2013年05月25日

広東省で相次いで見つかっているカドニウム汚染米

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(豊かな農村風景は大切にしてほしいです)

 広東省で相次いで見つかっているカドニウム汚染米について、中国の農耕地の土壌汚染の問題に注目が集まっています。広東省では、これまで2208回にわたって抜き取り検査をして、120回でカドニウムに汚染された米が見つかりました。

 中国の基準では、1キロあたりの米に対してカドニウムは0.2mgを越えてはならないとしています。これはEUと同じ基準です。今回の広東省の米の検査では米1キロあたりで最高1.12mgのカドニウムが検出されました。

 カドニウムの人体への影響は、イタイイタイ病であったように、骨と腎臓が問題となります。WHOでは、1週間あたりのカドニウム摂取量の上限を体重1キロあたり7mgとしていますが、仮に基準すれすれの1キロあたり0.2mgのカドニウムを摂取した場合でも、1日200グラム程度のお米の量なら安全上限は超えないことになります。ただ、中国人の一般的な食卓のように、山盛りのご飯を食べた場合なら、基準超えのリスクは高まります。中国でも専門家が指摘していますが、お米を選ぶときはなるべく違ったエリアのお米を買うようにして、さらにお米類を食べ過ぎないことも大事です。

 今回、広東省で見つかったカドニウム汚染米の産地に、湖南省のものが少なくありませんでした。中国湖南省は中国最大の米の産地です。2012年の米の産出量は2631万トンで、中国全国の12.9%を占めています。一方で、湖南省は有色金属の採掘でも有名で、鉱工業と農業が共存しているエリアでもあります。そのため、土壌汚染の問題は避けて通れません。
 
 また、カドニウム汚染問題で最近問題となっているのが広東省でよく食べられている牡蠣です。こちらは、魚類1キロあたり0.1mg/kgといった中国の基準があるのですが、貝に関してはまだないのが現実で、広州市の検査でも、魚類の基準値を大幅に超える2.0mg/kgといった数字が発表されていました。とくに、貝類は魚と比べると生物的に排泄できるシステムが弱いため、体内に重金属が蓄積されやすい特徴があります。そういえば、私も中国に来てから貝を食べることが明らかに減りました。

 こうしたリスクを減らすには、やはり原材料がよく分からない食材は使わない、バランスよく食べて、食べ過ぎない、魚などの内臓は食べないようにする、植物繊維を食べるようにして排出に気をつけるなどが言われています。主食のお米も、米以外の雑穀も摂取するようにすることも大切だと思います。

posted by 藤田 康介 at 07:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国での食の安全を考える

2013年05月12日

三焦理論・腎臓病中医治療の思考法(メモ)

世界中医薬学会聯合会(WFCMS)の第7回国際腎臓病学術大会のメモ

1.天津中医薬大学第一付属医院・黄文政教授

 慢性腎炎の治療を考えるときに、とく病因病機で登場するのが三焦。三焦の焦は、温熱する・火熟物を摂取する…の意味。歴代の文献から、水穀を「焦干」して、清濁に分け、さらに津液を通す働き。特殊な膜状の組織・循環システムが三焦。そこで、気が循環する。五臓六腑に必要な各種栄養物質を吸収し、老廃物を出す。さらに、上焦・中焦・下焦に分かれて活動し、そのエネルギーとなるのは少陽相火。その少陽相火の源は命門(もしくは腎陰)。そこから、三焦と腎の関係は緊密。

 従って、三焦の働きが悪くなると、腹部膨満・下腹部下垂感・小便の出が悪くなり…の症状。結果、気滞・湿聚・血瘀の病理状態になる→湿濁と血積が腎に発生→腎気が衰える→浮腫・淋濁・腎風・腎労。慢性腎炎の症状となる。

 治療法:疏利少陽・斡旋三焦・調理枢機+健脾補腎・清利湿熱・活血化瘀。
 基本処方:黄耆(三焦を補い、衛気を充実)、丹参(活血化瘀)、柴胡+黄芩(疏解少陽)

