今年の上海の梅雨は、ジメジメしますよね。気温が高い日はまだそれほど多くないのですが、なかなか太陽が顔を見せない。そして雨も多い。
こんなとき、体調の不良を訴える方も増えます。特に、脳血管系に持病を持っている人は、気圧の変化で交感神経優位な状態が続き、血圧や心拍数が上昇したりするものです。また、ジメジメ感に負けてしまって、ついついエアコンの温度が低すぎるのも問題で、特にもともと身体を動かして汗をかくことが少ない人は要注意。逆に運動して大汗をかいて、エアコンの効いた部屋に急に入ったりするのもよくない。こうした現象は、中医学では六淫の一つである、湿邪が体内に入ってくることと絡めて考えます。
さらに、最近の傾向として、食欲不振や下痢、眠い、だるいといった症状を訴える方も少なくありません。下痢までいかなくても、大便が粘っこい、あまり水を飲みたくないなどといった症状も湿邪と関係があります。また、湿邪が体表を攻めると皮膚疾患も増えてくる。アトピー性皮膚炎や湿疹など日頃抱えていた症状が悪化したり、蕁麻疹や神経性皮膚炎、水虫などの真菌感染などがそうです。湿邪が経絡に入ってしまうと、肩こり腰痛、関節痛などの症状が出て来ます。関節リウマチや偏頭痛を持病に持っている人が、この時期に痛みを感じるのはそのためとも考えられます。
では、この湿邪に対してどのように身体を対応させるべきか。近年、伝統医学のブームも手伝って、色々なところでも記事が出ていますが、少し整理してみます。
まずは、なるべく湿気を感じる場所には行かないと言うこと。エアコンをうまく活用して、大雨の時は窓を開けすぎない、またエアコンのフィルターはまめに掃除する(出来たら月に1回)、外に出たときは雨に濡れないようにして、あまりジメジメした場所には居続けない、衣類の調節はこまめにといった点です。とくに、若い女性にみられますが、冷たい雨の中サンダルで走り回っている人がいます。これは、まともに湿気を呼び込むので注意です。
この時期、私が中医学を勉強した上海を含めた、江南エリアでは、湿に対する様々な地元の生薬を使い、中国北方エリアの中医学とはまたちょっと違うのです。例えば、上海の田舎にいけば、フジバカマがはえているのをよくみかけますが、これもこの時期によく使います。
原則は、生もの・冷たいもの・油っぽいものは湿を呼び込みやすいので食べないようにする。湿気対策以外にも食中毒予防のために重要です。暑い時期に、辛いものを食べて汗をかきたいという人もいますが、これは場合によって陽過剰状態を引き起こしてニキビなど皮膚疾患や腫れ物を悪化させると考えます。一方で、熱冷ましの冷たいビールや飲み物は、陽気を損傷させてしまう。このあたりのバランスが難しいかもしれません。
ということで、やっぱり消化機能を整える健脾化湿系のものが重要となってきます。代表的なのは、ハトムギ・山芋・冬瓜・フジマメ(白扁豆・ビャクヘンズ)・緑豆・小豆など。さらに、ハスの実・椎茸・白キクラゲ・カリフラワー・セロリ・キュウリ・空心菜
・ニンジン・南瓜・モヤシなんかがお薦め。上海の市場にいけば、これからの時期増えてくるものばかりですよね。
それと、湿邪を追い出すには、運動はとっても大切です。最近、日本のCMでも見かける「気血」という言葉ですが、この気血を循環させ、滞りをなくすことが実は湿気対策には大切です。適度に汗をかくこともそうです。そういった意味では、サウナでダラダラ汗をかくよりも日本式にぬるめのお湯に浸かることに方が中医学的にも理にかなっていると私は考えます。
2013年06月29日
2013年06月28日
広東省や浙江省で多い梅毒
上海で、大学附属病院の皮膚科にいたころ、確かに梅毒に感染した症例はありましたが、そんなに多いことはないと思います。それでも、中国では人口が多いだけに、決して少ないというわけではありません。
2012年で中国全国で報告された梅毒の症例数は44.8万例。このうち、広東省が5.1万例、浙江省が3.5万例、広東省のとなりにある広西で3.3万例とのこと。また、トップの広東省で報告されている性病は14.6万例なので、このうち約三分の一近くが梅毒だということになります。前年比と比較しても3.9%の増加。
広東省で梅毒が多いのは、実はかなり以前から有名だったのですが、近年ならではの特徴があるのだそうです。広東省皮膚病院によると、まずは同性愛者の間での梅毒陽性率が高く、10%を越えているとのこと。また、同性愛者のうち、男性の同性愛者のほうがその割合が高くて、20%を越えるということ。そして、感染して間もないので感染力が強いと言うこと。
広東省自体が、中国でもかなり前からさまざまな分野での「開放」が進んでいて・・・、ということなのですが、高齢化社会も進んでいて、梅毒に関しては最近では20〜45歳世代だけでなく、60歳以上の世代でも増えているのだそうです。60歳以上の退職者は時間的にも余裕があり、お金もあり、さらに彼らが集まる公園などでいかがわしい場所が作られたりしているらしい。(これは私も知りませんでした。)
中国のビザを取得するときに、皆さん経験済みかと思いますが、梅毒の検査は市内のローカルの総合病院でも簡単にできます。
とはいえ、まずは健全に、健全に・・・・。
2012年で中国全国で報告された梅毒の症例数は44.8万例。このうち、広東省が5.1万例、浙江省が3.5万例、広東省のとなりにある広西で3.3万例とのこと。また、トップの広東省で報告されている性病は14.6万例なので、このうち約三分の一近くが梅毒だということになります。前年比と比較しても3.9%の増加。
広東省で梅毒が多いのは、実はかなり以前から有名だったのですが、近年ならではの特徴があるのだそうです。広東省皮膚病院によると、まずは同性愛者の間での梅毒陽性率が高く、10%を越えているとのこと。また、同性愛者のうち、男性の同性愛者のほうがその割合が高くて、20%を越えるということ。そして、感染して間もないので感染力が強いと言うこと。
広東省自体が、中国でもかなり前からさまざまな分野での「開放」が進んでいて・・・、ということなのですが、高齢化社会も進んでいて、梅毒に関しては最近では20〜45歳世代だけでなく、60歳以上の世代でも増えているのだそうです。60歳以上の退職者は時間的にも余裕があり、お金もあり、さらに彼らが集まる公園などでいかがわしい場所が作られたりしているらしい。(これは私も知りませんでした。)
中国のビザを取得するときに、皆さん経験済みかと思いますが、梅毒の検査は市内のローカルの総合病院でも簡単にできます。
とはいえ、まずは健全に、健全に・・・・。
2013年06月27日
上海で急増しているアレルギー疾患の実態研究
先日、中国で始めて行われた成人の喘息患者の動向についての疫学調査については、このブログでも紹介しました。北京・上海で増える喘息患者に書いております。
