2012年09月22日

秋、食源性の下痢にくれぐれもご注意を

 日本で食源病というと、どちらかというと生活習慣病的な意味で捉えられがちですが、中国の場合、この上海でも問題となるのが、やはり食べ物から経口で体内に入ってくる病原体による感染性です。
 というのも、2011年に中国の国家食品安全風険評価中心が行った、1000万人を対象とした1年間の食源性疾病に対する調査で、年間6.5人に一人の割合で、疾病が発生しているとしています。ここから推測すると、年間2億人が微生物などが原因の食源性疾病を起こしていると考えられています。

 これは、私の臨床の経験からいっても、非常によく当てはまっていると思います。日本人の場合で、日本では殆ど下痢とかなかったのに、上海に来た途端にお腹を壊してしまった人や、下痢に悩まされている人が少なくないのです。

 そもそも、こちらで地元の人々がファーストフードやコンビニ行ってしまう理由の一つに、衛生面での信頼性があるからという人もいます。この辺、日本とは発想がすこし異なりますね。

 そもそも、上海では清代末期ぐらいから、中医学の名医と呼ばれた先生は、赤痢などを治すのを得意としていたことからも、いかにそうした感染症が多かったか分かります。

 現代の上海でも、80年代に食源性で30万人がA型肝炎に感染し、1999年には寧夏エリアで、肉が原因のサルモレラ菌で1000人が感染したほか、2001年は江蘇省・安徽省などでH7感染症(いわゆる大腸菌O157)で、あわせて2万人が感染したケースもありました。こうした衛生と関係のある事件は、毎年どこかで発生しているといえます。逆に、小さな食中毒ぐらいだったらあまりニュースになりにくい。

 そのためにも、食べ物に対する注意は、とくに下痢が多くなる夏から秋にかけては厳重な注意が必要で、日本料理屋や焼き肉に行く場合でも、生ものにはくれぐれもご注意下さい。中医学では、養生訓の一つとして、「秋の下痢」はよく登場してきます。

 そのほか、中国の場合、食源病のリスクとしてあげられるのは、食中毒など微生物による汚染のほか、残留農薬・重金属・有機化学物質などによる汚染、そして非合法に使われた食品添加物もあります。



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2012年09月21日

秋の咳・喘息の発作対策

 秋も本格化してきて、空気の乾燥が一段と感じられるようになってきました。私のところに来られる患者さんも、ぼちぼちと呼吸器疾患が多くなる傾向になっていました。昼間や夜寝ていると時に、すこし油断して風寒の邪気にあたってしまうものなら、夜には咳が始まるというケースもあります。

 秋の咳は、「秋燥」と関係があるといわれています。よく五行説の考えから、肺と秋はともに金に属し、肺は潤しを好み、乾燥を嫌うので、秋の燥邪の影響を受けやすく、咳が発生するという仕組みです。また、気候の変化によって、秋の初めはまだ気温が高いから温燥となり、秋の終わりには涼燥となります。温燥では、はき出しにくい痰(血が混じっていることも)や咳、鼻や口の乾燥、喉の痛みなどの症状があり、有名な処方として、桑杏湯(そうきょうとう・桑葉・杏仁・北沙参・浙貝母・梨皮などなど)や清燥救肺湯(せいそうきょうはいとう・生石膏・桑葉・麦門冬・阿膠・枇杷葉などなど)などを使います。

 一方で、涼燥の場合は、秋の深まりと共にやってきて、頭痛・鼻水・咳・唇の乾燥・鼻づまり・喉の痒みなどの症状となります。冷えなどもともない、空咳がなかなかとれないタイプです。よく使う処方が、杏蘇散(きょうそさん・紫蘇葉・杏仁・茯苓・前胡・桔梗・枳殻などなど)です。以上の処方は、患者さんの症状にあわせて、さらに細かく加減していきます。例えば、咳が頑固な場合は百合や紫苑なども使います。このあたりは、いろいろなバリエーションがあります。

