2010年06月30日

上海市が発表した中医学が優勢とみられる17の科

 上海市内の各病院では、様々な特色のある科があります。その中で、どういった特色があり、どういう専門家がいるのか、といった情報が不足しており、上海市衛生局で整備していました。

 判断基準として、40年以上のキャリアのあるベテランの中医師と呼ばれる老中医がおり、さらに治療技術が確立されていて、特色有る診療技術が2種類以上もしくは特色ある処方が1種類以上あるような医療機関が指定されました。

 病院別にみてみると、なんと私が所属していた上海中医薬大学付属竜華病院の腎臓内科が指定病院に入っていました。(少し嬉しかったです!)そのほか、竜華医院では、中医リウマチ科・中医潰瘍性大腸炎科が特色ある科に指定されていました。

 上海中医薬大学付属曙光病院では、糖尿病専科・針刺麻酔、額用病院では脳血管病科、痛風、逆流性食道炎が入っていました。上海市中医院では、睡眠外来が特徴有るといわれていますし、喘息治療も有名です。上海市第六人民病院では、電気針を使った椎間板ヘルニアの治療、第九人民病院では、中医学を使った傷口の治療、腫瘍病院では中医学と西洋医学を使った膵臓癌の治療が有名です。

 また、華山医院では、こちらも西洋医学と中医学をつかった喘息の治療、さらに中医学を使った脳卒中の治療では、中山病院も有名です。普陀区中心医院では、悪性腫瘍の患部にカテーテルを入れ、その管を使って生薬を注入する治療法も特色有る治療法として紹介されています。

 私の中医学の師匠でもある竜華医院腎臓内科の陳以平教授は、冬虫夏草とその菌糸を使った慢性腎不全の研究を1980年代に行い、今では中国の臨床で広く活用されています。

 逆にいうと、こうした疾患は中医学の力を発揮できる分野でもあり、これからさらに研究が進むものと期待されます。地道ですが、探求をすすめていくしかありません。でも、こうして治療効果が整理されていくことは、我々臨床家にとっても非常に嬉しいことでもあります。
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2010年06月20日

棗(ナツメ)の花

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 6月22日〜23日と江蘇省揚州市に往診に行ったのですが、そのときに宿泊したホテルで見つけた棗の木。

 季節柄、棗の木にしっかりと花が咲いていました。

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 棗の実は、中医学や漢方の生薬の中でも最もよく使う生薬の一つで、処方しない日はないぐらいです。胃腸が弱いとき、倦怠感があるとき、顔色が良くないとき、特に女性にはお勧めで、生理の量が極端に少なかったり、生理が遅れたりするときに私はよく使います。

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 これに、生竜骨や生牡蠣(貝殻)を組み合わせて、精神を安定させ、イライラを解消させたりする作用もあり、更年期障害にも使います。

 さらに、忘れてはならないのが生姜との組み合わせ。胃腸の働きを整え、食欲を増進してくれるはずです。

 中医学や漢方医学には欠かせない生薬なのです。

 将来、田舎に家を建てたら、庭に絶対植えたり木の一つですね。
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2010年06月19日

とりあえず2周年

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 なんとも時間が経つのが早いもので、うちのクリニックも2年目になり、今日6月19日は2周年のイベントを行いました。応援に駆けつけてくださった業者の皆様には感謝いたします。また、多くの方にご参加いただきました。 

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 恒例ですが、うちのクリニックオリジナルの香嚢も作りました。
 中医学の香嚢については、こちらをご参考くいださい。まだいくつか残っていると思いますので、薬局受付でおたずねください。 

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 そのほか、駐車場の屋台にはいつも親交のある有機野菜を栽培している農場や、金融機関からはHSBCも。地元上海で台湾料理経営しているレストランからも、台湾風粽や油飯など特色ある食べ物がずらり。私もすっかりまんぷく。

 今回のイベントでご寄付いただいたお金は、慈善基金会を通じて中国各地の恵まれない子供たちのために使われます。ありがとうございました。

 これからも中医学の特色を生かした治療法の実践に、スタッフ一同研究を深めていきます。
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2010年06月18日

