2013年07月30日

午後の発熱感ー猛暑の中の中医学

IMG_5556.jpg

上海は7月26日の13:36〜13:47に上海市徐家匯で1873年観測史上最高の40.6℃を記録し、さらに赤色高温警報が発令されました。今日、27日もお昼に出勤するときにクルマの温度計をみたら41℃を示していました。こう暑い天気がつづくと、もう身体が暑さに対して麻痺してしまいますね。それでも、上海には冬があるので、いつかは気温が下がるという望みがあるのは救いです。

 暑くなってくると、体温調節がうまくいかないという声を時々聞きます。

 先日診察した42歳の女性。平熱は36.0℃前後なのに、7月に入ってから午後に微熱を感じるようになる。体温を測ると37℃前後となり、頭が痛く感じ、胸が痞えるなどの症状もありました。喉の渇きはとくにないが、疲れを感じることが多い。四肢は平素より浮腫みやすい。舌質淡白苔白厚、脈弦細。


 こうした午後に身体が火照りやすいという症状は、夏によくみられます。中医学でも昔から色々な学者が研究しています。清代に書かれた『温病条辨』の有名な条文に「長夏初秋、湿中生熱、則暑病偏於湿者也。」とあります。中医学では、湿は陰性の邪気になるため、湿が身体に留まることで熱が体内に籠もってしまい、午後に熱が出てくるという考え方があります。さらに、湿が気の流れを妨げるため、身体のだるさが顕著になってきます。

 ただし、注意しないといけないのは、陰が不足することで発生する午後の発熱との区別です。もし間違って陰を補う生薬を使ってしまうと、湿を追い出すことが難しくなるからです。

 そんなとき、とても素晴らしい処方が伝わっています。それが、『温病条弁』の「三仁湯」です。処方構成は生薏苡仁・滑石・杏仁・半夏・通草・白豆蔲・竹葉・厚朴となっていますが、とても切れのいい効果を発揮します。処方構成は湿熱を上焦・中焦・下焦から除去しようと考えられていて、本来は湿温病の初期に用いますが、それ以外でも応用範囲が広いと思います。


 さて、上記の患者さんにもこの処方を中心に、多少加減をして使いました。すると、服用1週間で不快な午後の発熱感が解消されずいぶんラクになりました。その後も、再発がないとのことです。


 補足ですが、H7N9型鳥インフルエンザの治療でも三仁湯を使ったという症例報告もあります。湿熱系の治療には欠かせない名処方ですね。

 まだまだ蒸し暑い猛暑が続く上海では、まだまだ活躍しそうです。


posted by 藤田 康介 at 12:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2013年07月28日

連載 LOOK上海 2013年7月号 ドクダミ

上海市内の日本料理屋などで無料配付されているフリーペーパー「LOOK上海」の依頼をうけて、毎月気軽な読み物として中医学の生薬にまつわるお話を「中医探訪」というタイトルで書いています。

なかなか雑誌が見当たらないという声もあり、もし過去のバックナンバーをよんでみたいという方がおられましたら診察室にありますので診察時にでもおっしゃってください。

IMG_6459.jpg

 7月号は「どくだみ」について書いてみました。中国では、四川省などで食材として使われますし、上海でもスーパーで売っていることがあります。ただ、独特のクセのある味・ニオイなので、好き嫌いが分かれますが、だからこそ「魚腥草」という名前がついているのでしょうね。

posted by 藤田 康介 at 14:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2013年07月26日

月経周期を整える「調経」の考え方

 中医学を使った治療で、中医学が比較的得意とする分野に、女性の月経周期をきちんと戻す、「調経」という治療があります。「調経」は一般の中国語でも比較的よく使われる言葉で、中国人女性の間では中医学治療への認識が高い分野でもあります。

 先日、妊娠したと報告をうけた患者さん(35歳)も、この調経治療を行ってきた結果、うまく妊娠できた症例です。今から10ヶ月前に受診されたとき、もともと月経周期が2〜4ヶ月に1回という稀発月経で、そもそも基礎体温が殆ど安定せず、排卵時期も読みづらい傾向にありました。月経前後のPMSもあり、胸の張りも顕著で、肩こりと偏頭痛を持っているという体質。便秘気味で、腹診は腹直筋の攣急を認めるタイプ。出血量は決して多くなく、血塊も殆どなかったので、まずは扶脾滋養肝腎・調理冲任を処方。さらに、肝気の流れに着目して、疏肝理気させると、便通は大きく改善し、とりあず生薬服用開始1週間目に約100日目ぶりの月経がきました。