今度は、中国の子供に関しての喘息・アトピー性皮膚炎・鼻炎に関しての調査が行われ、さらに室内内装との関連について考察されています。とくに、個性的なゴタゴタした内装がすきな中国なので、この問題は日本以上に大きな問題だと思います。
中国環境科学学会室内環境と健康分会が2013年6月に公表したデータですが、2010年〜2011年にかけて、北京・上海・ハルビン・西安・重慶・長沙・武漢・太原・南京・ウルムチの10都市で、1〜8歳の幼稚園・小学生の4万8000人の子供たちを対象に、International Study of Asthma and Allergies in Childhood (国際小児喘息、ISAAC)での調査でもちいられる方法を使い、このうち3〜6歳の子供に関してのデータを分析したということです。
この結果、こどもの喘息の発病率は、1990年は0.91%、2000年は1.5%だったのに、2010年は6.8%と大幅に増えていることが分かっています。細かく見ていくと、呼吸がゼイゼイとする子供が13.9〜23.7%、鼻炎症状が24.0〜50.8%、アトピー性皮膚炎が4.8〜15.8%ということでした。
上海に関して詳しく見てみると、この10都市のなかで、呼吸がゼイゼイとする項目はウルムチがトップでしたが、それ以外の鼻炎症状やアトピー性皮膚炎に関しては上海がトップでした。また、10都市のなかで、喘息の罹患率は上海がトップで10.6%、逆に一番少なかったのが太原で1.6%でした。
私が興味深いなと思ったのは、こうした疾患の原因となっている物質として、屋外のPM2.5やPM10との関連よりも、むしろシックハウスなど室内環境との関連性があったという結果です。
調査したのが室内環境を研究している学会なので、そのあたりの分析をみてみると、近年の住宅建設ラッシュで、大量に新建材を使ったり、気密性の高い構造のマンションが増え、また有害ガスを発生する電気製品の増加で、室内環境の悪化が進んでいるとしています。
たとえば、この学会が調査した室内の化学物質による汚染状況は、基準値を超えた住宅の割合は上海の場合、ホルムアルデヒドが25%、ベンゼンが2%、キシレンが34%、トルエンが38%でした。特に、キシレンの基準値超えは中国では深刻のようで、杭州や南京では67%の住宅で基準値を越えていました。
上海の場合、中国人の暮らし方をみていると、子供も大人も屋内で活動することが多いように思います。実際、1日のうち87%以上は部屋で過ごしているという研究データもあります。そうなると、屋外の大気汚染も問題ですが、屋内の建材やダニ・カビなどによる汚染による影響も大変大きいのは想像に難くないはず。とくに、今のような梅雨時期でジメジメとしているときは、要注意ですね。
これから暑くなってくると、エアコンの衛生問題も対策をしておく必要があります。エアコンのフィルターは、カビ・ダニ・ほこりのすみかになっています。上海のような高温多湿なエリアでは、1ヶ月に1回はフイルターの掃除・消毒をしたほうがよいともいわれています。空調のある部屋の細菌数は、空調のない部屋と比較して多いという研究もありました。
しかし、中国の家具・建材の問題は厄介ですね。こうした製品の値段は安いのですが、果たしてちゃんとした基準を満たしているかどうかはしっかりとしらべないといけません。室内環境の揮発性有機化合物(VOC)を増やさないためにも、内装は極力簡単にし、家具や建具を置きすぎないことは重要だと思います。
上海のアレルギー疾患も、いよいよ先進国並みに増えてきました。経済の発展に伴い、ある意味仕方がない結果なのかもしれません。健康と発展の両立は難しいです。
参考文献:上海『新聞晩報』
今度は、中国の子供に関しての喘息・アトピー性皮膚炎・鼻炎に関しての調査が行われ、さらに室内内装との関連について考察されています。とくに、個性的なゴタゴタした内装がすきな中国なので、この問題は日本以上に大きな問題だと思います。
中国環境科学学会室内環境と健康分会が2013年6月に公表したデータですが、2010年〜2011年にかけて、北京・上海・ハルビン・西安・重慶・長沙・武漢・太原・南京・ウルムチの10都市で、1〜8歳の幼稚園・小学生の4万8000人の子供たちを対象に、International Study of Asthma and Allergies in Childhood (国際小児喘息、ISAAC)での調査でもちいられる方法を使い、このうち3〜6歳の子供に関してのデータを分析したということです。
この結果、こどもの喘息の発病率は、1990年は0.91%、2000年は1.5%だったのに、2010年は6.8%と大幅に増えていることが分かっています。細かく見ていくと、呼吸がゼイゼイとする子供が13.9〜23.7%、鼻炎症状が24.0〜50.8%、アトピー性皮膚炎が4.8〜15.8%ということでした。
上海に関して詳しく見てみると、この10都市のなかで、呼吸がゼイゼイとする項目はウルムチがトップでしたが、それ以外の鼻炎症状やアトピー性皮膚炎に関しては上海がトップでした。また、10都市のなかで、喘息の罹患率は上海がトップで10.6%、逆に一番少なかったのが太原で1.6%でした。
私が興味深いなと思ったのは、こうした疾患の原因となっている物質として、屋外のPM2.5やPM10との関連よりも、むしろシックハウスなど室内環境との関連性があったという結果です。
調査したのが室内環境を研究している学会なので、そのあたりの分析をみてみると、近年の住宅建設ラッシュで、大量に新建材を使ったり、気密性の高い構造のマンションが増え、また有害ガスを発生する電気製品の増加で、室内環境の悪化が進んでいるとしています。
たとえば、この学会が調査した室内の化学物質による汚染状況は、基準値を超えた住宅の割合は上海の場合、ホルムアルデヒドが25%、ベンゼンが2%、キシレンが34%、トルエンが38%でした。特に、キシレンの基準値超えは中国では深刻のようで、杭州や南京では67%の住宅で基準値を越えていました。
上海の場合、中国人の暮らし方をみていると、子供も大人も屋内で活動することが多いように思います。実際、1日のうち87%以上は部屋で過ごしているという研究データもあります。そうなると、屋外の大気汚染も問題ですが、屋内の建材やダニ・カビなどによる汚染による影響も大変大きいのは想像に難くないはず。とくに、今のような梅雨時期でジメジメとしているときは、要注意ですね。
これから暑くなってくると、エアコンの衛生問題も対策をしておく必要があります。エアコンのフィルターは、カビ・ダニ・ほこりのすみかになっています。上海のような高温多湿なエリアでは、1ヶ月に1回はフイルターの掃除・消毒をしたほうがよいともいわれています。空調のある部屋の細菌数は、空調のない部屋と比較して多いという研究もありました。
