2015年01月20日

中医塾第3回 浴療〜足浴と温泉〜

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(佐賀県の嬉野温泉にて)

 上海で恒例になっている中医塾の第3回は、お風呂をテーマに挙げてみました。

 中国ではあまりお風呂に入る習慣はないと言われますが、足浴の習慣はありますし、中医学の外治法の一つとしての役割は重要で、中医外科ではもちろん、骨傷科や婦人科、内科でも広く応用されます。

 日本だけでなく、中国各地の温泉も巡っていますので、そうした体験もご紹介させていただきました。

 次回中医塾は2015年3月3日10:00より。

 場所:上海市長寧区栄華東道98号維多利亜大厦/AM10時より1時間程度/費用150人民元
 参加予約:18918248339(Chinese Life 周)/使用言語:日本語

 いよいよ第4回は「春の養生」のお話です。

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2015年01月08日

日本漢方の桂皮と中医学の桂皮・桂枝・肉桂

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 まったくもって生薬の名前というのはややこしい。そもそも日本と中国とで同じ漢字を使っているから、混乱が生じてしまうのでしょうね。

 たとえば、日本漢方でも中医学でもよく使う桂枝。
 
『傷寒論』の桂枝湯にも使われますが、発汗解表・温経通陽の効能で、性味は辛・甘・温となっています。非常に使用頻度の高い生薬でもあります。

 日本の場合は、桂枝湯で使われる桂枝は、桂皮と呼ばれています。難波恒夫先生の『生薬学概論』をみても浙江省を含む、中国南部に生息しているCinnamomum cassia BLUMEの木の皮と言うことですので、中国ではおそらく肉桂と呼ばれているものに相当すると考えられます。山田光胤先生の『くらしの生薬』にも、日本ではニッケイと呼ばれる近縁種があり、その根皮はニッキと呼ばれ、採取して桂皮として使っていたらしいとあります。桂皮がニッキ(肉桂)となってしまったのもなんとなく検討がつきます。ただ、今では日本の肉桂は専ら調味料として使われていますよね。あめ玉とかにも入っていますし。

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 では中国での桂皮がなにかというと、これは上海市内のスーパーにも調味料として売られていて、天竺桂(Cinnamomum japonicum Sieb)もしくは陰香(Cinnamomum burmannii(Nees)Bl.)の木の皮で、俗称を「土肉桂」と呼んでいます。我が家でも中華風の煮込み卵を作るときは桂皮を使っても、肉桂はつかいません。桂皮と肉桂は区別されていますし、味も違います。

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(左が桂皮、右が桂枝)

 じゃあ、現代中国の場合の桂枝はクスノキ科の肉桂(Cinnamonmum cassia Presl.)の若い枝となっています。こちらの大学の教科書にもそう書かれていますし、薬局にある煎じ薬の生薬を取り出してきても、やっぱり「枝」です。しかも細い木の枝ですが、これがもし生薬「肉桂」となると、薬棚からは当然木の皮が出て来ます。以上の違いがあっても、もともとは同じ植物なので中国では桂枝(肉桂)と書かれることが多いです。

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 ただ、桂枝に関しては、中国でも時代によってその形態が違うことが分かります。『中華本草』には、唐宋以前の桂枝は細い木の枝の皮であったものの、宋代の『本草別説』によると、柳枝といって枝そのものを使っていたことがあるようです。清代になって、この柳枝が今のような桂枝の使い方になったという説になっています。ただここで言えるのは、あくまでも桂枝は細い木の枝が使われていて、木の幹の部分の皮をつかう肉桂とは区別されていたということです。

 一方で、中国における肉桂と桂皮の香りの違いは結構はっきりとしていて、桂皮は肉桂と比較してももう少しキツイというか濃い香りがし、肉桂は比較的すっとした香りがしました。当然、肉桂と桂枝の香りは似ていますし、肉桂や桂枝を口に含んでみると、ほのかに甘みを感じます。

 このように桂枝と肉桂は同じ植物であるのですが、中医学上ではその効能が微妙に違っています。いずれも体を温める働きがあり、陽を高めてくれますが、桂枝は辛温で上に行くことを好み、四肢の冷えを改善してくれます。一方で、肉桂は辛熱で下半身を温めるときに使います。作用する場所がちょっと違いますね。

