2011年02月26日

六味地黄丸と精子の質・男性不妊の治療で

 中医学を知らない方でも、六味地黄丸なら知っているという方は少なくないかと思います。元々は、小児科の専門書『小児薬証直訣』(銭乙)に記載されている処方で、子供の肝腎不陰虚の症候で使われました。ただ、近年では、大人に使われることが多くなりました。

 オリジナルの処方は丸薬です。蜂蜜で固めるいわゆる蜜丸でしたが、現代ではエキス剤やカプセルなどでもあります。主成分は乾地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮です。肝腎陰虚と呼ばれる腰痛や耳鳴り、盗汗、のぼせ、喉の渇き、腰のだるさ、夢精、陰虚が原因の歯の痛みなどの症状で非常によく使われます。

 2011年第2期の『中華中医薬雑誌』で、山東中医薬大学の研究グループが、六味地黄カプセルをつかって、肝腎陰虚タイプでの男性不妊症の精子の運動率を高め、精子の奇形率を改善し、DNA損傷を防ぐ働きがあることを発表していました。

 現代医学では、六味地黄丸の処方の抗酸化作用やフリーラジカル除去、免疫力強化などの働きが分かっています。こうした作用が、曲精細管にある精子形成細胞など関連細胞に作用して、精子のDNAの保護に役立っているようです。

 男性不妊症の治療において、中医学の腎の考え方は非常に大切ですが、こうした精液の各検査指標の改善からも、腎を補う薬の役割を裏付けられることになります。

 一方で、ニュージーランド・オークランド大学の研究では、男性がビタミンEや亜鉛などの抗酸化物質を服用すると、生殖能力を高めることができるという臨床結果を発表していました。不妊症治療のうち、その40%以上で男性に問題があるといわれているなか、その80%で精子が酸化されてしまったり、数が減少してしまったことにその原因があります。そこで、抗酸化物質が注目されたわけですが、実験では抗酸化物質の活用で、男性の生殖能力が4倍に高まったとして一定の成果があるとしています。

 いずれにしろ、補腎系の生薬が男性不妊の治療になんらか役立つことは確かなようです。
posted by 藤田 康介 at 09:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2011年02月20日

第1回中医ミニサロン(上海)のお知らせ

 上海では、私も台湾人や中国人を対象に行ってきた中国語で中医学普及のためのミニサロンですが、今回は初めて日本人向けに日本語で私がお話しすることにしました。

 中医学的要素をたっぷりと盛り込んで、第1回目のテーマは「中医学的鼻炎対策」を取りあげてみました。日本ではもうすぐスギ花粉の季節です。私自身も花粉症持ちで、自分自身でいろいろ対策を行っています。(それでも毎年3月はじめの日本出張は戦々恐々しているのですが。)

 上海では、日本のようなスギ花粉による症状は殆ど出てきませんが、それでも在上海日本人の多くは、この時期の日本への出張は避けられません。また、上海ではその他の植物の花粉による症状も見受けられます。

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(写真は私専用の2011年度版鼻炎対策煎じ薬です。)

 鼻炎のことを、中医学では「鼻鼽(びきゅう)」と呼びます。中国の病院でも中医耳鼻咽喉科で非常によくみられる症状です。日本では体質改善で漢方などがよく使われていますが、実際どうすればいいのか、私自身の体験を踏まえながらご紹介します。今回は中医学の普及が目的ですので、人数も15人限定にし、参加費は無料です。(たくさん来て頂きたいのですが、場所が狭くて。。。。)

主なテーマ
1. 上海でのアレルギーの実態
2. 中医学で考える体質の問題
3. 春を迎えるのにあたって養生訓 
4. 中医学的鼻炎対策 など。

時間:2011年3月18日(金曜日)10時30分より1時間程度を予定。
場所:上海鼎瀚中医クリニック2階待合室サロン(虹橋路618号)
使用言語:日本語
参加対象:中医学に関心のある方
参加費:無料 (皆さんとお話できるようにサロン形式を考えていますので、15名限定です。中医学が体験できるプレゼントつき。)

