2010年11月23日

浙江省杭州の胡慶余堂中医薬局

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  中医学で診察している我々医師にとって、非常に大きなポイントとなるのが、質の良い中医薬局と、うでのいい薬剤師の存在です。うちの中医クリニックでも、もちろんエキス剤を出すことはできますが、でもエキス剤だけでは中医学の力をすべて発揮することは難しいと私は考えています。幸い、うちの院長も台湾の実家が伝統的な中医薬局を持っており、そうしてノウハウはこの上海でも実現できる条件にありました。そうしたバックグランドは、我々医師にとっても、さらに患者さんにとっても非常に大きなメリットだと思います。

 いくら立派な腕を持っていても、生薬が出せなければ、力を発揮しようがないのです。

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 先日、浙江省杭州にある胡慶余堂に行ってきました。

 おそらく、中国国内では最も完全に保存された、そして今でも使われている最大規模の中医薬局だと思います。こうした薬局が、中国各地にあったからこそ、中医学が現在まで残ることができました。古い薬局といえば、北京同仁堂なども有名ですが、建物自体はもう取り壊されて残っていません。そういった意味でも、1874年に建設されたこの胡慶余堂は貴重なのです。
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 建物をみると、中国の古民家に興味のある方なら、安徽省の徽式の商家の作りと気がつくことでしょう。ものすごく背の高い土塀にぐるりと囲まれていて、正門から中にはいると、吹き抜けがある構造など、特徴的です。その造作は非常に細かく、彫刻などが美しい。中医学が、中国の文化の一部であることがよく分かります。

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 中医薬局のもう一つの大きな役割は、様々な処方を代々伝承していくという点です。我々が毎年冬に処方している膏方や、また患者さんの症状にあわして製作する丸薬や散剤など、これらは中医学を専門とする薬剤師さんたちが継承してきたものなのです。そうした技術は、中医薬局があるからこそいままで受け継がれていて、我々もいまこの場所で使っています。工業化されたエキス剤では、実現できない中医学の魅力でもあります。

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 胡慶余堂では、宋代の薬典『太平恵民和済薬局方』をベースにした処方を収集して製剤してきたと言われています。この本は、中医学史ではじめて国が定めた薬剤の書物で、中には297種類もの処方が掲載されています。今でも私も非常によく使う四君子湯や二陳湯、活絡丹や藿香正気散や失笑散などもこの本の出典です。 

 そんなことを色々思いながら、あらためてこの薬局の展示物をみると、なかなか興味深いです。薬局の2階には博物館もあるので、この胡慶余堂の歴史なども知ることができます。
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 21世紀になって、世の中は変化してきていますが、私も師匠から継承された中医学の知識をしっかりと育み、その足跡をまた次の代に残していけるよう、日々の臨床をがんばりたいと改めて思ったのでした。

 杭州にいかれたら、ぜひ寄ってみてください。

【データ】胡慶余堂 
住所:杭州市大井巷95号(呉山広場近く)
電話:0571-87027507
 
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学の魅力

2010年11月22日

今年初めての膏方が出てきました

 寒くなってくると、我々中医学をしている医師が忙しくなってくるのが膏方の処方です。

 膏方とは、生薬20〜30種類をじっくりと煮詰めてペースト状にする内服薬です。冬至以降から服用を始めるのですが、膏方作りは手間がかかるため、例年11月の中旬以降から処方に取りかかります。中医学の養生でいう、冬に体を補う「冬令進補」の代表選手とも言えるでしょう。

 子供から高齢者まで服用できる膏方ですが、例えば女性の冷え性や、虚弱体質、喘息の発作の予防、受験生のカゼ対策など身近な処方のほかに、さまざまな慢性疾患にも対応します。大学院にいるころは、これを使って小児ネフローゼの再発予防ができないか、研究していました。症状が安定している場合、一度処方すると1ヶ月程度は服用できます。