しかし、中国の家具・建材の問題は厄介ですね。こうした製品の値段は安いのですが、果たしてちゃんとした基準を満たしているかどうかはしっかりとしらべないといけません。室内環境の揮発性有機化合物(VOC)を増やさないためにも、内装は極力簡単にし、家具や建具を置きすぎないことは重要だと思います。
上海のアレルギー疾患も、いよいよ先進国並みに増えてきました。経済の発展に伴い、ある意味仕方がない結果なのかもしれません。健康と発展の両立は難しいです。
参考文献:上海『新聞晩報』
2013年06月26日
基礎疾患がH7N9型鳥インフルエンザの症状を悪化させるという報告
今朝からTwitterのほうでも呟きましたが、上海で新たにH7N9型鳥インフルエンザの死亡症例が報告されました。
上海市の衛生当局の発表で、4月11日に診断された56歳の上海人男性が6月26日未明に死亡しました。これで、上海市のH7N9型鳥インフルエンザによる患者数は33例で、2例が治療中、15例が退院し、16例が死亡したことになります。
SARSの時と違って、今回のH7N9型鳥インフルエンザでは中国の各大学が海外に向けて英語で早い段階での論文を出しているように思います。そのなかで、5月10日までに上海市・浙江省・安徽省・江蘇省などで確認された111例の症例についての分析が復旦大学や浙江大学などのグループによって『The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE』に発表されました。原文はClinical Findings in 111 Cases of Influenza A (H7N9) Virus Infection にあります。
さて、それによると111例の患者の年齢の中間数は61歳で、65歳以上の高齢者の占める割合が42.3%でした。また、男女比では31.1%が女性でした。一方で、重篤化してICUでの治療が必要だったのは76.6%で、27%が死亡しました。入院当初の段階で97.3%が肺炎となっており、高齢者の男性が大部分でした。
また、少なくとの1種類の基礎疾患を持っていた患者は61.3%で、その割合が多かったことが分かります。ここでいう基礎疾患とは、内分泌失調や糖尿病などの基礎代謝障害、先天的もしくは後天的な免疫不全、悪性腫瘍など慢性消耗性疾患などを指します。
また、死亡の原因としては、抗ウイルス治療を始めた時間が遅かった、もしくは基礎疾患との関係でARDS(急性呼吸窮迫症候群)をおこしてしまったことと関係があったようです。
この論文では、今回猛威をふるったH7N9型鳥インフルエンザと、これまでのA(H1N1)型インフルエンザ、H5N1鳥インフルエンザとの共通点として、いずれも重度の肺炎をおこして死亡する可能性がある一方で、H7N9型は免疫力の落ちた高齢者や基礎疾患との関連が強く、後者に関しては若者・子供に多い傾向にあるとしています。
同じインフルエンザでも、その性質に大きな違いがあるわけで、今後の研究にも注目が集まります。そういえば、中医学のバイブルでもある『傷寒論』に出てくる傷寒も、実はこうしたインフルエンザの一種ではないかという説もあるぐらいです。
上海市の衛生当局の発表で、4月11日に診断された56歳の上海人男性が6月26日未明に死亡しました。これで、上海市のH7N9型鳥インフルエンザによる患者数は33例で、2例が治療中、15例が退院し、16例が死亡したことになります。
SARSの時と違って、今回のH7N9型鳥インフルエンザでは中国の各大学が海外に向けて英語で早い段階での論文を出しているように思います。そのなかで、5月10日までに上海市・浙江省・安徽省・江蘇省などで確認された111例の症例についての分析が復旦大学や浙江大学などのグループによって『The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE』に発表されました。原文はClinical Findings in 111 Cases of Influenza A (H7N9) Virus Infection にあります。
さて、それによると111例の患者の年齢の中間数は61歳で、65歳以上の高齢者の占める割合が42.3%でした。また、男女比では31.1%が女性でした。一方で、重篤化してICUでの治療が必要だったのは76.6%で、27%が死亡しました。入院当初の段階で97.3%が肺炎となっており、高齢者の男性が大部分でした。
また、少なくとの1種類の基礎疾患を持っていた患者は61.3%で、その割合が多かったことが分かります。ここでいう基礎疾患とは、内分泌失調や糖尿病などの基礎代謝障害、先天的もしくは後天的な免疫不全、悪性腫瘍など慢性消耗性疾患などを指します。
また、死亡の原因としては、抗ウイルス治療を始めた時間が遅かった、もしくは基礎疾患との関係でARDS(急性呼吸窮迫症候群)をおこしてしまったことと関係があったようです。
この論文では、今回猛威をふるったH7N9型鳥インフルエンザと、これまでのA(H1N1)型インフルエンザ、H5N1鳥インフルエンザとの共通点として、いずれも重度の肺炎をおこして死亡する可能性がある一方で、H7N9型は免疫力の落ちた高齢者や基礎疾患との関連が強く、後者に関しては若者・子供に多い傾向にあるとしています。
同じインフルエンザでも、その性質に大きな違いがあるわけで、今後の研究にも注目が集まります。そういえば、中医学のバイブルでもある『傷寒論』に出てくる傷寒も、実はこうしたインフルエンザの一種ではないかという説もあるぐらいです。
2013年06月24日
汗の観察
暑くなってくると、私達の生活の中で、汗を意識しない日はないと思います。ただ、空調が普及してきて、以前と比べて現代人の発汗チャンスは減ったのではないかと思います。その結果、夏に蓄えるべき陽気が不足し、汗を出すパワーが無かったり、汗を出す腠理の調節が旨くいかなかったり、そもそも汗を出すための陰液が不足していたりとというケースも見受けられます。その観点からも、夏にかける汗は大切にしたいところです。
中医学でも、昔から汗に対しては様々な考察が加えられてきました。単なる体温調節だけで捉えていないところに醍醐味があり、自汗・盗汗といった言葉もあります。こういった言葉は、中医用語と言うよりもむしろ一般の中国人もよく知っています。
例えば、『傷寒論』の桂枝湯(桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草)では、衛気と営気のバランスが崩れることで汗がでると考えます。