 また、そうした咳や鼻炎などの風邪の症状が、気管支喘息の発作を引き起こすことがあります。

 中医学で喘息の発作というと、痰飲が体の中にたまり(宿痰)、それが寒さ・雨などの気候の変化や情緒の不安定により動き出し、発作が起こると考えるのが一般的です。特に、気温が下がったり、湿度が雨などで急に高くなったときなど、変化があるときに喘息の発作がよくおこるが、気温が上がりはじめると発作が減る傾向にあるという研究もあります。さらに、上海だったら以前紹介した大気汚染の原因も十分に考えられるでしょう。

 軽度の咳なら、わざわざ薬を飲まなくても、日頃の食べ物で調節したいところ。蜂蜜・百合根・梨・蓮の実・蓮根・山芋・白キクラゲなどで、辛いものや刺激の強いものを避けなければいけません。また、のど飴もうまく使う必要があります。もし、薄荷が入っているような刺激の強いのど飴なら、口の粘膜の血管を収縮させる働きがあるので、燥邪による咳のように、はっきりとした炎症がない場合は、血管が収縮するので粘膜を傷つけ、口内炎になることがあるといわれています。

 喘息の発作が考えられるのなら、まずは大気汚染度も含めた天気予報には注意したいです。気温が急に下がりそうな場合は、冷たい空気で刺激しないようにマスクなどをして喉をまもるか、秋も深まってくると、早めに衣類を増やして寒湿から体を守る必要もあります。もちろん、秋の初めは体質を改善するために、外での適度な運動も必要です。免疫力を高め、寒さ対策をする絶好のチャンスです。中医学による喘息治療の特徴は、発作が起きないように症状緩和期にどれだけのケアができるかというところにあります。

 

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posted by 藤田 康介 at 09:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2012年09月19日

秋のだるさ、眠さ

 世の中でちょっとしたガタガタがあると、あっという間に時間が過ぎてしまいますね。9月7日の白露も過ぎてしまい、9月22日は秋分。というわけで、上海でも秋本番となりつつあります。

 この時期、非常に多い患者さんが、「だるさ」や「眠さ」を訴えるケース。もちろん、調べてみると他の疾患との関係がある場合もあるのですが、もう一つ忘れてはならないのは季節の変化との関係です。



 秋の体のだるさは、「秋乏」と呼ばれています。中医学的には、気虚や脾虚と関係があるとされていますが、例えば、夏場に汗をかきすぎて、体の津液が欠乏して体がだるく感じるケースや、夏にジメジメとした湿邪や冷えなどに体を冒され、気を製造する脾がやられると眠たさやだるさの原因になります。



 秋のこの時期、もう一つ忘れてはらなないのは「秋凍」とよばれる寒さに体をならすことです。例えば、冷たい水で顔を洗ってみたり、感冒の予防のためにも、ちょっと薄着で運動をしてみたりなどがそうです。ただし、体を邪気から守るためにも、汗をかいたら、しっかりと拭いて、寒さが体の中に入り込まないようにしてください。



 眠気対策は、基本的に軽く運動することで改善されると思います。私のところでも、話を聞いてみると、日頃全然運動できていない人が少なくありません。こういうときは、刮痧もお勧めです。経絡を通すために、皮膚を人為的に赤く内出血させて治療する中医学的な方法です。ただし、女性の場合は、妊娠している場合や、生理のときは控えて下さい。



 また、あっさりとした食べ物を摂取することも大切です。ここで注意したいのは、毎年この時期に増えてきて、秋分以降に下痢の症状を訴えるケースです。水様便の方もおられましたが、秋は下痢になりやすいのです。中医学・漢方的には、脾胃のはたらきの衰えと関係があるとされていますが、この時期の果物類の食べ過ぎにも注意していください。それでも、梨・ミカン・リンゴ・葡萄・サトウキビなどこの時期ならではの食材はぜひ食べましょう。



 しかし、今年だけはとくに体がつらいとか、何かいつもと違うと感じた場合は、病院に行かれてチェックされることをお勧めします。





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2012年09月13日

三朝温泉でラドン熱気浴を体験する

 日本の「ホルミシス効果」のある温泉と言えば、2012年の温泉気候物理医学会が開催された、玉川温泉が非常に有名です。全国各地から(海外からも)癌治療に来られる患者さんが非常に多いですが、さすがに秋田県までいくのは大変ですし、玉川温泉の強酸性の温泉は刺激がきつすぎると感じる人も少なくありません。そこで、今回私が行ってきた三朝温泉のラドン熱気浴は、お湯の温度は多少高く感じるかもしれませんが、入浴法と組み合わせると非常に気持ちいいホルミシス効果を体験できるかと思います。なによりも、日本海側とはいえ、関西エリアにあるのが嬉しい。