事前申し込みはinfo@mdfujita.jp (藤田)までどうぞ。
お気軽にお越し下さい。
(定員になりましたので、とりあえず締め切りますが、ご関心のあるかたはメールでご連絡ください。対応させていただきます。)
posted by 藤田 康介 at 08:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2011年02月16日

立春以降に食べたい食べ物

 日本でもすっかり有名な言葉になりましたが、『黄帝内経・素問』の「四気調神大論編 第二」に「春三月(立春から立夏まで)、これ発陳という。天地倶に生じ、万物以て栄える。夜に臥し早く起き、広く庭を歩き、神を被き形を緩す、以て志をして生ぜしむ。」という一節があります。
 すなわち、春はしっかりと生気を養って、肝を労り、成長を助けてあげることで、夏になって寒性の病、さらに夏ばてまでも防ごうという発想です。なんともいい言葉ではないでしょうか。

 それはともかく。結局、食べ物も人体の陽気を発散させるのを助けるような食べ物がいいということになります。これがいわゆる中医学の「発陳」の思想につながります。

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(立派に生えてきたニンニクの芽、土の下にニンニクがあります。江蘇省無錫にて)

 具体的には、2月は一般的に、ダイコンやニラ、タマネギなどを食べるように言われますが、その原理は、上記のように春に盛んになる肝気を発散させ、陽気を補ってあげるという中医学的な養生の思想に基づきます。とくに、もやし類(緑豆もやしや大豆もやし)、生姜の芽、ニンニクの芽なんかがお勧めです。

 植物の発芽は、そもそも種の中に溜まった物質を発散させるというイメージがあり、これぞ発陳の典型ということになるのでしょう。

 ただし、こうしたモヤシ類は一般に身体を冷やすものが多いです。胃腸が冷えやすい人は食べ過ぎず、またモヤシとあわせて生姜などを組み合わせるのもいいでしょうし、この時期なら温性のニラと炒めるのもまたよいです。中華料理で、ニラとモヤシが一緒に炒められることが多いですが、これもバランスを整えるのによいと言うことになります。ニラレバなんかも、そういった意味では気血の不足を補うのにはいいメニューです。

 ニラは、中医学・漢方の世界で、ニラの種を不妊症の治療に使うように、陽気を補う作用があります。その中でもとくに、肝の陽気を補う性質があります。ただし、陽気が盛んな人は食べ過ぎないように気をつけましょう。

 また、五行説で春が青色に属することからも、セロリやほうれん草などの葉物が時期的にもいいことになります。

 陽を養うには、身体をしっかりと動かし、外の陽気を身体からしっかりと吸収させることが非常に大切になります。
posted by 藤田 康介 at 10:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の薬膳・医食同源の世界

2011年02月15日

不妊が増える上海の実態

 最近、うちの中医クリニックでも、私が上海地元の人を診察する機会が去年と比較しても明らかに増えてきているのですが、その中でもちょくちょく見かけるのがやはり不妊のカップルです。

 上海人の間でも確実に増えているようで、現在、上海エリアでは結婚したカップルの15%で不妊がみられるとも言われています。こうした背景から、上海市でも対策に乗り出していて、上海交通大学医学部にも男女の不妊を専門に治療するセンターが設立されました。ものすごく必要なことだと思います。

 一般的に、不妊のカップルのうち、女性側に問題があると言われているのが全体の60%前後で、その多くがいわゆる卵管閉塞や卵巣機能不全などです。上海では一人っ子政策の影響もあり、妊娠中絶をしている人が非常に多いという現実もあります。実際、仕事などの理由で、若いときにせっかく妊娠したのにさっさと中絶してしまい、今となって不妊になって悩んでおられる上海人のカップルもおられました。

 男性の場合は、無精子症も問題になりつつあります。

 男性も女性も晩婚化が進み、さらに仕事などのストレスを抱え、最近では環境汚染の問題も人間の生殖機能に大きな影響を与えています。

 昔、上海の朱氏婦人科で有名な朱南孫先生にご指導を受けたときも、その当時から不妊症の問題は上海で問題になりつつあり、その中医薬(漢方薬)での治療法には感銘を受けたことがあります。朱先生は、2種類の薬の組み合わせを巧みに使われる治療法です。