 たとえは、脾虚だひどい場合は、太子参・党参・茯苓・山薬・蓮子など。
 尿蛋白には芡実・金櫻子・覆盆子など。
 腎陽虚には菟絲子・巴戟天(はげきてん)・淫羊藿・鹿角膠など。
 湿熱内蘊には白花蛇舌草・土茯苓・石韋・萹蓄・萆薢
 瘀血内結には益母草(やくもそう)・桃仁・赤芍・紅花・川芎・山査子・鬼箭羽(筆者注:血糖値を下げる働きに注目)
 血虚には熟地黄・当帰・白芍・鶏血藤。
 血尿には茜草(せんそう)・生地楡・地錦草・仙鶴草・小薊(しょうけい)・苧麻根(ちょまこん)
 
2.蘭州大学第二医院 劉宝厚教授

 中医学と西洋医学の2重診断。(筆者注:これは大事だと思う。CKD治療の場合、予後の推測には西洋医学の病理学的な検討が必要)中医薬を利用した西洋医学のステロイドや免疫抑制剤の副作用の緩和、使用量の抑制が可能。QOL向上。

 慢性腎炎の病因病気の根本にあるのが本虚標実。本虚はともかく、標実となるのは、風邪・湿熱・血瘀・湿濁となる。風邪が出てくるのも、治療で防風や雷公藤などを使うことからも分かる。

 CKDにおいて、血液レオロジーに問題がでてくることは、これまで多くの研究で分かってきているが、さまざまな中医薬の活血系の生薬を使える。代表的なのは、当帰・赤芍・三七・莪朮・沢蘭・水蛭。このうち、劉教授は莪朮の使用にスポットを当てていた。莪朮は、桃仁・紅花よりも効果が高いと。また、水蛭と地龍の組み合わせは、尿蛋白を減らすのとアルブミンを上昇させるのに有効。(筆者注:私も水蛭はよく使います。活血化瘀の働きは素晴らしいと思います。)

 さらに、湿熱に関してはCKD治療において注意しなければならない。とくに、実熱証が発現する割合が多いときで7割以上にもなり、この湿熱を除去することで効能が高まる。とくにネフローゼのときは、附子と肉桂に使用に注意。一方で、陽虚がある場合は巴戟天・肉蓯蓉・鎖陽、陰虚のときは生地・知母(ちも)・血虚のときは当帰・鶏血藤(けいけっとう)を使う。



posted by 藤田 康介 at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2013年05月11日

反佐・尿蛋白・升麻(メモ)

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世界中医薬学会聯合会(WFCMS)の第7回国際腎臓病学術大会で南京に来ていますが、今日は1日講演会場で発表を聞いていました。中国中から中医学の腎臓病の専門家が集まっているだけあって、非常に中身が濃いです。印象に残ったことをブログにメモしておきます。

1.南京の鄒燕勤(すうえんきん)教授の経験

 江蘇省の名中医で、医療活動50周年を迎えた鄒燕勤教授は、今回の学会でも中心的存在の専門家の一人です。夜に、50周年記念の宴が製薬会社主催で開かれたぐらいです。1933年生まれですので、80歳ですが、まだまだお元気でした。江蘇省中医医院では、70年代から中医腎科があり、その設立に尽力されました。

 今回話されたテーマは、鄒氏中医学における反佐療法の研究です。これは、身体が熱いのに、単純に身体を冷やすのではなく、少し温める生薬を加えたり、身体が冷えているのに、身体を温めるだけでなく、少し冷やす生薬を加えるという治療法です。とくに、慢性腎不全の患者の中医学治療では、脾腎陽虚や気血両虚であることが多く、陽系の生薬を使うことが多いですが、そこにあえて黄連を反佐として加えることで、温めすぎるのを防ぐということです。ポイントは、反佐の生薬はあくまでも少なく。黄連なら2〜3グラムで十分です。また、毒素を出すために、内服のほかに灌腸法を使いますが、この中には普通大黄や蒲公英を使いますが、反佐として熟附子を使うことで寒性が行きすぎるのを防ぐことができます。

2.天津の張大寧教授の経験

 CKD治療において、大切なのは尿蛋白をいかに抑えるか、またGFRをどこまで改善できるか、ということですが、この先生は生薬・升麻の使い方を紹介されていました。

 張教授は、升麻を10〜30グラム使われます。この薬の量は、おそらく北方の人の体質にあったものかと思います。

 升麻は、補中益気湯や普済消毒飲に入っていますが、どちらも李東垣の処方です。しかも、どちらも柴胡とペアで使われているのがポイントです。前者での升麻+柴胡は、上向きのベクトルに薬効を向かわせるために、後者は大頭瘟(おたふく風邪)の治療で使う代表処方ですが、清熱解毒の効能の中に、升麻と柴胡を加えて方向性を与えるものとして使われると考えられています。