 三朝温泉はラジウムが分解されて生じるラドンを含む温泉で、弱い放射線を発しています。低線量の放射線をからだに浴びると、新陳代謝が活発になり、免疫力や自然治癒力が高まるというのが定説です。これがホルミシス効果といわれています。三朝温泉では被曝線量にすると、1.8マイクロシーベルト程度とされています。三朝温泉では、いずれも放射能を含みますが、ナトリウム・塩化物泉、ナトリウム・炭酸水素泉、単純泉の3種類の泉質があります。主な効能は、慢性リウマチ・神経痛・痛風・高血圧症・気管支喘息・腰痛・動脈硬化・糖尿病・消化器系疾患・肝臓疾患・冷え症・肩こり・疲労回復などがあげられています。飲泉が大々的に認められているのも三朝温泉の特徴の一つではないでしょうか。

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(のたまわりの湯)

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(のたまりの湯の浴槽)

 さて、ラドン熱気浴ですが、ここは予約制です。あらかじめ(電話)0858-43-0017に予約します。料金は30分で1000円。公共浴場の「たまわりの湯」に集合し、ここで浴衣を受け取ります。歩いて3分ほどで別施設(岡山大学病院三朝医療センター分室)まで行き、そこで簡単な説明をうけて、バスローブに着替えて、地下にあるラドン熱気浴の部屋に入ります。

 部屋には、赤煉瓦で囲まれた源泉があり、ぼこぼことお湯が沸いています。その熱気がすごく、夏場だと45℃ぐらいになるそうです。私が行った時は40℃前後、湿度は90%ほどあるので、スチームの効果がすごい。汗がどんどんと出て来ます。部屋には横になれる椅子が3脚ほどおいてあり、そこに横になります。しっかりと汗をかいたあと、再び「たまわりの湯」に戻り、温泉に浸かって終了です。かなりの汗をかくので、水分補給用の飲み物を忘れないようにということです。

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 ホルミシス効果については、いろいろな学者がいろいろな説を発表しています。この点に関しては、私の論評はしませんが、でも850年も歴史がある湯治場のある温泉に関して、その効能の善し悪しは、歴史が物語っていると思います。漢方や中医学が体にいいのか、悪いのかというのと同じで、どんな温泉でも適正に使うことが良いのではないかと思います。



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posted by 藤田 康介 at 06:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝統医学と温泉

2012年09月08日

第17回 温泉学会 鳥取・三朝温泉大会

 9月7日〜9日にかけて開催された日本温泉学会の鳥取・三朝温泉大会に参加するのが今回の三朝温泉行きの目的でした。大会テーマは「ラジウム温泉伝承の地で、現代の湯治を考える」というもので、会場のブランナールみささではいろいろな発表がありました。 今回も、鳥取県三朝町吉田町長をはじめ、地元の皆様には大変お世話になりました。

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 三朝町といえば、日本ではじめてウランが発見された人形峠があり、実際に採掘が行われたという歴史があります。昨今、放射線の問題がクローズアップされていますが、太平洋戦争後からそうした取り組みがされていました。

 ただ、三朝という地名が、三たび朝を迎えると、元気になるといわれているように、湯治として三朝温泉が果たしてきた役割が多いのも確かです。その証拠に、江戸時代〜明治時代にかけて残る保養旅館が温泉街に残っています。いまでも、滞在して通っておられる方が多いようです。

  また、2日目は「福島原発による放射性物質の飛散と健康影響」をテーマに、広島大学 原爆放射線医科学研究所の細井教授の講演を拝聴しました。

 お湯に浸かりながら、勉強も出来てしまうこの学会は、温泉気候物理医学会ともに、私のお気にいりの学会の一つです。

 来年は、東北の花巻温泉だそうです。




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2012年09月04日

上海市非物質文化遺産の中医学

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  連載原稿を書いていて、ふと調べ物をしていたら、なんとうちの中医クリニックすぐ近くに、上海市非物質文化遺産保護センターがあることに気がつき、ちょっくら行ってきました。

