2012年02月28日

中医学の継承の難しさ・・・老中医の逝去

 2月23日、浙江省杭州で、中国での『金匱要略』の権威の一人である、何任教授が亡くなりました。93歳でした。『金匱要略』は、中医学や漢方医学を勉強した人なら必ず1度は読み込む本です。それだけに、この先生の本を読んだことがある人は非常に多いと思います。元、浙江中医学院の院長でした。

 何教授は、中国政府が中医学に貢献のあった老中医(ベテランの中医師)に送る「国医大師」の称号も受けられており、教育の世界でもご尽力されました。上海にも何度もこられ、私も講義を受けたことがあります。幸運なことに、私が上海中医薬大学に在籍していた90年代のころは、まだまだ「国医大師」の先生方が、ご高齢ながらも第一線で診察をされていたので、その外来のお供をさせてもらったことがたびたびありました。今となっては、そのときの記憶が本当に大切な宝物になっています。

 中国の中医学の世界では、先の「文○」の影響もあり、50〜60歳代のベテラン中医師の人材の層が薄いのが問題で、技術の継承に大きな障害が出ています。いまでこそ、危機感をもって継承問題に取り組んでいるようですが、時は遅しといった感じは拭えません。中には、「国医大師」の称号を受けたら命がなくなる、と揶揄する人もいるぐらいです。

 伝統医学では自分の師匠の先生とのつながりが非常に大切です。今度、またご自宅を訪問してきます。

 ご冥福をお祈りします。
posted by 藤田 康介 at 08:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑感もろもろ

2012年02月23日

SARSのウワサはアデノウイルスだそうで

 先日、上海の地下鉄車内で、中国人の乗客が、「SARSが発生した?!」とかいって話をしていたのを小耳に挟んでいました。SARSという言葉は、最近、とんと耳にはしていなかったので、一瞬、「またか!」とか思ったのですが、これについて中国衛生部が25日にコメントを出していて、河北省保定市の解放軍252医院に入院した呼吸器感染による発熱患者は、アデノウイルスによる感染と診断されたようです。

 入院患者はほぼ軽症で、死亡例もないとのこと。

 アデノウイルスは、飛沫感染や接触感染でひろがります。さまざまな亜種があり免疫がつきにくいのも特徴。プール熱もこのウイルスと関係があります。とりあえず、当局が発表してよかったです。
posted by 藤田 康介 at 08:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝染病と闘う

2012年02月19日

千葉でのミニ講演会

 2月19日は千葉県松戸市にあるカムクリニックで、恒例の中医学のミニ講演会を行ってきました。

 常連さんも含め、今回も会場はほぼ満員の盛況でした。武田院長並びに高橋先生のご厚意に感謝しています。

 今回のテーマは春と花粉症。中医学での花粉症治療の考え方について、そして日頃自宅でもできる中医学的対策についてお話しました。

 これからも、日本での一般向けの講演活動はすすめていきますので、よろしくお願いします!

 講演の様子はこちらをご覧ください。
posted by 藤田 康介 at 11:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2012年02月17日

国際シンポジウム「統合医療におけるがんの予防と治療」

 2月17日〜18日、東京医科歯科大学のM&Dタワー大講堂にて、日本統合医療学会主催の国際シンポジウムに参加してきました。ここの学会のパネリストは、毎年非常に著名な先生方が出てこられ、いつも貴重な勉強をさせていただいております。近年、私も中医学をつかった癌治療に関わることが多くなり、日本の漢方の先生方との意見交換をすることも増えました。統合医療の観点から、改めて検証するいい機会になりました。

 今回のシンポジウム参加に声をかけてくださいました、大塚先生には大変感謝いたします。

 詳しい内容は、以下にまとめました。

漢方VS中医学の構図はよろしくない
会議二日目と先生方との出会い
posted by 藤田 康介 at 08:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2012年02月14日