 この膏方ですが、中国の中でもとくに上海など江南エリアで盛んで、どこの中医病院の外来も、膏方外来は大変な混雑になります。私も、師匠と一緒に外来をよくお手伝いしたものです。

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 今年も、うちの中医クリニックではこういうケースにしました。伝統的な膏方は、壺に入っているのですが、壺だとカビが生えやすいので、今年も密封パックを使っています。1回で飲みきりなので、服用はしやすくなりました。さらに、実際に生薬を煎じるときにつかったガラも一部ですが添付してみました。どういう薬を煎じたのか、見てみたいという患者さんが多いからです。

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 膏方は、処方が多少大きいので中医師にとっても腕のみせどころになります。私の場合は、自宅に持ち帰ってじっくりと処方を練るようにしています。
 一般に、膏方の材料は大きく分けて飲片(いわゆる生薬)と細料、さらに輔料の3つから構成されます。細料とは、人参粉や冬虫夏草粉など比較的高価な生薬で、直接加熱せずに後から加えます。また、輔料とは、氷砂糖や阿膠など、膏方をペースト状にするのに必要な材料です。

 我々にとって、この膏方の処方が一段落したら、いよいよ年末!といった気分になりますが、もうしばらく処方に忙しい毎日になりそうです。
posted by 藤田 康介 at 08:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 「治未病」という発想

2010年11月20日

桔梗と人参

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 うちの中医クリニックの薬局のスタッフに、中国の東北地方出身のがいるのですが、先日、お土産に生薬でつかう人参を買ってきてくれました。この時期、私も処方で使うことがありますが、肺や脾を補い、喉の渇きを抑え、精神を落ち着かせてくれるなどの作用があり、体を元気にしてくれます。ただ、決して安いものではないので、野山参となると、数千元〜数万元するようなものもあります。

 そこで、巷などでは人参を模して、桔梗の根っこを並べているところもあります。生薬の知識がなければ、いとも簡単にだまされてしまいます。

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 これが桔梗の根っこです。韓国料理などでもキムチで桔梗の根っこを使ったりしますが、じつはこれも立派な生薬です。喉の痛みや咳にも使いますし、上に向かう性質を利用して、桔梗をすこし処方に加えることで、薬効が体の上部にも行き渡るようにします。(中医用語で、「引薬上行」といいます。)

 さらに、肺と大腸は表裏の関係でつながっているので、慢性や急性の胃腸炎や下痢の治療でも使います。肺と膀胱との関係から、尿の出が悪いときにも使います。

 でも、人参のように体を元気にするパワーは、桔梗にはあまりありません。値段も全然違いますしね。

 生薬は普通の人が外観をいただけで区別できないものが少なくないので、注意が必要です。
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2010年11月19日

インフルエンザと生薬の値上がり

 最近、いろいろな病院をまわられて、治療や検査をしてきたのだけど、なかなか収まらない咳や鼻水、喉の痛みなのでうちの中医クリニックに来られる患者さんが少なくありません。
 上海のローカル病院で医師をしている妻から話を聞いても、カゼとみられる症状の患者さんが増えているようで、少し要注意なのかもしれません。

 去年は、H1N1インフルエンザの影響もあり、インフルエンザ予防接種の意識が高かった上海ですが、今年は今ひとつで、市衛生当局も、医療関係者など感染リスクの高い人に対しては、接種するように呼びかけていました。もちろん、私も接種を済ませました。この冬、インフルエンザ対策として予防接種を受けられる方は、時期的にも今がラストチャンスです。接種をしても抗体ができるまで1ヶ月程度の時間を要しますので。

