2019年01月01日

帰脾湯の生薬量について

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(上海竜華寺にて)

 2019年が始まりました。
 今年はもう少し更新できるように頑張りたいと思います。

 宋代『済生方』起源の帰脾湯は、現在人に多いストレスでの思い悩みによる動悸や不眠、食欲不振などの時に使われる名処方なのですが、これ中国の中医薬と日本のエキスとでは生薬量や比率が大きく違います。例えば #中医学 での帰脾湯の黄耆は30gぐらい使うと習うのですが、某社のエキスでは3gほど。

さらに不思議なのは、帰脾湯では黄耆に対して当帰や遠志の量。 #中医学 では黄耆の十分の一で3g程度なのですが、某社では黄耆の三分の二にあたる2gも入っています。日本のエキス剤を使うとき、生薬量のバランスが中国と違うので正直使いにくい。かといって日本のエキス剤では微調整ができない。

黄耆は、使用量に大きな幅がある生薬の一つで、大きく補気したいいときは30gぐらい使うし、他の生薬の働きを高めつつ穏やかに補気したいときは15gほど。清熱解毒系の生薬と併用させたり、托毒させたりするときは12g以下にするなど色々使い分けます。有名な『医林改錯』の補陽還五湯では120gも使う。

でも、日常的に使うことの多い帰脾湯はかなり優秀な処方です。うまく各生薬量の加減ができれば、気分的な重さや動悸が1〜2週間で著効することもあります。中国の #中医学 では煎じ薬から徐々に単味エキスに移行し、生薬の細かな量の加減ができるのですが、ぜひ日本でも普及して欲しいシステムですね。
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2018年05月29日

中国でも5歳ぐらいで意外と多い夜尿症と中医学の活用

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(いくらトイレが間に合わないといっても、地下鉄のゴミ箱ではダメですよ〜。上海にて)

 あまり知られていないかもしれませんが、実は5月29日は世界夜尿症デーでした。
 夜尿症は、一般に5〜6歳すぎても夜のオシッコを失敗してしまうことをいいますが、中国でも意外と多いです。もちろん、上海でもよく見かけますし、上海在住の日本人の子供達の間でも少なくありません。

 最近のデータでは、2017年に中国全国区の25の省・市・自治区で行った調査で、5歳児では15.2%、7歳児では8.2%、さらに10歳でも4.8%、もっと大きくなって16〜18歳でもまだ1.7%の割台で夜尿症のある子供達がいることが分かっています。決して少数ではないのです。

 しかも、中国で問題なのは親の意識で、夜尿症に対して、35.7%の親が子供を叱ったことがあるといい、病院にいって治療を受けていたのは18.2%にすぎずまだまだ多くないのが現実です。
 そもそも夜尿症は、子供自身も非常に気にしているわけで、誰も故意にしようとは思いません。子供にとっては、両親のケンカや離婚に続ぐ大きな悩み事の一つになっています。

 さて、夜尿症に関しては西洋医学でも服薬をはじめ色々な治療法がありますが、もちろん中医学や漢方も活用出来ます。特に、中医学の場合、余り知られていませんが、小児推拿(子供向けのマッサージ)もお薦めで、手技を覚えることでお母さんもやってあげることができます。決して痛い手技ではないので、むしろ子供は喜ぶと思います。また、子供が大きくなってきたら鍼や灸の治療も可能ですし、場合によっては内服処方薬を出します。総合的な対策を考えていきます。

 その他、日頃から排尿を意識させることも大切です。例えば、オシッコをするときに力を入れてオシッコを勢いよく出すように意識するようにしたり、夜寝ているときにまだ夜尿をしていなければ、場合によっては起こしてトイレに行かせることもあります。また、食べ物・飲み物に関する注意も必要だったりします。

 徐々に成功するようになってきてくると子供も自信を持つようにあり、診察時の満面の笑みを見ると私もとっても嬉しいです。

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2018年04月18日

上海市における癌患者登録データ

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(最近整備が完了した上海世紀公園のジョギングコース)

 上海市疾病予防コントロールセンターがまとめた上海市の最新の癌患者登録データについて、2014年度のデータが公表されました。その概略をみてみたいと思います。

 上海市では、中国のなかでも癌患者の登録が積極的に行われている地域であり、2002年から行われています。ほぼ100%網羅されていて、WHOでも信頼できるデータとして定評があります。