 中医学を使った不妊治療では、男女両方の治療が必要です。機会があれば、またその最近の研究成果をご紹介します。
posted by 藤田 康介 at 07:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の健康事情

2011年02月14日

非定型抗酸菌症の中医学(漢方)と西洋医学を併用した症例

 2年ほど前に気管支鏡検査でマイコバクテリウム・アビウム(M.avium)が検出され、非定型抗酸菌症と診断された患者さんが通っておられます。一時は上海の病院で結核ではないかと疑われましたが、日本に戻った検査の結果に非結核性であることが確認され、去年の春頃から中医学を導入した治療を行っています。

 非定型抗酸菌症は、呼吸器の感染症で、咳や痰の症状のほかにも、ひどくなると全身がだるくなるなどの症状がみられます。感染することはありませんので、隔離する必要はありませんが、この患者さんの場合、夜間を中心にひどい咳や緑色の痰に悩まされ、盗汗などの症状がありました。

 西洋医学的には、結核治療と同様の治療が行われ、REF・EB・CAMなどの薬を使いますが、中医学の生薬を併用するという手もあり、この患者さんの場合、生薬を導入した段階でかなり咳が収まり、その後の西洋医薬との併用でかなり良好な効果を得ることができました。

 心配された西洋医薬使用による副作用もほとんどなく、2010年の検査では一時期悪化傾向にあったCTでの陰影も、今回の検査で大きく改善され、喜んでいらっしゃいました。日本の大学病院の先生から、どういう漢方薬を使ったのか?と聞かれたとおっしゃっていましたが、西洋医学の先生にも少し中医学に関心をもっていただけて私も嬉しかったです。ただ、実はそれほど複雑な処方をしたわけではありません。

 中医学では、昔から肺結核(肺癆)の治療に中医薬が使われていて、効果の問題はありますが、経験処方はかなりあります。私が上海中医薬竜華医院の呼吸器科にいたとき、上海市名老中医の邵長栄教授に師事したことがあるのですが、この先生ぐらいの年代になると、実際臨床で肺結核の治療で中医薬(漢方薬)による治療を行った経験があり、いろいろ指導していただきました。今回の非定型抗酸菌症も、症状が似ていることからその中から肺結核の経験を参考にしてみました。

 基本的には気陰両虚の証から、養陰降火の生薬を処方しました。メインの生薬には、百部・丹参、黄芩などを使い、症状にあわせて沙参麦門湯や二陳湯を組み合わせました。肺と腎との関係から、一時期蛤蚧(ヤモリ)の粉も使いました。煎じ薬だからできる、生薬の自由な組み合わせです。

 中医学の弁証論治は、違う病気でも同じような処方を使うことがよくあります。基本的に、症状を分析して思考が似ておれば、処方の共通性はあるわけで、今回もそういったやり方がうまくいった例だと思います。
posted by 藤田 康介 at 15:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2011年02月13日

フウセイの魚脳石(魚耳石)

 ちょっと変わった生薬です。

 先日、晩ご飯で黄魚(フウセイ ニベ科)を食べたときに、身をほじくりながらついに「魚脳石」を見つけました。
 これは、魚の頭部に左右一対あり、平衡感覚をとる働きがあります。魚の大きさによって魚脳石の大きさも違うわけですが、中医学の生薬の世界で使うのは、この黄魚のものを使うことが多いです。

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 確かに小さいですね。

 主成分は炭酸カルシウムです。中医学の世界では、昔から内服では粉末にして腎臓結石の治療、外用では中耳炎や鼻炎・副鼻腔炎の治療などに使われました。『本草綱目』や『日華子本草』などに記載があります。

 ただ、生薬として使う場合は、そのまま使うのではなく、修治・炮製します。

 というわけで、写真に記録しておきました。
posted by 藤田 康介 at 09:01| Comment(0) | TrackBack(1) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2011年02月12日