便秘と夜尿症の関係、麻子仁丸

 米国のノースカロライナ州にある Forest Universityの研究で、30名の5〜15歳の夜尿症のある子供について調べたところ、いずれも排便の習慣があるのに、X線検査をしたところ、直腸に残留している便の量が多いことが分かりました。そこで排便を促す薬で治療を行ったところ、このうち25例で3月以内に夜尿症の問題が解決したという結果が発表されていました。
 つまり、直腸の便が増えると、膀胱の容積が減り、その便を排除してあげると、膀胱の容積が増えて、夜尿症がなくなったと分析されていました。

 私も、子供の夜尿症をよく中医クリニックで診察しています。中医学や漢方での夜尿症の治療は、比較的うまく行くことが少なくありません。
 日頃の臨床の中で、一部の子供たちに便秘の問題があり、便通がいいときは夜尿症がなくなるという現象には気づいていました。私にとってのヒントは、『傷寒論』にある麻子丸(脾約丸)でした。『傷寒明理論』には、「经曰:脾主为胃行其津液者也,今胃强脾弱,约束津液不得四布,但输膀胱,致小便数而大便硬,故曰其脾为约。」とあり、方剤学の教科書にも「肠胃燥热,津液不足。大便干结,小便频数。」と、ちゃんと尿に関しての記載もあります。(ただ、日本の翻訳本をみると、「小便频数」の部分が脱落しているものもありました。)
 中医学の教科書的解釈では、胃の中に熱がたまり、津液が正常に分布できず、膀胱に流れ込むために、頻尿が起こるというものですが、西洋医学の研究とつながるところがあり、私も嬉しくなってしまいました。特に、子供はまだ脾の働きが弱く、胃熱が盛んになりやすいので問題が発生しやすいのです。アトピー性皮膚炎に関しても、胃熱との関係は密接です。

 きっと、今後も中医学や漢方医学で既知となっている現象が、いろいろと西洋医学の分野でも明らかになってきて、うまく融合できるのではないかと期待しています。
posted by 藤田 康介 at 09:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2012年02月04日

生薬(漢方薬)を使った乳牛の乳房炎の予防対策

 生薬(漢方薬)を農業分野で活用する動きは、中国で以前からありましたが、上海では乳牛の乳房炎の予防に、抗生物質の代わりに中医薬を使う研究が行われていて、実用化のメドがついたようです。

 中国では、牛乳に対する安全性の問題が相変わらずくすぶっていて、消毒や殺菌のために、ヨードや抗生物質を使いすぎて残留量が基準値を超えてしまったケースが毎年発生しています。安全な牛乳を生産するためには、抗生物質を極力使わないようにすることが必要です。そこで、中医学で使われる生薬を活用しようというわけです。 
 
 中国の酪農の中で、乳牛が発症する病気のなかで最も多いのが乳房炎で、万が一発病すると牛乳の質が低下します。そのため、酪農家は飼料のなかに抗生物質をいれたりして対策をすることが多いようです。そこで上海大学と徳諾公司では生薬のなかから抗菌作用の強い物を選び出し、蛇床子・青蒿・金銀花・柴胡などの生薬から有効成分を抽出してA液とB液の2種類の消毒液を開発しました。A液は採乳前の消毒に、B液は採乳後のケアに使うとのこと。これにより、殺菌消毒効果は8時間に達し、採乳前の感染を防ぐことができたということです。

 こちらの報道では、すでに上海市内の酪農場で乳牛200頭に実験されていて、生薬を使ったグループとヨードをつかったグループにわけて対照実験をしたところ、搾乳前後の原乳の体細胞の比較で、4週間後には正常値になったということです。中薬による消毒が、ヨードの代わりになるかは今後の研究成果をみてみないといけないですが、ヨードは牧場付近の水汚染リスクもあるため、生薬を使った消毒に期待が高まっています。
posted by 藤田 康介 at 08:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