 上海市で2014年に新たに罹患した癌患者数は6.8万例で、新たな罹患率は477.8/10万人でした。まだ欧米先進諸国よりは少ないですが、それでも増加傾向にあります。また、死亡者のうち約3割は癌による死亡と考えられています。

 まず、上海市で最も多い癌は肺癌で、次ぎに大腸癌になっています。男女別では、男性は肺癌、大腸癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌と続き、男性の癌患者のうち、肺癌が占めるの割合は全体の22.3%になっています。
 女性は甲状腺癌、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌と続きます。甲状腺癌が占める割合は全体の16.8%になっています。これまで乳癌がトップだったのですが、甲状腺癌に入れ替わりました。

 癌と診断された年齢ですが、これは癌の種類によってばらつきが大きいものの、平均年齢が64.4歳になっています。このうち肺癌は68.3歳、大腸癌が68.5歳、乳癌は59.1歳になっています。
 
 一方で、2014年に癌で亡くなった人の男女の割合は、男性が60.5%、女性が39.5%、どうやら男性の方が癌で亡くなる人が多いようです。男女ともに肺癌で亡くなった方が一番多く、男性は肺癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌の順に、女性は肺癌、大腸癌、乳癌、胃癌、膵臓癌の順になっています。

 上海市では2015年末までに36.8万人が癌を抱えながら生きておられますが、このうち男性で一番多いのが大腸癌で18.7%を占め、その次に胃癌、肺癌、前立腺癌、甲状腺癌の順になっています。女性は乳癌が一番多く、27.4%を占め、甲状腺癌、大腸癌、肺癌、胃癌の順になっています。上海市では癌の標準化罹患率は上昇する一方で、死亡率は下がっているというデータもあります。

 高齢化社会を迎えている上海では、タバコや食生活の問題、さらに運動不足など改善すべき課題もまだまだ多いです。また食に関しては、中国料理一辺倒だった上海人の食生活に、徐々に欧米化の波が押し寄せているのも間違いないです。とくに朝食でその傾向を感じます。また、巨大都市上海が抱える都市生活特有のストレス問題も注目されています。

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2018年03月30日

上海料理の春食材〜草頭(ニセウマゴヤシ)、ダイエットに使えるかも?!

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(上海奉賢区にて)
 地元奈良ではまさにいまが桜満開、上海では桜が散り始め、菜の花が満開です。
 さて、上海料理のなかで、春を感じる食材は色々ありますが、最近食べた食材のなかで、春を代表する定番ものをいくつかご紹介します。薬膳などを研究されている方は是非参考にどうぞ。

 今回は草頭です。

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(上海奉賢区で撮影、三つ葉の野草です)

 春の畑の畦などでよく見かける草頭は、金花草とも呼びます。中医学ではむしろこちらの名前の方が有名かも。実は日本にもよくにたものがあるし、私も田んぼの畦などで見たことがあるのですが、どうやら牛や馬の餌になることが多いようです。日本での呼び名は草頭の学名のMedicago hispida Gaertnから判断するにニセウマゴヤシと呼ばれるものが正解になります。

 上海でも結構畑の畦などに生えています。先日、上海奉賢区の郊外をドライブしたときも、簡単に見つけることができました。地元の人たちが、畑にでては、ついでにこうした野草を収穫して家で食べて居るのも納得できます。

 金花草は、陶弘景(456-536)の『名医別録』にも 「苜蓿」として登場する上品の薬草でもあり、「味苦、平、無毒、主安中、利人、可久食」とあり、性質も穏やかで、胃潰瘍など胃腸の調子を整えるもとして取りあげられています。最近の動物実験では、ダイエットにも良いとされ、肥満ラットモデルの減量やコレステロールや中性脂肪が有意義に減ったという実験データも出ています。メタボ対策にも使えそうな野菜ですね。

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(なかなかワイルドな感じになります)

 上海では、白酒を効かせながら、草頭を炒めますし、お肉と一緒に炒めても美味しいですし、貝や魚にもあいます。大きく成長してしまった草頭は筋が硬くて食べにくいのですが、3月のこの時期の草頭はちょうどいい柔らかさで食べやすいです。ぜひ一度どうぞ!

