2013年02月27日

劉元素の黒地黄丸

 うちの中医クリニックでは、毎月定期的に医師向けの院内勉強会を行っているのですが、そこで色々なテーマに対して大学付属病院の専門家を交えながら討論しています。今回、黒地黄丸が話題にあがりました。

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 黒地黄丸は、劉元素の『素問・病機気宜保命集』に出てくる処方で、熟地黄・蒼朮・乾姜・五味子で構成されています。この生薬構成から、陰を補うことと湿を乾燥させることという、ちょっと相反する効能を持っている処方といわれています。

 金代の医学者、劉元素(1120〜1200)が生きていたころの時代背景というのも興味深いものです。この当時、世間一般に体を温めたりする辛熱や香燥作用のある生薬がよく使われていて、その弊害が指摘されていました。たとえば、この当時熱性の病気が流行したのに、麻黄や桂枝といた生薬で発汗させたりする辛熱法が多用され、そのため様々な弊害がみられました。そこで、劉元素は火熱病に関して寒涼系の生薬の応用でさまざまな見解を示しました。実は、日本の漢方でダイエットで一躍有名になった防風通聖散は、劉元素の書いた『宣明論』の中に出て来ます。

 あらためて、この黒地黄丸をみてみると熟地黄は、腎の真陰の不足を補い、五味子は滋腎益陰で、両者が腎の乾燥を整える一方で、蒼朮で健脾燥湿して熟地黄による陰の滞りを防ぎ、乾姜によって中焦の寒さをとばして、蒼朮とともに健脾の働きを高めます。同時に、陰のなかに、腎陽を補う生薬を足すことで、さらに陰を補う力を高めることができ、全体としては、養陰と燥湿を兼ね備えた名方となっています。原文では「治陽盛陰虚、脾腎不足、房室虚損、形痩無力、面多青黄而無常色、宜此薬養血益腎。」と紹介されています。

 この処方は、劉元素によると痔瘡にも効果があるとされ、とくに血虚型には効果が高いとしています。ここで劉元素の考える痔瘡の病因病機は、風邪によって熱が発生し、風邪+湿+熱が腸に侵入することで、排便に支障が出て、血熱が流出し、久病は腎に影響を与え腎陰が不足します。これがさらに進むと湿熱が鬱積して精血を消耗し、腎陰に影響を与え、さらに湿熱が脾臓に長く留まれば、脾臓の働きが弱まり、脾虚となって湿邪がますます盛んになるとも考えられます。そのため、結果的に脾の湿と腎の燥が問題となります。

 いずれにしろ、過去の処方を探っていくと、昔の医学者達の研究成果のエッセンスが沢山詰まっています。こうした流れを見ていくのも中医学の醍醐味の一つだと思います。


posted by 藤田 康介 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2013年02月21日

「雨水」過ぎたら中医学の「湿寒」に注意

今年は2月18日が二四節気の中の雨水でした。天気が温かくなるにつれて、雨が増えてきて、寒暖の差が大きくなってきます。一方で、上海エリアでの気候では、中医学的に寒邪と湿邪が入り交じりやすくなるため、湿寒対策をすることになります。

 湿邪の関係する症候で、代表的なのが湿熱と湿寒です。葉桂(1667-1746)の温病学などで湿熱は取り扱われますが、現代病には湿寒が多いように感じます。一般に、寒邪や湿邪によって体の陽気が妨げられ、体の浮腫や冷え、食欲の低下、腹部膨満館、嘔吐・下痢などの症状があります。現代医学では消化器系の疾患や腎臓病、関節炎、メニエール病、坐骨神経痛、肩こり、偏頭痛なども湿寒証に含まれる場合があります。

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(台湾人からいただいた雑穀饅頭。カボチャの種、ヒマワリの種、枸杞、ゴマ、干し葡萄入り。)

 さらに、湿寒の特徴として、脾・胃を直撃することが多いです。脾・胃がダメージをうけると、清陽が上に向かえず、濁陰が下に降りることが困難になります。その結果、頭がだるく感じ、喉が詰まった感じがしたり、肩こり、咳や痰が発生したりします。さらに、脾・胃の陽が傷つけられると食欲不振、下痢など胃腸炎に近い症状がでてきます。また、湿寒と風邪つながると、気血の流れを妨げるため、関節に痛みを発生します。

 対策として、春先はまずは脾・胃の働きをしっかりと高めておく必要があります。とすると、食べ物との関係が重要です。この時期、まだ寒いので辛いモノを食べたくなりますが、極力控えましょう。そして、生ものを避け、新鮮な野菜や果物の摂取も忘れずに。脾の陽気を守るために、山芋や人参、粟などが良いとされています。寒邪から体を守るためにも、暖かくなったからといってすぐには衣類を脱がないようにすることも大切です。

posted by 藤田 康介 at 23:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 「治未病」という発想

2013年02月15日

大丈夫か?上海人の小学生の体力

 確かに、上海のような運動場も十分に確保できないローカルの小学校では、存分に体を動かすと言うことは難しいわけですが、でもそのツケはじわじわと子供たちの建康を脅かしているような感じがします。
 上海に同済大学体育部と上海海洋大学の体育部が行った研究で、上海人の子供たちの体力が日本人と比較して劣っており、運動量の不足が深刻であるという結果が発表されていました。
調査の対象となったのは、上海市楊浦区のある学校の545名の小学生です。