 ただし、この回の月経痛がひどかったので、気の流れは多少整ったものの、血の流れにまだ問題があると判断し理気剤を減らして活血調経法に。その後だいたい35〜40日程度で月経が来るようになり、なりよりも基礎体温の低温期と高温期がだんだんと読めるようになってきました。月経痛もおさまり、月経周期が安定してくるとしめたものです。少しずつ処方の加減を繰り返し、10ヶ月目の今年7月に妊娠したことが分かりました。

 月経病の治療は、中医学でもかなり細かく分類されています。今回は、調経の目的での稀発月経の治療でしたが、中医学では月経後期もしくは経水後期と呼びます。その他、月経時の下痢・頭痛・嘔吐・発熱・痤瘡(ニキビ)などなどさまざまなケースに中医学の先人達は経験を残しています。

 もちろん、この患者さんの場合も、ご自身による身体養生の努力もありましたが、とにかく妊娠まで到達することができて私も非常に嬉しかったです。


posted by 藤田 康介 at 07:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2013年07月24日

腹七分目がいいらしい、上海での実験

 中国にいると、会食などで満腹になることが社交上必要となる状況にどうしてもぶちあたりますが、これが身体によくないというのは百も承知です。

 中医学の養生ではハ分目どころか、腹七分目というのが普通で、中国語でも「腹七分目」が一般的です。この違いに意味があるかないかは私はよく分かりませんが、上海交通大学の趙立平教授らのグループがこんな実験をして発表していました。

 結果は7月にすでに『Nature Communications』に発表されています。
 実験ではマウスを使い、脂質が少ないエサと脂質が多いエサをグループ分けして与え、さらに摂取量も全く自由に食べさせるグループと7割程度に制限するグループ、自由に食べさせて運動させるグループにも分けました。

 この結果、寿命が一番長かったのは、低脂肪のエサを摂取制限していたグループで、低脂肪のエサを自由に食べていたグループよりも寿命の中間数が20%増加したということです。一方で、一番寿命が短かったのが、高脂肪のエサを自由に摂取していたグループ。これと低脂肪のエサ摂取量を制限していたグループと比較すると、高脂肪のエサを自由に摂取していたグループよりも寿命の中間数が50%も増加しました。長いものでは4年間も生きたそうです。

 さらに、興味深いのは高脂肪の食べ物でも、量を制限したグループで有意義的に寿命が延び、低脂肪で自由に摂取したグループと低脂肪で運動させたグループのとほぼ同じぐらいの効果が見られたということ。やはり食べる量は重要ですね。

 さて、運動に関してですが、高脂肪のエサを食べていたグループでは、運動有無による寿命に対する影響はあったが、低脂肪のエサでは運動有無による寿命への影響は殆どなかったらしい。運動する時間がないのなら、極力低脂肪の食べ物を摂取するほうがよいということかも。

 結局、低脂肪と高脂肪の食べ物が寿命に与える影響は大いにあり、肥満と寿命との関係も十分考えられますね。

 この実験では、さらにマウスの腸内細菌についても調べています。マウスの腸内細菌は、年齢と相関性があり、とくに中年時期になると飲食の影響を大きく受けやすくなるということです。
 また、低脂肪のエサで摂取制限をしていたグループは、その他のグループと腸内細菌で大きな違いがあることもわかりました。ただし、運動の有無による腸内細菌の違いは殆ど見られなかったと言うことです。

 そこで、研究グループでは寿命が長くなることと関係のある腸内細菌と、逆に短くなる腸内細菌を洗い出しました。その結果、寿命が長くなる腸内細菌は、乳酸菌など腸の細胞に栄養を与えたり、炎症を防ぐ働きがあったりしますが、寿命が短くなる腸内細菌は、疾患の発生と関係があるということでした。