衛気とは体表に近いところに位置する気で、一方で内側には営気と呼ばれる気があり、この両者がバランスをとることで汗がコントロールされるいます。例えば衛気が弱かったりしても、中の営気が飛び出してきて汗は出てしまいます。これは、発熱は無いけど、汗が多いと言うときの動きになります。
逆に病気の原因となる邪気に対抗するために衛気が強くなりすぎると、営気もそれとともに体表に引き出され汗が出てしまうと言うパターンもあります。これは発熱のときの汗に多いと考えられました。ちなみに、衛気という気は、一日のうちでも昼間と夜とで動くパターンがあります。こうした変化は、『黄帝内経』にも記載されています。
その他、陰と陽のバランスが崩れての発汗というのもあります。寝汗が多いとか、手足が熱く感じるとか、顔が赤くなる(火照る)といったパターンです。当帰六黄湯(当帰・乾地黄・熟地黄・黄芩・黄耆・黄柏・黄連)を使うことが多いです。教科書にはあと麦味地黄丸(麦門冬・牡丹皮・茯苓・澤瀉・五味子・熟地黄・山茱萸・山薬)もよく登場します。
身体の中の熱、つまり裏熱の強さによっても処方を使い分けれます。たとえば、熱が高く、全身で汗が多く、喉の乾きがひどい場合は陽明気分熱証となり、白虎湯がよく使われました。熱が多少収まっても、熱により陰が傷つき、それでも汗がまだ収まらない場合は竹葉石膏湯を使ったりします。
さて、この湿気の多い上海で、ジメジメを感じることが多いわけですが、その場合は湿邪との関わりが多くなります。汗が粘っこく感じ、首から上によく汗をかき、腹部膨満感などが見られる場合は、湿熱対策として竜胆潟肝湯(木通・地黄・当帰・沢瀉・車前子・黄芩・竜胆・梔子・甘草)、一方で熱の症状が強くなく、湿熱が身体に滞っている場合は四妙散(黄檗・蒼朮・牛膝・薏苡仁)を使いました。
不眠を伴い、身体が疲れやすく、悩み事があったりしたときに出てくる、気持ち悪い汗に対しては、健脾養心の帰脾湯(黄耆・人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉・当帰・遠志・大棗・乾生姜・甘草・木香)を使います。先日、不眠・身体の不快感・気持ち悪い汗を主訴に来られた方(女性)は、この帰脾湯の加減を1週間服用だけですっきりとされました。このようにあっという間に効いてしまう場合もあります。
私が思うに、意外と見落としてしまうのが瘀血による汗。これは、血の巡りが悪くなり、そこから熱が発生して汗がでるというもの。特徴は、全体に汗がでるというのではなく、局部的に出てくるというもの。もしくは、午後や夜間に熱く感じ、不眠やイライラなどを伴うこともあります。よく使うのは、血府逐瘀湯(生地黄・桃仁・当帰・紅花・川芎・赤芍・牛膝・柴胡・枳殼・桔梗・甘草)です。
いずれにしろ、汗をかきやすいシーズンですので、一度、自分の汗を観察してみるのもよいかもしれません。
2013年06月23日
前立腺癌と揚げ物の関係
中華料理も、家ではそれほどやらなくても、外食するとよく出て来ますよね。それ以外にも、朝食に油条を習慣的に食べている中国人も見かけます。食欲をそそる揚げ物ですが、揚げ物と前立腺癌との関係について、ある研究結果がありました。
雑誌「The Prostate」に発表されたJanet L. Stanford博士らのグループによる研究ですが、35〜74歳の1549名の前立腺患者と1492名の健康な男性をを比較した結果、フライドポテトやフライドチキン、ドーナツなどを週に1回以上食べた場合、1ヶ月に1回以下の人たちと比較すると前立腺のリスクが30〜37%高まるということでした。そのなかでも、進行前立腺癌のリスクが高まるようです。
参考:
Study finds eating deep-fried food is associated with an increased risk of prostate cancer
高温の油を使うと、AGEs(終末糖化合物)の発生量が増えます。たとえば、ニワトリの胸肉1かたまりを20分間揚げると、AGEsの濃度が、1時間煮詰める場合と比較して9倍も多くなるとか。AGEsは、身体に炎症反応を引き起こし、酸化ストレスを高めます。
なお、現代の研究では、大豆に含まれるイソフラボンが局全前立腺癌や、緑茶の飲用などが進行性前立腺癌の予防に効果があるともいわれていますが、中医学でも使われるザクロも効果があるようです。
雑誌「The Prostate」に発表されたJanet L. Stanford博士らのグループによる研究ですが、35〜74歳の1549名の前立腺患者と1492名の健康な男性をを比較した結果、フライドポテトやフライドチキン、ドーナツなどを週に1回以上食べた場合、1ヶ月に1回以下の人たちと比較すると前立腺のリスクが30〜37%高まるということでした。そのなかでも、進行前立腺癌のリスクが高まるようです。
参考:
Study finds eating deep-fried food is associated with an increased risk of prostate cancer
高温の油を使うと、AGEs(終末糖化合物)の発生量が増えます。たとえば、ニワトリの胸肉1かたまりを20分間揚げると、AGEsの濃度が、1時間煮詰める場合と比較して9倍も多くなるとか。AGEsは、身体に炎症反応を引き起こし、酸化ストレスを高めます。
なお、現代の研究では、大豆に含まれるイソフラボンが局全前立腺癌や、緑茶の飲用などが進行性前立腺癌の予防に効果があるともいわれていますが、中医学でも使われるザクロも効果があるようです。
2013年06月21日
やっぱり朝食は食べたほうがいいと思う
今日は夏至ですね。
夏至を過ぎると、いよいよ一年で最も暑くなる三伏の季節になります。上海では針灸科がとっても忙しくなります。
(中国の朝食時の市場は面白い)
さて、基本的に、私のところにこられる患者さんの多くは、何らかの症状(不定愁訴も含む)をもって来られることが多いわけですが、よく質問をすると睡眠や食生活になんらかの問題があることが多い。そのなかで、朝食をどうしているか?という問題は大切だと思います。
上海人の生活を見ていると、朝食のスタイルがどんどん崩れていて、いまや煎餅(露天でよく売っているもの)を食べ歩きという人も少なくないです。小中学生でもそういう人を見かけます。また、朝食を食べる習慣がなかったら、食べなくても大丈夫というような人も見かけます。特に若者の中国人に多い。
朝食を食べないことにより、胆嚢にアルカリ性の胆汁が欝滞し、胆嚢が膨張、これた胆嚢炎の原因にもなります。また、胃が長時間飢餓状態にあると、胃酸の分泌が過剰になり、胃潰瘍や胃炎の原因になるほか、低血糖や肥満などとの関連も言われています。
では朝に何をたべるといいのか?
