2015年06月28日

中国のもう一つの抗生物質問題

IMG_9101.jpg

  先日も、復旦大学公共衛生安全教育部の専門家が、上海・江蘇省・浙江省の8〜11歳の1000人の子供の尿を調べたら、殆ど全員で何らかの抗生物質が検出されたことは日本でも報道されてニュースになりました。

  それもそのはずで、中国は世界最大の抗生物質生産国であり、また消費国でもあります。中国科学院が明らかにしたデータでは、2013年に中国で生産された抗生物質の量は24.8万トンで、このうち16.2万トンが自国で消費されています。さらに内訳をみると、このうち48%が人間に使われ、52%が家畜に使われています。そして、5万トンの抗生物質が、河川にジャジャ漏れになっているということらしいです。詳しいことは、中国科学院が6月16日に発行した『中国科学報』に掲載されています。

 その結果、中国の各河川における抗生物質の濃度は平均で303ナノグラム/リットルで、最高で7560ナノグラム/リットルの数値が出たところもあったそうです。ちなみにアメリカでは120ナノグラム/リットル、ドイツでは20ナノグラム/リットル、イタリアになれば9ナノグラム/リットルに過ぎないとか。

 ではこれほどの抗生物質は、どこに使われているのか?

 実はその大部分が豚や鶏など家畜に使われているようです。ちなみに豚の中で最もよく使われている抗生物質はテトラサイクリンということでした。テトラサイクリンといえば、歯の色がかわることでご存じの方も多いかも知れません。鶏も、養鶏場はもちろんのこと、中国人が大好きな「地鶏」と呼ばれるものに関しても、抗生物質は使われているようでした。もちろん、牛に関しても同様で、搾乳するときの炎症を抑えるために抗生物質は使われています。抗生物質がなければこうした産業は成り立たないようですね。

 広州の新聞『羊城晩報』にはある養豚場の話が書かれていましたが、1匹の豚を240キロまで育てるの7ヶ月の間に、飼料は1300元必要だが、それ以外にも薬代が300元もかかるのだそうです。病気にかかれば薬を打つというのが常套手段になっています。

 人間に抗生物質を使うのと同様、家畜にも大量の抗生物質が使われている現実。将来何らかの影響が出てこないか懸念されます。

日本行きのスケジュールはこちらからどうぞ。
東和クリニック・中医科での担当スケジュール
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国での食の安全を考える

2015年06月26日

癌治療で使われる中医薬注射剤「カンライト」がいよいよ米国FDAのフエーズ3試験に

IMG_9095.jpg

  6月28日の新華社の報道によると、中国で研究開発されてきた中医薬注射剤「カンライト(康莱特・kanglaite・KLT)」が、すでに、米国では膵臓癌に対してフエーズ2の臨床試験は終え、いよいよフエーズ3にの臨床試験に入るとのこと。

 私の知っている限り、中医薬を使った注射剤では初めてではないでしょうか。しかも癌治療の分野でというのが驚きでした。

 私が上海の大学病院にいたころから、カンライトは使われていました。牛乳のような真っ白な点滴注射剤でした。当時は手術が困難でかつ化学療法に体がついていかない末期の患者さんに使われていたのですが、副作用が少ないという点では重宝されていました。1995年に当時の中国衛生部から新薬証書を取得し、中国国内では使われてきました。そして1999年からFDAに対して新薬登録申請を行っていたとのことです。

 このカンライトの有効成分は、中医薬ではお馴染みのハトムギの実(薏苡仁)から抽出されたものです。27日に行われた中国工程院の李大鵬院士の記者会見によると、中末期の膵臓癌、肺癌、肝臓癌に一定の効果があり、化学療法と併用すると副作用を抑え、生存期を延長させることができるということです。

 これから行われるフエーズ3試験では、中国・米国・欧州で3〜4年かけて、750名の治験者を対象に研究が行われるということ。研究予算は5000万米ドルだとか。

 ちなみに、ロシアでは2001年から臨床試験が行われ、2003年に薬品登録に成功し、2005年から発売されているそうです。

 一方で、日本漢方も中医学に対抗して世界市場を目指しているようですが、まだ目立った成果が出ていません。今後の動きが期待するとしましょう。

 こうして少しでも治療手段が増えることは望ましいことだと思います。

日本行きのスケジュールはこちらからどうぞ。
東和クリニック・中医科での担当スケジュール
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2015年06月19日

2015年6月20日は端午の節句、年中行事と旧暦の季節感

IMG_1895.jpg

 奈良→東京→富山→大阪の出張を終えて、6月18日から上海で本格稼働しています。
 
 2015年は6月20日が旧暦の5月5日、いわゆる端午の節句になります。中国では様々な年中行事が行われるのですが、ことに中医学に関しては端午の節句は非常に重要です。過去にもいろいろな記事を書いておりますので、こちらをご覧ください。

 さて、この時期、気候が暑くなってきて、ジメジメとしてくる季節ですので、伝染病などが流行しやすい時期です。折しも、韓国ではMARS騒ぎですが、それ以外にも水ぼうそうや手足口病といった病気も流行し、上海でも幼稚園が学級閉鎖になったりしています。そういった関係から、昔の人はこの時期に邪気から体を守って、病気から体を予防して、健康に過ごせるように端午の節句にその願いを込めました。新暦の5月5日ではまだ初春ですから、本来の意味からはずれてしまいますよね。