 いやいや、こんなことを考えていると、私の書斎にはサンプルとして買って来た桂枝、肉桂、桂皮の香りがプンプンしてきました。生薬の世界は複雑怪奇ですがとても魅力的ですね。

 ちなみに、我が家の台所には、調味料として桂皮を常備していますが、肉桂は薬として使っても中華料理の調味料として登場することは少なそう。

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2015年01月04日

中国で新たに15種類の生薬が「薬食両用」に指定され、101種類に

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(蘭州拉麺のお店から譲ってもらったスープの中に入るスパイス)

 中医学の特徴として、「薬食同源」ということばからも分かるように、副作用が少なくて、長期服用が可能な生薬が日常的に食材として利用されています。2002年に中国衛生部が中医薬のなかで食材として使える生薬のリスト86種類を発表していますが、最近最新版が発表され、さらに15種類増えて101種類になりました。食材としても使えるので、薬膳や健康食品などにも使われることが多いと思われます。今回はその概要を見てみたいと思います。

1.2002年に薬食同源に認められた生薬86種類

丁香(チョウコウ、クローブ)・刀豆(ナタマメ、成熟した種)・茴香(ウイキョウ、調味料として)・八角茴香(八角ととして調味料で使う)・小薊・山薬・山査・馬歯莧・烏梅・木瓜(ボケ)・火麻仁・代々花(枳実の花・つまりダイダイの花)・玉竹・甘草・白芷・白果(ギンナン)・白扁豆・白扁豆花・竜眼肉(桂圓)・決明子(日本ではハブ茶になっていますが)・百合・肉豆寇(にくずく、調味料ナツメグの原料)・肉桂(シナモン)・余甘子(ユカン、インドのアーユルヴェーダでも使う)・仏手・苦杏仁/甜杏仁・沙棘(サジー・砂漠地帯の緑化に活躍、活血化瘀)・芡実(池にみるオニバスの実)・花椒(四川料理に欠かせない)・赤小豆・麦芽(もちろん大麦が原料)・昆布・大棗・黒棗・羅漢果・郁李仁(イクリニン)、金銀花、青果(オリーブの実)、魚腥草(ドクダミ)・生姜・乾姜・枳具子(キグシ、二日酔いに使いますね)・枸杞子・山梔子・砂仁・胖大海・茯苓・香櫞・香薷(地上部分を使いますが、紫の花がきれいですね)・桃仁(桃の種)・桑葉・桑椹子(桑の実)・橘紅・陳皮・桔梗・益智仁(実を調味料として使うことも)・蓮葉・莱服子(大根の種)・高良姜(調味料、安中散に入っていますね)・淡竹葉・淡豆鼓(中国の納豆、ニオイはそっくり)・菊花・黄芥子(カラシ)・黄精・紫蘇・紫蘇子(紫蘇のタネ)・葛根(クズ)・黒胡椒・蒲公英(タンポポ)・槐米(エンジュ、白い花がきれいで、日本でも公園で見かけます)・酸棗仁(枝にトゲが多いので注意)・榧子(カヤの実、お菓子としても重宝ですが、虫下しに)・芦根・白茅根(チガヤ、野原でよく見かける白いフサフサ、こっちでは解熱利尿の民間薬です)・薄荷(葉っぱだけでなく、地上部全体を使います)・薏苡仁(ハトムギ)・人参(食用する場合は1日3g以下、妊婦・授乳期・14歳以下の子供は控える)・蜂蜜・阿膠(ロバの皮のゼラチン質)・牡蠣(貝殻)・藿香・薤白(がいはく・ラッキョウ)・烏梢蛇(カラスヘビで無毒)・蘄蛇(百歩蛇で”ひゃっぽだ”、中国では五歩蛇、蛇類は人工養殖されたもののみ使用可)・覆盆子(キイチゴ、華東エリアにも多いです)・鶏内金(鶏の砂嚢、砂ずり)

2.新たに追加された生薬15種類

山銀花(金銀花との区別が話題になりました)・芫荽(コリアンダー、香菜)・玫瑰花(バラ科のハマナス)・松花粉(松の花粉・料理で使います)・粉葛(こちらでも葛湯に使います)・布渣葉( ミクロコス・パニクラタ、東南アジアに生息し、涼茶用)・夏枯草(涼薬用として1日9g以下)・当帰(香辛料として1日3g以下)・山奈(火鍋の調味料、調味料として1日6g以下)・西紅花(調味料として1日1g以下、蔵紅花)・草果(日本では小荳蒄と呼ばれ、スパイス”カルダモン”として重宝。1日3g以下調味料として)・姜黄(日本ではウコン、ターメリック。1日3g以下調味料として)・荜拔(ヒハツ、スパイスとして使われる。1日1g以下調味料として)