 中国では、中国の伝統医学でもある中医学を文化財として保存していて、国レベルや市・省レベルの非物質文化遺産として特別な保護を受けています。国レベルとなると、人間国宝的な扱いになるのではないかと思います。

 上海市の場合、これまでに157項目の非物質文化遺産が登録されていて、このうち13項目が中医学と関係するものです。そのリストは以下の通りです。

・ 石氏傷科療法(国非物質文化遺産)
・ 魏氏傷科療法
・ 施氏傷科療法
・ 陸氏傷科療法
・ 朱氏一指禅(国非物質文化遺産)
・ 陸氏鍼灸療法(国非物質文化遺産)
・ 余天成堂伝統中薬文化
・ 斂痔散製作技芸
・ 竿山何氏中医文化
・ 張氏風科療法
・ 顧氏外科療法
・ 六神丸製作技芸(国非物質文化遺産)
・楊氏鍼灸療法

 詳しい内容は、まもなく発売される2012年9月号の中医学の季刊誌『中医臨床』に執筆しましたので、ぜひご覧ください。

 しかし、中医学の流派自体が非物質文化遺産に登録される中国はすごい。やっぱり文化の一躍を担っているのですね。現代の日本の漢方で、人間国宝が登場するかというと、ちょっと難しいような気もします。



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posted by 藤田 康介 at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2012年09月02日

進む中医治療ガイドラインの標準化体系

 TCMNのシンポジウムでもご紹介しましたが、2012年7月14日、北京で中華中医薬学会がこれまでの中医内科・糖尿病・悪性腫瘍の中医治療のガイドラインに続いて、新たに中医外科・中医婦人科・中医小児科・中医眼科・中医耳鼻咽喉科・中医皮膚科・中医肛門科・中医骨傷科(整形外科)の治療ガイドラインを発表しています。2005年から中国の国家中医薬管理局が管轄し、進めてきた標準化作業のうち、基本的な分野に関してはその体系が見えてきたような感じですね。中華中医医薬学会の分科会が具体的な作業を行ってきました。

 上海市でも、上海市衛生局により「上海市中医病証治療常規」が定められていて、中医病名や処方の基準となっています。とくに、中医病名と西洋医学との疾患名との関係は、衛生監督部門によるカルテ検査の際の基準にもなっていて、我々臨床医とは深い関係にあります。形式的すぎるという声もありますが、医療としては必要な作業かと思います。

 標準化のガイドラインが作られたことで、日頃の臨床の治療レベルを高めるだけでなく、実験などで中医学の研究を深めるのに大いに役立ちます。標準治療が作られて、初めて討論できる基盤ができ、その上から新しい治療手段が創出されてくると思います。
 
 今回は、同時に「中医古籍整理規範」の10項目も定められました。

 中国では、こうしたガイドラインを定めることで、養生・看護・治療・保健の3分野での中医学治療の体系を作ることを目指しています。






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posted by 藤田 康介 at 08:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2012年09月01日

長崎ケーブルメディア(NCM)TV「上海曼荼羅」Weekly Shanghai

 確か2011年の秋頃だったと思います。長崎ケーブルメディア(NCM)の担当者の方から連絡があり、中医学を体験したいとのご要望で、うちの中医クリニックに取材にこられました。「上海曼荼羅」のWeekly Shangaiのコーナーに、「上海の中国医療体験」で、リポーターさんが中医学を体験されました。たしか、抜罐法・鍼灸・刮痧などを施術したように記憶しています。

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 上海では番組を見ることができないので、その後どうなったのかよく憶えていないのですが、つい先日長崎ケーブルメディアの担当者様からDVDが送られてきて、さっそくマジマジと自分の映っている映像を見ておりました。(ちょくちょくテレビの取材を受けているのですが、それでもかなり恥ずかしい。)

 そういえば、まだ中医クリニックがいまの場所に引っ越しする前の出来だったので、なんか懐かしい。

 学樹的なこと以外にも、こうした日本の皆様に中医学を紹介できる番組には、これからもチャンスがあれば、取材を受けていこうと思っています。

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posted by 藤田 康介 at 12:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動