 摂食制限により、適度の量の栄養が吸収され、残った食物繊維が腸に適度残り、有益な腸細菌を残す一方、食べすぎることで過剰なタンパク質などの栄養素が身体に有害な腸内細菌を増やしているのではないかと考えられています。

 研究グループでは、さらに研究を進めて、腸内細菌と食べ物の関係を明らかにし、腸内細菌がどういう構成で成り立っていて、毒素類を出していないか、さらに毒素がどういう影響を身体に与えているかを分析できるようにしたいということです。

 現代社会では食べるものが溢れているので、量を制限するのは難しいことかもしれませんが、でもどんなに身体に良いものでも、食べ過ぎたらダメと言うことですね。




 
posted by 藤田 康介 at 18:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の健康事情

2013年07月19日

広東省や東南アジアのデング熱

 広東省の疾病予防コントロールセンターの情報では、最近、広東省深セン・広州・中山などで海外で感染して発病するデング熱感染者が増えているということで、注意を呼びかけています。そのほかにも、麻疹・ノロウイルスによる下痢などに対しても注意が必要とのことでした。

 今年に入って、シンガポール・ラオス・タイ・ベトナムなど東南アジア各国で、デング熱による死者が出ており、7月14日までのデータではその死亡者数は146人になるということです。症例数は各国で過去最高を記録しています。

 また、広東省衛生当局では、2013年上半期に確認されたデング熱患者数は15例で、6月は5例報告されています。

 デング熱はデングウイルスを保有した蚊を媒介して感染します。そのため、蚊の増殖を防止することが大切です。広東省では、5月以降、蚊の数が警戒値を大きく超えており、市民にたいして、ベランダの水たまりの水などを処理するように呼びかけています。

 デング熱の主な症状は、発熱・皮疹・関節の痛みなどです。皮疹ははしかの症状にも似ています。また、稀ですがデング出血熱に進行することがあるようですが、症状はかなり重篤になります。以前、デング出血熱から無事回復した患者さんから貴重な体験を伺いました。

 上海では、ここ最近、下痢の患者さんが増えているような感じがします。手洗いをしっかりとし、生ものはなるべく食べないように気をつけてください。そもそも、私が上海にきた20年近く前は、夏場に刺身を食べることは怖くて出来ませんでした。世の中の進歩は大きいですね。

posted by 藤田 康介 at 19:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝染病と闘う

2013年07月12日

長夏の始まり、小暑

 連日最高気温が38℃を超えている上海です。新暦の7月7日は日本では七夕とするところが多いですが、中国ではこのころがむしろ二四節季の「小暑」であることのほうが有名です。

IMG_5248.jpg
(上海の田んぼの稲の緑)

 中医学では、春夏秋冬による四季の養生があります。たとえは、春は肝、夏は心、秋は肺、冬は腎というように養生を考えますが、その中で忘れてはならないのは長夏の存在です。ちょうど、二四節季では小暑から立秋の間に入る季節のことを長夏といいます。この時期は、暑さはもちろんのこと、湿気が非常に高いのが特徴です。そのため、中医学では湿気を嫌う脾の養生に注意します。

 湿気が身体にどういう影響を与えるかは、日本や中国の夏を体験したらよく分かると思います。身体が何となく重く、食欲が減退し、疲労感が出て来ます。場合によっては、便が緩くなったり、目眩や頭痛を感じたりすることも多いです。まさに、この小暑を過ぎたあたりから、湿気対策を重視します。

IMG_5257.jpg

 湿気対策は、中国でもそれぞれの地域によって違いますが、たとえば我が家は妻も中医学の医師で地元上海人なので、その食生活を見てみるといろいろ反映されています。基本的に、この時期に我が家の食卓に出てくる料理は、あっさりとした薄味で、消化しやすい物が多いです。薬膳以前に、そういう食材が市場に多く出回るんですよね。

IMG_5261.jpg
(夏の食卓)

 たとえば、緑豆や小豆や大豆などの豆類、冬瓜・苦瓜・キュウリ・ヘチマなどの瓜類、アヒル・豚肉などの肉類、上海の特産でもある西瓜や桃などもよく食べます。湿をとることを考えると、ハトムギやハスの実、山芋なんかも重宝します。