喘息の発作と抗生物質の関係

 抗生物質信仰の非常に強い中国では、抗生物質の濫用問題が昨今大きく取りあげられてきています。でも、実際に臨床現場を診てみると、患者さんの抗生物質処方への要望が強く、なかなか旨くコントロールできていないのも現実です。

 胎児や出生間もない新生児への抗生物質の使用に関して、ノルウェーのNorwegian University of Science and Technology, Trondheimが興味深い研究結果を紹介していました。

 妊娠してから子供が6歳になるまでの1400人のノルウェー人の子供やその親御さんを中心に聞き取り調査を行ったところ、妊娠中のお母さんや、出生間もない新生児のころに抗生物質に服用したことがある場合、服用しなかったケースと比較して、子供が6歳になったときの喘息の発生率が50%高まるということが分かったということです。

 研究者の分析では、子供があまり早い段階で抗生物質に接すると、腸の中にある身体に有益に働く最近、すなわち有益菌が破壊され、身体の免疫システムに影響を及ぼし、アレルギー反応を引き起こして、喘息が発生するリスクが高まるのではないか、と考えていました。

 もちろん、抗生物質は必要なときには使われなくてはいけませんが、現在の中国のように、予防的にまで使われてしまうと、それはちょっと違うと思います。せっかく、中医学の中医薬(漢方薬)があるのに、旨く活用されていないことも非常に残念です。
posted by 藤田 康介 at 08:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 中国の医療事情

2011年02月11日

『健康医学2月号』「中医学による癌治療の考え方」

 今回の号では、特集で「脱・ガン体質」が取り上げられていたため、私の中医学での連載でも「中医学による癌治療の考え方」を少し紹介しました。

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 私も、大学病院にいたときは、中医学の癌病棟(腫瘤科)の中でも、消化器系の専門家の楊金坤先生など中医学による癌治療の第一線で活躍されている先生から指導を受けることができました。さらにうちの中医クリニックでも、定期的に講義に来て頂いています。そんなこともあり、癌治療における中医学の重要性については、この目でしっかりと見ることができました。

 日本とちがって、中国では、癌の初期段階からも中医学を導入させており、患者さんからも信頼が厚いわけで、腫瘤科の外来はとんでもない混雑で、私も外来のお手伝いにいったときは、1日に100人以上の患者さんの対応をしました。

 中医学における癌治療の大原則は「扶正袪邪」で、癌の病巣をたたく成分の生薬を使う以外にも、体の正気を支える扶正の重要性についても検討されてくるようになりました。

 代表的な生薬では、免疫力を高める人参・冬虫夏草・霊芝、癌細胞に直接作用するといわれている山慈姑・青黛・冬凌草、痛みなどの苦痛を緩和する白花蛇草・田七・半枝蓮などが有名です。
posted by 藤田 康介 at 16:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2011年02月10日

春節(立春)からの中医学的養生のコツ

 2011年2月4日に迎えた「立春」ですが、暦が旨くできているのか、それとも偶然なのか、いずれにしろこの時期を過ぎると、上海でも非常に春らしく感じられます。その後、若干の寒の戻りもありましたが、最高気温が10℃を越えるような日も出てくるようになりました。

 「立春」を過ぎると、人の身体の徐々に春に向けて変化するようになります。自然界でも陽気が活発になってくるため、この陽気を身体が旨く取り入れられるようにしてあげる必要があります。

 ただし、少し厄介なのは、まだ自然界には寒気がたくさん居座っていることが多く、邪気が身体の表面から入ってくる湊理(いわゆる毛穴)のコントロールが難しいので、暖かい天気が続くと湊理は緩んでくるのですが、寒くなると再びしっかりと閉じてしまい、旨く陽気を取り込んだり発散することができません。

 中途半端な状態で陽気を閉じ込めてしまうと、陽気が体内で鬱積してしまう状態となり、陽が盛んになる一連の症状が出てきます。陽が盛んになると言うことは、「火」も盛んになるわけですから、この時期に喉がいたくなったり、便秘になったり、イライラしやすくなる(うつ的症状)が増えるのも理解できます。そんなときは、陽気がしっかりと発散しやすくしてあげる必要があります。