ステロイドの使用

 昨日、ある患者さんからメールをいただきました。診断はネフローゼ(微小変化型・頻回再発型)なのですが、とりあえず尿タンパクが陰性に落ち着いたということでした。

 この患者さんも、もともとは西洋医学での治療を続けていたのですが、ステロイドを止めてしまうと再発するため、その繰り返しに頭を悩ませておられました。一旦ステロイドを導入してしまうと、今度は減量に非常に長い時間を必要とします。そうなると、ステロイドや免疫抑制剤による副作用の問題が、どうしても避けられなくなってしまいます。ステロイドの減量法にも様々なやり方がありますが、まだ患者さん個人の事情にあわせてものまではあまりないように思います。
 結局、この患者さんも漢方治療に対して主治医の同意が得られず、結局ステロイドの増量を止め、一時期4+まで尿タンパクが増えたのですが、体調は漢方(生薬)の服用のためかすこぶる調子が良く、そのまま食事療法や生活習慣の改善などで、尿タンパクは徐々に減っていき、この6月にはついに陰性になったというご連絡をいただきました。

 実はこういった症例は、中国には結構あります。私も、大学病院では腎臓内科にいましたので、子どもから大人までネフローゼの患者さんと多数接してきました。尿タンパクの問題では、現代の西洋医学もいろいろな進歩があります。しかし、どうしてもステロイドや免疫抑制剤を使うことが多いため、正直、患者さんご自身や親御さんの心の葛藤がよく見られます。

 もちろん、中国の場合でも、純粋に中医学で治療するケースモあれば、西洋医学と併用して治療するケースもあります。軽いネフローゼの再発なら、ステロイドの量を増やす前に、まず中医薬の処方を変え、経過を観察するのも一つの方法として実践されています。再発の発生回数を観察する限り、漢方薬を導入した方がまだ抑えられています。さらに、治療と同時に日常の食生活や生活リズムなど、変えられる問題点はたくさんあります。

 一般に、日本の西洋医学の先生からすると、漢方とか中医学を使ってネフローゼの治療をすることは考えられないことのように思われることが多いのですが、中国ではむしろ使う方が一般的です。ただし、どういう患者さんに漢方や中医学を導入すると有効なのか、やはり専門医の判断が必要なのですが、残念ながら日本ではなかなか理解が得られません。

 ネフローゼの場合、数値が良くなければ効果があったとは言えません。漢方や中医学の本領が発揮できる分野でもあります。こうやって改善されてくる患者さんに沢山出会っていると、もう少し日本の医療現場で漢方や中医学が認識されてもいいのではないかと思わずにはいられません。そうするだけでも、患者さんの悩みが少しでも解決できるのではと思わずにはいられません。

 病気を治すのには、薬だけではダメです。患者さんご本人の理解と協力がなければなかなか目的は達成できません。
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2010年06月17日

男性にも見られる骨粗鬆症

 骨粗鬆症といえば、女性に多く発生すると思われがちですが、近年男性にも増えてきています。

 中国の場合、60歳以上の男性のうち、骨粗鬆症を患っている人の割合は20%、上海に限ってみると、その発病率は60歳以上の男性で20%、70歳以上の男性となると30%に増えます。特に、お酒の飲む量が多かったり、タバコを長期にわたって吸っている、運動を殆どしない、カルシウムの摂取不足、テストステロンのレベルなどの影響で、男性でも骨粗鬆症にかかるリスクは高まります。そこで、中国では40歳を過ぎたら、男性でも骨密度を測定するべきではないかと言われ始めています。

 男性が骨粗鬆症になる年齢は、一般的に女性より遅く、その発病率も高くはないにせよ、上海市の男性を例に取ると、骨粗鬆症が原因の脊椎の骨折や大腿骨骨折が90年代を比較して倍増しているというデータも見られます。

 中医学の世界でも、中医婦人科は中医整形外科で(骨傷科)で、骨粗鬆症に関する様々な研究が行われています。
 一般的に中医基礎理論から言えば、骨というと、腎に関係があると言われ、腎は骨を主り、髄を生むとされます。腎の精気が十分でなければ、骨髄を養えず、脳にも影響すると考えます。しかし、年齢が増すに従い、腎は衰えてきます。そこで、生薬を使うときは腎・肝を補い、筋骨を強化するものを使います。骨粗鬆に伴う痛みなどの症状の治療では、中医学でも一定の成果はあります。

 とはいえ、まだ中医薬だけで完全に骨粗鬆症を治療する方法は確立されたとは言えず、今後の研究成果が待たれます。中国では他の症状の改善も考えて、併用されることが多いようです。
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2010年06月16日