 一方で、衛生状態も考えると、この時期の生ものはなるべく避けたいです。患者さんをみていても、下痢を訴える方が少なくありません。この時期になると、腸の調子がよくないというのもやはり湿気と脾臓と関係があると思います。

 高温と湿気から如何にして身体を守るか。これぞこの長夏時期に一番注意しないといけないことなのです。

posted by 藤田 康介 at 07:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の薬膳・医食同源の世界

2013年07月10日

「医道の日本」7月号 インタビュー記事

 日本から送られてきた「医道の日本」7月号に、先日私が受けたインタビューの記事が掲載されました。海外で働く、鍼灸マッサージ師の特集での記事でした。各国の鍼灸事情も紹介されていて、なかなか興味深い内容になっていました。

IMG_5237.jpg

IMG_5238.jpg

 現実問題、中国で外国人が医師として働くことは年々難しくなってきているのが現状です。私もなんとかここの永住権が取得できたので上海での診察を継続していますが、残念なことに外国人が単純に「中医師」として就労ビザや居留証を取ることは殆ど不可能になってしまいました。

 その背景には、日中間のさまざまな事情があります。日本の鍼灸師の資格はこちらでは中医師として認められるわけではないですし(その逆もまた然り)、唯一認められていた、外国人の中国の中医薬大学を卒業してのルートも近年は閉ざされてしまいました。さらに、中国人大学生の就職難の問題もあり、外国人就労の問題がすぐに解決することは難しいでしょう。

 とはいえ、外国人による中医師の息が完全に途絶えてしまわないように、ここで踏ん張る必要性はあるとも思っています。

 今後も中国での中医学の現状を発信し続けたいと思っています。

 

posted by 藤田 康介 at 11:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2013年07月07日

季刊「中医臨床」2013年6月号 連載「抜罐法」 Vol.34-No.2

 「未病を治す」をテーマに、毎回、様々な中医学の治療法を連載方式で紹介しています。

 今回は、抜罐法を取りあげてみました。日本でもかなりお馴染みになっている治療方法ですが、中国でも同様です。今では、会所など娯楽施設でも行われている施術法になりました。

 近年では、喘息や咳の治療でも使うガイドラインも出ています。

IMG_5259.jpg

IMG_5258.jpg続きを読む
posted by 藤田 康介 at 11:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2013年07月04日

自家製の酸梅湯

昨日は本当に暑かった。クルマで浦東の我が家を出たときの気温は、お昼で36℃。うお〜、と思ったら、浦西の中医クリニックに到着すると38℃。やはり、世紀公園エリアと浦西のど真ん中では2℃ぐらいの差があります。夜の診察をおえて、9時半頃に再び気温をみると、浦東の内環状線の上での気温が36℃、浦東の我が家に到着すると36℃でした。やっぱり2℃の差がある。

でも、多くの家ではエアコンをつけて窓をあけていないので、外の温度変化には気づいていないのではないかと思います。実際、明け方4時半頃に起床すると、まだエアコンなしでも仕事ができるんです。

IMG_5192.jpg

 夜、家に帰ったら、妻が酸梅湯を作っていました。

 中国の食べ物も、日本同様、季節感をとても大切にします。

 上海では、伝統的に夏に飲んだり食べたりするものがいろいろあり、その殆どがこの暑さと湿気に関係があります。代表的なのが緑豆湯であったり、様々な薬味でたべる涼皮であったり、キンキンに冷やさなくても涼感を感じられるのはいいです。

IMG_5193.jpg

 酸梅湯は、見た目はなんかあの苦い中医薬の煎じ薬に見えますが、甘酸っぱい味が結構いけます。生薬でも使う烏梅や山査子に氷砂糖をいれて煮詰めて作りますが、家庭によっていろいろレシピがあると思います。我が家では、新疆から送られてきた大棗も使います。

 中国人にとって、この酸梅湯はいろいろなの思い出があるはずです。アイスクリームとかなかった時代でしたから、それでもこういう酸っぱさと甘さを兼ね備えた飲みものは重宝されたらしい。これぞまさに生活の知恵で、飲むと不思議と涼しさを感じます。

 酸梅湯は、清代の宮廷でも飲まれたといいます。

 中国の食文化の楽しみ。

posted by 藤田 康介 at 07:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の薬膳・医食同源の世界