 従って、衣類などは暖かくなったからといって一気に減らすわけではなく、むしろ徐々に脱いでいく方が望ましいというわけです。

 春に気をつけないと行けないのは、春の風の邪気、すなわち風邪です。春になると陽気が盛んになり、湊理が開きやすく、そこから風邪が入り込みます。身体の中に入った風邪は、頭の上の方へ走り去れば頭痛を起こしますし、経絡に入り込めば関節痛になります。中国人が頭や膝(バイクに乗るときなど)にしっかりと風よけをつけるのも、そうしたことと関係があります。

 頭痛といえば、生薬「天麻(てんま)」が有名ですが、そのほかにも、髪の毛を櫛でとくことも過剰に溜まった頭部の陽気を発散させるのによいとされています。ツボとしてよく使うのが足少陽胆経の風池(頭を下げ外後頭隆起から正中線に沿った下方の陥凹部が瘂門穴で、その外方1筋を隔てた、後髪際陥凹部)や、督脈の風府(後頚部で後正中線上、外後頭隆起の下方、後髪際を入ること1寸)などを重点的にクシなどで刺激してあげると、頭がすっきりします。頭部刮痧なんかがいいのもそのためです。

 中医学的にクシをつかった頭皮の簡単な刺激方法として、まずおでこから後ろにかけて髪の毛をとき、今度は後頭隆起から耳の上にかけて再び前の方に戻ってくるという順番でやり、これを5〜6セット繰り返します。こうすると足少陽胆経や足太陽膀胱経などの経絡にそって陽気を循環させてあげることができるというわけです。
posted by 藤田 康介 at 08:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 「治未病」という発想

2011年02月09日

中医薬(漢方薬)による鬱病治療

 最近、他の病院でうつ病と診断を受けたり、各種疾患が原因でうつ状態を抱えてらっしゃる患者さんを立て続けに診察しました。中医学(漢方)で何ができるのだろうか?とお思いの方の多いのですが、意外と経験実績がある分野でもあり、しかも殆ど副作用がないので活用する価値はあるかと思います。中医内科学でも、鬱証という証が作られているぐらいです。

 一般的に女性の方が罹患しやすいなどと言われますが、決してそうではなく、男性も多いです。

 最近、北京中医薬大学第3附属医院の唐启盛院長らが研究した「抑鬱症の中医症候学規則の研究」で、中国の国家科学技術進歩奨2等奨を獲得した論文がありました。

 この中で、1221例の患者さんを対象に中医学におけるうつ病治療の分類があり、腎虚肝欝・肝欝脾虚・肝胆湿熱・心腎不交・心脾両虚・心胆気虚の6種類を中医診断基準に入れていました。

 治療効果も、西洋薬の抗うつ剤単独のグループと比較すると、中医薬を使ったグループは、鬱症状が改善の効果が出てくる時間が7日間かかったのに、西洋医学のグループでは21日かかり、6つのパターン全体で比較しても、5-8%治療効果を高めることができたと言うことです。

 とくに、中医薬を使った場合、不眠症や疲労感、食欲不振などの合併症にも対応でき、患者さんにも受け入れやすいというメリットもあります。

 私も、場合によっては鍼灸なども併用させ、中医の処方と組み合わせて治療を実践してきました。鬱症状といっても、10人おれば10人とも症状が違うので毎回いろいろな処方を考えますが、そこそこ成果が出ているように思います。

 補足ですが、最近、アメリカ国立衛生研究院の研究で、鬱症状を罹患した人の方が、罹患しなかった人よりも骨密度が低下するというデータが発表されていました。大腿骨の骨密度を計測した場合、罹患したグループの方は、13%骨密度が減少し、脊椎の骨密度も7%減少するのだそうです。
 これは、ステロイドホルモンの分泌と関係があるようで、鬱症状を訴える人の方がステロイドホルモンの分泌が増えるからで、日頃から太陽にしっかりとあたり、運動をし、骨によい食生活をする必要があるということです。確かに、そういった生活習慣を改善することができれば、鬱症状の改善にも役立つはずですね。
posted by 藤田 康介 at 07:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察