シクロスポリンの薬の使い回しをしないように

 中国の国家食品薬品監督管理局が6月8日に医療関係者を対象に通知をだし、シクロスポリン系の薬の使い回しをしないように呼びかけていました。

 西洋医学では、ネフローゼや乾癬、最近では難治性のアトピー性皮膚炎にも使われるシクロスポリン系の薬は、免疫抑制剤の一種です。中国では、環孢素(フアンバオス)と呼ばれていて、新山地明、田可、新賽斯平などの商品名で流通しています。

 ただ、歯肉増殖証や多毛症、肝機能・腎機能障害、高血圧など副作用も大きいため、血中濃度のチェックをしなければなりません。中国では、2004年から2010年の現在まで、556例の副作用が報告されていて、このうち18.2%が重篤な副作用ということ。

 今回の通知では、シクロスポリン系の薬で、異なった商品名・異なった製剤のものを混合して使わないように呼びかけています。

 医師の指示に従って正しく服用したいものです。
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2010年06月15日

中医学と漢方医学の間で

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 すこし前のことになりますが、私も腎病分会で理事をしている世界中医薬学会聯合会の2010中国(西安)中医薬国際論壇に参加する機会を得、2010年5月上旬に久しぶりに西安に飛んできました。

 このなかで、大きなテーマとなったのが中医薬の国際標準化の問題です。中国が世界中の華人医師たちと一致団結してすすめているプロジェクトでもあります。

 現在、中国伝統医学と呼ばれる中医学は世界各国に広まり、世界中医薬学会聯合会の組織だけでも会員数30万人、世界57カ国にまでに広がっています。世界各地に中国人がいるところからも、中医

学の普及の早さは想像に難くないですが、近年ではこの中医学を国際標準の一つであるISOに組み入れる話が進められています。

 そもそも、中医学が世界各地でつかわれるようになってくると、そのレベルにも差が出てきており中国だけでなく、各国間でも統一した動きが必要だといわれるようになってきているのです。その

活動の中核となっている学会の一つが、この世界中医薬学会聯合会だといわれています。バックに、中国政府中央の国家中医薬管理局もあり、中国政府も力強く後押ししています。日本でもお馴染みになった国際中医師試験の資格試験を運営しているのもこの世界中医薬学会聯合会です。

 これに対して、難しい立場にあるのが、中国の伝統医学の系統をくみながらも、独自に発展してきた日本漢方(和漢)で、日本ではこの中国の動きに対して、強くけん制しているようです。中国がこ
うした世界での標準化をもくろむと、日本漢方の牙城を侵しかねないという懸念があるからです。

 もちろん、中国側は中医学としての標準化をうたっていて、日本漢方を含めるものではないと言っていますが、エキス剤などの標準化も中国が目論んでいる以上、エキス剤天国の日本にとっても無関
係ではないと言うわけです。製薬会社にとっても、保険診療で潤っていたエキス剤の収益が、世界標準化の流れで安い中国製エキス剤が入ってくることになると、たちまち大変なことになってくるのは
目に見えています。

 中国や韓国には、伝統医師の国家資格があるので、ある程度こうした動きに対応ができても、西洋医師が中心の日本の伝統医学の学術界では、立場の違いも明白でしょう。また、今更ながら日本漢方
を世界のスタンダードとして持ち出すことも難しいでしょう。

 中国は各国政府などとも手を組んで、いろいろ活動をすすめています。伝統医学の用語に関しても英語・フランス語・スペイン語などの草案ができつつあり、今回の理事会でも審議されました。一
方で、日本語の中医学統一用語に関しては、各派閥が対立しているようで、まだまだ暗礁に乗り上げたままです。

 日本の中医学も動き出さないといけません。2010年8月にいよいよ日本の医師などが中心になって日本中医薬学会が結成されるようですが、やはりこれだけ中国が大きくなった以上、日本漢方が中心の東洋医学学会とはまた違う窓口が必要になってきたのかもしれません。このあたり、日本の伝統医学の世界がどのように動くのか私も上海から注目しております。

 私のように、中国で中医学をやっている日本人の立場としては微妙です。日本人で有る限り、日本の意見を尊重したいし、だけど中医学もどんどん吸収していきたい。
 薩長連合を成功させた坂本龍馬のような存在が、中国の中医学と日本の漢方の間に必要なのではないかと思う今日この頃です。
posted by 藤田 康介 at 06:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2010年06月14日

上海市、末端医療に中医学導入を本格化

 6月8日の上海市のニュースで結構大きく報道されたのですが、上海市が2010〜2012年にかけて、中医学を末端医療に導入する本格的な行動指針を作成することを決めたようです。これは大きな動きと言えます。