これも結構悩ましい問題かと思います。
中医学的には、朝とはやっと陽気が上昇してきた状態です。まだ夜の陰気が完全に消えていない状態のなかで、まだ筋肉や神経、血管などが十分に活動できていないので、当然刺激のあるものは避けなければいけません。やはり、まず暖かいものを摂取するようにしたいです。よく冷たい牛乳・ヨーグルト・野菜ジュースを摂取している人をみかけますが、できる限り常温にしてからにして欲しいところ。
また、牛乳・豆乳も結構かと思います。豆乳に関して、よくイソフラボンが女性ホルモンと似たような働きをするとも言われていますが、研究によると1日150mg以上のイソフラボンを、5年間摂取し続けた場合に、子宮内膜増殖症のリスクが高まり(内閣府・食品安全委員会)、日本での安全摂取量は70〜75r/日とされています。
これが大豆製品でどの程度の量になるかと換算すると、豆乳の場合100gでイソフラボンが9r程度と言われているので、仮に300g飲んでも30rにも達しません。ほかの大豆製品を組み合わせても、そもそも加工されている大豆食品の場合、イソフラボンの流失も大きいので、総量的にもそう心配することはないです。むしろ、タンパク質や脂肪などの摂取において、身体にとっては必要だと思われます。とくに、卵や豆腐製品は胃の中に留まっている時間も長いので、午前中しっかりと活動するのにも有用です。
また、新鮮な野菜・果物もぜひ組み合わせたいところ。野菜摂取の代わりに野菜ジュースという方もおられますが、その場合は量に気をつけて下さい。私は、基本的には食べる方がよいと考えています。
そうすると、食パンやお粥・ご飯に豆乳・ヨーグルト・味噌汁などを組み合わせ、そこに果物・野菜類を適度に足すのがやはり無難ということになりますね。
ちなみに、朝から小籠包や油条、こってり肉まんを食べる人もいますが、これはちょっと避けたいところ。胃腸の負担が増すだけで無く、脂肪の摂取量もオーバーになりがちです。煎餅を食べるときは、油条を外してもらうのも手です。
私自身は、朝が4時半と起床が早いので、食べないと出勤までお腹が持ちません。(^_^)
夏至を過ぎると、いよいよ一年で最も暑くなる三伏の季節になります。上海では針灸科がとっても忙しくなります。
(中国の朝食時の市場は面白い)
さて、基本的に、私のところにこられる患者さんの多くは、何らかの症状(不定愁訴も含む)をもって来られることが多いわけですが、よく質問をすると睡眠や食生活になんらかの問題があることが多い。そのなかで、朝食をどうしているか?という問題は大切だと思います。
上海人の生活を見ていると、朝食のスタイルがどんどん崩れていて、いまや煎餅(露天でよく売っているもの)を食べ歩きという人も少なくないです。小中学生でもそういう人を見かけます。また、朝食を食べる習慣がなかったら、食べなくても大丈夫というような人も見かけます。特に若者の中国人に多い。
朝食を食べないことにより、胆嚢にアルカリ性の胆汁が欝滞し、胆嚢が膨張、これた胆嚢炎の原因にもなります。また、胃が長時間飢餓状態にあると、胃酸の分泌が過剰になり、胃潰瘍や胃炎の原因になるほか、低血糖や肥満などとの関連も言われています。
では朝に何をたべるといいのか?
これも結構悩ましい問題かと思います。
中医学的には、朝とはやっと陽気が上昇してきた状態です。まだ夜の陰気が完全に消えていない状態のなかで、まだ筋肉や神経、血管などが十分に活動できていないので、当然刺激のあるものは避けなければいけません。やはり、まず暖かいものを摂取するようにしたいです。よく冷たい牛乳・ヨーグルト・野菜ジュースを摂取している人をみかけますが、できる限り常温にしてからにして欲しいところ。
また、牛乳・豆乳も結構かと思います。豆乳に関して、よくイソフラボンが女性ホルモンと似たような働きをするとも言われていますが、研究によると1日150mg以上のイソフラボンを、5年間摂取し続けた場合に、子宮内膜増殖症のリスクが高まり(内閣府・食品安全委員会)、日本での安全摂取量は70〜75r/日とされています。
これが大豆製品でどの程度の量になるかと換算すると、豆乳の場合100gでイソフラボンが9r程度と言われているので、仮に300g飲んでも30rにも達しません。ほかの大豆製品を組み合わせても、そもそも加工されている大豆食品の場合、イソフラボンの流失も大きいので、総量的にもそう心配することはないです。むしろ、タンパク質や脂肪などの摂取において、身体にとっては必要だと思われます。とくに、卵や豆腐製品は胃の中に留まっている時間も長いので、午前中しっかりと活動するのにも有用です。
また、新鮮な野菜・果物もぜひ組み合わせたいところ。野菜摂取の代わりに野菜ジュースという方もおられますが、その場合は量に気をつけて下さい。私は、基本的には食べる方がよいと考えています。
そうすると、食パンやお粥・ご飯に豆乳・ヨーグルト・味噌汁などを組み合わせ、そこに果物・野菜類を適度に足すのがやはり無難ということになりますね。
ちなみに、朝から小籠包や油条、こってり肉まんを食べる人もいますが、これはちょっと避けたいところ。胃腸の負担が増すだけで無く、脂肪の摂取量もオーバーになりがちです。煎餅を食べるときは、油条を外してもらうのも手です。
私自身は、朝が4時半と起床が早いので、食べないと出勤までお腹が持ちません。(^_^)
2013年06月20日
上海での男性の更年期障害の研究
上海長海医院泌尿外科の孫教授等のグループが行っている遅発性男性性機能低下症(いわゆる男性更年期障害、LOH)の研究は、上海市の重大基礎性研究の一つにもなっており、中国で初めての中年世代を対象とした男性更年期障害の疫学調査として注目されていました。
この研究では、上海市仁済医院・第五人民病院など各病院の協力を得て、3,000人の中高年男性を対象に血液中の総テストステロンと遊離テストステロン濃度など各種ホルモンを測定したところ、50歳以上の男性のうち発病率は11.6%ということでした。