 この中で、運動が好きだと答えたのは全体の90%以上だったのに、大部分が「運動する時間がない」という答えだったとか。とくに、学校の業間の休み時間に何をするか?という質問に対しては、低学年ではまだ運動場で遊ぶことが多いものの、高学年になると本を読んだり、おしゃべりをしたりする人が多く、外には出て行かないようです。さらに、4〜5年生を対象とした調査では、放課後に屋外で遊ぶというのは3割程度で、遊ぶ内容も最も多いのが羽根を蹴飛ばす蹴羽根。あとは自転車とか縄跳び程度。私達が子供の頃によく遊んだ球技類は全然入ってこなかったということです。球技好きな日本人の子供達とは全く違いますね。

 確かに、上海で比較的運動量の多い幼稚園に通わせているお子さんでも、日本に戻ったときに日本の幼稚園に通わせると、体力が続かなかった、という話も聞いたことがあります。

 ちなみに、上海の小学生の体力測定で、もっとも成績が悪いのがボール投げと持久力だったらしい。球技ができない子供時代って、私からするとちょっと想像できないけど、確かに、上海でキャッチボールとかをしている子供たちの姿は見たことがありません。

 もう一つ気になるのは、身長・体重・肥満率ともに、上海人の子供たちは、日本人の子供よりも高いということ。これには、食生活の問題が大きいと思われます。こっちの小学生は、自由に買い食いしていますし、特に夕食前のお菓子の摂取が多いことが分かっています。朝食に関しては、8割以上が食べていますが、大部分は登校時に歩きながら食べたりしていうことが多いみたいです。

 一方で、上海医薬高等専科学校の調査では、毎日朝食を食べている8〜13歳の小学生の割合は68%で、全く朝食を食べないという小学生も2.6%いました。さらに問題となっているのはその中身で、朝食で過去3日間に炭水化物しか食べて居ないという子供たちは35.7%、タンパク質しか食べて居ないという子供も15.2%いました。タンパク質しか食べないというグループで多かったのが、朝食に牛乳と卵だけ、炭水化物系ではパンや饅頭だけといったパターンです。共働きが多いのも原因かもしれませんが、朝にしっかりとお母さんがテーブルに朝食を用意しているところも少ないみたいです。やはり、子供には最低でも主食+タンパク質(肉類、乳製品など)+野菜・果物の組み合わせが必要ですね。

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 写真は、上海の朝のコンビニで並んでいたとき、ある中国人のOLさんが選んだ朝食です。甘い菓子パンにアイスクリーム、クッキーにおでん(関東煮)という組み合わせでした。朝食をバランスよく食べる習慣がなかったら、こんなことになるんだなあと思いました。しかし、朝からハーゲンダッツというのもすごい。


posted by 藤田 康介 at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の健康事情

2013年02月03日

中国のAmazonで中医学原書の電子版を買う

 実は我が家の書斎には、中医学の本が所狭しと並んでいて、最近ではダイニングまで侵出してきているのですが、中医学に携わっていると、書籍の増加は頭が痛い問題です。
 日本ではこういった専門書は値段も高いし、電子化もほとんど進んいないので厄介なのですが、こちら中国では近年電子化が急速に進んでいます。地下鉄に乗っていても、Kindleや中国ブランドの端末で読書をしている人をよく見かけます。

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(用途によって大小を使い分けています)

 私もiPad miniが発売されてから、Kindleのアプリをダウンロードして活用させてもらっていますが、最近ちょっとしたことに気がつきました。それは、中国のAmazon(亚马逊)(http://www.amazon.cn/)の活用です。

 まず、知っておかないといけないのは、Amazon.co.jpとAmazon.cnのアカウントは同じではないということ。つまり、同じAmazonでも日本サイトでのアカウントと中国のアカウントは別物であるということ。もちろん、同じIDでもいいのですが、そうすると以下のことができません。そのことを最近になって知りました。(^_^)


 つまり、日本語サイトでKindle向けに買った書籍は、日本のIDでログインすると読めますが、中国のIDではむりで、その逆もまた然りなのです。「設定」でIDを切り替えると、「端末にダウンロードされた書籍は削除されます」と表示されるので、一瞬どきっとしてしまったのですが、実はそうではなく、Kindleのクラウドに保存された書籍は残されています。つまり、アカウントを変更しても、クラウドから自動的にダウンロードしてきてくれるので、端末で削除されても全然問題ないのですね。(ただし、IDは入力しなおす必要がありますが。)

 ということで、Amazon.cnにある中医学の原書も現地価格でダウンロードできますし、もちろん中国にいる我々も、日本の書籍をダウンロードしてきて読むことができます。幸い、中医学の原書は古いモノばかり。著作権の縛りがすくないのか、本の種類はなかなか揃ってきています。日本のクレジットカードでの決済もできます。

 本が増えてきたら、中国語と日本語で2台のiPad miniを使い分けてもよいかも。双方で参照したりするのに便利ですし、原書と違って持ち運びもぜんぜん苦にならない。便利な世の中になったものです。

posted by 藤田 康介 at 10:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑感もろもろ