 上海市の韓正市長は、中医薬が、中国の伝統医学として各家庭に普及し、医療技術の継承とその発展が行われることに力をいれると表明し、『上海市の中医薬事業のさらなる発展に関する意見』と『上海市の中医薬事業発展の3年行動計画』を発表しました。

このなかで、特に強調されているのが、社区衛生サービスセンターのような末端医療を担当する医療機関での中医学の普及です。私の妻も、この社区衛生サービスセンターで、中医学の医師として働いていますが、こうして政策の関係もあり、かなりの患者数で忙しいと言っていました。今後、大卒以上の医師たちが、末端医療に人材として投入されていくことでしょう。

 ちなみに、中国では約2万箇所の病院(クリニックや村の衛生室も含めると、91.7万箇所にもなるそうです)がありますが、このうち中医学系列のビョインは2728カ所で、全体の13.5%ほど。しかし、実際には西洋医学の総合病院にも大抵中医科が設置されているので、数としてはもっと多いと思われます。また、中国の医療機関では、年間のべ54.9億人の患者さんの診察をしていますが、このうちのべ3億人が中医系列の病院にいっているようです。これも増加傾向のようです。

 これから、我々のように中医学をやっている医師も忙しくなりそうです。
posted by 藤田 康介 at 09:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の医療事情

2010年06月13日

端午の節句の香り袋(香嚢)

 中医学の伝統的な風習をいろいろ実践しているうちのクリニックなのですが、今年も端午節を迎え、香り袋(香嚢)の製作にかかっています。

 毎年、上海でもいろいろと話題になる香嚢なのですが、今年は私の母校である上海中医薬大学の学生たちが、ボランティアで上海万博に入っていて、そのときに彼らがぶら下げているとかで、すこし注目を浴びています。

 大学で作られた香嚢の処方は

 蒲公英30 陳皮6 銀花9 澤瀉12 藿香(カクコウ)12 佩蘭12 冬瓜皮20 香薷(コウジュ)香薷12 

 というものです。

 ざっと見た感じ、暑さをとったり、熱をさましたり、湿気をとったりする処方ですね。夏にはぴったりの処方ですし、香りだけでなく、内服でもいけます。大学側も、夏の風邪予防のために学生ボランティアに持たせたと言っていました。

 新型インフルエンザが流行した2009年にも、香嚢使って予防する試みが行われたこともあります。上海では第二軍医大学では、インフルエンザの予防に239例の子どもに対して香嚢を使わせたところ、使っていないグループの発病率が53.72%であったのに、使ったグループに関しては26.27%であったというデータを出していました。

 香嚢に入れる生薬は、一般的に香りのある生薬が中心で、鼻の粘膜から吸収され、それが全身をめぐり、呼吸器のSIgAの分泌を増やし、免疫力を高めたり、ウイルスの侵入を予防したりします。

 香嚢には様々なデザインがあり、これまた中国の文化、中医学の文化の特色だと思います。

 世間はそろそろ端午節の連休ですが、私は6月16日以外は外来をがんばります。
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 「治未病」という発想

2010年06月06日

東京でセミナー

 6月3日〜4日は東京銀座のT’s銀座の会場で、(株)Luxury Heartが主催するセミナーに講師として招かれました。テーマは、『知っておきたい自然療法〜中医学・健康・漢方のすすめ〜』でした。

 主催された女性社長は非常に顔がお広いお方で、このセミナーには企業家の皆さん以外にも、弁護士や看護師の先生もいらっしゃいました。私と社長が知り合ったのもほんの偶然のこと。人の縁とはわかりません。
 その後の交流会では、非常に和気あいあいと意見交換ができました。こうしたチャンスを設定くださった社長にも感謝いたします。

 東京ということで、どれだけの方が集まってくださるか不安でしたが、京都からもおいでの方もおられ、恐縮です。

 これからも日本向けにこうした活動をやっていこうと思っております。
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動

2010年06月01日

『健康医学』6月号の連載が届きました

 健康医学社の『健康医学』6月号に、私が執筆した「糖尿病治療と中医学の役割」が発行されました。
 この号では、中国で急速に広がっている糖尿病、さらに中医学による糖尿病の認識、合併症の治療によく用いられる中医学の治療法について紹介しました。中医内科だけでなく、中医外科などでも様々な治療が行われています。

 しかし、データの上では、中国はインドを越えて世界最大の糖尿病国になってしまったという学者もいます。中国で生活する我々にとっても、人ごとではない問題ですね。
posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近の活動