中国全土だと、少なく見積もっても1.5億人〜2億人の50歳以上の男性が居ることから、LOHの症状がある人は少なくありませんが、中国での研究はまだ始まったばかりです。
一般に、男性は40歳を境にテストステロンの濃度が下がっていきます。それに伴い、性欲が減退したり、夫婦生活の回数が減ったり、疲労や肥満、気分的な落ち込みなどの症状がみられるようになります。また、場合によっては心臓病や悪性腫瘍、精神病などの発生とも関連があるとも言われていますし、肥満の場合は、テストステロンの低下がさらに早まるという研究結果もあります。
西洋医学では筋肉注射によるホルモン補充療法などが一般的ですが、ここに中医学を介入させてみようという研究もあります。
中国の中医学系の文献を見てみると、やはり腎から考えることが多いようです。よく使われるのは六味地黄丸とか金匱腎気丸などが有名ですが、中国で、単味生薬を使った薬理実験では、五味子や菟絲子も有効なほか、淫羊藿や蛇床子には男性ホルモン的な働きも確認されています。補腎系の生薬には視床下部ー下垂体ー性腺軸の調節作用があることが知られています。
以上のように、女性の更年期障害には中医薬はかなり有効ですが、もちろん男性にも使うことは可能ですし、今後の研究にも期待したいところです。
この研究では、上海市仁済医院・第五人民病院など各病院の協力を得て、3,000人の中高年男性を対象に血液中の総テストステロンと遊離テストステロン濃度など各種ホルモンを測定したところ、50歳以上の男性のうち発病率は11.6%ということでした。
中国全土だと、少なく見積もっても1.5億人〜2億人の50歳以上の男性が居ることから、LOHの症状がある人は少なくありませんが、中国での研究はまだ始まったばかりです。
一般に、男性は40歳を境にテストステロンの濃度が下がっていきます。それに伴い、性欲が減退したり、夫婦生活の回数が減ったり、疲労や肥満、気分的な落ち込みなどの症状がみられるようになります。また、場合によっては心臓病や悪性腫瘍、精神病などの発生とも関連があるとも言われていますし、肥満の場合は、テストステロンの低下がさらに早まるという研究結果もあります。
西洋医学では筋肉注射によるホルモン補充療法などが一般的ですが、ここに中医学を介入させてみようという研究もあります。
中国の中医学系の文献を見てみると、やはり腎から考えることが多いようです。よく使われるのは六味地黄丸とか金匱腎気丸などが有名ですが、中国で、単味生薬を使った薬理実験では、五味子や菟絲子も有効なほか、淫羊藿や蛇床子には男性ホルモン的な働きも確認されています。補腎系の生薬には視床下部ー下垂体ー性腺軸の調節作用があることが知られています。
以上のように、女性の更年期障害には中医薬はかなり有効ですが、もちろん男性にも使うことは可能ですし、今後の研究にも期待したいところです。
2013年06月19日
北京・上海で増える喘息患者
5月にニュースになったのですが、中日友好病院の林江涛教授らのグループが、中国ではじめての成人を対象とした喘息患者の疫学的調査を行い、その結果を発表していました。
この調査では、中国全国7つのエリアの8都市で行われ、調査対象は16.4万人。そこから、喘息の罹患率は1.24%となり、男性よりも女性のほうが多いことも分かりました。特に、10年前を比較すると、北京地区で147.9%、上海地区で190.2%の増加となっていることも分かりました。この割合で行くと、中国全国で3000万人の喘息患者がいる計算になります。
私も、日々の臨床で喘息患者が増えていることは感じますが、そんなに増えているとは驚きです。
様々な原因が考えられますが、研究グループによると喫煙の問題、母乳をあげない育児の増加、父母世代のアレルギー体質、アレルギー性鼻炎や肥満、動物の飼育などとも関連があるとしています。このなかには、大気汚染の影響については触れられていませんでしたが、今後の研究課題として注目されることかと思います。
この調査では、中国全国7つのエリアの8都市で行われ、調査対象は16.4万人。そこから、喘息の罹患率は1.24%となり、男性よりも女性のほうが多いことも分かりました。特に、10年前を比較すると、北京地区で147.9%、上海地区で190.2%の増加となっていることも分かりました。この割合で行くと、中国全国で3000万人の喘息患者がいる計算になります。
私も、日々の臨床で喘息患者が増えていることは感じますが、そんなに増えているとは驚きです。
様々な原因が考えられますが、研究グループによると喫煙の問題、母乳をあげない育児の増加、父母世代のアレルギー体質、アレルギー性鼻炎や肥満、動物の飼育などとも関連があるとしています。このなかには、大気汚染の影響については触れられていませんでしたが、今後の研究課題として注目されることかと思います。
2013年06月18日
シェーグレン症候群の中医学治療研究
黒竜江省の衛生当局から新技術応用1等奨を表彰された研究結果のようですが、中医学の清肝養陰法がシェーグレン症候群の治療に有効であるという結果が発表されていました。
大慶油田総医院中医リウマチ科の李俊松教授等のグループによる研究で、68名のシェーグレン症候群の患者を無作為に2組に分け、一組は西洋薬の硫酸ヒドロキシクロロキン(中国では結構普通に使われています)、もう一組は硫酸ヒドロキシクロロキンと中医薬の併用しました。生薬処方は、清肝養陰・祛瘀潤燥の処方を組み、菊花・枸杞・白芍・太子参・山薬・生地黄・知母・沙参・麦冬・玄参・竹葉・丹参・莪朮・鬼剪羽などを使っていました。要は、一貫煎などの基礎処方に、活血化瘀を加えた感じでした。
この結果、西洋薬を使ったグループでは、口の渇き・目の乾きが改善したのが78.1%であったのに対して、中医薬を併用したグループでは91.7%と効果が高まった模様。
シェーグレン症候群は、中年以上の女性に多い疾患で、肝腎陰虚・陰液不足が基礎にあり、燥熱と陰虚が強まると、瘀血が発生して、脈絡が阻害され、さらに陰虚や燥熱が強まる流れになります。よって、このグループが使った処方に、活血化瘀を加えているのはなるほどですね。