 こうみてくると、お馴染みの素材ばかりですね。また、同じ漢字で表記していても、日中間での意味の違いが発生しており、混乱を招く原因にもなりつつあります。また、今回はスパイに使われる生薬が追加されています。中国では、火鍋や蘭州拉麺のスープに伝統的によく使われますから、当然の成り行きだと思います。当帰もついにリストに入りました。

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2015年01月03日

中国での乳癌の状況

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 最近、ランセットに掲載された記事から。
 復旦大学附属腫瘤病院が2014年に発表した論文に
Breast cancer in China
というのがありました。いろいろと参考になるような内容があったので、ここでもご紹介します。

 現在、中国でもとりわけ上海や北京など大都市で乳癌患者が増えているという話は、このブログでも時々ご紹介しています。中国全体でもその傾向が出ていて、毎年中国で新たに発症している乳癌患者は全世界の12.2%、死亡者は全世界の9.6%で、その増加率は世界平均の2倍といわれています。乳癌と診断される年齢は平均45〜55歳で、これも欧米の数字と比較しても10〜15歳若い傾向にあります。

 上海と北京に限った場合、乳癌発症のピークは45〜55歳、70〜74歳と二つあることが分かってきました。とくに中国の場合、一人っ子政策の影響で、子供を産む数が少ないという特徴があります。女性が一生に生む子供の数は、上海に限ってみると2010年は0.81人に過ぎず、中国全国でも50年代前半の6.0人から2010年の1.6人にまで落ち込んでおり、子供を産む数が少ないことも乳癌リスク上昇と関係があると言われています。また、初潮の年齢が早かったり、初産の年齢が遅かったり、閉経の年齢が遅すぎたり、さらに母乳をあげる期間が極端に短すぎることにも関係あるといわれています。中国でも日本同様に閉経前の乳癌が増えていることは確かみたいです。

 中国の都市部における食生活の変化も見逃せません。食の欧米化は、上海でもちょくちょくみられる現象で、中国の伝統食といわれる米・小麦・野菜・豚肉・大豆などの食材以外に、乳製品、揚げ物などを含む西洋的な食材や過度な添加物を摂取することが増えてきています。また、クルマ社会となってきて運動するチャンスが明らかに減っており、閉経後の肥満問題も増えてきています。
 調査によれば、中国人女性の場合、BMI値が24以上の女性が乳癌にかかるリスクは、24未満と比較して4倍に増えるといいます。とくに閉経後の場合は顕著になってきているようで、肥満を如何に抑えるかが中国の乳癌予防でとても大切な要素となってきています。

 そのほか、体内もしくは体外から摂取される女性ホルモンとも関係があるといわれています。特に、更年期対策に使われることもあるホルモン療法や、ピルなどの避妊薬の服用も、その服用期間の長さによっては、乳癌リスクと関係がある可能性も指摘されています。ちなみに、更年期対策では、ぜひ漢方医学や中医学も一度活用してみてください。かなりの効果が期待できるはずです。

 また、最近では乳癌の遺伝的原因も遺伝子レベルの研究で分かってくるようになってきました。それにより発症する時期も推測できるような乳癌の種類も分かってきています。

 いずれにしろ、乳癌予防の基本的なポイントは、1.良好な生活習慣、2.アルコールの摂取を控える、3.高脂肪・高カロリーな食材の摂取を控える、4.ストレスの軽減、5.運動を欠かさない、などが挙げられます。このブログでもこれまでにいろいろ紹介してきました。(運動アルコールに関してはリンクをご覧ください。)

 乳癌の定期的な検査は早期発見のためにも重要です。25歳以降になればぜひこの問題を留意してほしいです。若くして乳癌に罹患する日本人や中国人の女性が少なくないからです。

 また、マンモグラフィーの検査は重要ですが、乳腺などに邪魔されて表示が完璧ではないということも留意しておく必要があります。年齢が若い、20代のぐらいの女性でマンモグラフィー検査を一般的に推奨されないのはそのためです。不必要な検査による被爆は避けなくてはいけません。

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