2011年02月08日

胡氏高湯餛飩(ワンタン)と中医学の関係

 中国では、歴史の古い町に行けば行くほど、また昔に商業都市として栄えた街に行けば行くほど、中医学にゆかりのある食文化に接することができます。かっこよくいえば「薬膳」なのでしょうけど、とくに肩肘を張ったものではありません。

 春節休み中に出かけた黄山ハイキングで、黄山の麓にある街、安徽省黄山市屯渓はまさしくその典型で、明代末期から清代初めにかけて徽州の商人たちで栄えました。

 今回、安徽省黄山市屯渓海底巷の路地裏で出会った餛飩もその一つ。名付けて、「胡氏高湯餛飩(ワンタン)」と呼ばれます。その由来をいろいろ聞いてみるとなかなか興味深い。中国語で〜氏とつくと、さしずめ日本語の〜流といったイメージになります。

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(路地裏に入っていきます。)

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(通常はこの屋台で作るのだそうです。)


 その当時、この海底巷でワンタンの店を開いていた胡さんが、水夫たちが一生懸命働く姿をみて、日常的によく食べられるワンタンを、もっと栄養価の高い料理にして、人々の健康に貢献できないかと考えました。

 そこで、その胡さんは知り合いの中医学の先生にお願いして、滋養強壮や寒さに対応できるようなワンタンを作ることができないかと考えたというのがこの「胡氏高湯餛飩」の始まりだそうです。その後、清代の乾隆皇帝の南方巡行時に大変賞賛され、「紅頂餃師」の称号をもらったという由。

 その後、もともと秘伝だったワンタンのレシピは庶民のために公開され、今に伝承されているということです。何とも喜ばしいことではないでしょうか!食品に対する不満が堆積している昨今の中国ですが、昔の人たちのこうした功績は賞賛されるべきですよね。

 ところで、この「胡氏高湯餛飩(ワンタン)」は中医学の薬膳的思想から何が具として使われているのか?いわゆる豚肉のほかに、ブタの骨髄部分、生姜、キクラゲ、椎茸、棗などが配合されているのだそうです。なるほど。。。。

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(店の入り口、歴史の香りがしますね。)

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(中でおじさんが素早い手つきで餛飩作りを)

 さて、早速私も娘も妻もいただきました。娘は口にあったようでパクパクと食べてくれました。いわゆるミニワンタンとなる上海では小餛飩と呼ばれる分類に属します。スープと一緒にいただきますが、肉のいいダシが出ていて美味しかったです。

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 でも、ここから分かることは、中医学がいかに昔の人々の間で重宝され、それが日常生活で薬膳として活かされていたのかという現実を知る、一つのよい例だと思います。

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posted by 藤田 康介 at 18:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国での食の安全を考える

2011年02月07日

辛兎年がいよいよスタートです

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(黄山の峰)


 2011年2月3日に中国農歴(旧暦)の新年がスタートしました。

 旧暦からみると、庚寅年から今年は辛兎年になります。街中爆竹が鳴り響き、すこし郊外に行くと店という店がすべて閉まっていました。私自身も、家族を連れて新年明けは黄山へ、ちょっとしたハイキングとドライブを楽しみました。

 詳しくはこちらをご覧ください。

 今年も2月7日から春節明けの診察がスタートしました。病院のスタッフも徐々に戻ってきました。

 辛兎年もブログ共々よろしくお願い申しあげます。

 中国での生活が長くなると、春節を越えないとどうも新年が来た感覚になりませんね。昔は逆だったのですが。。。。でも、日本では昔は春節がありました。季節的には、春節に正月を迎える方が、春の到来を実感できていいのでしょうけど。

 春節を過ぎた途端に、上海はめっきりと暖かくなりました。
posted by 藤田 康介 at 16:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑感もろもろ