 現代医学で、尿蛋白の治療といえばステロイドを使うのが常套ですが、なんとかその使用量を減らしたいと普通は考えます。そこで、中医学が活用されるわけですが、張教授の場合、尿蛋白を抑える働きのある生薬(たとえば蝉脱や萕菜花)+補気+活血+固摂させるのが定石ですが、これに升麻を使うことにより、補気の力を強めます。また、補気には尿蛋白を抑えるために生黄耆を90〜120gも使うと言うことですから、すごい量です。黄耆が尿蛋白を抑えることは、もう様々な実験で明らかになっていますが、一般に生黄耆を使います。活血には、川芎を使います。同様に、慢性腎不全であれば、補腎+健脾+活血+排毒を考え、排毒には灌腸として大黄と大黄炭を使うようですね。また、厄介な顕微鏡的血尿の場合、補気+少量の活血+止血+升提を治則とされているようですが、ここでも升麻を使うことで、統血と補気の力を補うと考えられていました。
 その他、CKD治療においては、湯液に含まれるカリウムの問題が出て来ますが、こちらはイオン交換法を活用して克服しているみたいです。患者の血液カリウム量を測定しながら、投与量を計算していました。これは、実際にみてみたいですね。(つづく)


posted by 藤田 康介 at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2013年05月08日

生薬「淫羊藿(いんようかく)」という変わった名前

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 生薬・淫羊藿は、またの名を仙霊脾と呼びます。その性質は辛温ですが、比較的性質が穏やかなため、中医学の教科書では補腎壮陽・袪風除湿となっていますが、そほかにも強筋健骨や止咳平喘などの作用があると言われています。

 淫羊藿は、不妊症の治療や、手足の冷え、インポテツ、腰痛、頻尿などの処方によく使いますが、そのほかにも関節の痛みやしびれのうち、特に寒湿と呼ばれる冷えやだるさを伴うものにふさわしいとされています。

 この淫羊藿という字をみると、なんとも不思議な名称だとは思いませんか?

 これには有名なエピソードがあって、中国南北朝時代の医学者、陶弘景(456〜536)がこの名前をつけたと言われています。当時の遊牧民によると、羊が発情期この薬草をよく食べ、さらにオスはしっかりと勃起し、メスとの交配する回数や時間が増えるのだとか。その後、陶弘景がその草を現地で観察し、確かにその作用があると言うことで、「淫羊藿」という名前をつけたのだそうです。
 このように、動物たちへの効果の観察から人間にも応用された生薬というのは少なくありません。現在の薬理学の動物研究でも、男性ホルモンの働きを強める作用があったり、免疫力を高めたりすることがあるといわれています。

 その他、淫羊藿の強筋健骨作用では骨粗鬆症に、止咳平喘作用では抗菌や抗ウイルス作用、袪痰や咳止めや喘息を抑える働きが研究されています。特に、これらの中でも、陽虚の症状を伴うものには、もってこいということになります。


posted by 藤田 康介 at 20:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2013年05月07日

生薬・葛の花(葛花)

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(左から粉葛根・柴葛根・葛花)

 葛根湯で出てくる葛根は、中医学でも日本漢方でもよく使う生薬です。中国ではスーパーでも売っていますが、そこで手に入るのは中国語で粉葛根と呼ばれるもの。一般に、生薬薬局にあり、中国の薬典で使われているのは柴葛根です。

 日本漢方の権威、難波恒夫先生の『生薬学概論』に出ている葛根の項目では、「粉白色でデンプン質に富んだものが良い」という記述があり、どうやら日本では粉葛根がいいとされているのですが、中国の薬典には褐色で繊維質の多い柴葛根を使うということなので、すこしとらえ方が違うような感じがします。

 ただ、一般に中医学の臨床では、高血圧や脳梗塞、狭心症などの治療では柴葛根の活血作用を活用し、発熱・下痢・肩こり・頭痛では粉葛根を使うことが多いですし、私もそう区別しています。