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2018年03月24日

2017年冬の上海でのインフルエンザ、2018年度の中医治療ガイドライン(抜粋)

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 日本で猛威を振るったインフルエンザでしたが、2017年冬〜2018年春にかけての上海でも大流行しました。上海市疾病予防コントロールセンターなどからの情報を整理すると、2017年12月頃をピークにB型山形系統が流行し、ピーク時は患者全体の80%を占め、その後A型H1N1が流行、2月に入ってB型、A型が同じぐらいの割合になったということでした。3月になって、今は比較的落ち着いています。

 上海市でB型インフルエンザが流行したの3年以上前、A型H1N1型が流行したのが2年前のことで、とくにB型に関しては一般市民の抗体が下がっていたのが流行の原因とも考えられます。ちなみに、2016年〜2017年に上海で流行したインフルエンザはA型H3N2型でした。

 ということで、今年はA型もB型にも2回しっかりと感染したという患者さんが少なくありませんでした。とくにA型H1N1型は症状が結構強く、感染力が強いので、辛かったという声をよく聞きました。

 この冬は中国全土でもインフルエンザが流行し、過去3年のなかでも患者数は最も多かったと報道されていました。インフルエンザの予防といえば、日本でもワクチンが知られていますが、なかなか中国国内でのインフルエンザワクチン接種事情はよく分かっていません。ただ、毎年3000万人分のワクチンは出荷されているそうですので、人口から計算するとインフルエンザワクチン摂取率は2%ほどと言われています。都市部と農村部では事情も異なりますし、なかなか複雑。

 そのなかでも、興味深いと思ったのはマスコミにも報道された次の研究。

 2016年に江蘇省濱海県の幼稚園や託児所におけるインフルエンザワクチンの接種率は12.87%と出ていましたが、内訳をみると特に私立幼稚園のほうが公立幼稚園より接種率が高く、農村戸籍のほうが都市戸籍よりも高く、収入が高くなればなるほど接種率が逆に下がるのだそうです。この傾向について、農村戸籍の親のほうが、学歴が相対的に高いと思われる都市戸籍よりも医師のアドバイスをよく聞き、都市戸籍の親はインフルエンザワクチンに対しての知識を持っているものの、知っている知識そのものに誤解点が多いからではないか、と考えられています。上海で生活していても、中国人社会のなかで、とくに富裕層になればなるほど健康に関する「都市伝説」が非常に多いのもまた事実で、自分から正しい知識をどう獲得するかというのは永遠のテーマでしょう。

 さて、中国で中医学を管轄する国家中医薬管理局も、最新版の中医学によるインフルエンザ治療のガイドライン2018年版を発表しました。インフルエンザに関しては、2009年と2011年にも中医学治療のガイドラインを出していて、今回はそれらが基礎になっています。このうち、中医学の治療に関する概要は以下の通りです。

1.軽症:風熱犯衛気・・・疏風解表・清熱解毒   銀杏散+桑菊飲加減
     金銀花15 連翹15 桑葉10 菊花10 桔梗10 牛蒡子15 
     竹葉6 芦根30 薄荷3 生甘草3
     加減:舌厚膩ー藿香10・佩蘭10 咳が重いー杏仁10 炙枇把葉10
        腹瀉ー黄連6 木香3 咽頭痛ー錦灯篭9 嘔吐ー黄連6 蘇葉10

     熱毒襲肺・・・清熱解毒・宣肺止咳   麻杏石甘湯加減
     炙麻黄5 杏仁10 生石膏(先)35 知母10 浙貝母10 桔梗10
     黄芩15 柴胡15 生甘草10
     加減:便秘ー生大黄(後)6  継続する高熱ー青蒿15 丹皮10


2.重症:毒熱壅肺・・・解毒清熱・瀉肺活絡    宣白承気湯加減
     炙麻黄6 生石膏(先)45 杏仁9 知母10 魚腥草15 亭歴子10
     黄芩10 浙貝母10 生大黄(後)6 青蒿15 赤芍10 生甘草3
     加減:高熱が続くー羚羊角0.6、安宮牛黄丸1錠 
        腹脹便秘ー枳実9 元明粉6 喘促と出汗ー西洋参10 五味子6

