2012年05月08日

現代病には脾陰虚が多いのかも

 中医学の脾臓というと、後天之本といって、食べ物を吸収して気を作り出したりする非常に大切な臓腑です。そのため、脾陽虚や脾気虚はよく登場し、李東垣の補中益気丸などの処方は、日本でも広く使われています。ところが、中医学を教科書で勉強すると、脾陽と脾気はよく登場するのですが、脾陰というのはあまり登場してきません。このことに、疑問をもっている方も少なくないかと思います。
  
 だからといって、脾陰が存在しないわけではなく、「各家学説」を勉強すると、明代の医学者、繆希雍(江蘇省常州出身)で脾陰の考え方が登場しています。ここでは、「食欲がなく、消化不良気味で、腹部に膨満感があり、四肢に力が入らない、四肢が熱く感じる」といった症状が挙げられています。脾陰の働きは、脾の運化の働きと関係があり、五臓を潤し、筋肉や骨に栄養を巡らしますが、疲労やストレスなどが原因で脾陰が不足すると、熱が発生し、四肢煩熱になるということです。

 消化器系の陰虚として区別する必要があるのは、胃陰と脾陰の違いかと思います。これは、臓である脾と腑である胃の働きの違いから考察できると思います。脾陰は他の五臓や骨・筋肉を潤す必要があるので、どちらかといえばドロッとした感じのもので、胃陰は、伝達させる必要があるから、サラサラとしたイメージだと考えられます。そうすると、ストレスなど慢性疾患による下痢は脾陰と関係があるし、外感による嘔吐や胸焼け、お腹が空くのだけど食欲がないといった症状は胃陰と関係があるので、両者の性質が違うことが分かります。胃の陰虚の場合、大便が硬くなることも考えられます。

 さて、脾陰虚の治療のポイントとなるのは、繆希雍らが示している「甘涼滋潤・酸甘化陰」法です。黄耆や党参など温補系の生薬ではなく、沙参や麦門冬といった甘涼系の生薬ではなく、芍薬や山薬、薏苡仁、蓮子、白偏豆、芡実、石斛といったものを使います。明代の医学者、張錫純は生山薬をよく使ったそうですが、ここにも脾陰を補う発想があったことも考えられるかもしれません。

 一般に腹部膨満感や下痢などの症状があった場合、中医学では多かれ少なかれ脾気虚を考えて黄耆・人参・白朮といったものを使い、そして膨満感解消のために理気作用のある木香や砂仁を使いたくなります。ただ、脾陰虚の場合、こうした補気昇陽は脾陰を傷つけてしまうことになり、逆効果になってしまう場合があります。よって、脾陰虚と脾気虚の違いを分析しておく必要があります。
 一説では、脾陰虚の場合は、脈が細数で、舌は苔がすくないのですが、脾気虚の場合は、脈に力がなく、弦緩であり、舌も歯形がついているようなタイプではないかと考えられています。また、脾虚により下痢が続くと傷陰するため、脾陰虚となることも考えられます。

 結論として、様々な陰虚を治療するには、「後天之本」である脾の陰が非常に大切です。たとえば、糖尿病に代表される消渇や、泄瀉となる過敏性大腸炎、舌苔が赤くて少ないことが多い喘息、脾陰虚系の不眠などにも使えると思います。

 
posted by 藤田 康介 at 12:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察