2014年10月27日

中国の農村に伝わる中医学「土方」の重要性

 中医学には「土方」という言葉があります。
 これは、「傷寒雑病論」など古典的理論から掲載された「経方」などの処方と違って、地方・農村に伝わる処方で、一般にある一つの特定の疾患に対して効果が出る処方のことを指します。

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(上海黄浦江の源流がある浙江省安吉の竜王山)
 農村では、日常生活のなかでいざというときに使うことも多く、中医学の発展とも強く結びつきがあります。中には、中身的に「それはないだろう・・・」、という処方もないことはないのですが、大抵は中医学の基礎知識があれば理解出来るものばかりです。そして、我々中医学に携わる医師が、日頃の診察でも十分に活用できる処方も沢山ありますが、なんせ記録されていないので、現地にいかないと分からないことばかりなのです。

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(子供たちは土いじりが大好きです)
 そこで私は上海での休診日を利用して、月に1回はクルマを4時間ほど走らせて浙江省安吉まで来ています。自然豊かな天目山近くのこのエリアは、豊かな自然があり、薬草の宝庫でもあります。まさに、ここでそうした「土方」の数々が沢山伝わっているのです。地元で、中医学にくわしい農民にいろいろ話を聞くのは楽しいもので、とくに重要なのは、学術的にも先祖代々から伝わっている処方を我々が記録して残しておく必要もあります。
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(野菜は完全自給自足。そもそも農薬の心配はないのです)

 例えば、地元で伝わっている風寒系の感冒の治療。粳米30gに老姜片(生姜)少々でお粥をつくり、葱白2本と陳酢(3〜5年仕込みの黒酢)で仕上げます。ここではお酢を使うのがポイントで、活血作用があるのを利用しています。

 そのほか、健康維持に考案された処方では、杜仲と桑叶と山査子を組み合わせますが、いずれも農村にいったら手に入りやすい薬草ばかり。杜仲は骨に入り、桑叶は肺に入り、山査子は腎に入るので、日常的に服用することもできます。

 私にとって目から鱗だったのが婦人科で使われている処方。主に出産前の若い女性の生理不順に使う処方なのですが、生理1日目・2日目・3日目だけ異なった処方を順番に服用するという考え方。

 1日目は経血が来るように催促し、2日目は経血が下りるように活血し、3日目は経血が収まるようにする。こういうやり方は中医学の教科書にはまず出て来ません。でも、月経という生理的な現象を考えた場合、とても理屈にあっていますね。

 さらに、地元で採取される薬草の使い方もいろいろ教わりました。この中から、我々現代の疾患に対応出来るなにかが見つかる可能性も十分にありますから。

東和クリニック・中医科での担当スケジュール
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2014年10月26日

産後の腰痛の中医治療

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 中国では、産後1ヶ月はしっかりと休み、身体を養うことが一般的です。「坐月子」ともいいますが、家庭によってはテレビを見るのをダメとか、髪の毛を洗うのもだめとか、ちょっと行きすぎているところもありますが、いずれにしろ、この時期の休養は中医学ではとても大切とされています。

 先日診察した患者さんに「産後の腰痛」でこられた方がおられました。

 夏でも時々見かけますが、寒くなる秋〜冬にかけて出産した人がより気をつけてほしいのが「産後の腰痛」です。

 一般的に、出産によって女性の身体は一時的に気血が消耗しており、腎の気がかなり低いレベルにあります。瘀血が身体の中に残っていることもあるでしょう。

 そこに、病気の原因となる寒さの邪気、「寒邪」を受けやすくなり、その結果、腰の重さ・怠さ・冷え、下半身の怠さなどを感じるというわけです。

 そんなときは、寒さをとってあげて、腎を補ってあげればよい効果がでることが多いです。滋腎として六味地黄湯をベースに腎陽を補う仙霊脾・川断・巴戟天・桑寄生などを加減し、痛みが強いときは桂枝・白芍など加えて通痺させます。これに、膀胱経からアプローチできる鍼や灸を組み合わせると、さらに効果的です。

 ちなみに、産後のおっぱいの問題にも中医学は広く使われます。母乳の出が悪いときや詰まったりするとき、さらに乳腺炎になりそうなとき、ゆくゆく断乳や卒乳をするときなどには中医学にはさまざまな経験があります。

 産婦人科の分野と中医学は、現代の中国でもとても密接な関係にあります。

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posted by 藤田 康介 at 22:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2014年10月21日

中医学を普及させるための上海市の取り組み〜按摩器のプレゼント〜

  日本でも、漢方医学の普及にさまざまな活動が行われていますが、こちら中国でも同様で、中医学の普及を目指して様々な取り組みが行われています。「未病を治す」を実行するために、市民が自宅でもできる中医学の療法を普及させるのが狙いのようです。

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 これまで、メタボを確認できる?!メージャーや、クシを使った健康法などもありました。

 メジャーに関しては、こちらから、クシに関してはこちらに記事があります。

 さて、今回、上海市民全世帯対象に配られたのはなんと「按摩機」。我が家にも、管理組合を通じて届きましたが、アイデはなかなかだと思います。経穴を刺激する部分と、刮痧につかえる部部とに分かれていて、手に握って使います。

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 さらに、上海市健康促進委員会弁公室が発行している「上海市民建康生活応知応会手册」という冊子もついていて、「上海市人民政府 贈」となっています。

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 今回は、常用するツボ(経穴)の紹介です。いずれも、臨床でとってもよく使うものばかり。この16箇所はぜひ知っておきたいですね。