     毒熱内陥、内閉外脱         参附湯加減
     生晒参15 炮附子10 黄連6 金銀花20 生大黄6 青蒿15 山茱萸15
     枳実10
    

3.回復期:気陰両虚、正気未復         沙参麦門冬湯加減
     沙参15 麦門冬15 五味子10 浙貝母10 杏仁10 青蒿10 炙枇把葉10
     焦三仙10 

(以上、流行性感冒診療方案 2018年版より抜粋)

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2018年03月16日

トリプルネガティブ(TNBC)乳癌患者に対する中医学の研究

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 上海復旦大学附属腫瘤病院が発表した2008年〜2016年までの8年間の中国での乳癌生存率報告によると、原発性乳癌の5年間生存率は97.9%、またステージU〜Vでの5年間生存率はそれぞれ75%、61%ということでした。また、発病年齢の平均は45歳で、欧米よりも10歳程度若いのが特徴となっていました。 

 さて、乳癌の中でも、ホルモン受容体のERとPgRが共に陰性で、HER−2受容体も陰性である、いわゆるトリプルネガティブ(TNBC)タイプの乳癌は、乳癌全体の2割ほどを占め、3年以内の再発リスクが高く、乳癌の中でも治療法がまだまだ十分とは言えません。世界各国で研究が進められていて、中国でも中医学を活用した研究が行われています。

 中国でも中医学を活用したTNBC治療に関する色々な論文が発表されています。2013年に発表された少し古い研究ですが、中国中医科学院広安門医院腫瘤科の廬医師らのグループでは、101例のTNBC治療患者(ステージU〜W)を、中薬+西洋医薬と西洋医薬だけのグループに分け、西洋医学だけのグループはアメリカのガイドライン(NCCNによるTACもしくはAC-weekly T)に従って治療、中医学のグループは気滞血瘀・脾虚痰湿・肝腎陰虚・気血虚弱に分け、それぞれ逍遥散+理沖湯、六君子湯+三仁湯、一貫煎、当帰補血湯+陽和湯に分けて6ヶ月以上服用してもらうという方針。また、3年以内の再発リスクが高いので、3年後のPFS(無憎悪生存期間)及び痺れや抗癌剤による記憶力の低下や認知功能の低下などの脳への影響も調べました。その結果、3年FPSはカプランマイヤー曲線による分析で、中薬+西洋医薬のグループのほうが、西洋医学のグループよりも優勢で(P<0.05)で、痺れや脳への影響も中医薬服薬1ヶ月後で改善しており(P<0.05)、中医薬+西洋医学グループに一定の優位性が示されたとしています。今後、さらに多くの症例でどういう結果が出てくるのか研究成果が待たれます。

  もちろん、抗癌治療における様々な副作用対策に関する中医学の文献は、中国でも比較的多く出ています。たとえば化学療法における嘔吐やムカつきに関しては益気健脾・芳香醒脾、骨髄抑制に関しては益腎養血、四肢の痺れに関しては活血通絡や醒脳開竅を使います。西洋医学と中医学の双方を合理的に使うことのメリットはとても大きいと思います。
 
  私自身、TNBCの患者さんたちと接して特に気がついたのは、やはり精神的ダメージの大きさです。日々、心配と不安と恐怖感を抱え、QOLさえも影響を受けてしまっているケースもありました。もともと中医学では月経前症候群や更年期障害における様々な精神的苦痛に対して色々な治療法がありますが、こうした癌患者さんにも一定の心理的な安定感をもたらすことは可能ですし、中国でも色々な取り組みが行われています。

 中医学では、伝統的に乳頭が肝経、乳房が胃経に属すると考え、特に肝経との関わりが強いと考えます。特に、「肝気が虚なら恐、実なら怒」と考え、肝気の疏泄調達は非常に大切です。心理的要素と病気の発展には深い関係があると考え、気血が人体生命活動の根本と考えるのなら、気血の流れの停滞は、特に乳癌発生の重要なメカニズムで、それが情志の失調と密接に関わりがあることになります。従って、中医薬を使って、恐・怒・思・悲などの情緒のコントロールを行うことは、中医学や漢方医学でも得意分野であり、様々な生薬が活用されます。特に、疏肝解鬱法は中医学治療の特徴の一つと言えるのではないでしょうか。

 まだまだ中国の中医学では色々な研究が進められています。

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posted by 藤田 康介 at 11:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 脈案考察