 もともと、中国の人たち予防接種に対する意識が低く、高齢者にいたってはインフルエンザの予防接種摂取率は5%未満というデータもあります。

 上海市では毎年、11月15日〜4月1日までを呼吸器疾患を重点的に警戒する時期と位置づけていて、インフルエンザや麻疹、流行性脳炎が発生しやすくなっています。今年は今のところ大きな流行は出てないようですが、衛生局では市内160箇所の病院を原因不明の肺炎の観測点とし、重点的にチェックしているほか、インフルエンザに関しても、市内43箇所で重点的に観測しています。

 ところで、毎年この時期になると問題になるのがカゼなどの治療でよく使われる生薬の値上がりや品不足です。一般の人にも広く知られている板蘭根(バンランコン)は、顆粒剤として売られていますが、多くの薬局で品不足になります。もちろん、板蘭根といっても、すべての人が服用していいわけではなく、熱性のカゼなどに限られていて、それでいて3日程度服用すれば十分なのですが、なぜか予防に使っている市民もいるようで、非常にナンセンスです。

 ただ、一部生薬の販売価格が安すぎて、製薬メーカーの利益が上がらないという理由で、生産量が落ちてしまっているという現状もあります。生薬の販売価格は、日本同様、中国でも統制されているので、原材料のコストがあがっても、なかなか価格に反映されないといった実情があるみたいです。

 でも、生薬処方する我々中医学の医師からすると、品不足というのは結構厄介な問題でして、毎年この時期は気をもみます。
posted by 藤田 康介 at 13:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の医療事情

2010年11月17日

鹿児島天野屋さんの葛

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 11月初旬に、学術大会の関係もあり、鹿児島を訪問していたのですが、そこで教えていただいた葛の専門店「天野屋」を訪れてきました。鹿児島県垂水市の名産物で、この薩摩の国の周辺で自生する葛根を原料にしていて、いま日本では殆ど手に入れることが難しい珍しい本葛です。
 「天野屋」さんのお話では、最近、日本ではインチキ葛粉が多く、ジャガイモやサツマイモのデンプンを混ぜたりしていることが多いのだそうです。白い粉を作り出すには、良質な水も必要で、この垂水市付近には名水も多く、精製するのには好都合だということでした。

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 中国の中医薬局でよく使われている葛根はこんな感じです。精製する前ですから、現物がはっきりと分かりますね。中医学では発熱のある風邪や頭痛、下痢、解熱、麻疹の初期などにも使われるのですが、こうした効能からも、日本で葛根湯が使われる守備範囲が広いことが分かります。

 葛自体だと、カゼや下痢、食あたり、肩こり、中耳炎、神経痛、扁桃腺炎、最近では糖尿病の治療、アレルギー関係、アトピーなどでも使われます。高血圧が原因の頭痛や、耳鳴り、突発性難聴などでも処方されることがあります。ただ、一般的には他の生薬と配合することが多いです。

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 いずれにしろ、こうした天然の食材が鹿児島で手に入るのは結構なことです。薬草にはまだまだ秘められた力が沢山ありますからね。

 ちなみに、中医学での葛の花は、お酒の飲み過ぎに、腹部膨満感や食欲不振などで処方します。
posted by 藤田 康介 at 10:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 生薬・漢方薬・方剤・中成薬

2010年11月13日

『健康医学11月号』の連載に「中国のアルツハイマー病と中医学」を掲載しました

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 日本出張で、更新が遅れました。

 まずは、連載を書いている『健康医学』の11月号がやってきました。今回は、「中国のアルツハイマー病と中医学」がテーマです。

 最近、日本ではあまり使われなくなりましたが、「痴呆」ということばは、中国語にもあり、むしろ中医学の用語でもあります。

 高齢化のスピードが中国一速いともいわれている上海ですが、認知症の治療に、中医学も活用されるようになってきました。脳と五臓六腑の関係から考えることが多いですが、瘀血や痰とも深く関わりがあります。鍼灸と組み合わせて治療も一般的になりつつあります。

 そのあたりをご紹介しました。クリニックの待合室に置いてありますので、ぜひご覧ください。
posted by 藤田 康介 at 09:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動