シェーグレン症候群のような自己免疫疾患では、やはり漢方薬・中医薬との併用が一定の効果が出せるようですし、今回の研究ではありませんでしたが、中医薬単独でも症状改善に役立つのではないかと思います。
大慶油田総医院中医リウマチ科の李俊松教授等のグループによる研究で、68名のシェーグレン症候群の患者を無作為に2組に分け、一組は西洋薬の硫酸ヒドロキシクロロキン(中国では結構普通に使われています)、もう一組は硫酸ヒドロキシクロロキンと中医薬の併用しました。生薬処方は、清肝養陰・祛瘀潤燥の処方を組み、菊花・枸杞・白芍・太子参・山薬・生地黄・知母・沙参・麦冬・玄参・竹葉・丹参・莪朮・鬼剪羽などを使っていました。要は、一貫煎などの基礎処方に、活血化瘀を加えた感じでした。
この結果、西洋薬を使ったグループでは、口の渇き・目の乾きが改善したのが78.1%であったのに対して、中医薬を併用したグループでは91.7%と効果が高まった模様。
シェーグレン症候群は、中年以上の女性に多い疾患で、肝腎陰虚・陰液不足が基礎にあり、燥熱と陰虚が強まると、瘀血が発生して、脈絡が阻害され、さらに陰虚や燥熱が強まる流れになります。よって、このグループが使った処方に、活血化瘀を加えているのはなるほどですね。
シェーグレン症候群のような自己免疫疾患では、やはり漢方薬・中医薬との併用が一定の効果が出せるようですし、今回の研究ではありませんでしたが、中医薬単独でも症状改善に役立つのではないかと思います。
2013年06月16日
中国で紹介されたH7N9型鳥インフルエンザの中医症例報告(1例)
先日、鹿児島で行われた日本東洋医学学会の車座勉強会で討論したかったのですが、時間的に厳しかったので流してしまいました。
中国で紹介されたH7N9型鳥インフルエンザの中医学的治療を行った症例報告をこちらに記しておきます。
=====
第1日目 4月11日午前
5歳女児が北京地壇医院に来院。父母によると咳嗽8時間、発熱5時間ということ。父母が鶏の飼育・販売をしていたことを病院側は重視。
来院時体温37.3℃、軽い咳、呼吸正常、肺呼吸音正常、胸部レントゲン検査:両肺炎症。
症状が軽いのに、レントゲンが肺炎症を示していることに病院側は注意。
4月11日午後2時 A型インフルエンザ検査簡易検査陰性。抗生物質などを投与。
その後、容体が急変し、体温40.2℃。物理的解熱法は効果なく。肺呼吸音湿性ラ音。
再度A型インフルエンザ簡易検査で弱陽性。サンプルをCDCに送り、タミフル投与開始。
=====
第2日目 4月12日午前
CDCの検査で、A型H1N1インフルエンザ、ウイルス性肺炎、細菌感染合併の可能性。酸素吸入・解熱・細菌ウイルス感染対策。
4月12日午後 中医薬処方開始。
体温39.8℃、高熱無汗、赤面、唇は赤。座臥不安・乾咳・口渇なし。小便淡黄、便秘2日間。舌質赤で絳・舌辺尖赤で芒刺あり。舌苔薄白黄、脈浮滑数。
弁証論治:衛気同病(毒熱は気分にあるものの、衛分の邪気も抜けきっていない。)さらに、営分へ進む可能性も。
治方:辛散透邪 解毒清熱
処方:銀翹散+白虎湯(濃煎)+青蒿
第2日目(4月12日)の15時半より服用開始。
17時半にCDCよりA型インフルエンザ(H7N9型鳥インフルエンザ)、北京で初めてのH7N9型鳥インフルエンザ患者。
ICU減圧隔離病棟に移る。
20時、CDCの専門家の回診。呼吸は正常に戻り、体温37.3℃。肺呼吸音は多少荒い程度。すでに熟睡。
=====
第3日目 4月13日午前7時
体温は正常。タミフルと中医薬は引き続き併用。
お昼頃に排便あり。
午後2時頃 舌質赤舌苔薄黄、脈滑細。
熱病により気陰が傷ついている可能性有り。よって銀翹散+白虎湯+青黛から、発汗作用のつよい荊芥を外し、甘寒養陰・清熱解毒の玄参・白茅根・大青葉を追加。
胸部CT再検査。病変部位辺縁の改善が見られ、H7N9型鳥インフルエンザ検査で2回とも陰性。
=====
第5日目 4月15日
お昼頃に普通病棟へ。
舌質軽度の赤。舌苔中央の黄・干燥。脈細滑。
玄参・大青葉など清熱解毒剤をはずし、西洋参・穀芽・麦芽を足して養陰益気・健脾益胃。
=====
第7日目 4月17日 退院
温病学の理論を旨く組み合わせた症例かと思います。ガイドラインも出ていましたが、全体的に臨機応変に加減されており、しかも迅速に煎じ薬が活用されているところが印象的でした。
中国で紹介されたH7N9型鳥インフルエンザの中医学的治療を行った症例報告をこちらに記しておきます。
=====
第1日目 4月11日午前
5歳女児が北京地壇医院に来院。父母によると咳嗽8時間、発熱5時間ということ。父母が鶏の飼育・販売をしていたことを病院側は重視。
来院時体温37.3℃、軽い咳、呼吸正常、肺呼吸音正常、胸部レントゲン検査:両肺炎症。
症状が軽いのに、レントゲンが肺炎症を示していることに病院側は注意。
4月11日午後2時 A型インフルエンザ検査簡易検査陰性。抗生物質などを投与。
その後、容体が急変し、体温40.2℃。物理的解熱法は効果なく。肺呼吸音湿性ラ音。
再度A型インフルエンザ簡易検査で弱陽性。サンプルをCDCに送り、タミフル投与開始。
=====
第2日目 4月12日午前
CDCの検査で、A型H1N1インフルエンザ、ウイルス性肺炎、細菌感染合併の可能性。酸素吸入・解熱・細菌ウイルス感染対策。
4月12日午後 中医薬処方開始。
体温39.8℃、高熱無汗、赤面、唇は赤。座臥不安・乾咳・口渇なし。小便淡黄、便秘2日間。舌質赤で絳・舌辺尖赤で芒刺あり。舌苔薄白黄、脈浮滑数。
弁証論治:衛気同病(毒熱は気分にあるものの、衛分の邪気も抜けきっていない。)さらに、営分へ進む可能性も。
治方:辛散透邪 解毒清熱
処方:銀翹散+白虎湯(濃煎)+青蒿
第2日目(4月12日)の15時半より服用開始。
17時半にCDCよりA型インフルエンザ(H7N9型鳥インフルエンザ)、北京で初めてのH7N9型鳥インフルエンザ患者。