 もう一つ、あまり知られていない葛の生薬として、葛花があります。実際には、葛の花がまだ開花していない蕾の状態を使うのですが、二日酔いの症状に使う「解酒」作用があるといわれている生薬です。ただ、お酒を飲む前に、酔い防止では使わないので注意が必要です。

posted by 藤田 康介 at 00:23 | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2013年05月05日

Look 上海 vol.32 2013年5月号 「板藍根ってなに?」

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この雑誌がどこで手に入るのか、よく聞かれるのですが、うちのクリニックに来れば在庫がある限り手に入ります。日本料理のレストランにも置いてあるはずだそうですが。いずれにしろ、毎月書いておりますので、興味のある方は声をおかけください。

 今は、編集部のご希望により、中医学や漢方でよく使う生薬について毎月書いています。今月は、H7N9型鳥インフルエンザの関係で一躍有名になった清熱解毒剤の板藍根について書いてみました。板藍根はそもそもは藍染めに使われる植物で、葉っぱを大青葉、その色素を青黛といいます。そもそ効能が微妙に違うので、活用方法もいろいろあります。


posted by 藤田 康介 at 06:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2013年05月04日

ビスフェノールAと肥満の関係

 上海だけでなく、中国で社会問題となっている子供の肥満問題。お菓子などの食べ物が溢れ、運動量がすくない上海生活の影響も大きいと思います。1992年と2002年を比較すると、中国の7〜17歳の子供たちの肥満の数は39.7%も増加しています。上海市内のある区の小学生の肥満率は、2005年は15.85%だったのに、2010年には19.85%に増えています。子供の肥満は、高血圧や糖尿病、心臓疾患のリスクを高めることがいわれており、早期の対策が重要です。

 そんななか、復旦大学の公共衛生学院の周穎副教授らのグループが興味深い研究を発表していました。プラスチックなどの原料としてつかわれるビスフェノールAが、これまでの海外の研究でも、エストロゲンに類似した生理作用をおこすことが指摘されていますが、子供の肥満と関係があるのではないか、という研究です。

 ただ、ビスフェノールAの尿中に排出される濃度は、食べ物の摂取とも関係があり、季節的な影響も大きく、正確に測定することが難しいという問題がありました。たとえば、過去の研究では、尿中に排出されるビスフェノールAの濃度に関して、尿中のクレアチニン濃度から数値を調節していましたが、クレアチニン濃度は体重の影響もうけるため、ビスフェノールAとの関連を引き出すのが困難でした。そこで、尿の比重をつかってビスフェノールAとの関連をみてみると、調査した259人の8〜15歳の子供の尿84.9%から検出されたということです。さらに、ビスフェノールAの濃度が高いほど、肥満程度も高くなる傾向にあることも分かりました。今後は、さらに1500人を対象に調査を続け、長江デルタエリアにおけるビスフェノールAと肥満との関係を調べていくということです。

 もともと、ビスフェノールAはほ乳瓶などに使われていたことがありましたが、中国では2011年6月から育児用品での使用が禁止され、2011年9月からはビスフェノールAが使われた製品の育児用品での輸入が禁止されました。しかし、実際にはほ乳瓶以外の製品ではまだ使われていることがあり、たとえば缶詰の内側に塗られていたりすることがあります。

 日本の厚生労働省でも、ビスフェノールAに関するQ&AをHPで公開しています。http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kigu/topics/080707-1.html

 ビスフェノールAに関しては、食べ物からの摂取か、皮膚や空気からの接触による影響が考えられますが、体内での半減期が短く、24時間以内にほとんど代謝されてしまうため、こうした物質を隔絶することが有効といわれています。とくに、我々の身の回りにはプラスチック製品が溢れていますので、そうしたものの使用を極力減らすようにすることが大切だと思います。

 中国では、はたしてちゃんとしたプラスチックが使われているかどうかも心配なので、私は毎日使う弁当箱はガラス容器にしていますし、豆乳製造器もプラスチックではなく、金属のものを使う様にしています。そのほか、ペットボトルやガロンタンクの水はなるべく早く飲んでしまうようにしています。ペットボトルの再利用にも注意が必要かと思います。なるべく食べないようにしていますが、コンビニ弁当の容器も、私は気になっています。

 生活が便利になってくると、ものが溢れてきていますが、それに伴う弊害についても注意しなくてはいけません。



 
posted by 藤田 康介 at 07:48| Comment(1) | TrackBack(0) | 中国での食の安全を考える