 頭痛には太陽穴

 目の保養に四白穴・晴明穴

 耳鳴りに聴宮穴

 鼻づまりに迎香穴

 失神したときに人中穴

 秋の干燥に魚際穴

 夏ばてに労宮穴

 骨と腰の強化に後渓穴

 歯の痛みに合谷穴

 四肢の冷えに陽池穴

 口臭に大陵穴

 車酔いに内関穴

 便秘に支溝穴

 健康長寿のための足三里

 月経を整える三陰交


 いやいや、とっても分かりやすい。しかも、ツボの取り方も図表で示されているので、誰でも簡単に見つけられると思います。そのツボを使うためのワンポイントアドバイスなんかも良いですね。

 ちなみに、上海市民の健康ホットラインの電話番号は12320だそうです。Wechatのアカウントもあります。

 ◆東和クリニック・中医科での担当スケジュール
posted by 藤田 康介 at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 「治未病」という発想

2014年10月02日

中医学の糕(こう)〜八珍糕〜

 国慶節直前に行った紹興旅行の続き。

 ご存じの通り、様々な点心(お菓子類)も、中医学の世界では立派な養生食となります。紹興の中医薬局「震元堂」で見つけたこの八珍糕もまたその一つです。なかなか美味でした。

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 この八珍糕の言われですが、清代の光緒6年(1880年)9月にさかのぼるらしい。


 一説によると西太后が、食生活の不摂生で、消化不良や食欲不振、下痢などの症状で苦しんだときに、太医たちが相談して出した診断は「脾胃虚弱」で、補脾益胃の生薬を処方したのが、この八珍糕の原形ともなる「健脾糕」だそうです。


 しばらくこれを服用した西太后でしたが、症状は改善し、食欲も増加、体力もついてきたとのこと。すっかり気に入った西太后は、「健脾糕」を「八珍糕」と呼ぶようになり、健康維持のためによく食したそうです。

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 八珍糕には、以下の8種類の生薬が使われています。


 茯苓・・・健脾補中・寧心安神作用
 芡実・・・健脾止泄作用
 薏苡仁・・・健脾開胃作用
 山薬・・・補虚・益肺腎作用
 扁豆・・・理中益気・補腎健胃
 麦芽・・・消食和中
 白朮・・・健脾補気・燥湿利水
 党参・・・益気健脾・生津養血


 こうみてみるとまさに参苓白朮散のベースがしっかりと入っていますね。


 服用方法は、それぞれをしっかりと粉にして、多少の砂糖と藕粉(蓮根が原料)を混ぜ、水に溶かして型に入れ固め、糕を作ってきます。


 さて、実際に食べてみると。。。。

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 これが意外と美味しい。甘さも控えめで、すっと胃の中に入っていきそうです。


 ただ、粉を固めて作ったものなので、パラパラと落ちてくるのが難点ですが。


 お菓子のようですが、ちゃんと中医師のアイデアと絶妙な処方の組み合わせが反映されています。中医薬の活用法の一つだと思います。


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2014年10月01日

紹興の巷の中医学

  国慶節直前に行った紹興旅行の続きです。

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 紹興のように歴史のある街だと、もちろん名医も輩出していますが、街歩きでちょくちょく中医学の診療所を見かけます。代々伝わっている中医学の家系も多く、思わずのぞいてみたくなりますね。

 西洋医学が本格的に普及する前は町医者としての役割はありましたし、もちろん今現在でも地元の人たちは気軽にそうした診療所に出かけます。よろず相談みたいな場所でもあったと思います。

 そのうちの一軒にふらっと訪れてみました。ちょうど妻が肩こりだったので、ものは試しとどんな治療法をするのか体験してみることにしました。
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 ちょうど膝の痛みで来られていた常連さんがおられたので、膏薬の使い方を見せてもらいました。興味深かったのは、膏薬の貼り方。布に、直接生薬膏薬を塗りつけて、テープなども使わずにそのまま患部にぺたりと貼り付けました。固定しなくても落ちてこないのだそうです。

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 膏薬にはいろいろな種類があり、状態によって使い分けますが、これもまた中医学の特色の一つで、伝統ある骨傷科(整形外科)では、多種多様な膏薬が自作されています。中医学は基本的に生薬などを服用する内治法と外用薬や鍼灸を活用する外治法を療法活用するのが本来の姿で、地方に行くとこういう治療法は色々残っているのですが、伝統にうるさくなると「秘伝」になってしまうのも残念な話です。

 紹興市内の倉橋直街を散策していると、これも老舗ブランドとして「中華老号」の称号を受けている中医薬局「震元堂」を見つけました。

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 立派な木造の家屋です。

 老街と呼ばれる、古い市街地にはこういう老舗薬局が残されていることがおおいです。有名なのでは、国の文化財にもなっている
胡慶余堂中医薬局
がありますが、そこまで大きくなくても、小さな中医薬局は田舎でもよく見かけます。

 伝統的な生薬棚が置くに鎮座していて、吹き抜けの待合室を中心に、両側には診察室があるというのがよくある形式で、紹興のような古い街並みに溶け込むような感じがしました。

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 そのほか、銭氏婦人科の看板も。浙江省の4大中医婦人科(嘉興の陳氏、寧波の宋氏、肖山の竹林寺、紹興の銭氏)の流れをくむ一派。ここに、銭氏婦人科の第22代が診療所を作ったのだそうです。

 こうしてみてみると、いかに中医学が人々の日常生活に近かったかよく分かると思います。

 ちなみに、震元堂のとなりはこれまた有名な紹興酒の老舗「古越竜山」のお店。

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 中医学では元来、紹興酒を薬として使いますし、きっといろいろ行き来があったんだろうなと想像しました。ここの紹興酒は、濃厚でかつちょっと甘みがあり、下戸の私でも飲みやすいものでした。

東和クリニック・中医科での担当スケジュール
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力