の原因になってしまうわけです。

 上海市では市民の野菜の摂取量は1日300〜500gと定めていますが、実際には250g弱程度、果物は1日200〜400gと定めていますが、実際には75g程度とかなり少ないわけです。

 さまざまな食べ物が溢れている飽食の上海。若い世代の間で高血圧・糖尿病などの疾患が今後急増するのは想像に難くないです。

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posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の健康事情