 中国では屈原を弔って竜舟レースや粽を食べたりするのは有名ですが、その他にも薬浴に入ったりする習慣もあります。基本的に、清熱解毒や祛暑化湿、行気活血、殺虫止痒などの効能のある薬草をつかってお風呂に入るわけですが、上海エリアには色々な処方が伝わっています。上海出身の妻も、家に伝わる処方などを実際に自宅で実践したりしていますが、この時期は汗疹や湿疹、アトピー性皮膚炎などが悪化しやすい時期でもあり、昨日の診察でも中医学の外用法をよく処方しました。ステロイド系を使わない伝統的な方法でもなかなかの効果を発揮してくれます。さすが古人の智恵ですね。

 そほほか、厄除けに菖蒲・艾などを市場から買ってきて部屋に掲げたり、子供用には中医学の薬局が香袋を作ったりしますが、これらは家族の健康を願ったものが多いですね。こうした生薬は芳香性があり、殺菌力もあったりするのですが、古人はこの芳香性から厄除けをイメージしたわけです。

 中国全国的には、端午の節句に薬酒を作るのが有名です。ヒ素化合物でもある雄黄を使ったお酒はヒ素の硫化鉱物なので有害で今では使いませんが、当時は雄黄を使ったお酒もこの時期飲まれていたようです。これもやはり解毒作用が考えられていました。

 やはり年中行事を迎えるにあたって、旧暦は大事にしたいですね。新暦で迎える旧暦の年中行事は、季節感的にも矛盾しますからね。次にやってくる7月7日の七夕もそうです。これは盛夏の年中行事でもあり、だいたい梅雨が明けるか明けないかの時期に七夕が来るはずないのです。農耕文化が根強い中国では頑なに旧暦を守っています。

日本行きのスケジュールはこちらからどうぞ。
東和クリニック・中医科での担当スケジュール
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2015年06月01日

中国式、中医学スキルアップのための国家試験

IMG_8009.jpg

 中国で医療活動をする場合、とくに私のように中国で正規の中医学教育を受け、中医学の医師ライセンスを取得した場合、ライセンス取得後のフオローのための試験がいろいろあって、去年は2年に1回の医師資格登録更新試験を受けてきました。実はこの更新試験を受けた初めての外国人受験生でした。(笑)また来年度も受けないといけませんが・・・。 

 さらに、中医学知識のスキルアップのための試験として、今年は5月23日にまるまる1日かけて中医学の「全国衛生専業技術資格試験」というのを受けてきました。実はこの試験も日本人はもちろん、外国人としては初の受験になりました。試験は中国全国で一斉に行われ、中国政府が主催する医師に関連するものでとても重要な試験の一つでもあります。

IMG_8011.jpg

 さて、「全国衛生専業技術資格試験」は中国人の医師であれば当然のように受けられる資格試験で、通常は大学本科卒業後、臨床経験5年後で受けられます。もし医学博士を取得しておれば、学位取得後の翌年に受験資格がもらえます。各専門分野に分かれていて、自分の専攻分野に応じて受験します。
 大学時代の同級生で私と同じ中医学の医師をしている妻は、中医内科学・鍼灸学・全科医(ホームドクター)の3つの資格を取得していますが、その他にも中医婦人科や中医外科などの資格もあります。私は今回が初ですのでまずは専門の中医内科学からチャレンジしました。

IMG_8008.jpg

 ところが、「全国衛生専業技術資格試験」は残念ながら今までは全ての外国人に受験資格がありませんでした。私も中国人の同級生達が資格をとっていくなかで、申し込み書を提出しても受理されず、そのため上海の衛生当局だけでなく北京へも陳情したこともあります。
 今でも医学の世界では中国籍を持っている人と持っていない人ととの間で色々な区別がつけられています。まあ、当然と言えば当然ですよね。

 中国人の競争力を高めるためにもわざわざ外国人を平等にする必要もないと言うわけです。

 とはいえ、知識のスキルアップに継続的に中医学の勉強をするのには、この試験はとてもいい訓練だと思うのですが、そうこうしているうちに2015年からついに中国の永住権を取得している外国人は受験可能になりました。中国でも声をあげればかなうモノですね。
 そもそも、中国で新しい習国家主席に代わってから、既存の中国永住権制度が随分整備され、どういうメリットがあるのか、はっきりと明記されるようになりました。その一環として、今回の受験資格があるわけです。

 とりあえずチャンスを与えてくれたことには多謝!ですね。実質、初めて中国の永住権のカードを使った受験になりました。

 さて、「全国衛生専業技術資格試験」の試験範囲は、中医基礎理論・中医診断学・中薬学・方剤学・黄帝内経・傷寒論・金匱要略・温病学・中医内科とお馴染みの中医学の内容に、西洋内科学・西洋診断学がつき、さらに心理学・倫理学・法律となります。内科学には感染症に関しての内容も含まれます。問題は択一式で、試験会場のパソコンに坐って一斉に試験を行います。

 中国の資格試験はパソコン式が多く、前後左右でも出題問題が違うため、カンニング対策にもなります。出題のデーターベースはかなり整備されているようです。

IMG_8012.jpg

 私は今回は上海交通大学医学院での試験でした。なんせ、一日で試験をやってしまうので結構体力的にキツかった。外国人初ということで、身分証明書のチェックではかなり不思議がられました。名簿には私だけ英語の名前が記載されていましたし。

 私も試験準備のために家族のいる橿原今井町へ戻るときも、参考書を飛行機に持ち込んで総復習しました。こういう試験は基礎知識の洗い直しにとてもいいチャンスですが、実際結構引っかけ問題もあったりするので、周到に準備しておかないといけません。

 まあこうやって、前例のないことを中国上海で色々試していくのも楽しいモノです。
 次はなにをやってみようかいろいろ企んでおります。

日本行きのスケジュールはこちらからどうぞ。
東和クリニック・中医科での担当スケジュール
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動