ICU減圧隔離病棟に移る。
20時、CDCの専門家の回診。呼吸は正常に戻り、体温37.3℃。肺呼吸音は多少荒い程度。すでに熟睡。
=====
第3日目 4月13日午前7時
体温は正常。タミフルと中医薬は引き続き併用。
お昼頃に排便あり。
午後2時頃 舌質赤舌苔薄黄、脈滑細。
熱病により気陰が傷ついている可能性有り。よって銀翹散+白虎湯+青黛から、発汗作用のつよい荊芥を外し、甘寒養陰・清熱解毒の玄参・白茅根・大青葉を追加。
胸部CT再検査。病変部位辺縁の改善が見られ、H7N9型鳥インフルエンザ検査で2回とも陰性。
=====
第5日目 4月15日
お昼頃に普通病棟へ。
舌質軽度の赤。舌苔中央の黄・干燥。脈細滑。
玄参・大青葉など清熱解毒剤をはずし、西洋参・穀芽・麦芽を足して養陰益気・健脾益胃。
=====
第7日目 4月17日 退院
温病学の理論を旨く組み合わせた症例かと思います。ガイドラインも出ていましたが、全体的に臨機応変に加減されており、しかも迅速に煎じ薬が活用されているところが印象的でした。
2013年06月15日
NHK 地球アゴラ アゴラーカフェ「中医学的風邪予防法」
NHK BSの番組、地球アゴラの公式サイトのアゴラーカフエから原稿の依頼をいただきました。
今回は、視聴者から質問のあった内容のうち、「中医学の風予防法」について書いてみました。こうやって整理してみると、中医学には本当にいろいろな風邪予防法があるものです。
http://www.nhk.or.jp/agora/cafe/qanda2013_sick.html
中国ではものすごく一般的かもしれませんが、日本ではあまり知られていないこともまだまだあるようです。
他の国の状況も紹介されています。あわせてご覧ください。
2013年06月13日
ドクダミ(魚腥草)料理
鹿児島県湧水町にある丸池湧水は本当に美しい水で、水源として今でも使われているそうですが、そこからわき出る小川で、地元の方がドクダミを洗っておられました。採れたてのドクダミで、白い花もついていました。麦茶と一緒に、お茶として飲むのだそうです。
ドクダミは中医学では魚腥草といいます。日本では重薬や十薬とも呼ばれ、民間の漢方薬と扱われているようですが、中国では立派な生薬として扱われています。詳しくはこちらをご覧ください。
ドクダミ自体は、魚腥草というように、臭みを感じるかもしれませんが、一旦乾燥させると結構いい香りがします。
四川省や貴州省では実際に魚腥草を野菜として食べます。上海でもスーパーLotusなどにいくと、ドクダミの根っこが手に入ります。これを生のままで切り刻んで、酢・醤油などで味付けして食べるのですが、この味はかなり好みが分かれますね。まずはニオイは強烈ですから。でも、乾燥させてお茶にすると結構美味しく飲めます。
古来から肺膿瘍のほか、気管支炎や肺炎などにも使われたドクダミ。このドクダミが優秀なのは、その抗菌力だと思います。黄色ブドウ球菌や肺炎レンサ球菌、溶連菌、真菌、インフルエンザウイルスなどにも一定の抑制力があることが分かっています。
そのため、中医学の呼吸器科では欠かせない生薬の一つになっていて、注射剤も作られました。この注射剤は、私は外用薬としても重宝しています。また、尿道炎など泌尿器の感染症にも使われます。魚腥草には利尿作用もあるので、尿路感染に伴う排尿時の痛みなどでも効果がありました。
日本の漢方では、内服として便秘症・風邪・蓄膿症に、外用としては痔・腫れ物・腰痛・冷え性などに使います。(難波恒雄先生の『生薬学概論』)とはいえ、日本では民間薬の範囲でしか使われていないのが少し残念ですね。
2013年06月07日
Look 上海 vol.33 2013年6月号 「葛根湯の葛根」
2013年06月01日
福岡でのラジオ出演・東洋医学学会車座勉強会での発表
5月28日に、以前上海でもいろいろお世話になった元木さんがナビゲーターをなさっている地元福岡のcross fmのラジオ番組「Morning gate」に出させていただきました。FMラジオの生出演は初めてのこと、貴重な経験をさせていただきました。
6月1日は、鹿児島市の城山観光ホテルで開催された東洋医学学会学術総会の車座勉強会で、平馬先生と秋葉先生のコーナーに続き、第2部で「中医学の本音」をお話するチャンスをいただきました。この車座勉強会の試みは結構良かったと思います。かなり至近距離で先生方と交流できました。
(写真を撮って下さっていました。感謝。)
東洋医学学会は、基本的に日本漢方の先生方が多いのですが、そんな中で中国の現代中医学の状況があまりよく伝わっていないように感じていました。そして、中国人の生活のなかで、中医学が切っても切れない関係にあることも知ってもらえたらと思うのでした。
ただ、今回は会場の関係で時間がかなり押していたので、またいつか続きをお話しすることがあるかもしれません。
(発表記念にいただきました)
今回の九州行きは、家族と一緒にレンタカーで回りました。とっても印象深い自然豊かな南九州に、また再訪したいと思いました。
6月1日は、鹿児島市の城山観光ホテルで開催された東洋医学学会学術総会の車座勉強会で、平馬先生と秋葉先生のコーナーに続き、第2部で「中医学の本音」をお話するチャンスをいただきました。この車座勉強会の試みは結構良かったと思います。かなり至近距離で先生方と交流できました。
(写真を撮って下さっていました。感謝。)
東洋医学学会は、基本的に日本漢方の先生方が多いのですが、そんな中で中国の現代中医学の状況があまりよく伝わっていないように感じていました。そして、中国人の生活のなかで、中医学が切っても切れない関係にあることも知ってもらえたらと思うのでした。
ただ、今回は会場の関係で時間がかなり押していたので、またいつか続きをお話しすることがあるかもしれません。
(発表記念にいただきました)
今回の九州行きは、家族と一緒にレンタカーで回りました。とっても印象深い自然豊かな南九州に、また再訪したいと思いました。